　ぴちゃ。頬に、冷たい粒が空から落ちて当たる。
「おや、雨ですか」
　ジャーニーと買い物に出掛けた帰り道、トレセンまでまだ距離はあるという所だったのだが、突然の雨。ぽつぽつと、すこし冷たく感じるだけだと思っていたその雨粒は、次第にその勢いを強めサーっと音を立てて俺たちの身体を濡らしていった。

「ふむ……天気予報では特に降るとは言っていませんでしたが……これも季節柄というものでしょうか」
「ジャーニーは、傘……持ってないよな。えっと、確か……」
　手ぶらのジャーニーをチラリと見た後に、俺は自分の鞄を開きその中を漁る。
「あ、あった」
「おや、折り畳み傘ですか」
「ああ」
　いつ雨に見舞われても良いようにと多少嵩張ってでも普段から折り畳み傘を忍ばせておいたことが功を奏したようだ。
　テキパキと棒を伸ばし傘を広げると、俺はジャーニーの方へと傘を傾けそっとその下に入れてやる。

「あぁ、ふふ……ありがとうございます、トレーナーさん」
「どうってことないよ。じゃ、行こうかジャーニー」
　こちらに微笑みかけるジャーニーに応えつつ、歩き出す。いくら傘があるとは言え、本降りになる前にはトレセン学園まで戻ったほうが良いだろう。そう思いつつ、二人歩幅を合わせて同じ傘の下、帰り道を歩いていると――。

「――いやぁ、降ってきたなぁ」
　ジャーニーと同じくらいの背格好をした、トレセン学園の生徒が傘も差さずに天を見上げていた。

「ふむ、どうしたものか。何処かで雨宿りをするか、それとも走って学園まで戻るか……いや、あえてこの雨の中を自由に散歩するというのも悪くないな。……ああ、これだから旅というのは面白い――」

「あれは……アネゴ？」
「えっ？」
　ジャーニーの言葉に、思わず目を見開く。アネゴと言えば、彼女が慕ってやまない、そして俺の憧れでもあるウマ娘――ステイゴールド。気ままに旅をしトレセン学園に在席しながらも長期的に空けることの多い彼女であるが、まさかこんな所で出会うとは思ってもいなかった。

「――ん？　おお、ジャーニーじゃないか。奇遇だな」
　こちらに気付き、雨に濡れたまま手を振るステイゴールド。確かに、本人だ……。いや、幾度か彼女と会う機会はあったのだが如何せん、自由気ままな彼女と遭遇できることは稀であり、思わずおおと声が出てしまうのも仕方ないだろう。
「こんにちは、アネゴ」
「うん、元気そうだな。……って、そっちはジャーニーのトレーナーか。なんだ、二人でどこか出かけてたのか？」
「ええ、そんな所です。アネゴは……また、旅を？」
「はは。まあ、そんなに大袈裟な物じゃないけどちょっと散歩をね。そうしたらこうして、雨が降ってきたもんで。さてどうしようかと悩んでいたんだが……」
　ステイゴールドがこちらをチラリと見る。思わず姿勢がピンと張り傘を持つ手に力が入る。……正直に言うと、あの頃レースで応援していた憧れの存在だった彼女に、このような距離で見つめられることに未だ慣れていない自分もいる。

「ああ、いいね。それはトレーナーの傘かい？　ジャーニー」
「ええ、トレーナーさんが入れてくださりまして……と、アネゴ。随分濡れてしまっているではありませんか」
「ん？　ああ、そうだな。生憎、傘を持ってきていなくてね」
　どこか楽しげに笑うステイゴールド。その様子をどこか気遣うような意志の視線を向けてジャーニーは、そっと俺の傘の元から離れると雨にうたれるのを気にせず彼女に話しかける。

「ああ、どうか風邪を引く前にこちらの傘に入ってください。濡れて帰るおつもりですか？」
「おいおい、それはお前たちの傘だろ。それにジャーニー、お前が濡れちまう」
「――いえ、私のことはお気になさらず」
　俺の傘を前にして、譲り合いの攻防を繰り広げるジャーニーとステイゴールド。傍から見ると何とも珍妙な光景ではあるが――。
　しかし、お互い濡れていく髪や服を見ているといてもたっても居られずに。

「……お？」
「トレーナーさん？」
　ぐい、と。二人が雨に濡れないように傘を差し出す。
「とりあえず、二人とも入って」
「はは、君は優しいな」
「トレーナーさんらしい」
　こちらを見上げ笑いかける二人。うむ、どうにも照れくささを感じてしまう……。

「ええ、折角ですから。このまま三人でトレセン学園まで帰りましょうか」
「ああ、そうだな。それがいい」
　顔を見合わせ微笑む二人。……ふむ、こうして見ると、本当に仲の良い姉妹のように思えるな。
「それじゃ、よろしくなトレーナーくん」
「あ、ああ……！」
　二人が雨に濡れないように気を付けながら、俺は傘を持って歩き出す。二人がそれぞれちゃんと傘の中に入るように、とすると……俺はジャーニーとステイゴールドの間の、すこし後ろを歩くことになる訳なのだが……。
　こうしているとなんだか――。
「――なんか、家族連れみたいだな」
「……ほう、家族連れ……ですか？」
　すこし不思議そうな顔をして振り返り、こちらを見上げるジャーニー。ああ、余計なことを口走ってしまったか。そう思いつつ、なんて返そうか考えていると。
「はは、家族か。うん……それなら、ジャーニーが奥さんになるのかな？」
　ステイゴールドが、割とぶっ込んだ発言をする。
　い、いや……ジャーニーが奥さんって――。
「いえ、それではアネゴが私の子ということになってしまいますから……ここはやはり、アネゴが母親とするのが相応しいのでは」
「そうか？　じゃあジャーニーが私の子ということか。はは、それも悪くないな」

　……なんだか、二人で話が盛り上がっているようなのだが。――正直、二人とも子供のようだと思ってしまった、とは……流石に言えない空気だ。
　……いや、それを言ったら色々恐ろしいことになるというのは流石に自分でも分かっているので。絶対に言わないようにしよう、と。そう、心に誓うのだった。

――――
「んー、トレセンに戻ったらどうするかなー外は雨だし」
「ふむ、それでは遠征支援委員会の部屋でお茶でもどうでしょう？　最近美味しい茶葉を仕入れたものでして」
「おお、それは良いな。じゃあ、ちょっとそっちにお邪魔しようかな」

　楽しそうにお喋りをする二人。その仲睦まじい光景をほっこりとした気持ちで眺めていると、不意にジャーニーがこちらに振り返る。
「――ですのでトレーナーさんも是非」
「……え？　何が……？」
「紅茶ですよ。トレーナーさんの分も用意できますので」
「良いね。ジャーニーのトレーナーの話も聞きたいな。トレーナーから見たジャーニーのことも、知りたいし。な？」
　こちらに振り返り笑うステイゴールド。そう言われてしまっては、こちらも腰を据えて話すしかあるまい。
「それでは、参りましょうか」
「ああ」

　こうして、ジャーニーの淹れた美味しい紅茶を楽しみにしつつ、雨の中を三人ゆっくりと傘を差しながら帰路につくのであった。

おわり