「ビリーヴさんって、意中の殿方などはいらっしゃるのですか……？」
「……え？」
　チームメンバーで自主トレーニングを行っていた時、不意に後輩からそのような質問を投げられた。

「あ、私も聞きたいです！　好きな人いるんですかビリーヴさんって！」
「え、えっと……」
　僕の周りに後輩たちが集まってきて、じぃっと好奇の目を向ける。こうやって後輩に囲まれる時は、大抵何かしらの面倒ごとに巻き込まれる時だと、分かっていた。

「……特には、居ないけど」
「えーー？」
　僕の答えの何が不満だったのだろうか。ガッカリするような、あるいは溜息をつくような、何かを期待してた眼差しはその色を変えていく。
　ただまあ、それで興味を失って解放してくれるんだったら僕としてはありがたい話。なのだけれど……。

「――じゃあじゃあ！　好きな異性のタイプとか！　ありませんか！？」
「タイプ……？」
　そんなことを聞かれても……正直、よく分からない。僕はそもそも、恋愛とかにはあまり興味は無いし……そもそもそのタイプというものにどのような種類があるのかもよく分からないし。
　そんな風に返答に困っていると、それを察した別の後輩が口を開く。
「じゃあどんな性格の人が好きなんですかっ！」
「えっ……？　いや、えっと」
　どんな性格が好き……？　そう言われても、恋愛的なことに疎い僕だから、パッと浮かんではこない。
　けれど、性格……これが恋愛的な意味なのかは分からないけれど、好感を持つような性格や人柄の人物は、なんとなく内にあった。ならばと。

「……その、僕みたいに仕事熱心で、一生懸命な人……かな。そういう人は、仕事に真剣な人は、好き……かも……？」
『おぉ……！』
　僕がそう答えると、後輩たちがにわかに色めきたつ。僕にはそれのどこが琴線に触れたのか分からないのだけれど、小声できゃっきゃと話し込んだり目配せしたりしている後輩たち。そうしてやがて、一人の後輩が手を上げた。
「……その、もしビリーヴさんのパートナーができるとしたら！　さっきの仕事熱心みたいなとこ以外にどんなことをしてくれる人が良いですか！？」
　……パートナー。そう尋ねられ、考え込む。もし、僕にパートナーがいるとしたなら……どんなことを、僕が求めるのか――。

　考えてみて、僕はおばあちゃんのことが思い浮かんだ。僕はおじいちゃん似だけど、そんなおじいちゃんのパートナーであるおばあちゃんのような人は、もしかしたら僕のパートナーとして適切なのでは無いだろうか。
　おばあちゃんは……おじいちゃんの仕事を見守り続けてくれる人だ。仕事に口出しとかはしないで、ただずっと、眺めて、完成を待ってくれる人だ。……物好きだ、っておじいちゃんは言ってたっけ。
　それから、おじいちゃんが仕事がしやすいように、そっと環境を整えてくれる人で。そして、仕事が終わった時には、優しく迎え入れてくれる。
　きっと、おじいちゃんはおばあちゃんがいるから、仕事に集中できるんだと思う。おばあちゃんがいつでもそっと見守ってくれるから、おじいちゃんも自分の仕事ができるんだって。そう思ったら……。

「……僕の仕事を、尊重してくれる人がいい。僕の仕事を見守ってくれて、やり遂げた時は誰よりも喜んでくれて。僕の仕事がやりやすいように色々整えてくれて、仕事が終わった時は優しく迎え入れてくれる……そんな人がパートナーだったら……良い、かな……？」
　僕がそう告げると、色めきたっていた筈の後輩たちが、しん、と静まり返る。……？　何か、変なことを言ってしまったのかな……？　そういう風に不思議に思っていると……。
『……ね、ねぇ……それって……』
『あの……その、……そうだよね……？』
　ひそひそと何かを口々に漏らす後輩たち。どうしてしまったのか、少し困っていると、一人の後輩が意を決したようにこちらに尋ねてきた。

「そ、その……！　ビリーヴさんってどんな顔の人が好きなんですか！」
「え、顔……？」
「はいっ……！」
　顔が、好き……？　別に、僕は好みの外見がある訳じゃない。何度でも言うように、色恋沙汰には興味もなく、誰かと付き合うということも全く関心を持てない。だから、好きな顔なんて聞かれても……何も出てきはしない――筈だった。

「――……あれ……？」
　その筈だったのに、何故か。僕の脳裏には、トレーナーさんの顔が、浮かんでいた。
　トレーニング中のトレーナーさんの熱心な顔。トレーニングの為にと考え込む真剣な顔。レース本番前の、コンクリートみたいな色の緊張した顔。僕がレースを走りきった後に見せるとびきり輝く笑顔。どうにも行き詰まって悩む顔。びっくりして驚いた顔。照れをまったく隠せてない真っ赤な顔。それから、それから――。

　ただ、顔について考えた。その筈なのに僕の中には、沢山のトレーナーさんの顔が浮かんできて。……いや、これは多分きっと。トレーナーさんが思ってること全部顔に出ちゃうのが悪い。あんなにコロコロ分かりやすく表情を変えて、いっぱいいっぱい、色んな顔を見せてくれて――。
　だから、僕は……そんな顔が――。

「……思ってることがすぐに顔に出て、色んな表情を見せてくれて……そんな感じが、そんな顔が僕は、好き……だと、思う……」
　そう、自分で思ったよりもずっと、小さな声で彼女たちに告げる。そうすると、ざわめきが鳴り止み緊張しているかのような面持ちで、一人の後輩が手を上げる。
「……あの、つまり」

「ビリーヴさんの好みの異性は……。仕事熱心で一生懸命で、ビリーヴさんの仕事を尊重してくれて、仕事を見守ってくれて、喜んでくれて、支えてくれて……仕事が終わったら優しく迎え入れてくれて、それからそれからすぐ顔に出て色んな表情を見せてくれる人……ってことなんです……？」
「……えっと、たぶん……そう……？」
　そう肯定すると、後輩たちはいよいよもって静まり返ってピクリとも動かなくなってしまった。

『………………』
「……その、えっと……？」
『………………』
「あの、みんな……？」

『…………。…………キテる……』

　ただ一言、彼女たちはそう呟くと。まるで浄化されていくかのように満ち足りた表情で目をつぶり、そうしてうんともすんとも、動かなくなってしまうのでした。

おわり