「おかえり、ビリーヴっ！！」
　パン！　満面な笑みを浮かべたトレーナーさんがクラッカーをうち鳴らす。
　僕がアメリカから帰ってきてから数日経ち、僕とトレーナーさんはトレーナー室で二人だけのパーティを開いていた。
「あの、これ……おじいちゃ――祖父からトレーナーさんに持っていけと言われたお酒です。……これからも、トレーナーさんと仕事がしたいって言ったら、これを持たされて」
　そう言って、アメリカから持ち帰ったお酒をトレーナーさんに手渡す。僕はあんまりお酒に詳しい訳じゃないから、よく分からないけど……。
「わ……かなり高級そうな酒だな。……うん、ありがとう。大事に飲むよ」
　大切そうに酒瓶を抱えるトレーナーさん。……そうだ、折角だし……。

「……え、今飲んでみるのはどうかって……？　まあ、確かにそうだな。折角のパーティだし」
　そう言って、トレーナーさんは棚からグラスを取り出す。こうして、僕とトレーナーさんのささやかな宴会が始まるのだった――。

――――
「うぅ〜……ビリーヴぅ……」
「はい、僕はここに居ますよ」
　お酒を入れてすっかり酔っぱらってしまったトレーナーさん。割といつも、すぐ顔を赤くさせるトレーナーさんだったけど、今はいつにも増して頬が真っ赤だ。

「……そういえば、ライトオさんから聞いたんですけど」
「なんだー、ビリーヴ……」
「……その、僕が居ない間、ずっとすごく寂しそうにしていたって……本当ですか？」
「ぅっ」
　ドキリ、と。トレーナーさんの肩が跳ねる。何気なく聞いてみたのだけれど、トレーナーさんは分かりやすく反応をしていて。
「……そ、そんなことは……無いぞ……？　だって、俺はビリーヴの仕事仲間だから……ちゃんとビリーヴのことは送り出したし……」
「…………あの、トレーナーさん。もう一度聞きます。……僕が居ない間、ずっと寂しかったって、本当ですか？」
「っ……ぁ……あの、それは……その……」
　言葉を詰まらせ、目を泳がせるトレーナーさん。大人としての体裁を取ろうとしているのか、なんなのか。素直にならないトレーナーさんを前に、じっと、トレーナーさんを見つめ続ける。

「ぅ……っ……そ、その……」
「じぃ……」
「……〜〜っ……それは、そのっ……！」
「じーーぃ……」
「っ……〜〜っ……！　……はぁ……」
　顔を更に真っ赤にして、トレーナーさんは追い詰められる。後が無くなったトレーナーさんは、目をぐるぐると回しながらも、やがて一つはぁと息を吐くと、観念したように言葉を漏らす。

「……ああ……その、ビリーヴがアメリカに行って……寂しかった……」
　……恥ずかしそうに、情けなさそうに。まるで子犬のような顔で、そう白状するトレーナーさん。

　………………。……かわいいな。

「……どれくらい、寂しかったのですか……？」
「ど、どれくらい……！？　え、えっと……その……」
「じぃ……」
「っ……！　……え、えっと……すごく……」
　……っ。

「すごく……寂しかった……ビリーヴに会えなくて、寂しくて、寂しくて、堪らなくて……」
「……っ」
「ビリーヴから手紙が届く度に嬉しくて……でも、会えないことがより辛くて、寂しくて……何度もビリーヴの手紙を見返して……」
「……そんなに、僕のこと、恋しかったんですか」
「……ああ、すごく……ずっと会いたかった……」

　…………ああ。顔を赤くして、しょぼしょぼとした表情で、そう漏らすトレーナーさんが。……どうにも、可愛らしくて、愛おしくて。

「……僕は、ここに居ますよ」
「っ……！　そ、そう……だな」
「僕は、帰ってきました」
「そう、だな……」
「…………その。……寂しくさせて、ごめんなさい」
「い、いや！　ビリーヴは、ビリーヴのやりたいことをやっただけで……！　俺は、それを応援していて……！！」
「……良いんです。それでも、トレーナーさんを寂しくさせてしまったのは事実ですし」
「で、でも……！」
　――焦って、顔を赤くして、必死で、そんな縋るようなトレーナーさんの表情……。
　――ああ、なんて……なんて可愛らしいのだろう。

　僕の中の、何かよく分からない、“なにか”が、疼く。
　……どうしようもなく、この、可愛らしいトレーナーさんを、抱きしめたい。そんな欲求に駆られて――。

「……トレーナーさん。僕は、ここに居ます」
「あ、ああ」
「もう、離れません。ですから……その――」
　衝動に駆られるまま、言葉が自然と漏れ出す。いけないことだ、そう頭で分かっているというのに、こんなにも、こんなにも可愛らしいトレーナーさんを見ていたら、どうにも抑えが効かなくて、ああ……僕も、久々にトレーナーさんに会えて、タガが外れてしまったのでは無いだろうか。
　そうして、僕の本能は、言葉を紡ぐ。
「……今まで会えなかった分、今、好きなだけ……その……僕に触れて、良いですよ……？」
「……え……？」

　ソファーに深く身体を沈ませて、僕は手を広げ無防備にもその身体を差し出すように、誘う。
「……僕がここに居るってこと、ちゃんと確かめてください。今まで一緒に居られなかった分、ずっとずっと、その……抱きしめて……良いですよ……？」
「あっ……えっ……えっと、それは……その……」
　顔を赤くして、トレーナーさんが戸惑う。どうして来てくれないのか、そんなことは分かりきってる。僕は担当で、トレーナーさんは指導者で。
　こんなこと、してはいけない。そんなのは分かりきっている。……でも。

「……トレーナーさん。僕は、良いですよ？　トレーナーさんになら……抱きしめられても」
「っ」
「その……僕のこと、嫌いですか？　抱きしめるのは、嫌……ですか？」
「そ、そんなっ……そんな訳っ……でも、でも俺はトレーナーで」
　表情をコロコロと変えて、あぅ、と言葉を漏らすトレーナーさん。……その表情一つ一つが、僕には全部理解できて。だから、こそ……。

「……僕も、寂しかったです。トレーナーさんに会えなくて。やっぱり、トレーナーさんが居てくれないと、だから……今、抱きしめてください」
「っ……！！　び、ビリーヴ……びりーゔぅっ……！！」
　――トレーナーさんの、理性が、飛んだ。
　何もかもを放り捨てて、僕の方に飛び込んでくるトレーナーさんの姿を見て、僕は――言い知れない感情が湧き上がってきて、そうして……トレーナーさんの重くて温かい身体が、僕の身体にのしかかった。

　ぎゅぅっ。
「っ……ビリーヴ……っ……寂しかった、会いたかったビリーヴぅ……っ……！！」
「…………よしよし。はい、僕はここに居ますよ……」
「ビリーヴっ……ビリーヴぅ……っ！」
　ぎゅぅぅっ。
　トレーナーさんに、強く、抱きしめられる。大人の男の人に、トレーナーさんに、僕の細くて華奢な身体が覆われる。その圧迫感が、何より心地良くて。僕は心が満ち満ちていくのを感じながら、そっと抱き返す。

「ビリーヴっ……ビリーヴっ俺は、俺は……っ」
「はい、トレーナーさん……。僕はここに居ます。だから、もっと…………♡」
　ばっと、一度トレーナーさんが僕の身体から離れて。それから僕のことをじっと見て。
　そうして、堪らないみたいに、ぎゅうっと。更に強く僕の身体を抱きしめる。肩が、腕に抱かれて。足も、トレーナーさんのと重なって、抱きしめられて。
　ああ、トレーナーさんがすぐそこに居る。確かに、そこに感じられる。痛いくらいに、分かる。匂いも、温かさも、力強さも、全部、全部――。トレーナーさんの全部が、今僕に注がれている――。

「……トレーナーさん――♡」
「ビリーヴっ……！！　ビリーヴぅっ……！！！」
　ああ、なんて可愛らしいんだろう。ああ、なんて愛おしいのだろう。
　僕の中に、こんな感情があるだなんて。思わなかった、けど。でも、僕はこれが何より嬉しくて――。

「……ずっと、一緒ですよ……トレーナーさん……♡」
「うぅっ……ずっと一緒だっ……！！　離さない、ビリーヴっ……！！！」
「――♡」

　いつまでも、いつまでも、僕はトレーナーさんに抱きしめられるのであった。

――――

「……うぅ、ビリーヴぅ……」
「よしよし……」
　べったりと僕に抱きついて甘えるトレーナーさん。子犬か、子供か、そんな風に僕の心の奥底の庇護欲をフツフツと沸き上がらせるトレーナーさんが、可愛らしくて、愛おしくて、仕方ない。

　だからだろうか……僕は、普通なら恥ずかしくてできないようなことも、思いついて、実行しようとしてしまう。ああ、僕も理性というタガが外れてしまったんだろう。そっと、僕はシャツの裾を持つと、ぐぃとその裾を持ち上げめくりあげる。

「び、ビリーヴ……っ……！？」
「えっと、その……」
　シャツをめくり上げてしまったのなら、その下にあるのは……素肌と、下着だけで。そんな姿を、大人の異性に見せるだなんて、そんなのまだ早いし、許されないって分かってる。けど、そういう意味じゃなくて……だから、許されるよね……？

「……僕の、その……心音、聴いてくれますか……？」
「し、心音……？」
「はい……僕が、生きてる証……トレーナーさんに、聴いて欲しくて」
　意識をすれば、痛いくらいに鳴り響く自分の鼓動。何故こんなことを頼んでいるのか、何故こんな欲求があるのか、僕にも分からない。けど、そういえば、赤ん坊は母親の心臓の音を聴くと安心するらしいと、そこに母親が居ると分かって安心するらしい、という話を不意に思い出す。
　だから、これはきっと……トレーナーさんに、僕がここに居るって伝えたいという、そんな気持ちの現れなんだと、思う。

「で、でもビリーヴっ……その、み、見えてるし……」
「僕の身体……たぶん、見ても面白くないですよね」
「そ、そんなこと無い！！　だって今もドキドキしてるしっ！！」
　っ……♡
　い、いや……そういうことを言いたい訳じゃ無かったのだけれど、トレーナーさんのそんな告白に顔が赤くなる。
　……そうなんだ、僕の身体で……ドキドキしてくれるんだ。

　……いや、いやいや。そういうことじゃなくてっ。
「ぼ、僕が伝えたいのは、その……つまらない身体だと思うけど……その、薄いから、その分……心臓まで近いと思うので……その、耳を当てれば、僕の心音……ちゃんと分かるって、思って……」
「ぁ、……なるほど……たしかに……」
「だ、だから……どうぞ。トレーナーさん……僕の鼓動、生きてる証……聴いて、ください……」
「わ、分かった……」
　そっと、トレーナーさんが僕の胸に横顔を近づけて、ピタリと、トレーナーさんのヒト耳が、心臓のある位置に当てられる。

　どき、どきっ、どき、どき。

「……ビリーヴ、ドキドキしてる」
「っ……///　は、はい……聴こえ、ますか……？」
「あ、ああ……ビリーヴの鼓動、ちゃんと聴こえてる……っ」
　トレーナーさんが、熱くなった耳を、頬を、僕の身体に当てる。その熱が僕の身体にも伝わってきて、それが僕の心臓に熱を焚べる。ドキ、ドキ、と。激しく高鳴る鼓動。ああ、全部……トレーナーさんに聴かれてる……っ。

「……トレーナーさん……っ……」
「ビリーヴ……とても大きい……こんなにも、生きてるんだな、ビリーヴは」
「は、はい……生きてます、ここで……トレーナーさんと……///」
「ん……」
　静かに、僕の胸に耳を当てるトレーナーさん。そんな姿が愛おしくて、そっと抱きしめて、頭を撫でてしまう。
　……ああ――。

「――好きです、トレーナーさん……」
「……っ……」
　ドキり。一瞬、トレーナーさんの心音が聴こえた気がした。漏れ出た僕の心が、トレーナーさんの心臓を跳ねさせた。その事実が、なんだかとっても嬉しくて、より自分の鼓動も跳ね上がる。

「……好きだ、ビリーヴ」
「っ……はい……」
「好き……」
「はい……」
　僕はトレーナーさんを抱きしめて、トレーナーさんは僕の鼓動を感じてくれて。そんな、蕩けてしまいそうな時間を、僕らはいつまでも楽しんでいた……。

「…………なあ、ビリーヴ」
「はい……？」
　どれだけの時間が経っただろうか。不意に、トレーナーさんが僕を呼ぶ。
「その……ビリーヴの身体が気になるとか、そういう訳じゃないんだけど……」
「……はい」
「……その、ビリーヴ……あばら、浮いてるんだな」

　トレーナーさんは、そっと僕の身体に目を向ける。僕の身体は、決して豊満とは言えなくて、むしろ起伏が少なく、薄い身体をしていた。
　当然、走る為の筋力はあるし、不健康的という訳でも無いのだが……確かに、僕の身体は薄い。そして、肋骨もすこし、浮いている。

「……その、気になりますか……？」
「ま、まあな……」
　じい、と。僕の胸に顔を押し当てたままのトレーナーさんが僕のあばらを眺める。
「……ちゃんと、ご飯は食べてるんだよな。向こうでも、変わらなかったか……？」
「はい。特には、変わってないです。おじいちゃんの家にいたので、和食も結構出て、食事で日本が恋しくなったりもしませんでしたし……」
　そう言うと、トレーナーさんは安心したように息を吐く。

「そっか……なら、良かった。……でも、やっぱりすこし心配かな……もっといっぱい食べても良いんだぞ」
「っ……ひゃ」
　そう言って、トレーナーさんは僕のあばらを、撫でる。それにびっくりして、思わず声が漏れ出る。
「っ！　あっ、すまん！　変なとこ触ったりして」
「い、いえ……だ、大丈夫です。ちょっと、そのびっくりしたと言いますか、くすぐったくて、声が出ちゃっただけで……」
「すまん……！」
　申し訳無さそうに謝るトレーナーさん。……でも、僕は決して、さっきのが嫌だった訳ではなくて。いやむしろ……その、もう一度、して欲しいという欲求が心の奥で静かに揺らめくくらいで……。

「もうしないから！」
「……い、いえ……その……むしろ、もっと触って、欲しいというか……」
「えっ」
　僕がそう言うと、トレーナーさんは顔を赤くして驚いて。でも、僕がじいっとトレーナーさんのことを見つめていると、悩んでいるようだったけどやがてトレーナーさんは意を決したような顔をして。
「……わ、分かった。その、あばら……触るな……？」
「は、はい……お願いします……」

　――そっと。
　僕の肋骨に、トレーナーさんの指が触れる。
「っ……」
　くすぐったさと、不思議な感覚。心が跳ねるけど、でも根本の方では喜びがじわじわと広がっていて。
「その、撫でるぞ……」
「は、はいっ……」

　なで。トレーナーさんの指が僕の肋骨の間を埋めて、それから手のひらで全体を包むようにして、撫でられる。
「あ……っ……」
　ゾクゾク。背筋に、痺れが走る。
　くすぐったいのに、嬉しくて、心が歓んで。それは自分でもよく分からないような感覚で、だけど病みつきになりそうな、そんなモノで――。

「なで、なで……」
「んっ……♡」
　手のひらが身体を撫でる度、あばらの間の無防備な部分が指でなぞられる度に、甘い痺れがやってくる。トレーナーさんに、触られている。撫でられている、その喜びが、いやそれだけではなくて、もっと深いところから湧き上がるような歓びが、心を、頭をいっぱいにして。
「なでなで……すぅっ」
「っ……ぁ……♡」
「そ、その……大丈夫か……？　ビリーヴ、くすぐったくないか……？」
「は、はい……くすぐったくは……ちょっと、ありますが……っ、その……とても、良くて……」
「そ、そうか……？」
「き、気持ちいい……？　か、かも……しれなくて……っ」
「ぇ、えっと、それは……そのっ……！？」
「…………と、トレーナーさん……その、もっと……もっと、撫でてください……っ」
「っ……！！」

　自然と、甘い声が、溢れる。こんな姿を、トレーナーさんに見られてしまうのが恥ずかしくて、けど、それでも、僕は抗えなくて。
　僕は、蕩けた瞳でトレーナーさんを見つめて、そうして、言葉を漏らす――。

「もっと……もっとしてください……トレーナーさん……っ……♡」
「っっっ……！！！　ぁ、あぁやるぞ、ビリ――「楽しくやってるかビリトレ！　ビリーヴ！」――！？」

　突然、トレーナー室の扉が大きく開かれる。

「ちょっとライトオさん！　ノックぐらいしなさいっ！」
「デュランダルが遅いのが悪い。外にはあまり楽しげな声は聞こえてこなかったな、楽しいパーティと聞いていたがどうした二人と――」
「そんなにまくし立てないの！　申し訳ありません、トレーナーさん、ビリーヴさ――え？」

　ライトオさんとデュランダルさんが、喋っている途中でピシリと固まってしまう。……ああ、それもそうだろう。だって今の僕たちの姿は――。

「――すまない。夫婦の営みの時間だったか、帰るぞデュランダル」
「――えっ、あっ……えっ！？　あ、あわわわわわ」
「おい、デュランダル、さっさと帰るぞ。二人の邪魔をしたらウマ娘に蹴られる」
「えっちょっとライトオさん！？　って、あ、待って待って、なんで二人がというかこれそのああっ！！」
　顔を真っ赤にしたデュランダルさんが、顔色一つ変えないライトオさんに引きずられて去っていく。

「………………」
「………………」
「……あの、これ……もしかして、やばい……？」
「……ええ、そうみたいですね……」

　取り残された僕とトレーナーさん。赤かったトレーナーさんの顔が急速に真っ青に染まっていくのを見ながら、僕はどう皆に弁明しようか、静かにそっと、考えるのだった――。

おわり