　ある年の夏合宿のとある夜。
　――がやがや。
「……えっと、ここで待ち合わせ……だったよな？」
　楽しげな声や祭囃子がそこかしこで流れ、若いトレセン生から地元の人までがごった返す。
　今日は、夏祭り。俺は担当のビリーヴに誘われてお祭り会場に来ていた。そろそろ待ち合わせの時間になるだろうか、そう思っていると……。

「……お待たせしました、トレーナーさん」
「あ、ビリーヴ。ううん、今来たとこだから、大丈――」
　ビリーヴの声がして、振り返る。彼女の言葉に待っていないよとそう言おうとして、彼女の姿を見て――息を飲む。
「び、ビリーヴ……！　それ……」
「……あの、やっぱり……あまり似合ってませんかね……？」
　振り返ったその先には、可愛らしい浴衣に身を包んだ俺の担当が、――居た。
「――――」
「……あ、あの……トレーナー……さん……？」
　淡い水色の浴衣と、彼女の勝負服を思い起こさせる赤の髪飾り。普段のボーイッシュな格好とは打って変わって、非常に女性らしい彼女の姿に、心臓が高鳴る。
「えっと、その……大丈夫、ですか……？」
「……可愛い……」
「ふぇっ……！？」
「可愛い、可愛いぞ……ビリーヴ……」
「えっ、ちょっ……！」
　思わず、感想が溢れ出る。なんだろう、彼女の浴衣姿が眩しい……。
「あの、その……あ、ありがとう……ございます……？」
　戸惑い気味に、少し顔を赤くしたビリーヴが疑問系で呟く。
「いや、本当に可愛い……よく似合ってるぞ、ビリーヴ」
「〜〜っ……！　あ、あの……！　もう、良いですから……！」
　手で口元を隠して、そう訴えるビリーヴ。あまりの可愛さに、もっとずっと言葉を尽くしたい衝動に駆られるが、これ以上は自重した方が良いだろう。

「……ところで、その浴衣はどうしたんだ……？　家から持ってきたのか？」
「えっと……以前祖母に選んで貰って……それで、夏祭りに行くなら折角と思って……」
「流石ビリーヴのおばあさまだな、本当によく似合ってて可愛くて……」
「と、トレーナーさん……！」
　また顔を赤くしてこちらに抗議するビリーヴ。いけないいけない、また彼女の浴衣姿の良さを言葉にしてしまった。
「……あの、そろそろお祭り……行きませんか……？」
「あ、ああ。そうだな」
　ビリーヴからそう促されて、俺たちは夏祭りのその中へと向かうのだった。

「――それにしても、ビリーヴの方から夏祭りに誘ってくれるなんて……珍しいな」
　楽しげな屋台の並ぶ道を歩きながら、賑やかな人々とすれ違いながら、そういえばと彼女に疑問を投げかける。これまでの夏合宿がそうだったように、彼女はあまりイベントとかに参加したがるタイプでは無い。むしろ、一人で静かに何かをしていることの方が好きなタイプだ。
　夏祭りは毎年開催されていたが、一度として彼女が夏祭りに行ってきたという話は聞いてこなかったし、こんなに大勢の人々がいる場所に自分から出向こうとして、ましてや誘ってくれるなんて、思いもしなかった。

　だからこそ、どうして俺を夏祭りに誘ってくれたのだろう、と。不思議に思ってしまう。なのでそう尋ねてみたのだが。
「……別に、夏祭りが嫌いとか、そういう訳ではありません。僕も、小さい頃はおじいちゃんに連れていって貰ったりしましたし」
「そうだったんだ」
「はい。……なので、その……えっと、トレーナーさんを、夏祭りに誘ったのは……」
　……ビリーヴにしては珍しく、言葉を濁すように言い淀む。そうして、ビリーヴはこちらに目線を合わせないようにしながら、言葉を続ける。
「……その、トレーナーさんと……夏祭りに行ってみたかっ――……いえ、すみません。……ただの、気紛れです」
「……そう、か」
　ただの気紛れ。そう結論付けたビリーヴ。しかし、正直なことを言えば、彼女の誤魔化した本心についてはまあ、分かってしまったし。というか誤魔化しきれてないように思えるし。
　……それが、何だか可愛くて、そして嬉しくて、つい頬が緩む。
「……なんですか、トレーナーさん……？」
「んー、いいやー？　はは、そうか」
「あの……あくまでただの気紛れ、ですから」
「うん、分かってる……！」
　ビリーヴと歩くこの賑やかな道が、更に色付いたように思える。俺は隣を歩いてくれるビリーヴに、温かな気持ちを抱くのだった。
「あの……うぅ」

「――そうだ、折角祭りに来たんだし、何か買うか？」
　しばらく屋台を眺めつつぐるっとお祭り会場を歩いていた俺たち。ただ眺めているだけでは勿体無いだろう。俺はそう思って彼女に提案する。
「そう、ですね。えっと、何が良いだろう……」
　少し真剣な顔で考え込むビリーヴ。なんだかまだ少し肩肘張っているように見えて、或いはやはり夏祭りにあまり慣れていないからかそんな風にしているビリーヴに、ならばと俺が提案する。
「かき氷！　なんて、どう？」
「かき氷ですか……そういえば、最近食べてなかったな」
「ほら、あっちにあるみたいだぞ！　行こう、ビリーヴ」
「はい、トレーナーさん」
　ビリーヴを連れて、かき氷屋の屋台に向かう。夏祭りと言えばかき氷。鉄板中の鉄板だろう。

「……わ、結構並んでますね」
「まあ、かき氷だしなー。そりゃ人気だよな」
　隣の屋台の方まで並んでいるお客さんの列に少し驚きつつも、とりあえず最後尾に二人で並ぶ。
　しばし、買えるまで待つ必要はありそうだけど……ビリーヴと一緒なら、話しているうちにすぐだろう。
「なあ、ビリーヴはかき氷、何味にするんだ？」
「そう、ですね……最近食べていなかったからいちご……いや、ブルーハワイも少し気になるかも……」
「俺、結構ブルーハワイ好きなんだよな。なんか特別感あって！　……まあ、ブルーハワイって言われても結局何味なのかよく分かんないんだけどなー」
「……そういえば、かき氷は色だけで、ほぼ同じ味って聞いたことありますね」
「あー、あれな。実際どうなんだろう？　いちご！　って言われたらいちごな気もするし、メロン！　って言われたらメロン味な気もしてくるし」
「……色味だけでも、結構感じる味は変わってきますからね。例え色しか違わなくても、そのバリエーションで楽しませてくれるのは、こだわりを感じます」
　ビリーヴが、ちょっと真剣な声色でそう語る。かき氷といえば、何気に伝統のある食べ物だ。どこにでもあるように思えても、そこには確かに受け継がれてきた伝統とこだわりが、あるのかもしれない。

　そんな風に、順番が来るまでかき氷を待ち遠しくビリーヴとお喋りしていると、列は進んで行き――。
「――買えましたね、かき氷」
「ああそうだな！　それにしてもまさか、コーラ味があるなんて……」
「……黒い、ですね」
「コーラ味は流石にコーラの味がする気がするんだよな。ビリーヴはブルーハワイだよな？」
「はい、やっぱりブルーハワイ味にしました」
　そう言って、ビリーヴは爽やかな青色のかき氷を見せてくれる。ビリーヴのイメージカラーとも合ってて、非常に良い。
「……それじゃ、早速いただきます」
　先がスプーンになったストローを持って、さくりとかき氷をすくう。
　あむ、と一口食べれば、口の中がヒンヤリとした冷たさと、甘いシロップの味が広がる。
「んん〜、やっぱお祭りと言えばこれだよなー美味しい！」
「ん、僕もいただきます。……あむ」
　ビリーヴも、さくっと氷をすくい口に運ぶ。
「あ、美味しい……」
「だよな！」
「かき氷……久々に食べた。うん、やっぱり……美味しい」
「そうなんだよなぁ……！」
　小さく嬉しそうにしてるビリーヴに俺は心の底から同意する。これぞお祭り。これぞかき氷だ。

「ん、ぱくぱく。美味……いくらでもイケるな、これ……！」
　ひょい、ひょいと。溶けてしまう前に俺はかき氷をすくって食べ続ける。
「……あの、そんなに一気に食べると……」
「うん？　どうかしたのか、ビリーヴ――って、うっ……！」
　キーン。頭に鋭く冷たい痛みが走る。
「……アイスクリーム頭痛。大丈夫ですか、トレーナーさん……？」
「そうだった……！　かき氷はこれがあるんだった……！」
「もう、急いで食べるからですよ……？」
　ふう、と溜息を一つ吐くビリーヴ。
「あ、あはは……面目無い」
　なんだか恥ずかしくなって、かき氷を持ちながら頬をかいてしまう。

「……そういえば」
「うん？　どうした、ビリーヴ」
　歩きながらかき氷をある程度食べ進めた所で、ビリーヴは不意に呟く。
「トレーナーさん、コーラ味のかき氷って、ちゃんとコーラ味でしたか……？」
「え？　あー……そうだな……」
　ビリーヴから問われて、そういえばそうだと思い出す。コーラ味のかき氷にしたのは、実際にコーラの味がしそうだからで。それじゃあ本当にコーラの味だったのかと言われれば――。

「……うーん、どうだろ？　なんか、もう普通に食べちゃってたから比較できないかも」
「そう、ですか……」
　確かに、コーラの味がするような気はするけれど。実際にそうなのかは分からない。もしかしたら、思い込みかも？　そんな風に果たして本当はどうなのか考えていると、ビリーヴは少しこちらに近づいてあることを提案してきた。
「それじゃあ、僕のかき氷も食べますか？　そうすれば、味の比較ができるかも……」
「なるほど、確かにそれならいけるかも……！　えっと、じゃあその……一口貰ってもいいか？」
「はい、どうぞ」
　ビリーヴから、かき氷を差し出される。俺はスプーンでビリーヴのかき氷をすくって、一口ぱくりと。ビリーヴのブルーハワイを食べてみた。
「ん、美味しい……！」

「……違いは、分かりましたか？」
「あ、ちょっと待ってな。じゃあ今から自分の食べて見るから」
　そう言って、パクと自分のかき氷を食べると。
「……あ、味が違う……！　これ、ちゃんとコーラ味だぞ、ビリーヴ！」
「なるほど、コーラはちゃんとコーラ味なのか……ちゃんとコーラの原液とか使ってるのかな……？」
「そうなのかも！　あ、本当にコーラ味だ。凄い……！　あ、でもビリーヴのブルーハワイも美味しかったぞ！」
「ありがとうございます？」
　そう言って首を傾げるビリーヴ。
「……あ、そうだ！　ビリーヴ、君も食べてみるか？　コーラ味！」
「……食べてみたいです」
　すこしソワソワして、ビリーヴがそう漏らす。好奇心が湧いたような瞳をしたビリーヴに、俺はコーラ味のかき氷のカップを差し出す。
「どうぞ、ビリーヴ！」
「はい、いただきます」
　さくっと、ビリーヴはスプーンで俺のかき氷をすくって、あむ。と食べる。
「……あ、本当にコーラ味だ」
「だろ！　よし、もっと食べるか！？」
　……そうして、俺とビリーヴは氷が溶け始めても気にすることなく、二人で楽しくかき氷を楽しむのだった。

――――

「なあ、ビリーヴ！　金魚すくいがあるぞ！」
「金魚すくい、ですか……昔、おじいちゃんと一緒にやって、しばらくおじいちゃん家で飼ってたな……」
「やっぱり、ちゃんと金魚鉢で飼ってたのか？」
「そうですね。しばらくお世話をしてました」
　懐かしそうに目を細めるビリーヴ。思い出に浸ってくれるのは、俺としても嬉しい。そして、新しい思い出を作ってやりたい、そんな想いも込み上げてきて。

「よし、それじゃあやってみるか！」
「やるんですか……？」
「ああ！　すみません、1回お願いします！」
「あいよー」

　屋台のおじさんからポイと皿を受け取る。よし、これは腕の見せ所だ……！
「いいか、ビリーヴ。金魚すくいのコツはな……まずポイを斜めに入れる所からなんだ」
「ふむ……」
「全部浸したら、水平に移動させて紙が破れないように気を付ける！　そして、金魚に狙いを定めるんだ……！」
　ビリーヴに実践形式で教えながら、獲物を見定める。……ここは、やっぱり一際大きい奴をゲットして、ビリーヴを驚かせたい……！

「むむ、こいつだな……！　よし、獲物を決めたらあとはポイで下からすくうように……！　素早くお皿に、そいやっ！！」
　大きな出目金がポイと重なった瞬間、俺は一気にポイを引き揚げた！！　そうして、お皿に移そうとして、そして――。

　ぼちゃん！

「あ、あれ！？」
「…………破けちゃいましたね」
「お、おかしいな……！？　今の要領でやれば絶対取れる筈なんだけど……！　お、おじちゃん！　もう一回！」
「……あの、トレーナーさん。僕にやらせて貰っても良いですか？」
　ビリーヴが、静かに、しかしはっきりとそう伝えてくる。
「あ、ああ。良いけど……できるのか？」
「……さっきのトレーナーさんので、大体コツは分かりました」
「え、そ、そう……？」
　実際には失敗してしまったのだが……しかし、ビリーヴがやると言ったのだ。俺は、彼女に自分の持っている皿を渡すと、新たなポイを持ってビリーヴは水槽と対峙した。

「……まずは、斜めに……それから、破れないように水平方向……」
　集中力を研ぎ澄まして、ビリーヴは精確にポイを操る。そうして、一匹の金魚がポイに重なった瞬間――。
「――今」
　ピシャ。
　ポイが素早く引き揚げられ、金魚が宙を舞う。そうして、金魚はビリーヴの持つ皿へと飛び込んで行った。
「す、凄い――」
「やるねぇ嬢ちゃん」
　あまりに見事なポイ捌きに感嘆の言葉が溢れ出る。屋台のおじちゃんも職人の眼差しでその腕を褒め称える。

「……まだ、行けます」
「え？」
　しかし、一匹程度で留まるようなビリーヴでは無かった。極限まで集中し、奥底に静かな炎を宿した瞳で、ビリーヴは再び水槽へと対峙する。そうして――。

　ピシャ、ピシャ、パシャ、パシュ。

　一匹、二匹、三四に五匹に、ビリーヴは次々と金魚を鮮やかにすくっていく。
　その表情は真剣そのもの。喜ぶ隙すらなく、次々に金魚をすくうその姿はまさに職人。気がつけば、その浴衣の袖が少し濡れてるくらいにまで、夢中になってビリーヴは金魚をすくい続けた――。

「……ふう、こんな物でしょうか」
　そう言って、ビリーヴは軽くポイを水の中に振る。すると、ポイに張られた紙が徐々に破けてしまう。
「……ポイの耐久値まで見抜いたのか……？　え、えっと……結局何匹取れたんだ……？」
「……10匹、ですね」
「ひぇえ……」
　もはや、畏怖である。ビリーヴの職人芸。やはり、侮れない……。

――――

「はいよ、わたあめ」
「ありがとうございます」
　ビリーヴが、大きなわたあめを買ってきた。ビリーヴにあまり甘い物が好きな印象は無かったが、……浴衣姿のビリーヴと大きなわたあめはよく似合っていた。
「……好きなんですよね、わたあめ」
「そうなのか？」
「はい。……昔、おじいちゃんに買ってもらって。それが美味しくて」
「思い出の味なのか？」
「そうですね」
　そう言って、はむ、とビリーヴはわたあめを食べる。
「ん……美味しい……♪」
　頬を緩ませて、そう溢すビリーヴは、なんだかご機嫌そうで。
「それは良かった……♪」
　俺も頬が緩む。

　ガヤガヤガヤ。
「……それにしても、やっぱり活気が凄いな。結構人混みができてる」
「やはり、夏祭りだとそうなるんですね……トレセンの生徒も結構いるみたいですし」
　いつの間にやら、かなり混雑し出した。そういえば……そろそろ花火が始まるとか、言ってたっけ……？

「……花火、ですか。なるほど、だから人が増えて……――ぁ」
「ん……？　ぁ」
　ぐい、押し寄せた人の波が、ビリーヴを遠くへと押しやる。

「ぁ、と、トレーナーさん……！」
「ちょ、ビリーヴ……！」
　どうにか人混みをかき分け、ビリーヴを探す。幸い、そんなに離された訳では無かったのだけれど――。

「人が多くなって来たな……」
「は、はい……」
　ビリーヴの声が、ほんの少しだけ、弱くなる。……そうだ、ビリーヴはあまり人の多い所を好む子では無い。この人混みは彼女にとっては不得意、なのかもしれない。

「び、ビリーヴ……！」
　このままでははぐれてしまいそうな人混みの中、俺はビリーヴに、離れないで、と言おうとして、手を伸ばそうとして……一瞬、ブレーキが掛かる。このまま、彼女へと手を伸ばし、その手を掴んでしまっても良いのだろうか。一瞬の躊躇い。

「と、トレーナーさん……っ」
　――しかし、その躊躇いは無意味な物だった。

「――こっち！」
　ぎゅっ。ビリーヴの手を取り、俺は彼女を引いて人混みから外れた場所へと連れて行く。喧騒からできるだけ遠ざかるように。彼女の落ち着ける場所を目指して。
　人気の無い道へとビリーヴの手を引いて進んでいった――。

――――

「……ここは、神社……ですか……？」
「そう、みたいだな。……うん、ここなら大丈夫だな」
　薄ぼんやりとした暗い神社。ざわめきが、少し遠くの方から聴こえてくる。人気の無い神社、ここならビリーヴも落ち着けるだろう。
「……その、ありがとうございます」
「ああ、いや。どうってことないよ。それより、大丈夫？」
「……はい。ちょっと、びっくりしましたけど……トレーナーさんのお陰で落ち着きました」
「そっか、良かった……！」
　そっと微笑むビリーヴに、俺も安心して笑顔を返す。

　ひゅー……ドン。

　遠くから、花火の弾ける音が聴こえてきた。

「花火……始まったみたいですね」
「そうだな。……でも、ここからじゃ見れなさそうだな……」
「そうですね……」
　少しだけ、残念そうな顔を覗かせるビリーヴ。花火、ビリーヴも少し楽しみにしていたのだろうか。そうだとしたら、悪いことをしたかもしれない……。

　そういう風に少し後悔をしていた時、ふと。そういえば夏祭り関係なく、ビリーヴと思い出を作るために用意した物があったのを、思い出した。

「――なあ、ビリーヴ……！」
　ごそごそ、と。俺はカバンから例の物を取り出そうとする。
「……？　どうかされましたか、トレーナーさん……？」
「ビリーヴ……！」

「今から花火、やらないか……！？」

――――

　ぱちぱち、ぱち。

　暗い闇の中で、2つの火の花が咲く。

「線香花火……綺麗、ですね」
　地面に屈んで、俺とビリーヴは小さく淡い花火を……線香花火を、眺めていた。
「……ビリーヴなら、派手な花火より、こういう方が好きかなって。夏合宿の思い出として、こういうのもありかなって用意してたんだよね」
「そう、ですか……。その、ありがとう、ございます。……綺麗です」
　ぱちぱち。
　淡く、小さな花が弾ける。静かに、じっと、その花が落ちないように。眺めて、楽しむ。
　静かな場所で、二人きり。二人だけで、この小さな小さな、線香花火を楽しむ。

「…………」
「…………」
　ぱち、ぱち、ぱち。
　綺麗な一瞬の煌めきを、眺める。味わう。
　儚い。だからこそ、美しい。
　俺たちは、そんなひとときを、静かにそっと、けれど確かなぬくもりを感じながら、楽しむ。
「……トレーナーさんと二人で、こうして線香花火をして……。綺麗で、儚くて、静かで……うん、好き……です」
「……そうか。俺も、こういうの、好きだな……」
「……ふふ。そう、ですか」

　言葉は、少なく。静かで。けれど……確かに、繋がっている。言葉の数以上に、気持ちが――。
　そうして、俺とビリーヴの間に、大切な思い出がまた一つ。ぱちぱちと、鮮やかに、刻まれていくのだった――。

おわり