「と、とと……トリックオアトリートっ……！！」
　トレーナー室の扉が開き、担当のシュヴァルグランがカボチャのバケツを持ってそう叫ぶ。
　よく見れば白い布を纏いまるでゴーストのような仮装をしている彼女と、その言葉。そう、今日は10/31。ハロウィンである。

「オバケの仮装か、可愛いくてよく似合ってるぞ」
「っ……か、かわ……っ///　う、うぅ……これはキタさんたちにムリヤリ……あっ、でもその……ありがとうございます……」
　顔を赤くしてきゅぅと鳴き声を漏らすシュヴァル。あまり積極的なタイプでは無い彼女がこういうイベントに乗ってお菓子をねだりに来るとは少し意外だったが、なるほど級友たちに誘われた訳なのか。
「そ、それで！　お菓子か、イタズラ……トレーナーさんはど、どっちですか……っ」
「……あー、ちょっと待っててくれ」
　そう言って、机の引き出しを開ける。ハロウィン用のお菓子ならこの中に用意してある。だから、シュヴァルにはこのお菓子を渡せばいい、のだが――。

「…………あっ。どうしよう、お菓子ちょうど切らしちゃったみたい」
「えっ……？」
「だから……そうだな、お菓子は無いからイタズラをしてくれないか？」
「……えっ！？」
　俺がそう告げると、シュヴァルはそんな風に言われるのを想像もして無かったのか素っ頓狂な声を上げる。俺はそんな彼女の反応を見つつ、トレーナー室の入口に立ってオロオロしているシュヴァルに近づく。

「ほら、シュヴァル。トリックオアトリートなんだろう？　トリートは無いから、トリックをお願いするよ」
「えっ……えぇっ！？」
　あわ、あわわ、えっとえっと、と。忙しなく手や頭を振り慌てふためくシュヴァル。そんな彼女にダメ押しをするように、ぐいと近づき言葉を紡ぐ。
「イタズラ、するんだろ？　さあ、やってくれ。さあ」
「えっえっとえっとっ！　あ、あのその、あのそのえっとえっと……！！　〜〜〜っ……！！」

　……ぎゅーぅっ！！

「……っ！？」
「〜〜〜〜っ」
　突然、シュヴァルが抱きついてくる。ヤケクソみたいな力加減でぎゅっと抱きしめられ心臓が跳ねる。

「あ、あの……シュヴァル……？」
「っ……！　ぁ、ぼ、僕なにして……っ！　わぁっ！」
　シュヴァルグランはそう声を上げると慌てて俺から離れる。その表情は真っ赤に染まっていて――。
「っ……ち、ちが……！　これは、そのっイタズラで……っ！！　別に変なことしたかった訳じゃなくてっ……！　そ、そのっ……！　お、驚いて、くれましたか……っ！？」
「……そ、そりゃ驚いたけど」
「は、はいっ……！　そ、それじゃあ、その……僕……っ。し、失礼しました〜っ！！」

　ダダっ。と。シュヴァルグランはそうして逃げ去ってしまった。

　…………。
「……ちょっとからかってみただけだったんだけどなあ」
　ポケットから、お菓子を1つ取り出す。少しからかったら渡そうと思っていたそのお菓子は、どこにも行き場を失くして……仕方がないので、ぽいと自分の口に放った。

「……ん、おいし」

おわり