「今日はポッキーの日なのでポッキーゲームしてくださいトレーナーさんビリーヴさん！」
「は？」
　ある日のトレーニング後、チームの教え子たちが急にそんなことを言い出した。

「知ってましたか？　今日は11月11日でポッキーの日なんですよ。棒がいっぱい並んでるので」
「……そういえば、スーパーとかでそんなのを見たことあるような……」
「……ライトオさんがたくさんポッキーを持っていたのはそれでですか……」

「……という訳で折角なので二人でポッキーゲームしてください！」
「えぇ……？　急だな……別に良いけど……。ビリーヴもやるのか？」
「……え……？　いや、なんか……よく分からないけどイヤな予感がするような……」
「ぜひ！　やってくださいっ！！　大丈夫です、ポッキーの日には皆やってますから！！」
「えっ、いや……でも」
「まあまあ、モノは試しって言うじゃないか。折角の記念日？　なんだし、やってみるのも面白そうじゃないか」
「……ま、まあ……トレーナーさんがそこまで言うなら」

「……ところで、ポッキーゲームって何をするんだ？」
「えっと、それじゃあとりあえずトレーナーさんはこのポッキーを咥えてください！」
　教え子の一人がポッキーを一本箱から取り出す。そうして俺の口へ渡すと、俺はとりあえず言われるがままに咥えることにした。

「それで、ちょっとかがんでくれますか？」
「ほ、ふぉう……？」
　言われるがまま、足を曲げ屈む。不思議な体勢だが、ここからどうするのだろうか……？
「それじゃあビリーヴさん！　トレーナーさんが咥えてるポッキーをもう片方から咥えてください！！」
「……へ？」
「……は？」
　……うん？　何か、すごいことを言われたような気がしたが。まだ理解が追いついていないのに、教え子たちは喜々としてビリーヴの背を押し、俺の目の前へとビリーヴを押し出す。そうして、さあ！　さあ！　とポッキーを咥えることを強要する。

「え、いや……その……。これ、本当に皆やってるの……？」
「はい！　本当に皆やってますよ！」
「でも……その、これなんか……トレーナーさんとやるのは駄目なやつなんじゃ――」
「……こく、こく！」
　ポッキーを咥えたまま頷く。こんな近い距離で、一本のポッキーを咥え合うなんて……すごく不適切なゲームにしか思えない。

「……ビリーヴさん、一度引き受けた仕事を、放り投げるのですか？」
「…………は？」
「ビリーヴさん、確かに言いましたよね？　ポッキーゲームをするって。私たちがやってくださいって言ったことを、ちゃんと、やるって。引き受けるって言いましたよね。それなのに、仕事をやり遂げずに辞めちゃうんですか……？」
「…………自分の仕事は、遂行する」
「ですよね！　流石ビリーヴさんですっ！　じゃあ咥えてくださいっ！」
「……んっ」
「……！？」
　ビリーヴの目が、マジになった。そうして、後輩たちに促され俺の咥えたポッキーを咥える。至近距離に、ビリーヴの顔がある。心臓がどくと跳ね、背中に冷や汗が流れる。
　当のビリーヴはと言えば……横目で後輩たちを見て、眼差しで説明の続きを促していた。

「はい、それじゃあ二人ともポッキーを食べ進めていってください！　それで、先に折ったり離した方の負けです！　ギリギリを攻めるゲームなので、頑張ってくださいっ！」
「……こく」
「！？」
　いや、いやいや。駄目だろ！　こんなゲーム、教え子とトレーナーがやるのは！！　今すぐ中止に――。
「はいっスタート！！！」
　中止させようとするも、間髪入れずにゲームを開始させられる。離さなければ、そう思うのだが――。
「――さくさくさく」
「っ！？」
　真剣な眼差しのビリーヴが、すごい勢いでポッキーを食べ迫ってくる。距離がどんどんと近づいて――こ、これはヤバい。すぐに距離を取って離さないとっ……そう思って後ずさりしようとするも。

「逃しませんよ、トレーナーさんっ！！」
　がしり、と教え子たちに掴まれ逃げ場を無くす。
「さくさくさくっ」
「んっ！！　んんーっ、んんー！？」
　迫るビリーヴ、動かない身体。心臓はドキドキとうるさく跳ね回り、顔が耳まで熱くなる。真剣な表情のビリーヴがどんどんと近づいて来て、さくさくとポッキーを食べる彼女の唇はもうすぐそこまで迫っていて――。
「んんんっ！！　んんーーぅっ！！？」
「さくさくさくさくっ」

　――ちゅぅっ。

「……っ！！　きゃーっ♡」
「っ！！？」

　ポッキーは食べ切られ、ゼロ距離。唇が触れ合う。

「…………はい。食べ切りました」
「……っ！！　……！？？　な、なっ……ビリーヴ！？」
「……どうかしましたか、トレーナーさん」
　いや、どうしたもこうしたも……た、確かに今、俺の唇はビリーヴの唇と触れ合って……っ。

「……はい、ポッキーゲームは終わりましたよ。これで満足ですか？」
「……あ、はい」

「……え、なんでビリーヴさん平然としてるの……？」
「もしかして触れて無かった……？」
「いやいま絶対キスしてたって」
「推せる〜」

　ざわざわと、チームの面々が顔を見合わせる。
「……僕の仕事は終わりましたから。帰りますよ、トレーナーさん」
「…………あ、はい」
　ビリーヴに促されるまま、俺は帰り支度をする。……あ、あれ。唇が触れ合ったと思ったのは気のせいだった……？
　彼女のあまりにも平然とした反応に、思わずそう疑い出す。い、いや……確かに俺はビリーヴとキスをしてしまったような……。

「……それじゃあ、また明日」
「あ、はい。お疲れさまです」

「……あれ、なんか……思ってたのと違う……」
「ビリーヴさんクール……」
「推せる〜」

　呆気に取られる俺たちを置いて、ビリーヴはそそくさと帰ってしまう。
　俺は慌ててその彼女の背を追いかけることになるのだった……。

「――……あ、あの……ビリーヴ……？」
「…………。……面白かったですね、ポッキーゲーム」
「……は……？　えっ？」
「……トレーナーさんの焦った顔、面白かったですよ」
「え、えっと……そ、そうなのか……？」

「……またやりましょう、トレーナーさん。今度は、二人だけで」
「あ、はい……。…………えっ？」

おわり