　ファサ……。
「……♪」

　トレーナー室のソファーでゼファーと二人ゆったりとくつろぐ。特に何かをするでもなくただ穏やかな時間を彼女と過ごすのがこの頃の日課になっていた。の、だが……。
　……最近、ヤマニンゼファーの様子がおかしい。彼女らしくないだとか、気分が悪そうだとか、そういうことでは無い。しかし……。

　ファサ、ファサぁ……きゅ。
「……なあ、ゼファー……？」
「はい、いかがなされましたか？」
「……あの、その……なんで、尻尾を腕に巻きつけてくるんだ……？」
「……あら、まあ」
　そう。最近、何故かゼファーは頻繁に、俺の身体に尻尾を巻きつけてくるのだ。それが嫌だ、という訳ではない。しかし……こうも頻繁にされてしまうと、気になってしまうのは仕方の無いことだと思う訳で。
　故に、そのワケを聞いてみるものの……。

「私はただ、胸の奥に吹く爽風の心地に任せているだけです……♪」
　――……と、いつもの調子の返事しか返ってこず。いまいち要領を得ないまま、これまでされるがままにされてきた。

「……ふふっ……♪」
　――ふぁさ。
　腕に巻きついた尻尾が離されて、それから俺の太ももへとかかる。心地よさげに揺れる尻尾が、優しく俺の太ももをたたき、撫でる。
　……すこし気になって、手でそっと彼女の尻尾に触れると。
「……ふふ、どうかされました……？」
　しゅるりと尻尾が俺の手を巻いて包む。
　すこし手に力を込めると、尻尾はより一層きゅっと俺の手を包んで――。

　――ことん。
「……ゼファー……？」
　俺の肩に、ゼファーが寄りかかり頭を預けてくる。彼女の耳の先が、頬をくすぐりつつ……ゼファーは穏やかな表情で目をつむって微笑んでいた。

「……トレーナーさん……♪」
「な、なんだ、ゼファー……？」
「トレーナーさん、あなたは凱風のよう……暖かく、穏やかで……私の胸の中を満たしてくれる」
　きゅっと手を包まれて、肩に彼女の重みを感じ取って、彼女の柔らかな声が言葉になって。
「私はあなたという風に乗れば何処までも行ける……どんなに寒い冬空でも、あなたと一緒なら何処へでも飛び立てる。私はあなたという風に運ばれる野鳥なのです……♪」
「そう、か」
　ゼファーらしい言葉選びではあったが、彼女がどれだけ俺のことを良く思ってくれているのかは、充分なくらいに伝わった。
「ありがとう、ゼファー。そんな風に言ってくれて。俺も、ゼファーをより遠くまで何処までも羽ばたかせられるように、頑張るよ」
「ふふっ、えぇ……♪　おねがいしますね、トレーナーさん……♪」

「――……ところで、いつまで尻尾……そうしてるつもりなんだ……？」
　きゅっと巻かれたままの尻尾を見て、思わずそう問いかける。彼女の柔らかくさらさらと整った毛に触れていられるのは悪くは無いが……しかし、やはりあまり長くやられると、こう……距離感が近く感じるというか。
　あくまでも、俺はトレーナーで、ヤマニンゼファーは担当で。節度を守った距離感でいた方が良いのでは無いか、と思うのだけれど――。

「――いつまで……ふむ……」
　ヤマニンゼファーは考え込む。そうして、しばしの沈黙の後、彼女は俺の隣で、こちらを向いて、そうして答える。

「いつまでも。……えぇ、いつまでも、繋がっていましょう……♪」
「……そ、それは――」
　ふぁさ。手に巻かれていた尻尾がほどけ。

　くるっ、ふぁさっ、……きゅーっ……♪
　手首から腕までを彼女の尻尾に巻きつかれ、そうして彼女は微笑む。
「――いつまでも……♪　よろしいですよね、トレーナーさん――♪」
　そうして何処にも逃げ場を無くした俺は、ただ、ただ。彼女の言葉にぎこちなく頷くのであった。

おわり