「ふひー……どうにかトレーナーさんをお布団まで運べた……」
　トレーナーさんとの温泉旅行。今日くらいはめいいっぱい羽を伸ばそうと、お部屋で楽しくささやかなパーティをしていたわたしたち。
　トレーナーさんは珍しくお酒を飲んで、そうしていたら酔いつぶれちゃって。なのでそのままにするのもしのびないしー……どうにか背負ってお布団まで運んであげました。

「もう、世話が焼けるトレーナーさんだなーなんて」
「うぅん……すぴ……」
　こっちの気も知らないで、お布団でぐっすり眠るトレーナーさん。
「……ふにふに」
「んんぅ……」
　足を屈めて、ちょっとトレーナーさんのほっぺをつついてみると、トレーナーさんは無意識に首を横に動かす。

「…………」
「んぅ……すぅ……」
　お布団の中で、温かそうに、すぅすぅと眠るトレーナーさんを見てると……なんだか、ちょっと羨ましくなって。

「…………トレーナーさん、ちょっと、お邪魔しますねー……？」
　そぉっと、トレーナーさんの寝ている布団の端を持ち上げる。それから、足の先をちょっと侵入させてみる。

「……おぉ、ケッコーあたたかい」
　もう少し思い切って、片足をずぼりと布団にいれると、心地の良い温かさがじんわり伝わってきて……。
「……もう少し、もう少しだけー……」
　もう片方の足を、持ち上がった布団の隙間に差し込んで……押し広げるみたいに両足がお布団に浸かる。
　斜め横から、お布団に足だけ突っ込んでる今のわたしは、たぶん凄くシュールな状況だけど……。ううん、いやでも、このお布団が温かいのが悪いんです。冬ですし。
　お布団の魔力が凄まじい時期じゃないですか。だからこれは仕方ない、仕方ないんです。

「……お隣、しつれいしますね〜……？」
　もぞもぞ、トレーナーさんの寝ているお布団に身体を潜らせていく。トレーナーさんが起きないように、んしょ、んしょと。
「……はい、殿。わたしの身体でお布団を温めておきました。ほほほー、くるしゅうないくるしゅうない」
　……なんて、ふざけながら、しっかりと温まった布団に肩まで浸かります。トレーナーさんの人肌で温まったお布団の中は……それはそれはサイコーで。いやあ、これ、凄まじいですよ実際。

「あったかいなぁ……」
　ぬくぬく、と。あったかいお布団を堪能するわたし。いやいや、これを独占してたトレーナーさんはズルでは無いか。
　まあこうやって温かいのはトレーナーさんがお布団の中に居るからで……トレーナーさんのおかげで。……でも、それを運んだのはわたしですし……？　それじゃあ、こうして温かいお布団を堪能する権利がわたしにはあるんじゃないかって。
　ならもうちょっと、もうちょっとだけ……。こうしてお布団の中に入っていたいなって。
　考えてもみてくださいよ。暖房もついてないさっきまで誰もいなかったお部屋に戻って、わたしは冷たいお布団に入って一人寂しく寝ないといけないんですよ？
　そんなの、嫌じゃないですか。こっちでお布団に潜ってた方が良いに決まっています。ここがあんまりにも心地良いんだから、仕方ない。仕方ないですよ。

「……はぁー……」
　身体が芯までポカポカして、頭もほんわかふわふわになって。……いやあ、これはもうもはやわたしのお布団と言っても過言じゃないです。すごくあったかいですし。
　……でも、ちょっと遠慮して、端の方にいるから……窮屈、かも？　これはトレーナーさんのお布団だから、邪魔にならないように……って、そう遠慮してたけど……。
　……必要ないのでは？　だって、実質わたしのお布団みたいなものですし。わたしにも遠慮なくあったかお布団を堪能する権利がありますよ、はい。

「……じゃあ、トレーナーさんの方に……失礼して……」
　ずい、と身体を寄せて、トレーナーさんの方に近づく。お布団の真ん中付近は、最初からわたしにフィットしていたみたいに、自然に馴染んで。端の方だからっていう窮屈感は無くなって、それからすぐ近くにトレーナーさんがいるから、よりあったかくて。

「ふへぇ……ごくらく……」
　今日入った温泉も良かったけど、トレーナーさんのあったかお布団も、それに負けないくらい気持ちよくて。いやあ、素晴らしきかな。

「んぅ……すぅ、すぅ」
「…………」
　しばらく、あったかお布団を堪能していたら。そうしていたら、すぐ近くにトレーナーさんが居るってことを、ちゃんと実感して。
　だって、あったかいですし、寝息だって嫌でも聴こえてくるぐらいの距離で。それから、わたしよりも大きな身体が持ち上げてる布団が作った隙間を、わたしは感じてしまうワケで。
　……だから、ちょっと横を向いて、トレーナーさんの寝顔をなんとなく眺めてしまうのも自然なことじゃないですか。

「……トレーナーさんって、あったかいんだなぁ」
　いつも、ちょっと暑苦しいくらいには熱心にわたしのことを見てくれるトレーナーさん。檄を飛ばして、ずっとこれでもかってくらいにわたしに期待をしてくれていて。そんなトレーナーさん。
　まあ、ちょっと暑苦しいのは分かっていたけど、でも……こんな感じであったかいなんて。……まあ、トレーナーさんは実は意外と優しかったりしますし。まっすぐにわたしのことを信じてくれますし。
　あったかい人だなあ、とは、思いますよ？　だからこれも納得……？

「んん……ミラクル……」
「……ふふ、なんですかトレーナーさ――うわ、酒くさ」
　呼ばれたからちょっと近づいてみたら、トレーナーさん、酒くさかったです。
　ああこれ、あったかいのお酒のせいですね。たぶん。酒くさいですもん。

「んんぅ、ミラクル……」
「……はぁ」
　……ま、今日くらいは許します。勝手にお布団に忍び込んだのはわたしの方ですし……？　こうして、すぐ隣に居るのに気づかないくらいに無防備なトレーナーさんを見ていたら、なんだか、もう良いかなって。
「……トレーナーさん」
　トレーナーさんの身体の方に、ぎゅっと詰め寄って。トレーナーさんのことをすぐ近くで感じて、それから、目を閉じる。
　あったかくて、ぬくぬくで……ちょっとお酒くさくて。でも、なんだかポカポカして、幸せで……。

　…………本当は、ダメってのも分かってますよ？　早くお布団出なきゃなーとか、こういうのは良くないかな、とか、このまま寝ちゃったらマズイよなーとか。……でもまあ、良いじゃないですか、別に。
　何か変なことがある訳じゃないですし、たまには、たまには。こんなに落ち着いてしあわせーな気分になれることが、悪いことなワケないですよね、って。

　じゃあつまりは。

「……おやすみなさい、ってことで」

　そうしてわたしはあったかくてぽかぽかなトレーナーさんのお布団でぐっすりぐんない、眠りにつくのでした。

　――ちなみに次の朝の目覚ましは、トレーナーさんの真っ青な悲鳴でした。
おわり