「いや〜、ホントに寒いねー今日」
　トレーナー室で雑務をしていると、トランセンドがそう言いながらいそいそとやってくる。
　今日はトレーニングは休みの筈ではあるが……まあ、彼女がトレーナー室に入り浸るのはいつものことなので放っておく。

「そうそう、いつものこといつものこと。ああ、いいよトレちゃん。気にしないでお仕事続けちゃって、うん」
　トランはカバンからノートパソコンを取り出すと、ソファに座ってくつろぎだす。
　お言葉に甘えてカタカタと雑務をこなしていると、タイピング音はいつの間にやら2つに増えていた。

「おー……あの福袋、例年よりちょっと高めの値段設定と思ったら、ワンチャン“あれ”も入ってくるかもしれないのかー……結構みんなアレコレ予想してるねん」
　……面白そうな話が聞こえて思わず、聞き耳を立ててしまう。パタリと手が止まったのに気付いたのか、トランは一回り声のトーンを上げて、わざとらしく続ける。

「……あ〜、これトレちゃんが気になってた奴じゃ〜ん。へぇ、新しい情報出たんだーこれはもう詳細希望するしか無いじゃんね〜」
「…………」
　そわそわ、と。雑務の手を止めて、ちらりとトランの方を見ていると、ふっ、と小さく笑ってからトランセンドがこちらに振り向き、そうして目が合う。

「……気になる？　気になっちゃう〜？」
「あ、ああ」
「へへん、そうだと思った〜。……でも、お仕事の方も進めなきゃじゃん？　どう、進捗は？」
「……まあ、後もう少し……？」
「そっか〜。じゃあじゃあ、それまでガマンだね〜」
「うっ」
　ニヤリと笑ってトランはそう言う。実際、その通りだからぐうの音も出ない。

「まあまあ、楽しみが待ってるなら作業も早くに終わるってもんっしょ？　ウチはそれまでに色々トレちゃんが喜びそうな情報仕入れとくからねん♪」
「むう、……そうだな、よし。頑張るよ」
「おーおー、その意気だよん。がんばれトレちゃん♪」
　そうして、俺は彼女の応援を受けつつどうにかこうにか残りの雑務を終わらせるのであった。

――――

　パタンとPCを閉じ、ぐっと身体を伸ばす。年末の仕事をどうにか終わらせ、少し肩の荷が降りた気持ちになる。思えば、窓の外はすっかり年の瀬を思わせる冬景色で。暖房は付いてるとは言え、それでも少し冷えた部屋の中。
　デスクから立って、ソファに待たせたトランセンドの所へ向かうと、そこには……。

「おっ、トレちゃんお仕事終わった？　へへん、おつかれさーん……♪」
　――もふもふに身を包んだトランセンドがいた。

「……あ、これ？　へへー、どうどう？　着る毛布ってやーつ」
「おぉ暖かそうだな」
「この部屋ちょっと寒かったしね。いや、暖房ついてるのは知ってたけど。それでも外寒すぎだし、仕方ないよね〜」
　もふもふの着る毛布に身を包んだ彼女を見ていると、より一層今の自分が感じている肌寒さを意識してしまって。

「……おー？　おやおや、羨ましそうな顔」
「そりゃまあ、すごい暖かそうだし」
「んー……仕方ないなぁ。ほれ、トレちゃん。何はともあれ横おいで♪」
　少し隣にズレて、トランはソファのスペースを開ける。お言葉に甘えて隣に座らせて貰うと、トランはよしよし、と満足げに笑う。

「このもふもふが羨ましいかー？　トレちゃん〜もう、仕方ないなぁ」
「……その口ぶりだと、もう1枚用意してるとかか？　流石トランだな」
「まあね〜……」
　ほんのりと肌寒さを感じながら、しかし隣の暖かそうなトランを羨ましく思いつつ期待していると。
　おもむろにトランセンドは着ていた布団を脱ぎ始めて――。

「……でも、もう1枚用意してる訳じゃないんだな〜」
「……え？」

「――えいっ」

　瞬間、暖かくふわふわな感触が身を包む。期待通りの暖かさ。しかし、頭はすぐに異変に気がついた。
「あ、あれ……と、トラン……！？」
「ん〜？　どしたんトレちゃーん？♪」
　何でも無いようにそう応えるトラン。しかし、そのトランとの距離が、おかしい。肩同士が触れ合うくらいの近さに、俺とトランはいた。

「と、トラン……！？　これ、近……！？」
「あははー。この着る毛布、実は2人用なんだよねー。ほら、こうして2人並んで着れる大きさなんだよん♪」
　そう楽しげに笑うトラン。けど、これはあまりにも距離が近すぎるような――。
「……えー？　良いじゃん良いじゃん、ウチとトレちゃんの仲でしょ。それに、トレちゃんだって羨ましがってたじゃんか〜」
　それとこれとは話が違う気が……そう言おうとして、彼女に遮られる。

「それよりほら、見てよこれ。トレちゃんが欲しがってたガジェットのメーカーが出してる福袋。これならさー」
　何も気にしていない風に、トランはPCの画面を見せてくる。……どうやら、この距離感を気にしているのは俺だけのようだ。
　そして、それはそれとしてトランが提供してくる情報はどれも興味深くて、面白そうで――。

「――そうそう、それからさー♪」
「おお、それは良いな――」
　……そうして、近すぎる距離感は気にしないようにして。
　冬の寒さを忘れさせてくれる暖かさの中でトランと2人並んで、着る布団に身を包んで同じ画面を見て、この時期にしかないワクワクを語り合うのだった。

おわり