　大晦日。それは1年の終わりを告げる最後の日。そして、新たな1年を迎えようと年越しの瞬間を待ち焦がれ、ワクワクしながら、友や家族と過ごす日なのである。

　トレセン学園では、大晦日においては特別にトレーナー室の深夜までの利用が許可されており、そのトレーナー室で担当とトレーナーが一緒に年を越すことも可能なのだ。

　そんな訳で俺は今、トレーナー室でイクノディクタスと2人、テレビを付け彼女が予め用意してくれた年越しそばを食べつつ、年越しの瞬間をのんびりと待っていた。
　――筈、だったのだが……。
「もうすぐで今年が終わってしまうのですね……」
「そうだね。なんだかんだで、あっという間の1年だったな……」
「そうですか……。……あの、トレーナーさん、突然なのですれけど……いいですか？」
「え？　別にいいけど、何かよく分からないけど……」
「トレーナーさん……」

「――私と、年越しの瞬間に地球から脱出しませんか？」

「………………」
　思わず、言葉を失う。唐突に、何を言い出すのだろう。彼女らしくない……訳では無いが、それでもあまりにも今の彼女の発言は突飛過ぎた。

「……えっと、地球から脱出って……？　具体的にどうすれば良いんだ……？　というか、なんでそんなことをしようとしているんだ？」
　恐る恐る、彼女にそう尋ねると、イクノディクタスはふむと考え込んでから、事のあらましを説明してくれた。

　――要約すると、彼女の友人であるツインターボとどっちがより凄い年越しをできたかを勝負しているらしく。
　そうして彼女が選んだのが所謂“年越ジャンプ”であった。
　小学生か！　とも思ったが、どうやらちゃんと訳があるようで……。

「はい。まずは最初に、年越しの瞬間地球上に居なかったを現実にする為には何をすれば良いかを考えました。その上で、それを叶えるとするならば宇宙に進出する必要があると至りました」
　突拍子も無いようなことを真剣な顔で語るイクノディクタス。彼女がどこかノリノリで楽しさが見え隠れしてるのが分かるからこそ余計に、こういう時の彼女が止まらないのは、よく理解していた。

「しかし、現実問題。私の財力やコネでは到底、宇宙旅行などは夢のまた夢」
「そりゃそうだな」
　いくらトゥインクルシリーズを走っているとはいえ、ただの1学生が宇宙旅行は不可能であろう。
「なので、代案を考えました。年越しの瞬間にジャンプする要領で、年越しスカイダイビングや年越しバンジージャンプなどはどうだろうか、と」
　……なるほど、実際には地球脱出はできてないが、本来の小学生向けのお巫山戯的には充分、年越しの瞬間に地球上に居なかったと言えるだろう。

　だが、それはそれとして。もう日付も変わってしまうという時間なのに、何か用意は出来ているのだろうか……？
　そもそもの話、実現可能なのか……？

「……それは……。年越しスカイダイビングは、手持ちの予算では届かず……」
「なるほど……。でも、バンジーの方は残ってるよな、それはどうしたんだ？」
「ええ、それが……この年末年始の、しかも年を越す瞬間にバンジーをやらせてくれる所が全然見つからないのですよ」
　……それは、仕方ない。そりゃあ、こんな年末の、大晦日の、しかも真夜中にバンジージャンプがやっていないのは当然だろう。普通に考えて。

「はい……そういう訳で、どうにか空中で年越しの瞬間を過ごそうと思ったのですが、中々これだというものが見つからず……」
「中々、君にしては珍しく苦戦してるね……？」
「そうですね……やはり、この迫る時間の中、実現可能かどうかを突き詰めていきますと……選択肢は非常に狭まれますから。……でも、その上で――」
　すこし俯きがちだった彼女は、メガネの縁をクイと上げると、たった1つ残された冴えた方法を、本気でやり抜こうとでも言いたげな表情で、そうして彼女は語る。

「その上で、1つだけ実現可能なものがありました。それこそが――“年越しジャンプ”なんですよ」
　ぐっと息を溜めてから放れたその言葉に、こちらも全身全霊をもって受け止める。
「………………そうか」

「……どうでしょう、トレーナーさん」
「…………そうかーぁ……」
　自信満々なイクノディクタスを見つつ、やり場のない脱力感と溜め息に苛まれる。
　あそこまで本気になって色々画策した末に出てきたものが、この小学生がやりがちなアレかと思うと、どうにもなにか気が抜けてしまうのは仕方のないことだと思う。

「……本気、なのか……？」
「はい。本気(マジ)です」
　一切迷いの無い瞳で応えるイクノディクタス。ああ、そうだ。彼女はこういうふざけた時だって全力だ。

「……分かった。とりあえず分かった」
「……！　では……！」
「いいよ、君に付き合うよ」
「……っ！！　ありがとうございます、トレーナーさん……！！」
　ぱあっと明るくなる彼女の、無邪気な笑顔は、あまり見せない彼女の歳相応な一面で……結構好きだったりする。

　……しかし、それはそれとして。何故俺までジャンプをするのだろうか。まさか、中央トレーナーになってまで小学生みたいな年越しジャンプをすることになるとは思っていなかったからこそ、思う。
　俺、必要か？

「当然、必要です」
「でも、これは君とツインターボの勝負なんだろう？」
「はい。ですが……ただ、私が年越しジャンプをしただけでは、ありきたり過ぎて足りないのです……！」
「……何が……？」

「“インパクト”です」
　やたらと強調をして、彼女は力説する。
「ここはやはり、1人より2人。2人で一緒になってジャンプで地球から脱出するから、良いのでは無いですか。特に2人同時にというのが非常に良いアクセントになるでしょう。そう、つまりはトレーナーさんが私と一緒にジャンプをしてくれるからこそ、トレーナーさんがいるからこそ、この企画は成立すると言っても過言では無いのです」

　イキイキとした表情で語るイクノディクタスに、なるほど。と応える。正直全部を理解できた訳では無いが……彼女がそこまで熱く語るのなら、もうそれが正解であることは違い無い。
　それに、彼女と年を越すのはそれだけで、楽しそうだったから――。

　……と、いうことで。
「……『IRON WILL』、年越しまでのカウントダウンをお願いします」
『年越しまで残り3分。カウントダウンを開始します』
　ウマ娘やトレーナーの為のマナジメント用管理アプリAIを、イベントのカウントダウンにまで使うのは彼女くらいな物だろう。
　あるいは、ウマ娘やトレーナーたちの中でより身近になったその時なら――。

『年越しまで、残り2分30秒』
　などと、空想を膨らませる内に、時間は過ぎていき。ひとまずいつでもジャンプができるように立ちはしたが、その瞬間までの時間をそわそわと待っていると――。

「トレーナーさん、今年はどんな年になりましたか？」
「え？」
「折角なので、1年をざっと振り返ろうかと思いまして」
「ああ、なるほど……そうだな。今年から取り入れたことなんだがな、毎日のようにコツコツとやって、やり続けて、そうしてどうにか1年やり通すことができたから……それで、努力が結構実を結んだし。うん、コツコツと頑張った1年だったかな」
「なるほど、それは素晴らしい1年でしたね」

『残り1分30秒』
「……君の方はどう？」
「私は……そうですね。メンテナンスとマネジメントにより磨きがかかったのを感じます。特に、ゆこま温泉を利用したことで心身ともに効率良く効果的に休息と回復ができ、レースでも最高のコンディションを出し、それがまた力になって……」
「そういえば、ここ数ヶ月の君の走りは抜群に良くなっていたっけ」
「はい、なので……私にとっては、より走りに、自己管理能力に磨きのかかった1年になりました」
「そうか、それは本当に良かった」
　そう言って笑い掛けると、彼女もふふ、と微笑んだ。

『年越しまで残り30秒。……28……27』
　カウントダウンがいよいよ佳境になり、こちらの意識も引き締まる。ああ、あと少しで新たな年が始まる。
　そのスタートを2人で気持ちよく切るために、すこし足腰を動かして準備をしていると――。

「……トレーナーさん」
「……どうしたんだ？」
『20……19……18……』

「……良い、1年でしたね」
「ああ、そうだったな」
『13……12……11』

『残り10秒』
「ですので、来年も――」

「2人で、良い1年にしましょう、トレーナーさん……♪」
「ああ、そうだな……！！」

「……それじゃあ行くか」
「……はい、行きましょう……♪」
　IRON WILLのカウントダウンを背に、俺たちはその瞬間に。全てを賭して、足を溜め、息を合わせ――。そうして、1つの年の終わりと新たな年の始まりが、今――。

『カウントダウンは残り5秒を切りました。……それでは、年越しまで、３・２・１――』

「さあ」「ええ」
「行くぞっ」「行きますよ」

『せーーーーーのっ！！！！』

おわり