﻿【酒場に投げた一口怪文書 たちが あらわれた！】

【その１】
衝撃だった。
今回の依頼はソコラノ平原に多数出現した下級モンスターの掃討。それ自体はよくあるものだ。
しかし、「あの…きっとイエイアレル様と相性がいいと…思います！」と、
いつも明るい受付嬢にしてはなんとなく歯切れの悪い言葉で紹介された同行者が…
「我が名は†天逆の戦士　アズライール†。名乗れ、今宵の戦を共にする魔道士よ」
黒衣の少女を一目見て、ミコは思った。この子と同類と思われてるのか、私。と。
というか今宵じゃないし。今から行って暗くなるまでには終わらせたいし。
まぁ…たしかに、自分とて恥ずかしくなるような二つ名を自ら名乗っている身である。
もしかしたら目の前の子も「お仲間」かもしれないし、これも縁とミコは気を取り直した。
「…我は"煉獄の"イエイアレル。我が炎に呑まれぬよう、ゆめ気をつけることだ」
（恥ずかしすぎる）
赤面しそうになるのをこらえてアズライールに目を向けると、パアッ…と輝く瞳と目が合った。
ミコは認識を改めることにした。
この子、本物だ。



【その２】
　いつも通りの任務。いつも通りの狩り。いつも通りの殺戮。そのはずだった。
　人類圏と魔族圏の境界にある寒村を襲う、魔王軍、その尖兵。
　獣魔兵団『大顎』の長、“悪食”のムッサ・ヴォルは、突然の乱入者に畜牛を貪る手を止めた。
「おい、嘘だろ……。アリエナ、マキ！　散開して生き残りを探せ！」
　金の長髪を波打たせ、先頭を走ってきた男が叫ぶ。
　妙な出で立ちの一団だった。軍服、とはまた雰囲気の違う、けれど意匠の統一された服装。
　制服、というやつか。
「マオカ、ボリック、ラネット！　お前らは残れ！　連携して奴をブッ倒すぞ！」
「急にリーダー面しないでよ、ウインディ！」
「まさか、勇者学園の目と鼻の先でこれほどの魔物が侵入してきているとは……」
「……皆。油断しないで」
　口々に言い合いながらも適切な間隔を開け、即座に年若い戦士たちが戦闘態勢を取る。
　戦い慣れしているな、とムッサ・ヴォルは直感した。
　同時に、実戦慣れはしていないな、とも。

「勇者学園、といったか」
「カエルが喋った！？」　──先程マオカと呼ばれていた、眼鏡をかけた少女が驚く。
「だったらなんだ」　　　　──寡黙な雰囲気を纏った、一際背の高い青年が斧を構えたまま問う。
「……いや。なんでもない」
　ムッサ・ヴォルは、惜しいな、と思った。
　その名はかつての部下、『“蒼穹”のデルモンテ』から聞いたことがあった。
　共に戦場を駆け、今は魔王軍を引退してとある学園で教師をしているという戦友。
　奴は今、ヒトの側にいる。───ならば、そういうこともあるか。

「残念だ。今日、俺とお前達のどちらかが死ぬ」
　もう、奴と共に甘味を食す日は来るまい。
　ほんの一瞬よぎった無念を狩猟本能で塗り潰しながら、
　ムッサ・ヴォルは家畜の血が滴る大顎を全開にして、戦端を開く咆哮を上げた。




【その３】
　この世界には勇者がいて、魔王がいる。
　天使もいる。悪魔もいる。現実に、形をともなった存在として、聖と魔が在る。
　そんな世界で人が神を信仰する時、人は一体なにを願うのだろうか。
　なにせ「いる」のだ。
　……きっと、いるはずなのだ。
　戦争の勝利。莫大な富。愛の成就。ありとあらゆる現世利益を人は望むはずだ。
　そして、心の底から願ったそれが叶わなかった時───
　人は、信仰は、変わらずそのままでいられるのだろうか。

　結局のところ、神の姿なき世を生きる我々には、それを確かめる術はない。
　ただひとつ、確かな出来事を述べるとするなら、
　サーヴァイン・ヴァーズギルトは棺を背負った旅立ちの朝、祈りをそこに埋葬した。
　あの日、彼の神は死んだのだから。



【その４】
「ゾルデ、だと？」
　旅の途中。
　反対方向からやってきた商人が、この先の村に続く森で魔物に襲われ、出くわした聖騎士に助けられたのだという。
　それだけでも棺桶を背負った男にとっては驚くべきことだったが、何より彼の表情を強張らせたのはその名である。　
「え、ええ。寡黙ながら鋭い剣気をまとった少女でした。……お知り合いで？」
「……いや」
　その名は、似て非なるものだ。
　その外見は、明らかに記憶と食い違うものだ。
　だが……あの日起こった惨劇で散った者達。そのリストの中に、“彼”の名は無かった。
「……聖騎士、ゾルデ」
　反芻するように呟き、男は昏い視線を道の先へと向けた。
　鬱蒼と茂った森へと続く小道。昼でも陽の射さぬ暗がりへ誘われるように、棺桶の男は歩き出した。
