蘇りし廃城オンヴォッロ城、今、この城では散り散りになっていた国民や某国復興の念に燃える旧臣が集い、歓喜の声を挙げていた。 「女王陛下ばんざーい!」「バニランド女王ばんざーい!」「ホロヴィッタ万歳!」「ベンケイ様万歳!」  滅びし国ホロヴィッタは再興した。一人の勇敢な勇者が義侠心にかられ廃墟と化したオンヴぉっロ城を再建し、大陸各地に散った亡国の民に呼びかけた。 『オンヴォッロ城は再建した!次は国の番だ!集え、ホロヴィッタの民よ!戻れ、今は亡き王妃ミレンダの恩を知る旧臣達よ!』  そして今、冒険者のグループの一人を王に推戴し、ホロヴィッタは再興を果たした。  その人物は再三に渡って要請を辞退したが、無名(あなた)の『この地に腰を据え、国を繁栄に導くのに適した人物は彼女が最も適任です』という言葉が決め手となり、王になると自らの口で表明した。  旧臣たちは彼らの絆と信頼関係の強さに感涙し、益々新たなる王への期待を大きくした。 そのころ城内では… 「ふっざけんなああああ!!あの外道勇者(無名(あなた))があああああああ!!!」 謁見の間でバニランド女王ことバニラはジタバタしていた。立派なマントと、ホロヴィッタ王のみが戴くことを許される王冠を被ったまま。 バニラの脳内でアディオスと、サムズアップを決める無名(あなた)の姿がありありと浮かんでくる。それがまたバニラのイライラを増加させる。 「もう覚悟を決められよバニラ殿。臣下にこの姿を見られたら支持率に響きますぞ」 スケジュール表に書込みをしながらベンケイが忠告する。その言葉がまた癇に障るバニラは苛立しげに言い返す。 「下がればいいんですよもう!ああもう!」 バニラは髪を搔きむして、ベンケイに「部下に不審がられるからやめなされ」と制され、苛立たし気に玉座へドカッと座った。 「というか、何で腹心枠に収まってるんですかベンケイさん」 「なに、バニラ殿の英雄伝説の1ページにでも乗せてもらおうかと思いましてな」 しゃあしゃあと述べるベンケイを三白眼で睨むバニラ。だが、彼がこの場に留まってくれていることに頼もしさを覚えていることも事実なので、文句も言えずただ、プイッと顔を背けるのが精いっぱいの反抗であった。 「…で、どうするんですか」 「はて、どうするか、とはなんのことでござるかな?」 「とぼけないでください!政務ですよ政務!」 言うまでもないことだがバニラはただの冒険者だ。政治の舞台になんて立った経験もないし、政務のやり方だって素人だ。 「まあ、それはおいおい覚えておけばいいでござる。旧臣たちもそのことは重々承知している、と言質を取ってるでござるよ」 「左様ですか…」 腕を組んで答えるベンケイに、バニラは胸の息苦しさが若干和らいだのを感じた。だが、眉間の皺が完全に取れたわけではない。 「だとしても、人材不足は否めないですよね。今集まってくれた旧臣たちをかき集めても」 指を折りながらひー、ふー、みー、と脳内に浮かぶ家臣の中で頼りになさそうな人を数えるが、とても復興の施策どころか日常の政務だけすら回りそうにない。 ベンケイも眉間に指を当てながらバニラの指摘に頷く。 「そのことでござる。レンハート、ウァリトヒロイら大国は勿論、プロロと比べても人手不足は明らか。このままだと復興する前に我らの過労死は必定」 不安げにバニラは謁見の間を歩き回る。その姿をベンケイは物静かに見守っている。 「…なにか、何かないのですかベンケイさん。策は」 「一つ、策があるでござるよ」 「あるのですか!?」 バニラが思わず大声をあげる。先程の苦悩の顔が一転、目が期待で輝いていた。 「うむ」 帽子の上からでもバニラにわかるくらいニコニコした目で、ベンケイは策を口にした。 「まず、拙者を大臣に起用してくだされ」 「……はい?」 ~数か月後~ 玉座に座ったバニラは左右を見渡す。 武官に勇者ボーリャックを筆頭に、審判の勇者イザベル、剣豪ブライ、豪雨のバリスタ、ウラヴレイ、“魔剣” ノエル・フレデリカ・ラングリッジ。 文官にレンハートマンホーリーナイト、西の勇者 エクレール、腐聖女マリアン。 「女王陛下、午後に行われるレンハート王国からの親善の使者への会談のブリーフィングの資料になります。至急ご確認を」 会議を仕切るのはベンケイの後任として大臣に就任した関超。エクレールが推薦した彼の懐刀である。 (どうしてこうなった?) 思わず側に控えるベンケイを盗み見る。 『拙者を大臣にしてくだされ、そして大々的に宣伝するのでござる』 人差し指を立てながらベンケイが説明をする。 『それと、大陸各地に人材を求める広報を出してくだされ。ホロヴィッタは復興始まったばかり。喉から手が出る程人材が欲しいと』 ベンケイが二本目の指を立てる。 『拙者たちをを知るものはこう思うでござろう。【よっぽど人が足りてないのか。なら自分たちにも活躍の場があるな】と』 三本目の指を立てる。 『魔王モラレルが倒れ、魔王軍は霧散。各国は軍事より内政に目を向け始めてござる。平和は勿論喜ばしいでござるが、一方、冒険者達は活躍の場をなくし、途方に暮れてる冒険者や傭兵稼業も溢れてるでござる。彼らを狙い撃ちするのでござるよ』 四本目の指をピッと立てる。 『これぞ、"ベンケイより始めよ"。この策、如何?』 開かれた掌をバニラに見せるベンケイ。半ば圧倒されたバニラがコクコク頷くのを見ると、「恐悦至極」とベンケイは豪快に大笑いした。 ******************** ~某国某所の森のなかで~ 「あー、見なよボーリャック、この記事を。うー」 放浪の旅を続けているボーリャックに、マリアンが新聞を持ってきて開くと、目当ての記事を指さした。 「ホロヴィッタ再興か、いいことだな」 「それだけかい?」 眉を顰めるマリアンに、先を読むように急かされ渋々読むと、ベンケイ就任の記事がボーリャックの目に入った。 「ベンケイが大臣?」 「知ってるのですか?ボーリャックさん」 魔鹿を狩って戻ってきたバリスタとブライが二人の話題に加わる。 「へえ、軍人、官僚ともに大募集ってか。豪勢なこった」 「まさか、そのことか?」 ブライの何気ない言葉からピンときたボーリャックがマリアンに尋ねると、我が意を得たりとマリアンは頷いた。 「あー、その通り、平和になりつつある世で、放浪しながら傭兵稼業はもう先が見えてる。うー」 「……」 難しい顔をしながら腕を組むボーリャックに、マリアンが止めの追撃の言葉を放った。 「どうせ、カンラークには合わせる顔がないとかで戻らないんだろ?私もゾンビの身で戻ろうとも思わない。それに、今はこいつらもいるし」 笑いながらブライ達の方に顔を向けると、ブライは「言うじゃねえか」と可笑し気に高笑いし、一方バリスタは気まずげに俯いた。 3人を無言で眺めていたボーリャックはため息を吐くと、地図を取り出してホロヴィッタ行のルートを探し始めた。 「お姉ちゃん、『イザベルが前を向いて生きない限り、私はクリストと結婚しない』って言うんですよ」 酷いですよねと、漆黒の勇者イザベルが吐露するのを、黙ってボーリャックは聞いていた。 「罪滅ぼしのための活動も、最近は各地も環境が改善してきていて…」 魔王軍の危機が消えて、各国は内治に力を入れ始めた。その煽りをもろに受けたのはイザベルのようなフリーの冒険者だった。 「…イザベル、お前に提案がある」 ボーリャックは新聞の記事を取り出すとイザベルに見せる。 「お前もホロヴィッタに来ないか?きっと働き口が見つかるはずだ」 「……でも、私のような業の深い人間が…」 逡巡を見せるイザベルの手をボーリャックは握ると、彼女を目を見つめて真摯にボーリャックは訴える。 「俺も同じような気持ちを抱えている。だが、それでも前に進まねばならん。頼む、俺を助けると思って共に来てくれないか」 「あっ……はい」 「おっと~?」 「バリスタ、ライバル出現だなぁ」 「何がですか…」 頬を赤らめて頷くイザベル、彼女の反応に頬を緩めるボーリャック。なぜか不機嫌そうにその光景を見つめるバリスタを、ブライとマリアンはニヤニヤしながら冷やかしていた。 PTの皆に大事な話があると告げると、緊張しながら胸に秘めた思いをエクレールは打ち明けた。 「僕は、ホロヴィッタに活動拠点を移そうと思う」 「ふむ…」 「…そう」 「…」 関超、ノエル、ダダルマは冷静にその言葉を受け止める。魔王軍が滅んでから思いつめる彼の姿に、3人とも半ば覚悟はできたいた。 「復興の緒についたばかりのホロヴィッタなら活躍の場はあるはず、それに……」 「その地を新天地にする、ッという所ね?」 ノエルの言葉にエクレールは頷く。 「…だから。もし不満があるなら、かい、さん、してもいい……これは僕の我儘だから。いや、僕を追放して3人で」 「馬鹿言わないで」 きっと睨むノエルにエクレールは口を噤む。3人を代表して関超が口を開いた。 「エクレール殿の身の上を知った時から、覚悟はできておりましたぞ。後はどう選択をするかだけです。我ら三人とも、その覚悟はできております」 3人が姿勢を改めると、エクレールに向かって礼をする。 「我らが長よ。どのような選択をしても、我ら三人は貴方と苦楽を共にしたいと考えております」 「みんな…ありがとう」 感激で目頭を赤くしながら、エクレールは感謝の言葉を述べる。 「जब तक साँस, तब तक आस」 「なんて?」 ~サンク・マスグラード帝国某所にて~ 「私はホロヴィッタに足を運びたい」 とある雪山の洞穴の中で、ウラヴレイとコージン・ミレーンが焚火を挟んで向かい合いながら、今後の方針について話し合っていた。 「へ~。放浪の旅はやめるのかい?」 酒瓶を傾け、上機嫌な口調でウラヴレイは語り掛ける。だが、彼女の瞳は真剣な光を放っていた。 「うむ」 重々しく頷くと、コージンは洞窟の奥で寝ている、シロとブラックライトに視線を送る。釣られて、ウラヴレイも二人に視線を移す。 「私や、私たち二人なら、野垂れ死ぬまで放浪を続けててもかまわなかった。……だが、あの子たちは違う」 先程とは一転し、黙ってウラヴレイは耳を傾けている。先程よりも目つきが和らいだように感じられる。 「私も、異形化が進むブラックライトも、レンハートにはもう戻れない。カンラークにも迷惑がかかるから足は運べない。シロに至っては戻る場所がない。だが…」 コージンは新聞を取り出すと、ウラヴレイに記事を見せる。 「復興の緒についたばかりで今人口が急増中のホロヴィッタなら、うまい具合に働き口も多く、身バレも防げ、シロとライトの定住の地になりうる、というわけだね」 にやりと笑うと一気にウラヴレイは酒瓶をラッパ飲みする。 「大歓迎さ~!いやぁアタシもギルドの仕事が最近減りがちでどうしようかと思ってたんだよね~!」 「うむ、私もあの地では謎のさすらいの武芸者、レンハートマンホーリーナイトという設定で売り出そうと思う」 ウラヴレイは盛大に酒を吹き出し、思いっきりむせながら「急にどうした」という顔をしているコージンを睨んだ。