「今年も一年間ご指導ご鞭撻ありがとうございました」
今年最後のトレーニングを軽めに終わらせ、身支度を整えた私はトレーナーさんにお辞儀した。
日々行われるトレーニングの時間は濃厚だというのに、積み重ね四季が巡り年が巡る速度はあっという間に感じる。
「こちらこそ、今年一年頑張ったな、グラス」
日々の別れの挨拶とそう変わらない態度でトレーナーも挨拶をする。
今日は風が強い、北風のことを木枯らしと言った彼に、木枯らしは10月中旬から11月末までの風のことなのだと教えて驚かれた事を思い出しくすりと笑った。
「おや、ご機嫌だなグラス。年末はどうするんだい？」
「そうですね…帰省する予定ではありますが…トレーナーさんは如何なさるおつもりで？」
「私も帰るかなぁ…とりあえず明日はトレーナー室の片付けかな。」

「ふふ、お疲れさまです。それじゃあ明日はお手伝いしますから、もう1日ご一緒出来ますね？」
「何言ってるんだい…気持ちだけで十分だよ。さっきちゃんと英気を養うよう言っただろう？」
困った風に笑う彼と離れるのが少しだけ寂しくて冗談を言う。
「いえいえ、トレーナーさんと一緒にいる事こそが英気を養う最良の手段ですから。」
「嬉しいことを言ってくれるねぇ全く…それじゃあ明日の午前中には終わらせてしまおうか。それでいいかな？」
「かしこまりました。…ですが、トレーナー室っていつも綺麗にしていませんか？」
「常在戦場たる私達の心身の拠点だからね。だからこそ部屋を空ける年の瀬には更に磨いておかないと。」
「…流石ですねトレーナーさん。私も誠心誠意お手伝いさせて頂きます。」
獲物のお手入れのと考えれば合点がいく。明日も真剣勝負になりそうだと気合をいれた。
「それじゃあ明日トレーナー室集合で…終わったら…何か予定はあるのかな、グラス。」
「はい？特にはないですけど」

「そうか。それじゃあ学園のカフェテリアも休みに入るし…手伝うお礼に何かお昼をご馳走しようか。」
「まぁ…！」
ここは遠慮するのが大和撫子だという考えを嬉しさが蹴り殺し、声が漏れてしまう。
「今年一年のお疲れ様会って事でどうだろう。何か食べたいものはあるかい？」
「嬉しいです…っ！食べたいものは…ええと…ご一緒でしたら何でも…きゃっ」
突然の突風に声を上げ目を閉じる。子供のような悲鳴を上げてしまったことに耳が熱くなる。
止まない風、徐々に大きくなる葉の擦れ合う音。

葉の擦れ合う音？トレセン学園に常緑樹はあっただろうか
「…グラス。隠れていなさい。」
瞼をこじ開けた先には彼の背、その先には冬の風に踊る一本の巨木。
――ウマ娘イーター
有史以来のウマ娘の天敵。そしてこのトレセン学園における宿敵。
起源は植物でありながら、対象を捕食する為に多種多様な進化を遂げたそれは
およそ植物として持つ権能を越えたあらゆる手段を用いてウマ娘を捕獲し捕食する。
そして天敵たる所以。ウマ娘達の持つ固有スキルの効果を一切遮断するという性質を持っている。
「トレーナーさん…！」
「大丈夫。今応援も呼んだからね。走れるかい？」
「…私もっ」
「駄目だグラス。逃げてくれ。明日一緒に掃除する約束だろう。」
根を足のように動かし、土埃を巻き上げながら、巨木が徐々にこちらに向かってきている。
「…っ！はい！トレーナーさん…また明日…約束ですよっ…！」


駆け出したグラスワンダーに向かって、ウマ娘イーターの枝が急速に伸びて行く。
彼女を追うそれは、その前に立つ男の横を通り過ぎ、細切れになって風と消えた。
「仕事納め…か。全くもってトレーナーとは厄介な仕事だな。」
男の手には薙刀。切っ先から漏れ出た殺気に射抜かれた巨木が怯み、動きを止める。
遠くから聞こえるバイクエンジン音。恐らく最速で救援に現れるのはウオッカのトレーナーだろう。間に合わないが。
「高く付くぞ。お前は私の愛バとの時間に水を差した。」
排除するべき存在と見做された故か、巨木の枝葉が男へ一斉に殺到する。
排除するべき存在を睨みつけたまま、一本の薙刀と男は巨木へ突進した。