武芸百般活殺自在。ウマ娘より強い人間の一人。グラスワンダーのトレーナーが来ると言えば泣く子も黙る。
「…どうしてこうなった？」
トレーニングを終え廊下を歩けば羨望と畏怖の視線。隣を歩く愛バはたおやかに微笑む。
「どうしてでしょうね～？」
「君が何か吹聴したのかい？グラス。」
「いえいえ～。そのようなことは決して。」
トレーナーとして一人のウマ娘を支え続けて幾年。
お淑やかな外見に似合わず怪物呼ばわりされて喜ぶグラスワンダーのトレーナーとして、気づけば同じく怪物扱いされていた。
「根も葉もない噂だが皆否定しても謙遜するなって言うんだよね…。」
「まぁまぁ、変な虫が寄って来なくていいじゃありませんか。」

変な虫どころか誰も彼もが寄って来ない。その上でウマ娘達からは尊敬はされているから始末に負えない。
『嘆願ッ！キミにはキミにしか出来ない事をしてほしいッ！』
理事長に相談しに行けば涙目で逃げられ、たづなさんに窘められる始末。何もしていないのに…。
「選抜レースを見に行ったら威圧感が凄いからって追い返されたんだよね…笑顔で観てただけなのに。」
「…トレーナーさんは私以外の子の面倒も見るお積もりなんですか？」
「今は君で精一杯さ。でもいつかはそうなる…私もトレーナーだからね。」
「なるほど…でしたらトレーナーさん。いっそ噂を真実にしてしまえばよろしいのでは？」
「…ふむ？」

トレセン学園武道場。道着…は持っていないので、ジャージを着て正座で互いに対峙する。
「貸し切りできちゃったけど良いのかな…」
利用申請を行ったところ二つ返事で許可が降りた。施設を壊さないように念を推されたが無論大丈夫だろう。
「簡単にお借り出来るんですね…今後もお願いしたい所です。」
ジャージ姿で正座したまま微笑むグラス。他の練習場から距離も有り、聞こえるのは蝉の鳴き声と風で踊る葉の音程度。
「いいですね…ここは。心が澄み渡っていきます。」
「そうだね…所でグラス。実際の所何をするんだい？」
噂を真実に。とはいえ実際の所私は普通のトレーナーの一人でしかない。ウマ娘を凌駕する力なんて持っている訳もない。
「トレーナーさんは何か武道等を嗜まれていらっしゃいましたか？」
「そうだね…昔剣道をちょっとやったくらいかな」
学生時代に授業の一環でほんの少しやった程度である。段位とかは全く持っていない。
「まぁ…！剣道ですか！素敵ですね！ではその時行った練習を一緒にやりませんか？」
記憶の端から練習内容を引っ張り出す。構え、すり足、素振り、打ち込み…正直うろ覚えである。
「私は武道は門外漢だよグラス…うろ覚えのトレーニングでは危険だし正直おすすめはしない。」
「いいんですよそれで。此処で私と二人でいた、という事が大切なんです。」
「…ふむ？」

グラスワンダーとそのトレーナーが武道場で鍛錬を行っている。
その事実だけで、噂の裏付けの一つになる。皆は噂を更に信じ、そして私は何食わぬ顔で今まで通り過ごせばいい。
「…何の解決にもなっていないんじゃないか？」
「大丈夫です。私が上手くやりますから。」
「上手く…ね。」
「トレーナーさんが精強であれば、その門戸を叩くウマ娘達もまた屈強な者となるでしょう。」
もちろん私がふるいにかけますけどねと続けるグラスワンダー。
担当がいつか増えるだろうという話をしたからだろうか、彼女はよりやる気になっているようだ。
「当面は君専属のトレーナーだぞ、私は。」
「でもいつかは…そうでは無くなってしまう。そうですよね？トレーナーさん。」
「…この分だとそのいつかが永遠に来ないかもしれないな。」
「まぁ…！それは困りましたねっ」
「…ふむ。」

そう言って微笑む愛バ。これは彼女なりの独占力の発露なのかもしれない。
厄介だが微笑ましさも感じる。化物扱いは正直困るがこの笑顔が隣にいるならそれだけでいいか。
それに武道場での鍛錬は精神鍛錬の一貫としてトレーニングに取り込めば良いのかもしれない。
「折角だし身体を動かそうかグラス。お喋りだけでは此処に失礼だからね。」
「えぇ、そうですね。では素振り等いかがでしょうか？」
立ち上がり気合一閃。ウマソウルから薙刀を具現化させたグラスワンダー。
「…流石だなグラス。惚れ惚れするよ。」
「お褒めに預かり光栄です。それで、トレーナーさんはどうしますか？」
自分も立ち上がり、手ぶらだった事を思い出す。
「倉庫に竹刀でもあればいいんだが…それか君みたいにこう…ん？」
「…トレーナーさん…それは…！？」
見様見真似でかざした右手に重量感。いつからそこにあったのか、私は刀を握っていた。
「…ふむ？」

「トレーナーさんもウマソウルが…？」
「いや…どうだろう。まぁ丁度いいし使わせて貰おうか。」
「いいんですかそんな適当で…。」
「君だって出来るじゃないか。まぁここが武道場で良かった。内緒にしておいてくれ、グラス。」
「…はい、二人だけの秘密ですね？」
（凄いもの見ちゃったデース…！）
この後、噂に尾ひれが一つ増えたが、私達は笑って受け流していた。本当かどうかは些細な事だろう。