白い稲妻、タマモクロス
食堂に貼られた担当ウマ娘のポスターのキャッチコピーを眺め、トレーナーは思案する。そしておもむろにポケットからマジックを取り出し、一文字書き加える。
面白い稲妻、タマモクロス
「…よしっ」「何がヨシじゃこのボケェ！」
スパァンと乾いた音が食堂に響く。
「…痛いじゃないかタマ。」
ハリセン片手に駆け寄り一閃。快音を響かせた頭をさすりながらトレーナーは不満げに呟く。
「アホゥ！学校の掲示物に何しとるんや！あぁもう油性で書きよってからに…。」
ポスターを確認してタマモクロスが頭を抱える。それを見てトレーナーは満足そうに頷いている。

「うん、やはりタマはこっちの方が似合うな。」
「こんのドアホ…オグリも何か言うたってくれんか…？」
遅れて食堂にやってきたオグリキャップに助けを乞うと、彼女はポスターを眺めて首を傾げた。
「…うん？タマのトレーナーさん、ペンを貸してくれ。」
トレーナーがオグリキャップにペンを渡すと、書かれた文字を二重線で消し、更に上に文字を書き加えた。
尾も白い稲妻、タマモクロス
「字が違っているぞ、トレーナーさん。」
もう一度ハリセンが閃いた。

「クリークがおらんとウチの負担が大きすぎる…いやアイツがおったらもっと増えんちゃうか…？」
「タマは苦労性だな。」「誰のせいや誰の！？」
「うん、今日のランチも全部美味しいな。おかわりを貰ってくる。」
「コラオグリ、お前もうすぐレースなんやからほどほどにしとき。」
分かっていると答えながら空いた皿の山を抱えてカウンターに向かうオグリキャップ。
「タマ、ライバルの心配をするなんて余裕じゃないか。」
「アホ、ライバルだからや。」
ぷいと首を振り、気恥ずかしそうに窓の外を見遣る。
ここまで快勝を続けているタマモクロスとオグリキャップの二人が、秋の天皇賞でとうとう対決することになった。
芦毛対決とか言われているが当の本人たちはどこ吹く風。普段どおりにトレーニングを行い、いつも通りに過ごしていた。
「やることはやった。後は本番にそれを引き出すだけさ。」
「せやな…なあトレーナー。」
「なんだい？」

「ウチはオグリに勝てると思うか？」
事前の人気投票ではオグリが一番人気、タマは二番人気となっていた。
短距離ならオグリが有利、長距離ならタマが有利と言われてはいたが、天皇賞は2000メートル。
互いの得意距離の境界線での勝負ということで、世間の意見は大分別れているようであった。
「当たり前だろ。俺はお前のトレーナーだぞ？」
「…さすが、ウチの見込んだトレーナーや。」
にっこりと微笑むタマモクロス。その隣に山盛りの料理を持ってオグリキャップがドカっと座る。
「ふふっ。相変わらず君たちは仲良しだな。」
「おおおオグリ！？聞いてたんか！？」
ギョッとしてタマモクロスが振り返る。
「あぁ。だが私だって負けないぞ。楽しみだなタマ。」
「悪い、遅くなった。」
オグリキャップのトレーナーもやってきて料理を持って席に座る。そのまま四人で移動の打ち合わせ等を行いはじめた。

東京競馬場。ターフの上、ゲートの中。今この瞬間は全員が平等である。
『三番人気、五番ダイナアクトレス！』
過去がどうあろうが、関係ない。ウチは今ここにいる。
『二番人気、九番タマモクロス！』
同じ部屋で同じ芦毛。出来すぎた話に思わず笑みが溢れる。それがどうした。
『そして一番人気、1番オグリキャップ！』
オグリだけじゃあない。毎度毎度全員がライバルだった。それは今回も一緒。
『各バゲートイン完了です。』
自分から、そして左右から感じる魂の鼓動。最後に笑うのは誰か。さあ――
『スタートしました！』
――ウチとやろうや。

去年の冬、全てを失くして涙の雨に濡れていた。
今年の春、命を的に明日買う銭を追っていた。
今日の朝、ちゃちな体躯とちっぽけな矜持が、府中の街に風を呼ぶ。
ターフは三女神が作ったパンドラの箱。ゴールの先には何でもある。
次回「天皇賞」
二分後、そんな先のことは分からない。