「トレーナー。温泉に行かないか。」
URAファイナルも終わり、レジェンドレース出走へと歩を進めた愛バは唐突にそう言った。
その手には何かのチラシ。最近始まったタマモクロスと一緒に出演している番組のロケ先の温泉のようだ
「その…下見…というやつだ。どうだろうかトレーナー。」
だったらタマと行ったほうがいいんじゃないかと提案したが却下された。
「トレーナー。覚えているだろうか。キミと一緒に福引でにんじんハンバーグを当てた時の事を。」
彼女と組んで三年目の年始、確かにそんなことがあった。確かそのときの景品にも温泉旅行があったっけなぁ。
「あれは…とても美味しかった。美味しかったんだ。だがトレーナーは温泉の方が良かったんじゃないかなと思って。」
そんなことは考えた事もなかった。だがおそらく温泉旅行よりはにんじんハンバーグで良かったと確信はしている。
「それにトレーナーと一緒に行くと割引？も聞くらしいぞ。タマがそう教えてくれて券もくれたんだ。だから行こう。」
そこまで誘われて断る理由など無い。私は承諾し、彼女は週末の予定を楽しそうに語り続けた。

そして当日。一緒に電車に揺られ郊外へ。到着した駅のすぐ近くにある温泉建物へと入った。
「…大きいな。このビルの中に温泉がいっぱい入っているのか。」
多分違うと思う。宿泊施設も兼ねているんだろう。エレベーターで上の階へ登り、受付へと進む。
「一心同体割の御利用には一心同体のご掲示をお願いしております。」
オグリキャップが受付のウマ娘さんにチケットを渡すと、そのような返答が来た。
「いっしん…どうたい？」
頭にはてなマークを浮かべて彼女はこちらへと振り返る。割引の条件があるのだろう。トレーナーとウマ娘とで一心同体であることを示せばいいのだろうか。
「…うん。私とトレーナーとは一心同体だと思うぞ。大丈夫だ。」
そう言いながら彼女は腰に手を当てて頷いている。しかし受付の表情を見るにこれでOKでは無いらしい。
担当トレーナーである証明…バッジや名札は持ってきていない。少し考えていると少し離れた受付が騒がしい。
「タイシン何を！？…んむっ」
「…言わせるなバカ💢(❤️)」

…なるほど。一心同体というかカップル割引のようなものなのだろう。となると我々は使えないのでは無いだろうか。
どうしたものかと前へと視線を戻すと。同様に先程の二人を見ていたのであろう。そのまま固まっているオグリキャップが見えた。
ｷﾞｷﾞｷﾞｷﾞと音が聞こえそうなくらい不自然な動きでこちらへと首を回す。その顔は今まで見たことが無いくらい赤い。
「…ちがうんだとれーなー。」
まあ違うよなあと苦笑する。どうもタマは我々がカップルとかそういう関係だと思っていたのだろう。
「いやそうじゃないんだトレーナー。だがこういうことは人前でするべきじゃないと思うんだそれに私とトレーナーはまだそういう関係でもないからでも嫌というわけじゃうあぁぁちがうんだトレーナー落ち着いてくれ」
こちらのシャツにしがみつきあたふたと口だけ普段の数倍の速さで動かしながら溶けていく愛バを宥めていると、受付の方がにこやかにこちらを見ていた。

「ありがとうございます。確かに一心同体の証を確認致しました。」
どうやら痴話喧嘩と思われたのか、カップル認定のような物が貰えたようだ。隣の受付では結婚指輪を示してOKを貰っている夫婦もいたので、割とおおらかな判定基準なんだろう。
「どうぞ、館内でごゆっくりお寛ぎ下さい。こちらは来館記念のウェルカムドリンクチケットでございます。一心同体優待券では全施設を自由にご利用できます。ご不明な点がございましたらお近くのスタッフへと気軽にお申し付け下さい。」
差し出された券を受け取り、簡単な説明を聞きつつ館内見取り図をななめ読みする。温泉以外にも岩盤浴やら何やら色々あるようだ。
食堂も大きい。彼女にとっては重要だろう。下見のことを忘れていなければいいのだが。
「…ぇ？いいのか？」
我に返った愛バがこちらを振り返る。大丈夫なようだから温泉に向かおうと伝えると、そそくさと進んでいった。

移動している内に彼女も落ち着いたようだ。まずは予定通りお風呂に入り、その後色々見て回ろうという事になった。私は岩盤浴が気になると伝えると、
「岩盤浴は男女一緒に入れるようだな…うん、それじゃあ一緒に入ろう。岩盤浴とやらは私も入ったことが無いから楽しみだな。」
そう言って快諾してくれたので、スタッフに確認して岩盤浴用の専用の服を借り、お互いにまずは温泉へと向かった。
脱衣所に入り、改めて思うがここは何から何まで質が違う。男性用とは思えないパウダールームのような場所には多種多様なアメニティが用意されている上、クリーニングのサービスまであるようだ。いっそスーツで来たほうが良かったかもしれないと苦笑しながら服を脱ぎ、浴場へと足を進めた。
当然のように浴場も素晴らしい…というか下の階が心配になるレベルの豪華さだった。かけ湯を済まし、どれを使うか迷うのも面倒なソープ類の群れから適当に選んだもので身体を清め、湯船へと身を沈める。

濁った湯の中で身体を伸ばす。広い湯船というものはそれだけで身体を癒やしてくれる。暫くすると温泉の成分だろうか、肌に軽い刺激を感じ心地よい。
満足したので次は炭酸泉へと移動した。湯の温度でのあたたかさとは別に、体表より少し奥がじわじわと暖められているような感覚。
窓の外はまだ明るいが、身体が温まる感覚を咀嚼しながら空模様を眺めているだけで時間を忘れそうになる。
そろそろ出ようかと思った所で先客が私の前を横切った。その際何かが爆ぜる音が聞こえたが。その正体に気づく前に私は鼻で呼吸をしてしまっていた。屁をこきやがった。やる気が下がった。

集合時間より少し前、作務衣のような岩盤浴の服に着替えて脱衣所を出ると、オグリキャップは既に入浴を済ませていたようで、何か飲み物を飲んでいた。
「やあトレーナー…うん？どうしたんだ？何かあったのか？」
憮然とした表情の私を見て彼女は首をかしげる。あまり話したくないがこうなったら梃子でも動かないのが彼女だ。簡単に話をした。
「…そうか。」
なんとも言えない表情になった彼女は、そうだと言って私に向けて息を吹きかけはじめた。冷水を飲んで潤った彼女の吐息は心地よく、ほんのりと柑橘類の香りがした。
礼を言うといつもの柔和な微笑。そして彼女は私にコップを差し出してきた。
「トレーナー。この水は美味しいぞ。レモンが入っていてしかも少し甘いんだ。キミも飲むといい。」
嫌な事は忘れて目の前の愛バとの時間を楽しもう。受け取ったコップの中身を飲み干し、岩盤浴場へと二人で歩き出した。

岩盤浴…といってもその種類は施設によって様々な形式がある。この施設では中央に休憩用のリクライニングチェアが多数設置され、
周囲の扉に様々な種類の岩盤浴が設置、更に弱めのサウナと冷却房と呼ばれるクールダウンに使われる冷蔵庫の様な施設とが並んでいた。
先程フロントで接吻していた小柄なウマ娘と男性のペアもそのうちの一つへと入っていくようだった。湯治目的での使用も悪くなさそうだ。
「トレーナー、たくさん種類があるようだ…どこから入ろう？」
私もぶっちゃけ始めて来たので違いがわからない。扉の前に種類と効能が書いてあるのでとりあえず手前の岩塩房とやらに入ってみた。
石が敷き詰められた場所に支給された敷きタオルをかけ、横たわる。通常のサウナとは違うじんわりとした暑さにやや暗めな照明、心地よいヒーリング音楽に包まれ、身体中が徐々に温まっていく。

自分の汗なのか室内の湿り気なのか分からないくらい身体中から汗が流れ出る感覚が心地よい。オグリも同様のようで、隣から気持ちよさそうな吐息とともに何か堅いものを齧る音が聞こえた。
「トレーナー、敷いてあるこれ、岩塩だ。しょっぱいぞ。」
やめなさい。次の部屋に行きますよ。
水分補給と休憩を挟みつつ何種類かの岩盤浴を堪能し、次はどこに行こうかと案内板を二人で眺める。
「トレーナー、次は足湯に行ってみないか？展望足湯と書かれている。景色を見てみたいんだ。」

では一度汗を流してから向かおうということになったので、一旦浴場へ。軽くさっぱりし浴衣に着替え、一緒にエレベーターへと乗り込んだ。
となりで微笑んでいる彼女から、普段と違う香りがする。なんでも桜餅の香りのシャンプーというものがあったので使ったそうだ。君らしい香りだと苦笑すると、
「これはとあるスプリンターウマ娘をモチーフにした香りであって私の香りじゃないんだぞ。」
とムスッと頬を膨らませてしまった。ではオグリキャップのモチーフではどんな香りなんだろうなと話していると、エレベーターが止まり、展望フロアに到着した。
どうも足湯はそこから上の階らしい。長い螺旋階段を登っていると、少し前で小柄なウマ娘が長い黒髪を揺らしながら男性に手を引かれ登っている。
「さぁ、あとちょっとだから頑張ろう。」
そう言って優しく手を握り、指を絡めて歩く姿は微笑ましい。隣を歩くオグリが私の手を見ている気がしたが、気のせいだろうか。


展望足湯に浸かり、二人でのんびりとはちみードリンクを飲みながら雑談に花を咲かせる。この施設の事、相部屋のライバルの事、他愛のない日常、これからの事。
「ねぇお兄さま…ライス、お兄さまと二人きりで夜景を見たいな。」
視界の橋で先程一緒に登ってきたウマ娘がそう言い、スタッフから家族風呂の案内を受けていた。そういうものもあるのか。
傾き出した太陽。薄紅色に染められた芦毛が揺れる。色まで桜餅みたいになってきたなと二人で笑う。
「トレーナー、今日は一緒に来てくれてありがとう。」
こっちこそ誘ってくれてありがとう。とても充実時間が過ごせていると伝えると、空になったカップを弄びながら、オグリキャップは照れ臭そうに続ける。
「…最後にひとつ、我儘を言っても良いだろうか。」
何でも来いだ。こんなデートに誘われた時点で覚悟は出来ている。そのまま沈黙して続きを待つ。

「…べたいんだ。」
まだ落ちきっていない夕日を見たまま、赤い顔で彼女は呟いた。よく聞き取れなかった。
「…トレーナーのつくったごはんが食べたいんだ。」
思わず目を丸くする。この施設の料理の下見をするんじゃなかったのか？
「それは…また今度にする。今はトレーナーのつくったおにぎりが一番食べたいんだ…そんな気分なんだ。」
私は声を上げて笑う。また随分と彼女らしい我儘だなと。
「わ、笑わないでくれトレーナー。私は本気なんだっ」
相分かったと立ち上がる。不思議そうな顔でこちらを見上げる愛バの頭を軽く撫で、それじゃあ帰るかと伝えると、
「うん、帰ろう。」
破顔して彼女は私の手を引く。登る時は長く感じた螺旋階段をあっというまに降りきって、エレベーターに乗り、元通り着替えて受付へと向かった。

受付でチェックアウトを済ませようとすると、芦毛のウマ娘のスタッフがこちらへとやってきた。
「お待ちになって下さいまし！もうお帰りになられるなんて…もしや当施設になにかご不満な点が！？」
オグリと顔を見合わせる。いきなり帰ろうとしたからだろうか、勘違いされてしまったようだ。
「いや、不満なんて無いぞ。ここはとても素晴らしい施設だった。ありがとう。」
そう言ってオグリは帰る訳を丁寧に説明していた。理由が理由だけに少し気恥ずかしい。
「まぁ…！そういうことでしたのね！これは大変失礼致しました！ですが終電が…少々お待ち下さいまし！」
スタッフさんはどこかに電話をし、それが済むと丁寧に我々にお辞儀をした。
「お待たせ致しましたわ！車を用意させて頂きましたのでトレーナーさんのご自宅までお送りさせて頂きますわ！」
いつの間にかエントランスに来ていた車へと案内され、スタッフに見送られながら我々は施設を後にした。

「…最近の温泉はサービスが凄いんだなトレーナー。」
そうだなあと頷きつつ、運転手の方へ行き先を伝えると、車は商業施設を後にした。
さて、帰ったら愛バの為に腕を振るわねば。私は温泉で癒やされた身体に気合を入れつつ、夕飯の献立を頭の中で組み立て始めた。


オグリキャップ様宛『一心同体プラン』ご利用明細

・めじろの湯　日帰り施設利用優待プラン
　・追加オプション　特に無し
　・送迎サービス　　オーナーよりサービスの為無料　

・割引
　・一心同体割（60％OFF）
　・愛の巣へのご帰宅割（39％）

この度は一心同体プランをご利用いただきありがとうございました。
オグリキャップ様のまたのご利用を心よりお待ちしております。
お二人の更なる一心同体のあらんことを。
