トレーナーにラブレターを送るのが流行っている…らしい。
黄金世代とか言われている私達の担当も貰っているのかもしれないな等と同期で話題になりもした。
一流のウマ娘の一流のトレーナーだもの、多少はそういうのを貰っているのかも知れない…等と思っていた。
「なんというか…言葉が見つからないわね…。」
学園のトレーナーの個室それぞれに設置されている郵便受け。
私の担当トレーナーのそれは大小様々な封筒の山に埋まっていた。
「キング、先に着てたのか。すまない。」
少し遅れてやってきたトレーナーは部屋の鍵を開け、その封筒の山を器用に抱えて部屋へと入っていった。
「…ちょっと！？手伝うわよ！」
「ありがとう。それじゃあそこの箱に入れてくれ。折れ曲がらないように気をつけて。」
トレーナーが顎で示した先には少し大きめのダンボール箱。中には結構な量の先客が佇んでいた。
封筒を一つ一つ丁寧に仕舞い、普段どおりにトレーニングメニューの相談と、今後の出場レースの予定を打ち合わせ。
煮え切らない思いはあるものの、一流のウマ娘たるものやるべきことに向けての気持ちの切り替えは完璧であった。

「……それじゃあ今日はこれで解散って事で、おつかれ、キング。」
「えぇ、お疲れ様…。」
別れの挨拶の後、軽く伸びをした彼はデスクに向かったかと思えば、鞄から一つの封筒と便箋を取り出した。
そして封筒の中身を読みながら、ペンを片手に真っ白な便箋と向き合っている。
「…ん？キング？帰らないのか？」
「ねえあなた、それって…。」
「ラブレター…ってやつなのかな、多分。人生に一度のモテ期ってやつなのかねぇ。」
「おばか！もうっ！なんで返事書いてるのよ！」
かあっと顔が熱くなる。彼は何を考えているのか。
「なんでって…だってキング、キミがもしラブレターを貰ったらどうする？」
「そんなの…ちゃんと読んでお返事するに決まってるじゃない…の…？」
「だろう？」
微笑む彼の顔が憎らしい。そうだ。彼は決して間違ったことはしてはいない。

「流行なのかもしれないが、それでもこうやって手紙をくれた子達の気持ちにはきちんと返したいんだ。」
「…だとしても多すぎるわよ……。」
横目で先程手紙を仕舞った箱を見やる。3桁までは行ってないだろうが、それでもかなりの量の封筒がそこには眠っている。
「そこはまぁ、ゆっくり返事を待ってくれることを祈ろうか。」
話しながらも、少しずつ彼のペンが便箋の上を泳ぎ始める。どんな手紙にどんな返事を彼は返すのか、気にしてなるものか。
「前にキングが言っただろう。トレーナーは次のウマ娘をスカウトすれば良くても、ウマ娘一人ひとりにはその機会は一度しか無いって。」
「えぇ…そんな事を言ったわ。」
「この手紙だって彼女たちが俺に向けて送った一生に一度の手紙なんだし、俺は一つ一つに心を込めて返事をしたいんだ。」
「……。」
背中越しの彼の声はとても優しい。たとえお断りの返事であろうと、その内容を読めば皆が納得するような文を認めていくのだろう。

「それに原因は俺にあるだろうからさ…。」
「原因ですって…？ちょっと！？あなた一体何をしたの！？」
「いやほら、言っちゃったじゃないか。」
「何を！？」
「…そして俺こそが一流のトレーナー。」
「…っ！」
「だから一流ウマ娘をスカウトする。」
「…あなた、ねぇ…。」
「全く、ほんとねぇ。」
「…後悔してる？」
「全然。むしろ一生の誇りだよ。」
「…おばか。」

何も言えなくなり、室内にペンが走る音だけが響いていた。何となくその音を追っていたが、それが止まった。
「うん。出来た。」
そう言うと彼は鞄から封筒を取り出し、便箋を入れて封をすると、次の手紙を読もうとダンボール箱の所へと向かった。
「さて、もう一通…うん？」
「どうかしたの？」
「キング、はいコレ。」
彼が私へと封筒を手渡す。小さな可愛らしい封筒にハートマークのシール。
「宛名が…私…？」
「他にも結構あるな…どうやらモテるのは俺だけじゃあ無かったようだ。よかったなキング。」
「もう！おばか！からかわないで！」
笑う彼を叱り、手元に目を戻す。読まないわけには行かない。

そっと封を開け、丁寧に折り畳まれた手紙を開き、目を通す。
内容はラブレターというよりファンレターのようだった。
貴女は憧れだ。貴女のようになりたい。貴女のトレーナーのようなパートナーに会いたい。
そしていつか貴女に勝ちたい。
文字を通じて書いた子の気持ちを感じずにはいられず、胸が高鳴る。
「…トレーナー？」
「便箋なら沢山あるよ。」
いつの間にか椅子を用意してくれた彼の隣に座り、目を合わせる。
渡してくれたペンを受け取り、いつもどおり顎を上げ、私は不敵に笑う。
「おばか…すぐ無くなるわよ。」
彼と一緒にペンを走らせる。今日中には終わらなくとも、できるだけ頑張ろう。
それに…全ての返事を書き終えたら、私も一通書こうかしら。