「ウマ娘とは適切な距離感を保つ事が大事だ。」
「どうした急に。」
横で一緒にトレーニングを指導している同僚…腐れ縁の幼馴染がこちらを振り向く。
「いや、昔先輩がそんな事言ってたなぁって思い出してさ。」
研修生として学んでいた頃、確かにそんな教えを受けた。
何でも、思春期のウマ娘達に理解を示し、最適なケアを施し続けることで彼女達が距離感を誤り、またトレーナー側も入れ込み過ぎて気が付いたら両想いになっていた、という事だとか。
両想いならまあいいのでは、とは思うものの、確かに人生経験の浅い女の子の男性観を壊してしまうのは良くない事だ。
「あぁ…入れ込みすぎて寿退社って奴か…信じられない話だな。」
視線を担当ウマ娘へ戻しながら、しれっとした顔でそんなことを言いやがる。

「まーそーだよなー…だってお前は『おにいちゃん』だもんなぁ。」
「うっせぇよ『にーに』」
そう言いながら俺にヘッドロックをかけてきたので、抵抗しながら反論する。
「ばっかお前それはもう卒業したんだって！」
「えー！だってキタちゃんがまだダイヤちゃんはそう呼んでるって言ってたもん！」
二人で揉み合っていると、駆け寄ってくる影が二つ。
「「あー！またやってるー！」」
俺とコイツの担当ウマ娘、キタサンブラックとサトノダイヤモンドがこちらへ駆け寄ってくる。
「もう！お兄ちゃん！ちゃんとトレーニングを見ててよね！」
「そうですよ。お兄さんもちゃんと私の事見てくれないと駄目じゃないですか。」
「「すみません…でもコイツが」」
「「言い訳しないの！」」
「「はい…。」」
「全くすぐこれなんだから…。」「お兄さん達は本当に仲良しですね。」
「「仲良しじゃない！」」

小さい頃から家も近くクラスも一緒だった二人が、同じトレーナーを目指した理由は一つ
この二人のウマ娘もまた幼馴染であり、彼女達の夢に心打たれたからだった。
トレーナーになって君たちの夢を叶える手伝いをしたい。いつか中央で一緒に頑張ろう。
そんな約束をし、男二人で競い合うように中央のトレセン学園のトレーナーまで上り詰めた。
彼女達もまた、二人で夢目指して頑張ったのだろう。俺達が独り立ちした年にこのトレセン学園の門を叩き、再会出来たのだ。
私達は再会を喜び涙し、担当トレーナーとしての契約を行った。出来すぎた話だと同期も先輩も笑うが、知ったことじゃない。
再開した妹達は年相応に成長し、ウマ娘として素晴らしい肢体を得たが、中身は可愛い妹のままに感じた。

「そう言えばお兄さん、距離感がどうとか仰ってませんでした？レースの話ですか？」
「…あー、聞こえてたのかダイヤちゃん。」
汗で身体に張り付いたシャツを鬱陶しそうにしながら、彼女は私座るベンチの隣に座る。
女の子なんだからちゃんとしなさいと、タオルで彼女の髪をそっと撫でるように拭くと。彼女は気持ちよさそうに顔をうずめた。
「担当と結婚してやめちゃうトレーナーがいっぱいいるんだとさ。昔先輩トレーナーが言ってたんだよ。」
隣のベンチに座り、キタちゃんをタオルでわしわしと拭きながら同僚が続きを言う。
「ふぇぁぁぁきもちいいよぅお兄ちゃぁぁぁん」「キタちゃん犬みたい…。」
楽しそうにそれを見つめるダイヤちゃん。少し羨ましそうに見えるのは気のせいだろうか。
「だから担当ウマ娘とはきちんと節度を持って接しましょうねって話…だったかなぁ。その距離感さ。」
「へぇ～、じゃあお兄ちゃん達も私達と結婚しないとだね！」
タオルの波状攻撃から顔を脱出させたキタちゃんがとんでもないことを言う。

「はっはっは。100年早いぞキタちゃん。」「ふごぉぅん。」
同僚は笑いながらキタちゃんをタオルに沈めた。仲良く会話する四人。当事者たちから見れば、昔と変わらない楽しい日常である。
当事者以外から見たらそうではないようで、良く距離感をしっかり持つよう指摘されるが、幼馴染だからこんなものだろう。
「…んな事してるからシスコンブラザーズとか呼ばれてるんだよなぁ」
「お兄さん、シスコンなんですか？」
こちらの顔を覗き込むようにダイヤちゃんが聞いてくる。こんな可愛い妹がいたらシスコンにならない方がおかしいだろう。
「こんな可愛い妹がいたらシスコンになるって顔してんなお前。」同僚が心を読みやがった。
「うるさいよ童貞。」
「どどどど童貞ちゃうわ！」
「え！？お兄ちゃん彼女出来たの！？」
「………。」
「…出来てないの？」
「……はい。」

隣からお兄さんは？という視線を感じる。やめて下さい見ないで下さい時に視線は言葉より鋭いナイフになるんです。
「あはは！大丈夫だって！私がお兄ちゃんのお嫁さんになったげるから！」
「…キタちゃんは良い子だなぁ！いいお嫁さんになるよ間違いない！」
同僚は半泣きでキタちゃんの頭を撫でている。側を通るウマ娘達が露骨に視線を反らしているのに気付いているだろうか。
ふと袖を引かれていることに気付く。振り返るとダイヤちゃんが両手で俺のジャージを掴んで頬を膨らませている。
「お兄さんお兄さん。」
「はいなんでしょうサトノダイヤモンドさん。」
「お兄さんには私がいますからね？」
「うん…ありがとうね…お兄さんちゃんと幸せにするからね…」
妹二人に将来を心配され、嬉しさと切なさと情けなさで視界が滲む。彼女も撫でてほしいのだろう露骨にこちらに頭を向ける。

身体も言動も大人びてきてはいるがまだまだ心は子供なのだろう。そっと頭を撫でると愛おしそうに目を瞑る彼女は間違いなく自慢の妹だ。
「ふふっ…気持ちいですよにぃに…」
そう言って彼女は私の掌に耳を擦り付ける。呼び方も昔のにいにへ戻ってしまった。
こんな彼女達にもいつか運命の人が現れるのだろうか…考えると胸が若干、いやとても苦しくなる。
せめて担当トレーナーとして一緒にいる間は、彼女達の幸せのために全力を尽くさねばと再び決意を固めるのだった。
