一本、二本、三本。柱のような何かが、十には僅かに満たぬ数、灯籠の火を遮っている。 ぼんやりと薄暗い中のそれらは、ただ真っ直ぐに立っているのだった――もっとも、 その形状は色気のない均質な円柱などではなく、太いところもあれば細いところもある、 端的に言えば、くびれを有した――年端もいかない少女の体型なのであった。 影の中では、彼女らの腹筋が緩やかに上下するのも、肌に滑る汗の粒も見えない。 だが風が火を傾けて光をその上に投げかけた時、稚い身体は不釣り合いなまでに艶めかしく、 いっそこの世のものとも思えないような色気を纏い始めるのである。 少女らは動かず、両手を背中、腰と尻の境に畳むようにして立っている。 必然的に、薄い胸にぽつんとある桜色の乳首を隠すものは、髪の房ぐらいしかなくなる。 男を知らぬ、ようやく子を生せるようになったばかりの女性器についても同じである。 陰毛は薄っすらとさえ生えておらず、陰唇はぴたりとくっついたまま。 雌臭さよりも、小水の臭いの方が強いような幼子たちは、けれどその肉体を、 女に生まれついた意味を果たすために、こうして無防備にさらけ出している。 本人の願うと願わざるとに関わらず――である。闇の中には、また別の柱が蠢いた。 地に脚をつけて立つ彼女らとは裏腹に、そのもう一種類の“柱”は、 天から垂れてくるように、その先端をゆらゆらと中空に踊らせていた。 太さは、腕ほどはあろうか。見ようによっては、蛇か何かにも見えた。 それらが、淀んだ空気をかき混ぜる。そのたびに、風の渦がゆらゆらと灯籠を煽る。 蛇同士は、不思議とぶつかることなく――柱の間を器用にすり抜けては、 少女らの鼻先を掠めるかのような距離に、その鎌首を近づけるのである。 それでも、誰一人として――否、一人を除いて、その異様な雰囲気に怖じけるものはない。 彼女らの顔には、ただ“奉”の一字の書かれた半紙が貼り付けられていて、 蛇の姿を直視することも、逆に、蛇の側から彼女らの顔を見ることもないのであった。 そうして顔を隠され、一様に裸に剥かれて並べられると――少女らの個を分けるものは、 それぞれの髪型と、人としての名と、“蛇”が何ものかを知るか、という点だけである。 その意味において、一人だけは――肌のすぐ横を濃紫の肉の塊が撫でるたびに、 上げられないはずの声を、喉の奥でしゃっくりでもするかのように詰まらせ、呻く。 ただ彼女の肌の上に、他の少女にはない、脂汗めいたものがだらだらとたれていた。 恐怖と緊張とに、金縛りにあるはずの彼女の身体はぴくん、ぴくん、と小さく震える。 他の柱が、あたかも平時のように落ち着いているのとは対照的だ。 しかしその中に、彼女のように退魔を生業とする家系の出はいない。 社の近辺からかり集められてきた、どこにでもいる普通の少女たちである。 己がこの存在に捧げられ、人としての生き様を失いかねない瀬戸際であるというのに、 恐ろしいほどに――あるいは正気を疑うほどに――彼女らは落ち着いていた。 無論己らの末路を知っていたならば、いくらか尻込みするものもあったろう。 年の近い生娘たちと、裸になって並ぶ行為の異様さにも気付いたろう。 その仮定があってさえ、少女らはじっと、何でもないかのような顔をしている。 急に顔の紙を剥がされたとて、瞬き一つするようなこともあるまい。 では怯えるただ一人は、儀式の何をかを知らざるがゆえにそうであるのか――違う。 彼女は今行われている――そしてそれを止めるために供物の一人に扮して侵入している―― 儀式と同様のもの、人を食い物にするような異界の者についてよくよく知っている。 あわや妖鬼の妻にされるところであった乙女を助け――単身祓ってみせたこともある。 だからこそ、だ。相手の領域に入りこんでしまえば、何とかなる、と思っていた。 周囲の少女らを人質に取られたとしても、守りながら戦ってみせる自信はあった。 人の世を裏から守る生業への、誇りと思い入れとで負けるつもりはなかった―― なのに彼女は、この社の中に他の少女らと連れ立って足を踏み入れたその瞬間から、 まるで自分の意識が、肉体から引き剥がされたかのような感覚に陥った。 なぜ自分は、着せられた巫女装束を自ら脱ぎ、あちこちに隠した護符と宝剣を取り出している? そしてまた、その様子を、他ならぬ自分が、まるで他人事のように見ているのである。 横で既に裸になり終えて立っている少女らは、顔に紙を載せて――本当の柱のように静かだ。 そして自分の顔にも紙をぺたりと貼ると――離れていた精神は肉体の檻の中に戻る。 薄暗い中に何かの蠢くのを、障子越しに見るような不気味な光景がそこにある。 しまった――とさえ、彼女の舌は紡げなかった。水槽の中に横たわる石のように、 赤く艶めいた塊は、じっと、静かに、そこに留まっている。 蛇は次第に若い柱たちの表面を、遠慮なく這うようにもなっていった。 ぬるぬるとした液体を纏ったそれらは、若々しい肌にそれをなすりつけ、 弾力を確かめるかのように、ぽん、ぽん、と先端で叩いていく。 やはり一人だけが、その接触に敏感に反応してびくんびくんと揺れるのである。 その動きを喜ぶかのように、蛇たちは一層しつこく、彼女の肌を舐めた。 生臭い――雄の体臭を思わせる――液体を、その上にひたすら塗りたくっていった。 そして――彼女の喉から、生まれて初めて上げるような、艶めいた声の出たのを合図に、 他の少女に触れていたものも、全てが彼女の周囲に集まってくるのであった。 少女は薄紙一枚隔てて感じていた――隣の少女の存在感や空気のうねり、 ほんのり見えていた社の光景が、曇り硝子の向こうにでも行ってしまったかのように思った。 呼吸音や火の弾ける音もまた、何かを隔てた先に急速に退いていく。 そして在るのは、無数の、視界の下端に映る濃紫の太い触手の群れである。 それらは、ぐるぐると彼女の身体に絡みつき――嫌な浮遊感を与えた。 浮き上がる、というより、吊り上げられている、そんな感覚である。 そしてはたと、彼女は自分の足が地から離れて、自由に動かせるになったことに気付く。 ばたばたと、地を求めて躍る足は――不意に、固く、弾力あるものに当たって跳ねる。 無力な人身御供を愛でるために、闇の中よりぬるりと現れた実体、蛇たちの生える大元。 彼女の位置からは、たとえ紙がなかったとて見えるはずもないのだが、 その背後に、二倍――いや三倍はあろうかという背丈の大男、濃紫肌の偉丈夫がいた。 大きな掌で、生意気にも自分を祓おうとやってきて――見事に虜になった愚かな娘を、 愛でるために――同時に立場を分からせるために――顎を掴み、ぐい、と引き上げる。 紙はもはや、その魔眼から彼女を守るための壁たりえなかった。 闇の中に無数に浮く眼、眼、眼。それらが、じっと、少女の二つの眼を射すくめ、 退魔師としての彼女のこれまでを――かき混ぜるように、探り、読む。 そして最後の行に、己には決して抗えぬという呪を刻み、孕み袋としての契約を結ばせ―― まだ使い方すら知らぬはずの子宮が疼く感覚に、少女は獣のように叫んだ―― 先程まで声を出せぬはずであったことの不思議を忘れたかのような、絶叫であった。 ぶしり、ぶしりと勢いよく、尿と潮とが噴き出して社の床に垂れ落ちる。 太腿を撫でる蛇たちは――社に祀られた忌まわしき神の腕としての実体を顕として、 彼女の身体を宙に吊り下げ、撫で回し、具合を確かめるために自在に動く。 太腿を五本の腕が揉みくちゃにしながらだらだらこぼれる愛液を掬って塗り広げ、 やがて陰唇に届くと――器用に摘んで、裂けそうなぐらい、強引に道を開かせる。 両足の間には、彼の巨大で暴力的な性器が、生娘をずたずたにするために添えられていた。 妖の巣に囚われた若い女がどうなるか。少女はその末路をよく知っていたはずだった。 無惨なまでに心身をすり潰され――時には、卵子を全て使い尽くされて。 そこには筆舌に尽くしがたい苦痛と屈辱とがあるはずだ――と、同じ女として思っていたのが、 いざこうして手込めにされる瞬間、少女の肉体は、この雄に完全に屈服していた。 求められるがままに卵子を提供し、子を宿し、産むことがあたかも当然のことであるかのように、 疼き、求め、火照る己の肉体を――幼き退魔師は、完全に持て余していた。 その心身の不均衡、空いた隙間に――ぬるりと、魔のものは入り込んでくる。 物理的に言えば、入るわけがない太さ、収まるわけがない長さの性器が、 未通の、自慰さえ経験したことのない幼い膣道の中に飲み込まれていくのである。 押し潰され、踏みつけられ、破壊され――骨盤ごとごきごきと軋んでいるというのに、 自分の肉体が不可逆に変えられていく悦びを、少女は享受させられていた。 一突きごとに、視界は彼女の身長の半ばほどの高さをがくんがくんと往復する。 内臓の圧迫と合わせ、激烈な嘔吐感が襲ってきて然るべき――だというのに、 彼女は自分が満たされ始めている、ということに本能的な恐怖を覚えるのだった。 人ならざる――既に己の有り様さえ忘れ、幼き人柱を捧げることによってしか、 人の世との繋がりを保つことのできぬ存在は、あってはならぬはずのもの。 祓い奉り、この世から丁重にお帰りいただかなければならぬはずのもの―― こうして犯され、精を受け、半人半神の眷属を産まされてしまったならば、 その存在はより強く、この世にしがみついて――やがては世の摂理を乱し始める。 退魔師としての禁忌を、今まさに自分が破らされている――その自覚を強くすればするほど、 彼女の肉体は、神の子を宿すことのできる栄誉に打ち震え、 頑な精神を、ゆっくりと地盤から崩しに掛かってくるのである。 どぽん、と重たい音が下腹部に響き、少女は自分が神の子を孕むための存在として、 見初められてしまったこと――もう逃れようのないことを悟った。 奥歯に仕込んでいたはずの自害用の護符も、いつの間にか取り去られている。 溶岩のように熱く煮えたぎる子宮のその上、臍の直下を――無数の触手が撫でる。 そこに神の子を宿す自覚を持てと促してくると同時に、子宮はますますじくじくと疼き、 既にたぽたぽになっているはずの――小さく、幼く、容量もないはずのその中に、 また新たな精を授かりたいと、ひくついて止まらぬのであった。 何度も精を腹に受けながら――少女はぼんやりと、他の人身御供たちのことを考えた。 自分がこうして選ばれたのだから、彼女らは無事に解放されたのであろうか? 何事もなかったかのように日常に帰り、この社でのことを忘れているのであろうか―― 取り留めのない考えに耽っても許されるぐらいに時間の感覚は鈍化し、 身体を宙に吊り上げられているせいで、空間に対する意識も希薄化していく。 この世から時間と空間の両面において隔絶された異界の中に彼女はあり―― 次第に、自分が何者であったか、何のために生きてきたかさえも不確かになっていく。 ぺろん、と剥がれた“奉”の一字は、彼女がただ捧げられただけの存在から、 自らの魂でもって、神に奉仕する存在に成り果てたことを意味していた。 突き入れられる心地よさ、大きな掌に身体のあちこちを包まれる安心感、 そんなものに溺れながら、少女は自らも主の性器に向かって腰を振る。 その胎に、既に新たなる神の器が宿り――臨月大の大きさに達していたとしても。 色の濃くなった乳首から、神の子に捧げるための母乳を先んじて吹き散らしながら、 かつて退魔師だった少女は、乱れる。与えられる快楽に、どこまでも飲まれていく。 下腹部には、永遠なる神の眷属であることを誓う呪いの証が煌々と光っていて、 それは彼女が絶頂に達するたびに――より深く、魂を侵食していく。 もう彼女は、今この瞬間に人の世に放たれたとしても元の人生には戻れまい。 自分は偉大なる神の子を宿すために産まれてきたのだと、深く深く刷り込まれているから。