あの時、私は復帰したマルファ姉さまと共に、任務をしていた。 悪魔自体は低級の物で、あっさりと消滅していった。 だけど、帰り道。 マルファ姉さまによる不意打ちで、私は意識を失った。 冷たい石の感触が、背中から、肩から、脚から、じわじわと体温を奪っていく。 縄は強くくまない結びで、手首も足首も、胴も喉元さえも逃がせません。 動こうとすれば、ぎしり、と嫌な音を立て、皮膚の下まで食い込む。 裸の上に結ばれるこの縄は、むしろ裸である事よりも恥ずかしく。 そして私をこうした張本人、彼女は牢の外で、松明の揺れる光の向こうに立っていました。 マルファ姉さま。 かつて、私が何度も背中を追いかけた人。 ‥‥そのはずの人。 視線が合ったその瞬間に、私は理解してしまいました。 私は、何度も見てきました。 悪魔を祓う側として、手遅れだった時に残された「人」を。 そんな蹂躙された生存者が、見せる目に似ている。 心が砕かれ、尊厳が削ぎ落とされ、それでも肉体だけが生き残ってしまった者の目。 そんな昏い目をしている。 マルファ姉さまは‥‥もう。 「‥‥エリス」 低い声で、私の名が呼ばれます。 かつて、その声は祈りの中で私を導いてくれた。 今は、胸の奥を、氷でなぞられるように冷やすだけ。 ――どうしてこんな事を、という言葉が喉から出かかって、止まった。 もし聞いてしまえば、私は耐えられない。 尊敬していた義姉が、どれほど徹底的に壊され、汚され、否定されたのか。 神を信じ、人を信じた彼女の心が、どんな形にねじ曲げられたのか。 それを知った瞬間、私の祈りは、きっと無力に変わってしまう。 仲間が、来ると信じている。 ステラが。 他の皆が。 必ずこの異変に気づき、ここへ辿り着くと。 「どうして、こんなにもきつく縛っていると思う?」 優しくて、落ち着いていて、任務の前に不安な私を諭してくれた時と、何一つ変わらない声。 そう問われて、少しだけ考える。 「‥‥抵抗を、防ぐため‥‥でしょうか」 それが、最初に思い付いた答えでした。 任務中、捕虜を縛る理由として、最も正しく、最も分かりやすく、最もそれらしい回答。 過剰で、執拗で、痛みを感じる縛り方。 抵抗を防ぐには、強すぎるそれに対しては、間違いな気がするけれど、それ以上の答えが思いつかない。 「‥‥私が、暴れたり、逃げたりしないように‥‥ですか?」 「あははははっ‥‥違うわよ、エリス」 その笑い声は、かつて任務の後に焚き火の前で聞いたものと、よく似ている。 仲間の緊張をほぐすために、わざと少し大げさに笑ってみせていた、あの頃の声と。 だからこそ、胸の奥が、ぎゅっと握り潰されるように痛みました。 「抵抗を防ぐため?そんなの、ついでよついで」 彼女は、檻の外で私を見下ろしながら、楽しげに淡々と続ける。 「これはね。あなたの“心”を折るため」 ‥‥言葉の意味が、すぐには頭に入ってきませんでした。 「シスターのエリスじゃなくて‥‥ただの“女の子”にするためよ」 ぞくり、と背筋を冷たいものが走りました。 「信仰の祈りも、仲間への信頼も。耐えようとするその意志も‥‥」 マルファ姉さまは、まるで講義をするみたいに、指を折りながら数えます。 「そんなもの、ずっと燃やし続けられるわけじゃないでしょう?」 私は、言葉が出ませんでした。 「一時的にね、必死に祈って、必死に信じて、必死に歯を食いしばることは出来るわ。でもね」 彼女はゆっくりと、噛みしめるように言います。 「ずっと、心も体も“休めない”状態が続いたら、どうなると思う?」 答えを待たずに、彼女は続けます。 「耐えようとする意志はね。ある日突然折れるんじゃないの‥‥少しずつ、少しずつ、削れていくのよ。」 私は、無意識に息を詰めていました。 「四六時中。寝る時も、目を覚ましている時も。何をしている時も‥‥」 彼女は私の体に巻き付いた縄を、視線でなぞります。 「“痛みを感じる拘束”が、あなたの思考を縛り続けるの‥‥ そうするとね、その痛みが、いつも思考の表面に浮かんでいる状態になるの」 胸の奥が、重く、鈍く、沈んでいきます。 「祈ろうとすると痛い。考え事をしようとすると痛い。眠ろうとしても痛い。そのうち……」 彼女は、ふっと、口元だけで笑いました。 「“どうすれば少しでも楽になるか”を考える時間の方が、祈る時間より、ずっと長くなる」 そして私を見て、はっきりと言い切ります。 「ねえ?エリス。今も、そうでしょ?」 ……心臓が、どくん、と強く脈打ちました。 「さっきから、少しずつ身動ぎしてる。お股に食い込んだ縄が、少しでも痛くならない体勢を、無意識に探してる」 私は、はっとして、自分の体に意識を向けます。 確かに、話しを聞きながら。 ほんの僅かずつ、私は体の重心をずらし、脚を動かし、縄の食い込みを和らげようとしていた。 祈る前に。 神に心を向ける前に。 まず、“この痛み”から逃げようとして。 その事実に気づいた瞬間、胸の奥が、ひどく惨めに冷えていきました。 ‥‥そして。 何も、されませんでした。 マルファ姉さまは、檻の外に立ったまま、ただ、私を見ているだけ。 近づいてくることも、触れてくることも、何か命じてくることもない。 これが拷問なら、私は歯を食いしばって耐えようとしたでしょう。 痛みを与えられ、辱められ、責め立てられるのなら、「耐える」という形がまだ、はっきりしている。 でも、今は縛られたまま。 それだけ。 ‥‥最初のうちは、考えました。 暴れることも、出来なくはない。 縄はきついけれど、骨が折れるほどではない。 無理に体を捩れば、少しは動ける。 けれど。 暴れたところで、牢から出られるわけがない。 それどころか、縄はさらに肌に食い込み、関節を締め付け、ただ痛みが増えるだけ。 ‥‥意味がない。 では、助けを呼ぶ? 大声で叫ぶことも、出来なくはない。 私はまだ、声を奪われてはいない。 でも、大きく息を吸い込もうとした瞬間。 肋骨のあたりを締めている縄が、ぎゅっと食い込み、鋭い痛みが走る。 それに、こんな所で叫んでも、誰にも聞こえやしないだろう。 結局。 私は、何もしなくなる。 少しでも楽な姿勢を、探し始めてしまう。 ‥‥脚を、少し開いた方がいい。 そうすると、股に食い込んでいる縄がほんの少しだけ、ましになる。 ‥‥仰向けの方がいい。 うつ伏せだと、冷たい床に体重がかかって、胸が押し潰されて痛い。 仰向けなら、それがない分、まだ耐えられる。 そうして、私は。 胸も下腹も、無防備に放り出したような情けない格好で、横たわる。 何も出来ず私は、天井の石を見つめます。 涙がこぼれるけれど、だからと言って何も出来ない。 ‥‥一番、ましな姿勢を選んで。 ただ、横たわっていることしか、出来ない。 それが、今の私のすべてでした。 脚を少し開き、仰向けになって胸と腹を放り出した格好。 それ以外の姿勢を取ろうとすると、必ずどこかに鋭い痛みが走る。 腰を捻れば、腹に巻かれた縄が食い込み。 肩を動かせば、背中の結び目が骨に当たって、嫌な感触が響く。 息を深く吸えば、肋骨のあたりが締め付けられて、じくりと痛む。 マルファ姉さまは、相変わらず、そこに居る。 檻の外で何も言わず、何もせず。 ただ、私の呼吸や、瞬きや、ほんの僅かな身動きを、見ている。 胸の奥にじわじわと、重たいものが溜まっていきます。 怒りでも恐怖でもない。 もっと、鈍くて、冷たい感情。 夜になると、マルファ姉さまはどこかに行ってしまった。 一人きりになっても、眠れません。 牢の中は昼よりも静かで冷たくて、音がよく響く。 自分の呼吸の音。 そして――少し身動ぎするたびに、必ず走る、あの痛み。 目を閉じても、意識は休まらない。 眠ろうとすれば、どこかの縄が、きしり、と肌に食い込む。 息を深く吸えば、胸のあたりが締め付けられる。 脚を動かせば、股や腰に、鈍い痛みが返ってくる。 私は、心の中で、神に祈ろうとします。 祈ることには、動きもいらない。 それなら、問題ないはず。 だけど。 祈りの言葉を思い浮かべた、その瞬間。 無意識に身体が、ほんの少し動いてしまう。 ――この姿勢の方が、少し楽かもしれない。 ――ここが当たらないように、少しだけ、ずらしたい。 そう思った途端、縄が、また、痛みを返してくる。 「‥‥っ」 小さく息が漏れる。 それで、集中が途切れる。 ‥‥祈れないわけじゃない。 でも、祈りの強さは弱くなって。 ‥‥朝。 どれくらい眠れたのか、分かりません。 目を閉じていた時間はあったはずなのに、眠ったという感覚は、ほとんど残っていない。 身体は重く思考は鈍く、まぶたの裏にまだ夜の暗さが張り付いているようです。 少し動こうとして、すぐに、痛みが返ってくる。 ああ、そうだ――私は、まだ、縛られている。 喉が、からからに乾いていました。 空腹というより、疲労の重さが、まず先にある感じ。 呼吸をするだけで、体のあちこちが、じくじくと主張してくる。 ‥‥扉の向こうで、足音。 マルファ姉さまだ。 彼女は、牢に入り、淡々と私の前にしゃがみ込みます。 器を置き、少しだけ中身を確認する仕草。 「おはよう、エリス」 答えようとして、何も出てこなかった。 手には、小さな器。 中身は、柔らかく煮た粥のようなもの‥‥でしょうか。匂いだけで判断するしかありません。 私は、一瞬、ほっとしてしまいます。 「口、開けなさい。エリス」 縛られた状態で自分が食べる事なんて出来ないし、 ここで逆らっても仕方がないから、口を開く。 わざわざ力を落とすような事をしても、仕方がない。 彼女は自分の口に含んだものを、直接、私の口へと移してきました。 ‥‥口移し。 一瞬思考が止まります。 抵抗しようと、体に力を入れようとして――縄が、即座に、それを許さないと教えてくる。 温かい。 そして、柔らかい。 ‥‥気づいてしまいます。 粥だけでなく、マルファ姉さまの、唾液の味。 ほんのりと、甘い。 ‥‥噛みつくことは、出来るかもしれない。 口移しで与えられる、その一瞬。 歯を立てようと思えば、きっと出来る。 彼女の唇や、舌に。 ‥‥でも。 そうしたところで、何になるのでしょうか。 屈していない、という意思表示? 抵抗している、という自己満足? そんなことをしても、縄が解けるわけでもない。 扉が開くわけでもない。 この牢から出られるわけでも、ない。 むしろ、状況は、確実に悪くなる。 だから、甘んじて受け入れるしかない。 食事が終わると、彼女は、何事もなかったかのように、唇を拭い、器を片付けます。 「ちゃんと、食べたわね」 少しずつ少しずつ、無意味な抵抗をしない、という選択を、してしまっている。 縛られたままの時間が、どれくらい続いたのか。 もう、よく分かりません。 朝の食事から、どれほど経ったのかも曖昧なまま。 マルファ姉さまは、暫く不在でした。 そんな中で、ただ身体の中で、じわじわと、はっきりした感覚が大きくなっていくのを感じました。 ‥‥尿意。 最初は、気のせいだと思おうとしました。 疲労や緊張のせいで、そう感じているだけだ、と。 でも、それは、確実に、無視できない重さに変わっていきます。 私は、息を整えようとします。 気を逸らそうと、天井の染みを数えようとします。 祈りの言葉を、心の中で繰り返そうとします。 でも、意識は、どうしても、下腹部に引き戻される。 耐えようとして、ほんの少し、身体を捩る。 その瞬間。 縄が、容赦なく、肌に食い込みました。 腰。腹。太腿。 鈍く、けれどはっきりした痛みが、走って。 思わず、息が詰まります。 歯を食いしばります。 こんなことで、取り乱してはいけない、と。 どれだけ、耐えたでしょうか。 耐えきれず、身体を捩った瞬間。 下腹部に、縄が食い込んで。 「あ‥‥っ」 温かい感覚が、広がっていく。 私は声も出せず、ただ、天井を見つめたまま、動けませんでした。 そして、それが冷たい感覚になる頃には。 涙が、止まりませんでした。 そうして、茫然としていると。 足音が近づいてきて、牢の前で止まる。 マルファ姉さまは、何も言わずに、私の様子を見下ろして。 すぐに状況を理解したようでした。 「‥‥大丈夫。綺麗にしてあげるからね」 その声は、驚くほど昔のままで。 叱責も嘲りも、そこにはありませんでした。 彼女は、私の股のあたりの縄だけを、必要最小限、ほんの少しだけ緩めました。 彼女は柔らかな布を取り出し、丁寧に優しく、私を拭いてくれます。 蒸しタオルでしょうか。 ほんのりと温かくて、湿り気があって。 ずっと、縄の感触と、締め付けと、痛みしかなかったところに。 蒸しタオルの、柔らかな感覚は、甘く染み込んで。 苦痛でない、心地いいという感覚が、ずいぶん遠ざかっていた事に気付かされる。 「これからは、私がいる間に言えば桶も用意するし、ちゃんと綺麗にしてあげるから」 声は、驚くほど穏やかで。 昔、野営の夜に、体調を崩した仲間にそうしていた時と、ほとんど同じ調子でした。 「私がいない時に、我慢できなくてしてしまったら‥‥辛いのは、あなたでしょう?」 私は、天井を見つめたまま、しばらく、動けませんでした。 それから‥‥私は、何度か、同じことを繰り返しました。 耐え忍んで。 限界まで、じっと、我慢して。 どうにもならなくなって。 意地だったのか。 尊厳だったのか。 それとも、ただ、認めたくなかっただけなのか。 だけど、どれだけ耐えても、ゴールが無ければ、決壊するタイミングは必ず訪れる。 そうして、尿意を感じた時。 まだ限界までは少し余裕がある、その段階で。 私は考えてしまいました。 ――このまま我慢しても、結局、同じ結末になる。 ――どうせ、また。 そう思った瞬間。 胸の奥で何かが、静かに折れました。 マルファ姉さまが去ろうとした、その時。 私は勇気を振り絞って、声を出します。 「‥‥待って、ください」 喉が少し、震える。 「‥‥トイレを、したいです」 ‥‥私の尊厳を、無視すれば。 それが、合理的で、正解の考え方。 いや。 どうせ、最終的に、漏らすのなら。 尊厳の面でも‥‥こっちの方が、マシ。 そうして、尊厳を削り取られて。 仲間に、助けを求めるという選択が。 一番最初に、私の中から、静かに消えていきました。 ステラを信じられなくなった訳じゃない。 マルファ姉さまが、行方不明になって。 彼女が、どこかで。 必死に助けを求めていたであろう、その時間の中で。 私は彼女を救えなかった。 だから、今こんな事になっている。 行方不明になっている間、マルファ姉さまも、同じような目に逢っていたのかもしれない。 私はまだ、仲間を売れと言われたら断れるけれど、今のマルファ姉さまは、私に手をかけるまでになってしまった。 そこに、どれだけの苦痛が、恥辱があっただろうか。 彼女を救えなかった自分が、自分の時は仲間に助けて貰える。 そう考えるのが、傲慢に思えて。 そうして、いつか助けが来ると思えなくなってから、時間の進みは曖昧になって。 耐えればその先で助けられると思えなくなったから。 ゴールが見えなくなって、苦しみだけが伸びて。 そうしている内に、気づいてしまったのです。 口移しの食事に。 ほんの、わずかだけれど‥‥喜びを、感じてしまっている自分に。 この監禁は、苦しい事しかない。 縄の締め付け。 動くたびに走る鈍い痛み。 眠れない夜。 口移しの食事だけが。 私にとっての、心地よさを感じられる時間で。 食事の、味や温かさ。 そして。 マルファ姉さまの唾液の、あのかすかな甘さ。 いつものように、口移しで与えられている、その瞬間。 次第に、私は自分でも驚くほど、自然に。 ほんの少しだけ、舌を前に出していました。 いつのまにか、食事を口移しで受け取る時間よりも、舌を絡める時間の方が長くなっていて。 そして、ある日。 本当に、久しぶりに縄が、解かれました。 一つずつ慎重に。 絡まった痕が、まだ肌に食い込んだままの場所を避けるように。 拘束が外れていくたびに、血が戻る感覚が、じん、と広がって。 そのたびに、身体の奥から、抑えきれない震えが込み上げてきます。 そのまま、部屋の奥の浴場へ連れて行かれました。 湯気。 温かい空気。 そして、湯の音。 逃げられる、かもしれない。 今は、縄がない。 足も、手も、動く。 扉の向こうに走れば―― ‥‥でも。 私は、動けませんでした。 牢の鍵は、閉まっている。 今目の前にある、お風呂で、どれだけ心と体が楽になるだろうか。 ここで、逃げ出そうとしたら。 それが、遠ざかる。 二度と縄を解いて貰えないかもしれない。 視線が、自然と、自分の身体に落ちる。 白い肌の、あちこちに。 赤く、くっきりと残った、縄の跡。 手首。 足首。 胴。 胸の下。 太腿の内側。 縄が無くなっても、私はまだ縛られているのだ。 そして、優しく解される。 無理矢理していたポーズのせいで、軋んでいた肉体を柔らかく撫で、指で解されて。 従順にそれを受け止める事が、気力温存のためにも、何より大事だと言い訳して。 だけど。 お風呂から上がった、その後。 私はまた――縛られました。 湯で温まって、ほぐれて、少し軽くなった身体。 まだ湯気の残る肌に、タオルで水気を拭われて。 そのまま、何も着せられないまま。 抵抗しても、勝てないと思い知らされている私の裸に、静かに縄が回される。 最初の時のような、容赦のない締め付けではない。 結び目も、少し、配慮されているのが分かる。 それでも。 身動きは取れなくなって。 ゆっくりゆっくりと、抵抗の心が削れていったある日。 口移しの後、指先が乳房に伸びるのに、抵抗出来なかった。 キスの余韻に紛れて、愛撫へと移るその行為を拒む気持ちは、もう私には無かった。 むしろ、気持ちいい事を続けてくれる事に、感謝すらしていた。 乳房だけでなく、股に指を入れられもした。 そうして、すっかりされるがままになってしまったある日。 私は、マルファ姉さまの――目を見てしまったのです。 あの瞳の奥には、今まで見て来た被害者のような、虚無が広がっていた‥‥そう見えたその先に。 どろりと、昏い光を見た。 シスターとしての本能が、悪魔の気配を感じ取る。 もしかしたら、最初から、思い違いをしていたのだと。 悪魔に壊されたのではない。 悪魔を、強い力で逆に支配してしまったのではないだろうか? 私は咄嗟に、決断していました。 削られ続けた精神。 それは、私から抵抗の意思を奪った。 だけど、マルファ姉さまが言っていたように。 逆に言えば、瞬間的なら、蕩けた状態からでも、反抗心を燃やす事が出来る。 それを頼りに、マルファ姉さまを支配している悪魔が、私にトドメを刺しに来たら、それを祓うつもりだった。 その為に、少しずつ貯めていた力。 ずっと、姿を現さない事に不思議だったが、マルファ姉さまが、自らの中で飼いならしているのなら出て来なくて当然だ。 今、心の奥に居るその悪魔を祓えば、彼女を元に戻せる可能性がある。 聖なる力の断片。 一時的にミカエリスの力を使って、マルファ姉さまの内の悪魔を祓う。 縄があろうと、関係ない。 聖なる力は、魂から溢れるもの。 一瞬だけでも、この至近距離なら、悪魔を祓える筈だ。 この光で‥‥ 「っ♡!??あっ♡あああああぁああ♡」 私の身体を縛る、その縄が。 光に、触れた瞬間。 まるで、それを“別の性質”に、書き換えるかのように。 聖なる力は、弾けるはずだった。 清らかな光となって、外へと、放たれるはずだった。 それが、快感に変わって、私の身体を灼く。 「あら、いけない子♡でもね、手遅れなのよ。徐々に抵抗感を失うと同時に、身体に刻まれたその赤い痕。  それは、ただ縄で縛られた痕じゃなくてね、淫紋でもあるの♡」 意識が、白く弾ける。 視界が、ぐらりと歪む。 身体を大きく仰け反らせ、床の上で跳ねてしまう。 脚を突っ張り、膝が震え、太腿の内側にまで締め付けが伝わるたび、 胸の奥で何かが弾けて、理性の糸がどんどん溶けていく。 腰が跳ねてしまい、縄が敏感な粘膜を横滑りし、膣口を舐めるように摩擦する。 絶頂の度に、きつく食い込んでくる。 あれだけ、動かない方が楽だと学習した筈なのに、絶頂の度身体が跳ねて、縄が食い込み、次の絶頂に導かれる。 「だめっ♡ごれだめっ♡うごいちゃ駄目なのにぃっ♡」 縄はもう、私の外付けの快楽神経となってしまい、動く度に、私を甘く責め立てる。 胸の下を通る縄が、乳房を持ち上げるように動いてしまう。 私は私の心の何もかもを手放して、縄によって支配された状態で、蕩けていくしかなかった。 それから、数日後。 手足は、以前ほどきつくは縛られていません。 けれど―― 股間と胸だけは、強く縄が這っています。 胸の下を通る縄が、乳房を持ち上げ、形を強調するように締め付けている。 股間の縄は、食い込んで常にじっとりと、私の蜜で濡れている。 私は、床の上で、腰を振るしかありませんでした。 ほんの少し足を動かすだけで、 股間の縄がぬるぬると粘膜をこすり上げ、 快楽の火花が脊髄に駆け上がっていく。 どうしたらもっと気持ちよくなるか、今の私はそれだけを考えて、身体をくねらせる。 それだけが、今の私の全て。 マルファ姉さまが、満足気に私を見下ろす。 それをどこまでも幸せな屈従だと、甘く蕩けた思考で、受け入れていたのです。