「キューさ、思ったんだよね」 挨拶代わりの鳩尾へのトーキックに悶える俺のことを放っておいて、少女は一人ごつ。 リズムに乗せて回る指、その先端から星の欠片がこぼれ落ちているかのよう―― そんな現実逃避をしたくなるぐらいに、肺から空気の逃げていくのは、辛い。 吐息の塊が唾液を伴ってごほん、ごほんと飛び散る――視界も激しく明滅し、 はっ、と気付いた時には、彼女の顔は俺のすぐ近く、何かを確かめるように見下ろしている。 「無理やり言わせようとしても、あんまり意味ないし――」 目はキラキラと無垢に――ぞっとするような輝きを纏って俺を見る。 「オトコのコって――こういうの、好きでしょ?」 少女の指は、俺の服を乱暴に――否、強引、とまで言えるほどに荒々しく引き剥がす。 それに抗えるだけの力が残っていないのが、己ながらに情けない。 シャツのボタンは爆ぜて跳ね、どこともしれない世界の果てに吹き飛んでいく。 「改めて見ると――ごめんね、痛かったよね…」 服の下に隠されていたいくつもの痣を、少女は改まったかのようになぞっていく。 その刺激だけで、俺の唇は反射的にひくつき、噛み締めた歯列がちらちらと覗く。 「キミ…どーてい、でしょ?」 唐突に投げ掛けられた言葉に、全身がびくんと痙攣する――その反応だけで、 彼女の問いに対する答えは、何より明確に示されてしまっていた。 男に対してそんな問いをする理由は限られている。からかうためか、もしくは―― 指は俺の胸板をたん、たん、たん、とピアノめいて弾くように打つ。 痛むところ。むず痒いところ。くすぐったいところ――その全てが、緑色の瞳の前に晒される。 観察――などという生温い言葉では済まない、俺の全身を好き勝手に、弄ぶための―― 「心配しなくていーよ…キューも、おんなじだから…ね?」 そのまま彼女は俺の上にのしかかり、嗜虐的な笑みを一層深くする。 剥き出しの太腿が、俺の肌に柔らかな感触を返し――悲しいかな、反応せずにいられない。 どこか甘い、少女らしい匂いと――すっかり透けたポンチョの中身が、俺の脳をくすぐる。 「キューのこと、好きって――素直に言ってくれていいんだよ」 身体をぐいっと曲げて覆い被さってくる彼女に、あっという間に俺の唇は奪われる。 閉じたばかりの口内の傷から、じんわりと血の味がこぼれ出す――それを感じ取ってか、 少女は不快そうに眉をしかめた。これまで笑顔を崩すことなどなかったのに。 「大丈夫…キミがキューのものになったら、痛い目になんか遭わせないからね」 再びの口付け。俺の傷の上をわざわざ舐め取るような――執念深い、独占欲を感じる動き。 「…するよ」 有無を言わさぬその言葉に、俺はもう何も言えない――何かを言おうとする前に、 彼女は自分の衣装の股間部分、角度鋭く切れ上がって鼠径部の丸見えだった布地をずらし、 雄の性器を咥え込むための場所で――俺の性器の上に、体重を掛けてきていた。 「我慢しなくていいよ、ほーら、ほーら…」 ぷっくりした柔らかな盛り上がり二つの間に、俺のものが挟み込まれている。 にゅるん、にゅるん、くちゅり、くちゅり。俺は当然、何も言うことができない―― だがその刺激で確実に、どんどんと、硬さを増してしまっている俺がいる。 少女の息は次第に荒くなっていき、それと反比例して俺の呼吸は不規則に乱れ出す。 「んっ…ほらぁ…もう、はいっちゃうよ…」 控えめに言っても容姿の整った半裸体の若い女相手に密着されて、我慢し続けるのは不可能だ。 この後に起こることを予測して必死に股間の血をなだめようとすればするほど、 却って、激しくうねる熱は物理的な硬度を持って俺の意思に反抗してくる。 甘い匂い、柔らかな感触、ぬるぬるした滑り気、そこに艶めいた声が重なるとなれば―― 「っ…あ…!はいっ、た、ぁ…」 俺の穂先は堪らず飲み込まれ、少女自身の自重で持って、肉を裂く。 流石に破瓜の痛みは、彼女にも一瞬の冷静さを取り戻させたのだろう――だかそれも一瞬。 いよいよ広く歪んだ唇の形によって、俺は彼女が“覚悟”を固めたことを悟った。 「はじめて同士…だね」 痛みを堪えながら、ゆっくりと――それまでの俺に対する苛烈な仕打ちが嘘のように―― 彼女の腰使いはねっとりとした、緩慢なものへと変わっていく。 快楽を貪るため、というより――俺の童貞を奪い、俺に処女を押し付け、 等価交換を果たしたことによって――どこまでも縛り付けていくために。 俺の手は所在なく、死にかけの蝶めいて閉じかけたり開きかけたりする。 少女の腰を自ら掴もうものなら――それは彼女の言葉を肯定することにしかなるまい。 かといって流されるままに、何もせず握り拳を作っていれば機嫌がどうなるか? 今でこそ、決定的な“絆”を拵えたことで上向きに安定していても、 自分の求める結果のために手段を選ばぬ女たちであることは、わかっているではないか。 一人盛り上がって声を上擦らせる彼女に――遅れないように、こちらも興奮する素振りを見せ、 少なくとも、“君のことを嫌ってはいない”と示さねばならぬのだ―― 「ね、スキって、言って!キューのこと、スキって、言えっ!」 こちらのことを考慮していないペースで彼女は腰を激しく打ち付けてくる。 男の性器は、そんなに乱暴に擦り上げ締め上げられるようにはできていないのに―― だがそれでも、快楽は俺の意思に反して肉体に積み上がっていくのだ。 男にはわかりやすい、絶頂の証――目の前の雌に魅力を感じて――しまった、という証拠を、 今にも暴発しそうな股間が、一応の義理で俺に伺いを立ててくる。本当に、出していいですか? 駄目だと言ったところで――俺にはそれをどうにもできはしないが。 「はぁ――っ、っ…!ん、っ…ふぅっ…!」 ずっと俺の顔を見続けていた視線は、不意にふっ、と切れて上に向く。 少女の瞳がちかちかと、俺が先ほどそうなっていた時と同じく明滅する。 産まれて初めての、雄の精を胎に受けるという経験が――彼女の何かを変えたのだ。 しばらくぼんやりと虚空を眺め、スイッチの切れたように止まっていたのが、 また突然に、俺の顔を食い入るように見つめる。今度は、睨むような目つきではない。 愛でるような――というのは俺からの主観が多分に入っていようが――甘ったるいような、 自分の気に入りの玩具を見る、そんな風な目つきに変わっていた。 「これで…キューとキミとは、恋人、だもんねぇ…」 まだ挿入されたままの俺の性器を咥え込んだまま、少女は俺の上に覆い被さってきて、 胸板といい顔といい、あちこちに唇の雨を降らし――独占の印を付けていく。 これが、何でもないような日常での出会いからの愛の確かめ合いなら――俺も喜んだろうが。 「キミのこと…大切にしてあげるからねぇ…うふふ」 胸板の上にくるくると指が踊る。服越しにその柔らかな身体を押しつけてくる。 これだけの可愛らしい少女に迫られてなお――俺の背中には冷や汗がびっしりだ。 それはつまるところ――他の四人との関係性をどう凌ぐか――目の前のこの女はどう凌ぐか、 一度肉体関係が誰かとの間に成立してしまった以上、問題はさらにややこしくなっていく。 今はまだ、彼女の視線は恋人に向けるような、甘え、媚びたものである。 だがそれがいつ、あの冷徹な殺し屋のそれにならぬとも限らない。 俺の“裏切り”一つで――その想像は、容易に現実のものとなるのだ。