教主と出会ってから数カ月、エレナは幸せであった 出会いこそ世界樹の奪取を狙った妖精王国…教団との対立という最悪に近い形であり 結局敗北してロープでぐるぐる巻きにされて謝罪行脚で引き回されたり色々あったが… 協力関係となってからの教主はエレナのラボへ足繁く通い、教団の設備を良くするためと色々頼んできて 早く帰ってもあの司祭長に仕事を押し付けられるからと依頼品の完成まで共にコーヒーを共に楽しんでいた 毎日毎日どこから持ってきたのか金属やプラスチックを山ほど持ってきてあれを作れこれを作れと私を頼る だが、不思議と悪い気はしなかった。依頼品の製造は機械に任せられる範囲だし なかなか話が合う教主は暇つぶしの話し相手にぴったりだったからだ。 朝に教主が研究所を訪れ、昼には宴会場にこちらから顔を出し、夜には完成した品の納品を理由に教主の部屋へ行きしばし語り合う 日に日に研究のレベルも上がり設備が充実していく。そんな日々が三ヶ月ほど続いたある日を境に、教主はあまりラボに顔を出さなくなった 行方不明になったわけではない、宴会場にでも行けばいつも通り使徒たちに料理を振る舞っているし そこで私の顔を見ればスッとホットアイスアメリカーノを出してくれる なにか必要なものはないかと聞いてみるが「エレナのお陰でもう十分助かっているよ」とあいつは言う。 基本は何も変わらない、強いて言うならここ最近宴会場のメニューの品数が増え質も良くなったくらいだ あまり話ができなくてさみしい、なんて言えるわけもない。私はエルフの指導者であいつは妖精たちの実質的トップ 対等でいるためには相手に弱みなんて見せられないね。 とはいえ理屈と感情は別である 毎日使っていた教主専用のマグカップに埃が積もっていくたびに獲得した心のモヤモヤは消えない 今日も曇った気持ちで1日の仕事を終え、気がつけば用もないのに閉店間際の宴会場へ足を運んでいた 明かりの漏れる窓から中を覗くと宴会場には誰もいない、片付けも終わっているようだ 用事もないのに少し恥ずかしいが入ってみるかと考えていると、厨房から両手に何かを持って出てくる教主の姿が見えた あれは…遠くからでもわかる。揺らめく炎を乗せた茶色の液体…ホットアイスアメリカーノだ! 仕事終わりの私に差し入れでもしてくれるつもりかねぇ…運んでいるうちに火は消えるぞ(笑)思わず笑みがこぼれてしまう っと、我ながら都合のいい想像をし過ぎだろうともちほっぺを叩いて自戒する ではそろそろ店内に踏み込もうかと歩を進めた瞬間、厨房から2人の人影が現れた 「師匠様!ありがとうございます!私これ大好きなんですよねぇ~」 「ピコラ!もう夜なんだから騒がないの!」 ―――――――― あの女だ まぁいいから、と言うように教主は2人を制止しテーブルに両手の飲み物を置く ホットアイスアメリカーノと穀物ドリンクそれぞれがピコラとフリックルの前に置かれ 教主は私が作ったコーヒーメーカーでコーヒーを入れ、それを持ってテーブルに着いた 先程より声を抑えて会話しているため内容はわからない、しかし表情からとても楽しそうなことだけはわかった 頭の中がぐちゃぐちゃになった エレナは無表情のまま懐に手を入れ小さな装置を取り出した M.E.O.Wの緊急出撃ボタン 教主と話し合い、できるだけ他種族と波風立てないようにすると誓って以降一度も押すことのなかったそれ 以前のように突発的に押さぬようにとプラスチックの保護カバーを新たに付けている そのカバーごと握りつぶすようにエレナは躊躇なくボタンを押した ――――――――――――――――――― 体が…痛い…教主は痛みで目を覚まし辺りを見回す、最初は暗くてよくわからなかったがそこは見慣れた研究所の仮眠室だった 「目は覚めたかい教主ぅ?」 部屋の入口の方を見るとエレナが立っていた 「エレナ…?一体何があっt」 彼女に問いかけながら起き上がろうとしたが体が動かない 痛みで気づかなかったが改めて手足を見ると拘束されている エレナは問いかけには答えず無言で歩み寄ってくるとベッドの上の私に馬乗りになった 「何をするつもりだ!?」 「何だと思う?」 ニヤニヤ笑いながらエレナはボロボロになっていた私の服を力強く引き裂いた 「やめるんだこんなこと!話せばわかる!」 「…あんなにたくさん語り合って私の気持ちもわからなかったのに…か?」 対話だの話し合いだの君の言う通りに穏便に進めようとした私からは離れていって 弟子と一緒に押しかけて気づけば妖精の国に住み着いたあの裏切り者が君の隣りにいる 賢ぶらずに最初からこうしておけばよかったんだ 「征服は私たちの本能だからな…」