「まったく…自分から誘っておいて寝坊するとか…」 今は土曜日の朝。 『あいつ』と約束したからと頑張って早起きしたのに一向に連絡が来ないものだから、俺はついつい愚痴っぽく零してしまった。 その元凶の『あいつ』とは、隣の家に住んでいる幼馴染。 宿題を一緒にやるのは、まあ今までにも何度もあったことではあるのだが。 自室の窓から様子を窺ってみようとしたが、生憎カーテンが閉まっていてわからなかった。 電話なりメッセなりしてもよかったんだが、どうせ隣同士なんだから直接行った方が早いだろう。 俺はそう判断して、おばさんに声をかけて兵藤家に上がらせてもらったのだ。 あいつは大体夜更かししてるから、俺が様子を見に行くこと自体はまあ割とよくあることだ。 いつも通りに、おばさんも快く通してくれた。 「…いや別に?あいつの寝顔とか別に興味ないけど?」 誰に言っているのかわからない独り言を漏らしつつ、俺は2階にある彼女の部屋の前に立った。 何度も入ったことはあるが…それでも一応女の子の部屋に入るわけで。それなりに緊張はしてしまう。 意味もなくキョロキョロと周りを見てから、俺はそのドアをノックした。 「…返事がないな」 思った以上に熟睡しているのかもしれない。 先ほどよりもうちょっと強めにノックしてみた。 「雫〜?まだ寝てるのか〜?」 ドア越しに声もかけてみて、ようやく反応があった。 「ん…もう、起きてる。入っても、いいよ」 起きてたんかい! まったく…自分から言ってきた約束を忘れてるのか? 「入るぞ〜」 ドアノブを捻って、雫の部屋へ。 いつも通りの見慣れたレイアウトが…!? 「おはよう、牧野くん」 そういう雫は、ベッドの上に寝っ転がって、ゲーム中。 それはいい…いやよくはないが!それどころじゃなかった。 ショートパンツ姿の雫の脚が露わになって…ちょっとでも動いたらその…内部の布製品がちらっと見えてしまう可能性が微粒子レベルで存在するかもしれない。 「なんて恰好してるんだ!?」 一瞬の超速思考の後にどうにかそれだけを口にした。 「?何が?」 「いや何がって…その…」 「?」 本当にわかっていないらしい。ええい仕方ない! 「脚が…というか、もうちょっとでその…ぱんつが」 そこまで言って理解したらしい。見たことのない速さで起き上がって姿勢を正した。 「……みた?」 「見えてない見えてない」 「……(ジト目)」 「本当に見えてないから!」 「…わかった、信じる」 そもそも遅刻したのを怒るはずだったんだが、なんでこっちが責められているんだ? 「って、そんなことより、宿題。やるんだろ?」 「あ。…うん。」 「じゃあ教科書とノート持ってくるから、そっちも準備しといてくれ」 「わかった。…一応、着替えとかないと」 「だから見てないって!まったく…」 などとまた愚痴りながら、雫の部屋を出た。 まあ、なんだかんだ雫の顔を観たら許してしまうんだよな…。 「…って、何にやついてんだよ俺は…」 軽く頬を抓って1階に降りると、俺はおばさんに一声かけて家に戻った。 「明日は一緒に釣りに行くって約束もあるしな、うん。宿題!ちゃんと終わらせないと」 あれ?なんかいつも一緒にいるような気がしてきた…。いや、そんなことないよな、うん。気のせい気のせい。 その後、いつも通りに宿題を始めたんだが…。 雫、いつもアイドルの映像見たり釣りのこと調べたりしてあんまり勉強していないように見えるんだけど、成績はいいんだよな…。 曰く、『授業は面白いからちゃんと聞いてる』らしい。 それで授業についていけてるんだから、地頭がいいってことなんだろうか…。 雫に教えてもらいながら宿題を片付けた後は、いつものようにアイドルのBDを一緒に観て過ごした。 「やっぱり私の推し、最高…!」 いつもは物静かなのに、アイドルのこととなると人一倍よく喋る。本当に好きなんだな。 ライブの映像が終わった後も、雫のマシンガントークはしばらく続いた。 日が沈んだ頃にようやくお開きになって、明日の約束を確認して別れた。 幼馴染同士何となく一緒にいて、そんな日々が楽しい。 そんな俺たちの関係が少しずつ変わっていくのは、まだもう少し先のお話。 終わり。