サカエトル王都警察怪文書   サカエトル王都警察、ウァリトヒロイが王都サカエトルの治安維持のために組織された機関である。  様々な課に分かれ、横断歩道の旗振りから要人警護まで幅広い業務にあたっている。  これはこの国のいたるところで働くお巡りさんたちのお話。  ウァリトヒロイを狭くしよう。  比喩表現ではあるが移動時間の短縮は国を、世界を狭く手の届きやすいものとしてくれる。  侵略行為を想起させるため女王シュティアイセ・アンマナインは否定するがこれもウァリトヒロイ・メッチャヒロイ構想の一つと言えよう。  かくして鉄道敷設計画は始まった。  先日超統領ジョディス・ワシノモンとの会談でセーブナ・ストリップの技術提供が決定、とんとん拍子に開発も進み、王都を縦断する範囲のみではあるものの、ノリと勢いだけで工期1年の鉄道が誕生した。  名前はウァリトヒロイ鉄道、通称ウァリ鉄、ネーミングライツ募集中。  線路は地上げが間に合わない、権利が入り組み過ぎている等の理由で高架を含め地上に作ることはできなかった。  しかし大臣イーンボウに届けられる報告書中の空に描くラインに着想を得て、既存の建築物に増設されたホームに上空を経由して着陸するスーパーリニアスタイルを取るに至った。  最高速度は時速666km、最終的にはセーブナまでこの線路をつなげて行きたいというイーンボウの言葉はリップサービスではないだろう。  そんな無法が本日開通式と相成った。  さて、そういったイベントごと、増してや国家事業のお披露目ともなれば運営に警察が駆り出されるのは自明のことであろう。  リンダ=エドワーズ、リーゼロッテ=ホフアイゼンの両名は警備誘導の名目で夢の超特急に乗り込んでいた。 「いやぁ、すごいね、飛ぶんでしょこれ。役得だねリズ」 「私は…自分で運転してる方が楽しいから、ちょっと不安かも」 「おっ浮いた浮いた、変な感じ」  車窓から見える風景から建物が消えていく。 「ここから666km出るわけ?」 「出ないんじゃないかしら」 「え?割と期待してたんだけど」 「最高時速の話はフレーバー…とは言わないけど、そこに上げきるまで距離が足りないのよ」 「次の駅までに加速しきれないってことね」 「そういうこと。加速はとても鋭いから王都の外周を走ればすぐに最高速には到達するんじゃないかしら」  二人が話しているうちに列車は終着駅にたどり着いた。  先頭車両から順に乗客が降り始める。  当然ながら超統領と女王は乗り込んでおり、この後セレモニーが催される予定である。 「ぼちぼちこっちの番だね」  リンダが車内、リズが車外で乗客を誘導する。  一人また一人と乗客が降りていき最後は少女を連れた母親となった。 「おりるのやぁーあ!」 「わがまま言うんじゃありません。スイマセンね、お巡りさん。」  母親がぐずる娘に車外から呼びかける。   「いいんですよ、ヨシ、じゃあ最後は高い高いで出よっか。アタシのやつは高いぞ~」  リンダが先に降り少女の方向に振り向いた瞬間、発車メロディが鳴り響き、ドアが閉まり始めた。  刹那、リンダに雷光が走る。  ラーヨゥ、リンダの神経、筋力のステータスを短時間飛躍的に上げる増強する魔術。  その超反応により、自身と入れ替わる形とはなったが間一髪で少女を車外に放りだすことに成功した。  リズが滑り込んで少女をキャッチし立たせる。 「ごめんね、怖かったでしょう。すみませんお母さん」 「いえ…ありがとうございます…!良かった…!」  母娘の抱擁にリズが安堵したのも束の間、ホーム中央が騒がしい。  セレモニーの演壇に向かう超統領に暗殺者の白刃が迫る。  何らかの魔術か、卓越した技術か、立ちはだかる警備兵の間を雲のように抜けて女王と超統領の前に立った。 「覚悟ォ!!」  自身の行為を誇示するかの如く、暗殺者は剣を高く振り上げる。 「世刃ちゃん!出番じゃよ!!」  女王シュティアイセの持つ国宝剣「世刃」が振りかかる殺意を前に閃いた。 「ぐっ…!」  放たれた魔力の奔流に暗殺者は吹き飛び、地面に転がっていく。  多数の警備兵が下手人を取り押さえ、騒動は収まった。 「はぁ…良かった…。流石はウチの女王サマだ、一時はどうなるかと思ったけど」  車窓から事態を覗き、目の前でその収束を確認したリンダはほっと胸をなでおろした。 「…ん?」  おかしい。  自分が乗っていたのは最後尾の車両のはずだ。  目の前に演台付近が見えるはずがない。 「ちょっとちょっと!!動いてないコレ!!!」  ほんの数刻前、ここにいる全ての人間は女王と超統領に意識を向けた。  誰も列車が動き始めたことに気が付かなかったのである。 「リンダ!」  事態に気付いたリズの声は届かない。 「リズ!助けてーッ!!」  無論こちらも届いていない。 「キューちゃん!!来て!!」  主の呼びかけに応え、雷光とともに鋼鉄の戦乙女が召喚される。  ワルキューレV12、ホフアイゼンの作りし速度の魔獣。  ドアは操縦者を飲み込むように開き、数分の狂いもなく運転席に収める。 「思いっきり飛ばすわよ!」  リズがアクセルを踏み込み、緩やかに離陸を始めた列車を追走し始めた。  -続く-