「どうにか大阪には着いたが…やっぱりみんなの様子が心配だな…」 直前で決まった、さくらの出演見送り。 何より無念なのはもちろん本人だし、ギリギリまで様子を見た上での判断とはいえこちらとしても心苦しいのは事実。 不幸中の幸いなのは、心臓絡みの体調不良ではなかったことだ。そこだけは、本当に安心した。 参加するメンバーは移動中もみんな明るく振舞ってはいたが…不安の色は隠しきれていなかった。 「ホテルに着いてからミーティングはしたが、明日はなるべく声掛けしていかないとな」 予定の確認も済ませたし、明日は早い。そろそろ休むとしよう。 と、思った矢先。部屋のドアをノックする音が聞こえた。 「…ああ、雫か。どうした?」 扉を開けて確認したら、雫がそこにいた。 その表情は、やはり晴れない。 「ん…寝る前に、ちょっとだけお話し、したくて」 「いいよ、心配事は早めに解消しておいた方がいい。ロビーにでも行くか?」 「うん。…あ、せっかくだから、ホテルの中をお散歩したい」 それで気分転換になるなら、付き合ってあげようか。 「それじゃ、ちょっと回ってみようか」 スリッパから靴に履き替えて、俺は部屋を出た。 歩きながら、雫は気になったものに近づいてはあれこれ話をしてくれた。 やっぱり、どこか落ち着かなさを感じる。俺は雫についていきながら、本題を話してくれるのを待った。 ひとしきり歩いた後、ソファーに座ったところで雫はようやく切り出した。 「…前に、怜ちゃんがライブに出られなかった時も、やっぱり不安だった」 「ああ。あの時も大変だったな…みんなでよくカバーしてくれたよ」 今となっては懐かしいが、あの時とはまた状況が違う。 「今回は、さくらちゃん…。いないと、すごく、寂しい」 「そうだな…さくらのパワーをあらためて感じるよ」 いくらソロライブを経験したとは言っても、本来のグループに戻ってリーダーが不在なのはやはり大きいか。 「何より、さくらちゃんが一番楽しみにしてた。  それに、みんなで一緒に会場のそばにあるテーマパークで遊ぼう、って話してたから、余計に…」 ああ、確かにそんな話をしていたな。 遊園地好きな怜は特に楽しみにしていただろうが…。 「みんなで話して、さくらちゃんと一緒に行きたいから今回はやめておこう、ってなった」 「そうなのか…ライブを成功させるのもだが、遊びに行くのは次回リベンジできるといいな」 「うん。さくらちゃんのためにも、まずはライブを絶対に成功させる」 不安を抱えてるだけではなかったんだな。何であれ、モチベーションに繋がっているなら安心だ。 「それに、久しぶりに瑠依さんと一緒にライブに出られる。ちゃんとしたパフォーマンスをしないと、顔向けできない。  トリエルのパフォーマンスも、すごく楽しみ」 「ああ。今できることを精一杯やろう。それがさくらのためでもあるし、ファンのみんなのためにもなる」 「うん。…話してたら、やる気がどんどん湧いてきた。やっぱり牧野さんは、すごい」 強張っていた表情が緩み、ようやく笑顔が戻ってくれた。 「雫が元気になってくれて安心したよ。明日は頑張ろうな」 「うん。ちゃんと寝て、朝ご飯もしっかり食べて、万全で臨まないと」 「ああ。今からエゴサしたり動画見たりするんじゃないぞ」 「大丈夫。落ち着いたから、ちゃんと寝ます」 「OK。それじゃ、そろそろ戻ろうか」 「うん、牧野さん、ありがとう」 晴れやかな笑顔。これなら大丈夫そうだ。 …明日のライブ、絶対に成功させような。 終わり。