「牧野さん、お疲れ様、です。あと、ハッピーバレンタイン」 2月14日夜。いつも通りの雫の部屋での動画観賞は、その言葉から始まった。 出迎えてくれた雫は、その手に持っていたチョコの包みを俺に手渡してくれた。 「ああ、雫もお疲れ様。これ、わざわざ用意してくれたんだな…」 「うん。…一応、頑張って作ってみた」 「そうなのか…忙しい中ありがとうな。俺も、お土産の代わりにチョコを用意してきたぞ」 「おお…ありがとう、ございます」 雫は俺が渡したチョコを大事そうに抱えると、テーブルに用意されていた沢山のBDの隣に置いた。 …まさか、これ全部観るつもりなのか? そんな俺の疑問を察したのか、雫は今日の趣旨を説明してくれた。 「今日はバレンタインだから、鑑賞会も、特別編。色んなアイドルのバレンタイン曲とMCを、集中的に観る!  いつもとは違う雰囲気で、ドキドキなところをピックアップする」 なるほど、そういうことか。 「それなら、チョコを食べながらのんびり観るとしようか」 「うん。それじゃ、最初は…」 ----- 「ふう、大満足…!みんな可愛くて、最高だった…。  …自分の告白シーンを改めて見るのは、恥ずかしかったけど…」 「はは、でも可愛かったぞ?」 「うう…」 チョコの甘さと、ライブ映像の甘さでなんだかお腹いっぱいだ。 ゆっくり伸びをする雫を見て、時間を確認したらもうすっかり日付が変わっていた。 「そろそろお開きの時間だな」 「ん…チョコ作るのに早起きもしたから、さすがに、眠くなってきた…」 そういう雫の顔には確かに疲れが見える。これは急いで帰った方が良さそうだ。 「感想戦はまた明日にしようか。今日はもう寝た方がいい」 「うん…話したいこと、いっぱいあるけど…また明日にする。  あ、でもこれだけ」 「ん?どうした?」 「…星見プロのみんなのバレンタイン曲で、どれが一番よかった?」 答えにくい…というか、答えられない質問だ! 「いやぁ、みんなそれぞれにいいところがあるから…」 「ん…まあ、そうだよね。それじゃ、最後にもう一つ」 「な、何だ?」 雫は真剣な顔で、言った。 「『誰のチョコが、一番美味しかった?』」 だから答えられないって! 「ど、どれも美味しかったから甲乙つけられないなぁ!」 「…そうだよね、そう言うと、思った」 ようやく笑顔に戻ってくれた。 雫がいつもの調子になってくれたところで、俺は家路についた。 「いつかは、ちゃんと選んでね…?」 去り際に背後から感じた視線に、何だか圧を感じた気がした。 終わり。