王都警察セルフ怪文書 おまけ 【Car Wash】  ここは王都警察車両飼育舎、自家用でないクルマたちはこの厩舎で生活している。 「ひさびさだねぇ~フォルデ。ブラッシングしてあげるよ~」  オフェリアが厩舎の洗車スペースまでフォルデを誘導する。  春が近いとはいえ、まだまだ風が吹けば寒い今日この頃、オフェリアは手袋越しでも指先が悴むのを感じる。  一方フォルデといえば寒さなどなんのその、V6ツインターボの心臓はホカホカである。 「あ、オペ子センパイじゃないですか。手伝いますよ」  通りかかったリンダが柵の外から声をかける。 「間に合ってるわよ。それに貴方外…もう登ってるし…」  敷地を隔てる柵を乗り越えて内側にリンダが着地する。 「いやーフォルデはでっかいね。キューちゃんの何倍よ。  頭?の上の方も磨いてあげましょうね~」 「貴方傷の方はもういいの?超特急の時はボコボコだったじゃない」 「肉体はもうピンピンしてますよ。  どっちかといえば辛いのは胃の方ですかね…」  リンダは先の超特急暴走事件のお礼にセーブナグルメを腹一杯食わされて胃をやられていた。 「本場のハンバーガーをお腹いっぱい食べたいなんて言うからよ」 「超統領さんは言った分の1.5倍はくれるんですよ。  とても良い人です、とても」    腹を摩りながらリンダが渋い顔をする。   「そういえば、今日はリズは一緒じゃないの?」 「あー、特急の時に頭使いすぎたのでちょっと病院です。  もうほとんど大丈夫そうなんですけどね」  意識のオーバーライドに加えて列車の操縦、そして超高速域でのクルマの操舵は一般的のヒトができる情報処理の許容量を超えていたようでリズはしばらく病院通いを余儀なくされていた。 「貴方たち二人は軽い感覚で無理するんだから、身体は労わらなきゃダメよ、お互いに。  あ、ブラシで荷台流してもらっていいかしら」 「合点です。あの時はみんな必死だったと思いますよ。センパイもそうでしょ?」 「それはまあ、そうだけど…」  リンダが荷台に上ってブラシをかける。  オフェリアは車輪脚部にフォームをかけて磨いている。 「そういや、センパイはバレンタインの時にチョコ配布参加してなかったですね。  イイヒト見つかるかもしれないじゃないですか」 「社内恋愛はちょっとね…」 「そんなこと言ってるから…」 「何?」 「いえ? 何も?」  なぜ見え見えの地雷を踏みに行ってしまったのか自分でもよくわからないリンダである。 「貴方もこれは!って思ったヒトがいたらちゃんとアタックした方がいいわよ」 「含蓄があるお言葉ですね、あっ」 「言葉の判断が鈍ってるわね。貴方も診てもらったらどう?  …まぁ、バディ以上の関係を望むなら付かず離れずって意識じゃダメよ」 「はい?」 「煮え切らない関係はほっとくとグズグズになるって話」 「いや、その、リズとは友達というか…」 「このご時世、男とか女とかそういうのでもないでしょ」 「は…はぁ…」 「じゃあ荷台降りて。全部流すから」  言葉なくフォルデから降りるリンダ。  オフェリアが車体全体に水をかけ、フォームを洗い落とす。 「意識のオーバーライドなんて無理やりじゃなきゃ相当よ」 「いや、ハハハ」 「ま、頑張んなさいね」    きれいに水気を拭きとり、再度フォルデに乗り込むとオフェリアは去っていった。 「…病院、迎えに行くかな」  日差しは温かく、風の中には春がほのかに薫る。  王都サカエトルにも春遠からじ。