「みんな、今日のライブお疲れ様。さくらの不在を本当によくカバーしてくれたな…」 ライブの終了から数日後。俺たちは星見プロの寮でささやかな打ち上げを催していた。 さくらもどうにか回復して、最初は遠慮していたもののみんなの声を受けてこの場に参加している。 みんなはさくらを囲んで、大阪のお土産を広げて盛り上がっていた。 ライブが終わった直後もだが、これで俺もようやく本当に安心できたというものだ。 「牧野さん、ちゃんと食べてる…?」 「ん?ああ、雫か。大丈夫、ちょっとぼーっとしてただけだ。いただいてるよ」 見ると、紙皿にオードブルから取り分けて来てくれたらしい。 せっかくの厚意を無駄にするわけにもいかない。俺は紙皿を受け取って、唐揚げをつまんだ。 「さくらちゃん、帰って来てくれてよかった」 「ああ…こまめに連絡は取っていたが、やっぱり直接元気な姿を見たら安心したよ」 「私も…ううん、私たちも」 みんなに囲まれて、いつもの『完全復活のポーズ』を決めているさくら。 病み上がりということもあって仕事への本格的な復帰はもう少し先にはなるものの、ひと段落ついたという気持ちになる。 「雫も、さくらの分まで大変だったよな。  特に今回のライブではサニピとトリエルの間を繋ぐ役を任せてしまったけど、よくこなしてくれたよ」 「うん。トリエルに…瑠依さんにバトンを渡す役目…昔の私だったら、話を振られた時点で無理って言ってたと思う」 雫は、今までの色々なことを思い出しているのだろう。静かに目を閉じていた。 「でも、みんなでサニピの曲を歌って、千紗ちゃんと『Tiny Tiny Drops』を一緒に歌って。  それから瑠依さんと一緒に『クロッカスの扉』を歌って、ソロ曲の『あまやかに、あざやかに』を歌う瑠依さんを送り出す…。  こんな夢みたいなセトリ、もしかしたらもう二度とないかもしれない…。  そう思ったら、絶対にやりたいって、思った」 雫が自信を持てるようになったきっかけは、間違いなく瑠依と一緒に歌うことができたところからだっただろう。 トリエルのことをずっと気にしていたことも知っている。 だからこそ、この役目は雫に任せたい。俺はそう思ったんだ。 「そうね、私も久しぶりに雫と一緒に歌えて…また同じステージの上に立てて、本当に力をもらえたわ」 「る、瑠依さん!?あわわ、恐縮です…!」 いつの間にか、瑠依が俺たちのそばまで来ていた。雫は慌てて立ち上がって、ペコペコしっぱなしになっている。 …そういえば、ステージ上でもMC中はずっとトリエルの方を拝んでいたっけな…。 「わ、私も…雫ちゃんと一緒に歌えて、嬉しかったよ」 「千紗ちゃん!うん、私も…すごく楽しかった…!一緒に歌ってくれて、ありがとう…」 一転して、千紗とは手を繋いで和気藹々といった様子だ。 「それで、雫は」 ん? 「私と千紗、二人と歌ったわけよね?」 「ど、どっちが楽しかったかな?なんて…」 なんか雲行きが怪しくなってきたぞ。 「えええ!?そ、そんなの、選べない…!  千紗ちゃんはめちゃくちゃ可愛くて隣にいるだけでも幸せだし、瑠依さんは私の推しでソロ曲のお披露目を一番近くで浴びて限界だったし…!  わ、私はどうすれば…!」 グルグル目で頭を抱える雫。 そ、そこまで思い詰めることはないんじゃないか? 「ちょ、ちょっと待って雫!冗談よ、冗談だから!」 「でも、そこまで真剣に考えてくれるのは、嬉しいな。  困らせてごめんね、雫ちゃん」 二人に抱きしめられた雫は、さっきとは別な方向で固まった。 「うおお…これは夢?あっちょっと無理、しんどい」 それだけ言って、雫は意識を手放した。…すごくいい顔で気絶している。 まあ、なんだ。 瑠依がこうやって冗談を言ったりできるようになったのも、心の余裕ができたからだよな。 サニピとトリエルのライブはこれで本当に一区切り。次は月ストとリズノワの番だ。 この会を終えたら、俺も気持ちを切り替えないとな…。 瑠依と千紗に運ばれていく雫を見送りながら、俺はそんなことを考えていたのだった。 終わり。