【その日が訪れた】 【ヴリッグズ】 それは雪の舞い落ちる日だった。 サーヴァインとイザベルが突如俺達の、クリストの旦那の所を訪れたんだ。真っ青に強張った顔と据わった目に、俺もイザベラとジュダの姉さんたちも不吉なものを覚えた。 二人が言うにはエビルソードの居場所を捉えたらしい。なぜか配下は不在で、ププールという魔導士が側にいるだけとか言ってた。 もうわかったろ。仇討を旦那に持ち掛けてきたんだ。 旦那は誘いに乗った。 『返り討ちに会うだけ』 姉さんたちは危険だと必死に反対した。 『成否の問題ではないのです。これは亡き聖騎士たちの名誉がかかってる』 旦那は首を横に振った。せめて自分たちも参加させてとイザベラの姐さんは頼んだ、いや哀願した。 『必要ありません』 『いらん、むしろ邪魔だイザベラ殿』 『俺もハナコたちと別れた。これは聖騎士の戦いだ』 姉さんたちは凍り付いた。あんなに冷たい旦那の態度は初めて見たぜ。今思うと、無理して突き放した態度してたんだな。 『わかってください。死地に飛び込むことによって生きる命もあることを』 泣きじゃくるイザベラの姐さんの肩に手を置いて旦那は訴えた。あんなに悲しくも、美しい光景は俺は初めて見た。 【ジャンク・ダルク】 アタシにエビルソードへの仇討の声がかかったのはいい。だが一つ不満があった。 「アタシが四番目なのはなんでだよ!オラあアァァァン!!?」 三人は顔を見合わせ、代表してイザベルが応えた。 「頭に思いついた順だ」「正直だな!」 哄笑してアタシは拳を突き出した。笑ってイザベルが義手を、次いでクリストの奴がいつもの遠慮気味の笑みで拳を、最後にサーヴァインの奴が仏頂面で拳を突き出した。盟約は成った。 「他は?」「時間がない。これ以上は呼べん」 アタシは内心ほっとした。ゾルデも声を掛けるのかとちょっっとだけ気にかかってた。 「別れは済ませたか?」 「ああ、スナイプにはぶん殴られたが」 「…苦い別れになってしまいましたが」 答えないイザベルに三人の目が向くと、顔を反らす。黙って抜けやがったなこいつ。 「…まあいいさ、こんなに綺麗な雪を最後に見れた」 笑って三人は頷く。覚悟はとっくに澄ました顔つきにまたアタシは笑みが浮かぶ。聖騎士の旗を掴んで掲げる。イザベルも、サーヴァインも、クリストもそれを見上げる。 「さあ行こうぜ!お礼参りによ!」 おうっと三人が叫ぶ。それが愉快でアタシはまた笑った。 【サーヴァイン・ヴァーズギルト】 その報せを最初に聞いた時、思考が白く染まったようだった。 一瞬の忘我の後、耐え難い熱を胸の奥に感じた。俺はすぐさま思考を巡らせる。 その情報の真偽は? 罠? ……いや、それはあるまい。何せ『あの』エビルソード軍なのだ。 此処からの距離。時間。───猶予。 問題ない。今すぐに向かえば。 ……。……こいつらはどうする? ふと、そんな思考がよぎった。そして、そんなことを考えている自分自身に気付いて、俺は愕然とした。 知らず、口元に自嘲の笑みが浮かぶ。 「なんだ……俺も、クリストを嗤えた身ではなかったようだ」 書き置きには、「旅を終わらせに行く。探すな」とだけ書いた。 【コージン・ミレーン】 「頼む、私を連れて行ってくれ」 コージンの懇願をクリストは冷たく断った。 「駄目です。貴方を死なせることはできません」 「なぜだ」 悲し気に叫ぶコージンをちらりと見ると、ギルは言い放った。 「お前はまだすべきことがある」 「なんだそれは!私に何をしろと!祖国を傷つけ魔人と化したこの私に!」 イザベルはコージンの背後を指さして叱咤する。 「あの者達を見て同じ言葉を吐けるか!コージン・ディ・レンハート!」 涙で腫れた目でコージンが振り払ると。驚愕で目を見開いた。 そこには二人の子供がいた。シロ、そしてブラックライト。二人の肩に手を置きながらウラヴレイも、無言で何かを語り掛けるようにコージンを見つめている。 「お前はまだ檜舞台は早え。大黒柱が先走んなよ」 ぐっとジャンクが拳を突き出す。 ガクッと膝をつくコージンの肩を叩くと、ジャンクは先を行く三人の後を追いかけていった。 【ギル・ハナコPT】 「ふざけんじゃないわよあの野郎!!」 「アズちゃん…男には一人で行かなきゃならない戦いってもんがあるんだ…」 「はあ!?訳分かんない!一人でやるより四人でやった方が絶対強いじゃない!ねえメトリ!」 「同意です、ギルにしては珍しく極めて非効率的な判断です」 「いや…そういう問題じゃ…」 「二人とも!とっととあのバカ追いかけるわよ!」 「了解です」 (あちゃー、格好つかねえなあ…ギルよ) 【イゾウ/ミサ】 目を開くとイゾウの目の前のテーブルにメモが置かれていた。そこにはこう書かれていた。「貴方の志にこの身体を捧げます」と。 「礼を言うぜ」 イゾウは呟くと、宿を飛び出し死に場所に向けて馬で駆けていく。 エビルソードの居場所を補足したとイザベルから聞いた時、咄嗟に反応できなかった。 (ミサはどうなる?) 依代となっているこの身体の持ち主のミサのことを思うと体が動かなかった。 イゾウの事情を察したのだろう。イザベルは「忘れろ」と呟き身を翻し、瞬く間に馬に乗ると駆け去っていった。 「俺は多分地獄に落ちるな」 当然だろう。聖都とは全く無関係のシスターを道連れにするのだ。それも一度死に、成仏できずこの世に魂を縛り付けられた男が。 だが、それを良しとミサは言ったのだ。志とは何とも憎い殺し文句ではないか。イゾウは駆けながら笑う。 「もし生きて出会えていたらきっと口説いてたぜ」 理解されなくていい。外道と罵られてもいい。ただ一つ、今度こそエビルソードを討つ。この願いをミサは叶えよというのだ。最早イゾウに躊躇いはない。 「主なる神よ、私たちに限りない恵みを」 知らずのうちに神への言葉がイゾウの口から洩れた。 【魔術師マーリン】 マーリンは聖騎士たちの前に立ちはだかる。 「おい、馬鹿止めろ!死にたがりども!」 ギルが睨みつけると一瞬怯んだが、それでも彼等の前から去ろうとはしない。 「じゃあクリストだけでも置いてけ!こいつにそんな価値ねえだろ!」 周りの聖騎士たちがクリストを見る。ため息を吐いてクリストが前に出た。 「マーリン。わかれとは言いません。ただどいてください」「馬鹿野郎!おまえイザベラ達はどうした!」「別れは済ませました。理解してもらえましたよ」 無表情で言ったクリストの言葉にかッとなったマーリンは握り拳を振るうが、容易くクリストは彼の腕を掴んだ。 「ぐう…」「マーリン、一度しか言いませんからよく聞いてください」 腕を掴んだままクリストはマーリンに語り掛ける。その穏やかな顔にマーリンの気勢が削がれる。 「僕は貴方が嫌いだった。信条も経歴も性格も何もかも正反対で、しかも詐欺師という僕への当てつけのような貴方が」 「ああそうかい…!」 「でも、それでもこの世界で嘘を武器に渡り歩く貴方に、もしかしたら嫉妬していたのかもしれない」 ポカンとした顔を浮かべるマーリンにしてやったりとクリストは笑う。 「去らば友よ」 【ヘルマリィ】 「行ってしまいましたか…」 がらんとした自室の寒々しさに、彼女が去った影響の大きさを実感しながらヘルマリィは呟く。 ティーカップを口に付ける。この茶葉もイザベルが甘口が好きだというのでわざわざ取り寄せたのに、もう無駄になってしまった。 「私、甘い紅茶は得意ではないのですよ」 菓子を手に取りしげしげと眺めると口に含む。思い返されるのは無表情でハムスターのように頬張るイザベルの姿。 「そんなに菓子を食べると糖尿病になってしまいますよ、って何度注意したかしら…」 椅子から立ち上がると執務室に向かい、ヘルマリィは一枚の紙を手にする。それはイザベルと結んだ雇用契約書。 「無断退職は労働契約違反ってカンラークでは教わらないんでしょうか?」 思わず苦笑いが零れる。ヘルマリィはその契約書を破ろうとして、また机の上に置いた。 「戻ってきたら労働法についても彼女に教えてあげる必要がありますね」 げんなりしたイザベルの姿が脳裏に浮かんで、ヘルマリィは一人笑う。 「だから、必ずや生きて戻ってくるのですよ…イザベル…」