【ゾルデ怪文書まとめ】 「今はまだ、お前がここに来る時ではない」 魔王軍の猛者が集うエビルソード軍、その幹部を務める仮面の侯爵が告げた言葉に、聖騎士ゾルデは食ってかかる。 「そんな仮面で同じ飯を食べた聖都の騎士を誤魔化せると思いますか!ボーリャック先輩!」 その気迫を受けてか、後ろからさらに歩み出る者が1人 「あー…、やっぱりゾルデちゃんは追い返せないね、わかっちゃうんだ、この先に何があるか…。まあわかってやってよ、こいつも意地悪で追い返そうとしてるんじゃないんだよ」 死せる聖女、マリアンだった。 「マリアンさん…その姿は…。いえ、わかっています、ボーリャック先輩もあなたも無意味に私の前に立ち塞がるような人ではないと」 もはや意味を為さぬ仮面を外し、勇者ボーリャックが応じる。 「そこまでわかっていて、この先を見ると言うんだな?見た後の君が、激高か、悲嘆か、それとも覚悟か、何を受けてどうするかまではわからないが」 聖女マリアンがその後を言い聞かせるように続けた。 「ゾルデちゃんがどうなるにせよ、ここで無謀に命を捨てるような選択をすることだけは、私たちは許さない。それでいい?」 ゾルデの喉が鳴った。あらゆる不安や恐れを嚥下して、聖騎士は前を見据える。 「はい、何を見ることになろうと私はこの先を知って、動かなければなりません。私にとって、師匠とは決して諦められない存在です」 ******************** 師匠を失ってから、クレープなんて食べてなかったから、本当に美味しくて涙が出そうだった。 「美味しいですか、ゾルデさん?」 「はい!」 「うむ!今回はワシのおごりじゃ!どんどん食べるがよいぞ!」 ティアさんとクリストさんにクレープ屋に連れてきてもらった私はカスタードに舌鼓を打っていた。 瞬く間に食べ終え、次にバナナチョコを頼むと、二人は笑って快く購入してくれた。 「美味しかったです!ありがとうございました」 「いえいえ、これくらいしかできなくてすいません」 クリストさんが恐縮したように手を振る。 「そんなことありません!クリストさんは私の話をまともに聞いてくれました。そして、真相を知る糸口を教えてくれました」 「…後はお願いします。"女王陛下"」 一礼してクリストさんが去っていく。私は去っていくクリストさんの背に深々とお辞儀をした。 「…さて、最後に問うが、お主は引き返す気ははないかのう?今ならまだ間に合うんじゃが」 愚問だ。考えに考えた結果の結論だ。私の決意は揺らがないと察したのかティア陛下はため息を吐いた。 「…わかった。ついてこい聖騎士ゾルデよ。ボーリャックに合わせてやろう」 ******************** 「ゾルデ、だと?」  旅の途中。  反対方向からやってきた商人が、この先の村に続く森で魔物に襲われ、出くわした聖騎士に助けられたのだという。  それだけでも棺桶を背負った男にとっては驚くべきことだったが、何より彼の表情を強張らせたのはその名である。  「え、ええ。寡黙ながら鋭い剣気をまとった少女でした。……お知り合いで?」 「……いや」  その名は、似て非なるものだ。  その外見は、明らかに記憶と食い違うものだ。  だが……あの日起こった惨劇で散った者達。そのリストの中に、“彼”の名は無かった。 「……聖騎士、ゾルデ」  反芻するように呟き、男は昏い視線を道の先へと向けた。  鬱蒼と茂った森へと続く小道。昼でも陽の射さぬ暗がりへ誘われるように、棺桶の男は歩き出した。 ******************** 「アンタがコイツの知り合いって事は分かったッス」 「……私はその方の弟子だ」 「ふーん。別に返してやっても良かったんスよ。どうせウチらの手を離れてもゾンビになっちまったコイツは殺すしかないッスから」 「ッ……」 「でもアンタ、斬っちまったスよ。戦闘員でもなんでもないウチの仲間を。マリちゃんが治してくれてるっぽいから良いとするッスけど」 「……やはりあの方は……」 「……この際誰と知り合いで誰とどんな関係とかどうでもいいッス。マジになるのはウチのキャラじゃないスけど、手を出されたらそれなりに覚悟はキメて貰わなきゃいけないんスよ……コレ奥の手なんスけどね……」 「召喚……? お前……!?あの時の……!?」 「何スか?エビルソード様とも会ってんスか?となると……聖都の件スかね?ご愁傷様ッス。……悪いスけど燃費良くないスから短期決戦で行かせてもらうッスよ。エビルソード様とナナナナイト……ウチの最大戦力で潰させてもらうッス」 「……お前が……お前があの日の元凶かああああ!」 「おー、またなんか地雷踏んだッスね。多分違うけどそういう事にしたまま死んでくれッス」 ******************** 「師匠が…師匠がアンデッドになってそんな苦しみを…!」 聖騎士ゾルデの顔が歪む。探し求めた己の師、そのあまりの非業を思うと力がこもった。 「ゾルデちゃん少し力抜きなよ、教えといてなんだけど、気負いすぎたらだめ」 マリアンが鎮静を促す、その首元には生々しい傷の縫合跡が見える。 「ゾルデルの野郎が…チッ、けったくそ悪い。俺だって今すぐ魔王軍に突っこみてえぞ」「ゾルデさん、親しい人を想うその優しさこそ得難きもの。どうかその師匠のためにも、御身を大切になさるよう…」 イゾウが吐き捨てるように悔やみ、入れ替わるようにミサが聖女としての慈愛を示す。 「ゾルデ殿の心意気は某にも十分伝わりました、あの初々しい見習い騎士がよくぞここまで練られたもの。ゾルデル殿の意志は今も健在ですな」 襤褸切れの前で、敬礼のように剣が舞った。スリップス、身体を失うも、魂をマントに宿し戦う聖騎士である。 「みんな…」 ゾルデの顔が少し和らいだ、悲劇があってなお、今もカンラーク仲間たちがいるのだ。 そしてこうも思う。 (この人たちもみんな死んでからアンデッドになってるのに、師匠だけ拒絶反応くらいまくってるのめちゃくちゃ運悪くない!?) ******************** クリストは最初これまでに彼女と出会った聖騎士とは違い、ゾルデの話した内容を疑わなかった。 "あのお方"から教わった知識で心当たりがあったからだ。 「ネクロマンサーって知ってますか?」 「えっと…死体を操って使役する呪術師ですか…?」 ゾルデの答えに「一応、正解です」と首を縦に振った。 「魔王軍には、様々な、人間なら封印指定を受けるような恐ろしい魔法使いや、人の道に外れた施術を行う魔物もおります」 たとえば、とクリストはボーリャックによって得た知識を口にする。 「死者をゾンビとして肉体は死にながら、なお魂を今世に縛り付け活動させる術」 「人間の死骸を解体しては繋ぎ合わせ、人ですらないおぞましい存在に変えてしまう人智を超えた技術」 クリストの口から語られるおぞましい話に、吐き気を催したゾルデは耐えきれず口を押える。 「…すいません、やはり貴女にこのような話聞かせるべきではなかった」 「…いいえ、大丈夫です」 見つけた。ゾルデは確信を得た。この人は真相を得るカギを握っている一人だ。 「会わせてください!貴方にその事実を教えてくださった方に」 ゾルデは深々と頭を下げて懇願した。 ******************** 神妙な顔で自分を呼んだマーリンを見た時、ハルナは既に嫌な予感がしていた。後ろに続いてきたクリストと見知らぬ女の騎士を見た時、予感は確信へと変わった。 依頼を聞いた時、まず頭に思いついたのはマーリンをぶちのめすことだった。 「ハルナラリアット!」「ぎょえー!!」 一回転して大地とキスしたマーリンを放ってクリストを見る。 「お断りです。私には無理です」 「お願いしますカゲツさん!ゾルデさんの力になってください!」 「今カゲツって言った!」 横たわってるマーリンを睨むと、冷や汗をかきながら口笛を吹いてた。 「…私は足抜けしました。今更関わりたくない」 「お願いします!あの時、師匠が行方不明となった真相をどうしても知りたいのです!」 直角と言える角度で頭を下げるゾルデ。クリストも深々と頭を下げる。 (この人といいユイリア達といい、みんな他人の為に行動するお人よしばかり…) 隠密の感が断れと全力で叫ぶ。でも、ゾルデの体が震えてるのに気づいた時、「わかった」と、口が勝手に動いていた。 途端にゾルデとクリストが笑って顔を見合わせる。 「な?うまくいったろ」とドヤ顔のマーリンがやけに憎たらしかった。 ******************** 「あー……やっぱりスか。なんかキナ臭い奴とは思ってたッスけど……」 「悪いがその子を殺させるわけにはいかない」 「……あなたは……」 「今どういう状況か分かった上での介入スよね?分かっててもそっちにいるのはおかしいスけど。ね?ボーリャック…さ…敵なら敬称はもういっスかね」 「早く逃げろゾルデ。流石にエビルソードとナナナナイト……いや、ゾルデルを同時に相手にするのは俺でもキツい」 「で、でも!」 「あーもーうるせッスよ。裏切りって事でいいスよね?すぐ終わるだったのに余計なことしないで欲しいッスよ……仕方ないから追加ッス」 「「ッ!?」」 「……アンタの戦闘なら遠征でずっと見てたからこのコピーも遜色ないハズっスよ……ついでにマリちゃんコピーも足してやるッス……ぅぶ…オェエ……流石にアンタの追加召喚はキツぅ……ウチだって戦闘員じゃないんスからよってたかっていじめないで欲しいスよ……ゔぇ……」 「チッ、非戦闘員が出せる戦力じゃないだろうが!」 「鼻血は止まらないし頭ん中ブチブチ言ってるし……立ってんのも結構ヤバ……あ、ダメっス……流石に即殺すッスよ……」 ******************** 「現世一番乗りー♥ってゾルデちゃんじゃない、おっきくなったわねえどしたの?」 「ゾルデル?あの世じゃあ見なかったなあ、おじさん勝手にオッサン仲間だと思ってたから会いたかったんだけどねえ」 「セイーッ!」 「俺らが夢虚渦使うと何故かいつも怒る死神さんもゾルデルの名前を記録してたことはなかったが…」 「セイーッ?」 「生きてるんじゃないのか?何?それはないと?」 「…君は師匠の討ち死にを見ていたのか、それは…辛かったな」 「しかしだとするとヨミ国にゾルデルがいなかったのは変だな?」 「セイーッ…?」 「怯むな!死んだはずのゾルデルと我らがヨミで会ってない理由はわからん、だが君は手がかりがなかろうと探すのだろう?聖騎士ゾルデ」 世の中不思議な巡り合わせというものはある、ゾルデはそう感じていた。 まさかあの日死んでいったみんなとまた逢えるとは、「夢虚渦」というものについてはよくわからなかったが。 で、あれば。きっと自分と師を再び結びつける巡り合わせも必ずある、やることは何も変わらない。自分の旅を続けるのみだ。 ******************** 「あー、ひどい目に遭ったッス。ね?マリちゃんもそう思うッスよねー?」 「……ぅあー……」 「うんうん分かるッス分かるッス。バカな事したッスよねー?あのボーリャックとかいう男、たかだかゾルデとかいう小娘1人死んだところで誰も悲しまないのに魔王軍裏切ってボロボロになっても助けちまうんスから。いやー、流石にあの人数は予想以上に魔力が早く尽きちまったッス!」 「あぅー……」 「それでウチは魔力切れ起こした上に無茶して死にかけッスよ。ナナナナイトに抱っこしてもらって運んで貰わなきゃ、あそこで死んでたッス!全く洒落にならねーッス!」 「……それだけ文句が言える元気があるならもう辞めようか?」 「いやーまだまだ身体しんどいッスー!ネクマスちゃんの膝枕なんか滅多に味わえないんスから楽しませて貰うッスよー!……マリちゃんちょっとおっぱいつつかないで欲しいッス、ちょっとの揺れでも今キツ痛たたたたたたた」