1.  私にとって、かけがえのないもの。  私のコードネームから名を与えた、ハンディーガール。  私の、娘。  このが私にもたらしてくれたのは、今までの人生にはなかった「彩り」だ。  いい人を見つけたりはしていないけど、母親になった事実は、私に新しい景色を見せてくれた。  子供を育てる経験は発見に満ちていて、今までの生活で使ってこなかった領域を拡張している感覚になる。  でも……施設から連れ出したこの子は……大切であると同時に、いつか私の重荷になってしまうんじゃないか。  あまりにも冷酷だけど、そう不安にならざるを得ない世界で私は生きていたから。 ──それは、とんだ思い上がりだった。 「くっ……!」  任務とは無関係に、日常の中で私は拉致された。  尾行の気配も、殺気もなく忍び寄ってきた「何者か」に昏倒させられた。  そう、敵の正体を悟ることすらできずに、私は捕まってしまった……。  なんてざまだ。  今の私はただ一人、この一室で銀色の椅子に座らされている。  服は真っ白のものに着替えさせられていて、病人みたいな気分になる。  肘から先は肘起きに挟み込まれていて、どうなっているのかすらわからない。  足先は動かない靴のようなものに差し込まれているし、腿や脛は黒いベルトが固定している。  腰も、首も……胸の上下もベルトで巻かれている。  力を込めてもギチギチとか、ガチャガチャなんて音がなる余地すらなかった。 「逃がしたくない」以上に、「動かしたくない」という意図が感じさせられる厳重な拘束だった。  一切の心理的効果を期待していなさそうな、無機質なこの部屋は、視線を動かせば何かしらの装置だらけで……この光景には少し見覚えがあった。  意味の無い分析を終えたところで、誰かが二人、部屋に入ってきた。  違う、二人じゃない。  一人と一機。  人間のほうは線が細く、目の下に隈がある白衣の男性。  くたびれているのが一目でわかる。  疲れている時、人は判断力が落ちる。  口車に乗せることもできるかもしれない。  機械のほうは、女性型。  整った顔と体型をしているが、その均整さにかえって違和感がある。  まだまだ人間らしさには程遠いな、等と内心で嘲ってみる。  男のほうが手持ちの機械を私にかざすと、何やら分析を始めたようだ。 「コードネーム、ハンディーレディ。生体情報を確認……一致。処置の許可を申請します」 「へぇ、『今の気持ちは?』とか『いい格好だな』とか言ったりしないんだ。真面目で好きよ、そういうのは」  どんな相手でもフランクに話しかけるのは、常套手段だ。  一種の親近感を抱かせることが期待できる。 「……はぁ。私情を挟んで余計なお遊びが許されるほどの立場でもないんだ。自分の失態を取り返すまではな。つーかもうストレスで勃たん。」  男の反応は著しくなかった。  ノリノリで会話に応じるふりをする人間よりかは、忠実にやってるタイプのほうが望みはあるけど。  いや、それよりも……。 “失態”  見覚えのあるこの部屋の意匠が、最悪の答えを結実させようとしていた。 「お前が盗んだ少女は私の管轄の研究対象だった。取り返すために作ったのが『こいつ』だよ」 「……!」  どうやら交渉の余地は、最初からなかったらしい。  殺気を感じなかったのは、機械人形に襲われたから。  なるほど、人間らしさが無いほうが私には効果的だったわけだ。  それよりもハンディーガールを捕らえ、研究していたのは彼だった。  今もなお、諦めていない。  だとすれば、どうにかしなければならないのに。 「最初は憎しみもあったけど、なんかもう疲れた。こいつはさっさと終わらせたいと思ってたらいつの間にかできた。少女を取り返してもまたお前が奪いに来るだろ?だから先にお前から捕らえることにしたんだ」  早口で、相手に聞かせるつもりがなさそうな発言を、緊張しながら耳に入れた私は焦燥感に駆られる。  もう、自分ではこの状況をどうすることもできない。  私にできるのは、狙われているハンディーガールの無事を祈ることだけだった。  彼女のことを心配できるような、偉そうなことを考えられる身ではなかったんだ、私は。 「おっ、承認が下りた。じゃあ始めるぞー」 「な、何をする気なの……!」  いよいよ余裕がなくなってきて、思わず出した声は震えていた。  今までの人生において、こんなに追い詰められたことはなかった。  あるとしたら、そこで私は終わっている筈だから。  これもある種、未知の経験に足を踏み入れてしまったんだな、なんて考えが一瞬だけ過ぎる。 「別に大したことじゃない。お前はあの子と違って研究対象とか、そういう訳でもないから。わざわざ飼う理由もないし遠くないうちに解放するさ。絡んだ記憶を消した後でな」 「いっ……!」  嫌だ。  惨すぎる。  なんでもないことのように言われたそれが……私にとって一番恐ろしいことだった。  ハンディーガールと思い出がなくなる?  ありえない。  彼女と一緒に過ごして、その経験で自分が変わった自覚がある。  それも全部、初期化されてしまうの……? 「いやあああぁぁぁぁぁ!!!!」  自分の喉がキリキリするほどに声を上げたのは、いつぶりだろうか。  体裁も何も取り繕わず、理性のフィルターも通さない、純粋な心の叫びだった。  でも、それしかできないのが今の私だった。 「うおっ、急に叫ぶなよ」  男が手元のデバイスを操作すると、振り回していた頭が、両側から何かに挟まれた。  恐らく、これも機械の一つ。  完全に抑え込まれて、とうとう私には動かせる部位がなくなってしまった。 「離して!離せぇぇぇ!!!」 「対象の抵抗を確認」  死に物狂いで力を込めるけど、何も成せない。  目を開けば女性型の機械人形が両側にベルトの生えた球体を私の顔に近付けてきた。  それが何かを知らない程、私は無垢ではない。  口を閉じて、必死に抵抗する。  びりっ。 「っあっ!?……むぐっ!?」 「対象の口腔を開かせ、ボールギャグを装着しました。これでよろしいでしょうか」 「上出来だ」  やっぱり無理だ。  機械人形に電気を流されて、口を開かざるを得なかった。  こうして私は、声を出す権利も奪われた。 「余計な手間が増えたけど、そろそろ始めるぞー」 「ううううーーーー!!」  上からバイザーのようなものが降りてきて、取り付けられた。  視界が真っ暗になる。  殺風景な部屋とはいえ、私は視る自由すら失った。  記憶を消されるとは言ったけど、具体的にどういう方法かはわからない。  いよいよ泣くほどに、私は取り乱していた。  頬をつたい、首から胸に涙が落ちていく。  ごおおん、とバイザーが作動したのが音でわかる。  もう始まっているんだろうか。  まだハンディーガールの記憶はある、思い出せる。  消されないように、ちゃんと念じて……。 「んうっ!?」  なに、いまの。  何かすごく、心地のの良い感覚が過ぎった気がする。  いや、ありえない。  こんな状 「あうっ♡」  ま、まただ。  気のせいじゃない……。  これが異変なのは、すぐにわかる。  多分、この感覚を伴って消していくんだ……。  忘れない、忘れないように……。 「んっ♡」 「あうううっ♡」 「んう~っ♡♡」  そうやってしばらく耐えてきたけど、甘い、甘い気持ちになってきた。  なんで幸せなの?私は。 「うーん、想定より遅いなぁ。プラン2で」 「承知しました」 「ん?」  何か、股間に当たって……うああああああっ!??!? 「んおああああっ!!!???」  わ、わたしのまんこ何かでぶるぶるされて……♡♡♡  ッ……あああああ!!!!!  ま、また幸せな感覚がき……キた……。 「い゛う゛ううううう!!!」  ぶしゃっと、衣服の中で潮を吹いてしまった。  でも、この振動止まってくれないぃぃ♡♡  多分これ……頭の中と身体の両方で……んあああっ♡♡ 「んぼおおおおっ!!!」  イッちゃったあ♡♡ うああっ♡また……!! 「記憶消去シークエンス、効率上昇を確認」 「よし、その方向性で進めようか」  え?私、今記憶消えてるの。  “あの子”のこと、消えてほしくないのにんおおおおおお!? 「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛っ!!」  おっぱいの先端もぶるぶるされて、乳首きもちいいいいい♡♡♡♡  今までより余計にイって……っあああああ!!!  また幸せ流されてるうううぅぅ!!!!  イって、気持ち良くなって、イって、気持ち良いの流されて、どうしようもないぃぃ♡♡♡♡ 「んぐううううう!!!ぶうううううう!!!むぐああああ!!うあああああっ!!!!」  イく♡♡いク♡♡イク♡♡いく♡♡幸せ♡♡私、今一番幸せぇぇぇ♡♡♡♡♡♡ 2.  お母さんが連れていかれたのは、ここだ。  偶然見かけてなかったら、絶対気付かなかった。 ……また来ることになるなんて、思いもしなかったなぁ。  警察は……たぶん頼れない。  私自体が盗品だから、結局お母さんの捕まる先が変わるだけ。  大丈夫、お母さんからいっぱいお仕事教えてもらったもん。  真っ向から勝てなくたって、連れ出して逃げるくらいはきっとできる。  もしできなくても、お母さんだけは……。  私は身体が小さいから、色んなところに入り込める。  潜入の定番だけど、排気口だってなんのそのだ。  部屋から部屋へ、一つずつしらみつぶしに探していく。 ……いた、お母さんだ。  部屋には一人みたい、チャンスだ。  お母さんは何もせずに、入口を向いて立っているみたい。  元気……なわけはないとは思うけど、大丈夫かな……。  排気口の柵の外し方はしっかり覚えた。  難なく部屋に入り込むことができる。 「お母さん…!」  部屋の外に届かない程度の声を、想いを込めて絞り出す。 「私の人生」を灯してくれたお母さんを、今度は私が救う番なんだ。 ──それは、ひどい思い上がりだった。 「お母……さん……?」  違う。  こいつは、誰だ。 “お母さんに似たこれ”は。  そう考えた矢先にこれは視界から消えて。  次に、私の視界が床だけになった。 「侵入者を確保しました。如何いたしましょう」 「えっ!?あ、うん、連れて来てくれ」  なんて力なの……!  抑え込まれて、全く敵わない……!  体重をかけられると、息が苦しい。  少しノイズがかった通話相手の声には、聞き覚えがあった……。 3. 「なーんか使えるかなって、あの女から取った記憶とか見た目とか声帯のコピーを元に二号機を作ってみたが……なんで実験する前から成果が出ているんだろうな?」 「…………」  この緊張感と配慮に欠けた喋り方を、また耳にすることになるとは思わなかった。  私を色々弄り回していた奴。  というか、それ以外のことを私は知らなかったから、あの頃は私が不幸な身の上という自覚もなかった。  全部お母さんが教えてくれたんだ。  今はもう、こいつの声を聴いていると腹が立ってくる。  けど、何かとボロボロ話しがちな人間だから、色々聞き出せるとは思うんだけども。 「……お母さん、どうなったの」 「あー、もうここにはいないよ。処分したとかじゃなく、そのままの意味で。お前に関する記憶を消してリリースだ」  そっか。  お母さんは死んでない。  私のことは忘れて、今までのように生きていくんだ。  それがいいよ。  それでいいと、思いたいのに……。 「うっ…ううっ……」 「お前の記憶も消してやるから、そんな泣くなよ。あっ、今のうちに泣いておけが正解か?」 「い…いや……」  やだ、やだ、やだ……!  お母さんの記憶が記憶がなくなっちゃったから、「帰る場所」なんてもうない。  でも、お母さんと育んだ私の心まで消されちゃったら、私たちを繋ぐものがなくなっちゃう……。  だから私は、真っ白なベッドの上でもぞもぞ、もぞもぞ、ともがくことをやめられなかった。  芋虫みたいに波打つことになるのは、惨めな気持ちだった。  後ろ手に手錠みたいなものを嵌められていて、それが両足にもつけられている。  ベッドの周りは、檻が囲っている。  肩や足を檻にぶつけるけど、降りられそうにない。  きっと赤ん坊って、こういう気持ちなんだろうね。  私は、今からそれに戻るんだ……。  生まれたままの姿だし、ね……。 「よし、作業開始。身体を傷つけるんじゃないぞ」 「了解」  檻を乗り越えてベッドに乗り上げてきた“それ”が左手で胸板に触れた瞬間、怖気が走った。  人間じゃないのにその手のひらはやわらかかったから。  人と同じ暖かみがあったから。  続いて、右手が頭に添えられる。  その指の動きはなめらかで、どこにもぎこちなさがない。  頭を撫でられると、背筋がゾワゾワすると同時に、安堵を覚えてしまう。 「怖さ」の正体はそれだった。  見た目だけはそっくりなロボット。  その程度の認識だった“それ”が、お母さんと同じ温もりを持っている。 「肌」の感触も、触り方も、暖かな日々を思い起こさせてくる。  こんな、状況なのに。 「やめて、やめて……!」 「…………」  優しいのに、その手つきは着実に私の反抗心を奪っていく。  抑え付けられているはずなのに、全くそんな感じがしない。  愛情さえ感じられて、自分の感覚にも怖くなる。 「大丈夫、私が守るからね」 ………………え……?  お母さんの、声がする……。 「ここが、あなたの居場所よ?」 「むぐっ……!」  優しいし、その……大きくてしっかりした抱擁も、自分が守るという宣言も、“あの時”に交わしてくれたものだった。  だから、どうしても条件付けられてしまっていて。  もう、私の身体のほうは力が籠もってくれなくて。  それでも、アタマのほうでなんとか理性を通して、思考を保ちたくって。 「もう心配しなくていいからね。私は、あなたのお母さん!」 「わ……たしから……『おかあさん』を、うばわないで……」  勝ちなんてない状況で、“それでもこうするしかない”と“それならこうなるしかない”の板挟みになった私。  抵抗をやめることはできないけど、拒みきることもできない状況は、とっても長く感じられた。  でも、なんの光明もないんだから、いずれはどんなことをされても不思議じゃなかった。  例えば、こんな風に。 「んあっ!」  すりっ、と右の胸をさすられた。  最初はどさくさ紛れに偶然触れてしまったものだと思ったけど、違ったみたい。 「んはぁっ!!ああっ!」  もう一度右の胸をさすられたと思ったら、今度は左の胸も同時にさすられた。 ……あの手で。 ……気持ちよかった。 「これまでの辛い事みんな忘れて、一緒に楽しく過ごそうね!」 「お母さんは、こんなことしない……!」  口ではこう言ってみせてるけど。  お母さんはこんなことしないけど。  こんなことをされて喜んでいる私は、確かにそこにいた。 “私の中のお母さん”が、塗り替えられていく。 私が望む、私だけのお母さんに。  私が……望む……? 「よしよし、よしよし、いつまでも撫でてあげるからね?」 「きはぁっっ♡」  気付けばお母さんの手は私のお股に伸びていた。  こんなことをするのはありえない。  こんなことをされて悦ぶのもありえない。  でも、ありえないぐらい気持ちいい♡  お母さんと一緒に過ごす中で、たまにヘンな気持ちになることがあった。  それは駄目なことだよって気もしていたけど……。  私、お母さんのこと、“好き”だったんだ……♡ 「あぁぁぁぁ……♡♡」  気持ちよすぎて、おもらししちゃったぁ……♡ 「ごめんな、さ……♡」 「いいよ、あなたは私の娘だからね。面倒見るのが私の仕事!欲しいならあげるからね!」 「んちゅっんぅーーー♡♡」  今度は、おっぱいの間じゃなくて乳首を咥えさせられた。  機械だから出る訳ないのに、それでも本能が悦んじゃって。 「んぅぅぅ♡♡♡」  ああぁぁぁ♡♡♡♡  また、赤ん坊に戻らされちゃう♡♡  お股撫でるのも、ずっと続けてもらっていて♡  私が気持ち良いと思うこと、全部やってくれる♡♡  お母さんって、きっとそういう人だったはずだから♡♡♡ 4.  ここ数日の間は記憶が曖昧だったけど、特に何かがあったわけでもなく。  私はなぜか最近窓口を止めていた依頼を再開した。  遂行率は相変わらず100%だ。  稼いだ金で充実した日々を送って……。 ……違う!  これが充実なんかしているものか。  日々の充足も、娘も、全部諦めたりしない!  全てを思い出した私はすぐに最善の装備を整えて娘を取り戻しに行き……全てを出し切って戦い……。 ……そして、再び敗北した。 「しょうがないよ、『お母さん』の戦闘パターンは全部解析済みだもん。元気出して?」 「違う!誰がお前なんか……」  あろうことか、奴らは娘の姿を模した機械人形まで用意していた。  一瞬の動揺こそしたものの、すぐに持ち直して私は全力で戦ったはずだった。  敗因は、コイツの言う通り。  あらゆる攻撃をまるで当てることができなかった。 「でも、記憶を取り戻した事例は初だったから、『お父さん』びっくりしてたよ」 「なっ……!?」 「わざわざ来てくれたってことは、またシてもらうのも承知の上だったりするの?」 「黙れ!」  私をお母さんと呼んだ口で、奴をお父さんと呼んだことに嫌悪感を拭えない。  それに、あの声で下品な事を発するのも聞きたくなかった。 「『お母さん』がいっーぱいイかされちゃったデータも、私には入ってるよ♡次はもっと効率的に記憶を消すこともできるんだけど……」 「…………」 「『お母さん』、もしかして同じ事されて終わりだと思ってない?お母さんも貴重な素質が認められたから、もう逃がさないってさ」 「!」  思わず身を乗り出そうとするが、やはり叶わない。  今の私は、全身を鈍色のフレームに嵌められている。  腕も、手首も、腿も、脛も、足首も、首も、腹も。  全力を籠めようと無駄なのは、前と同じ。 「動けないでしょー。身体の採寸は取ってあるから、全部ピッタリ♡どれだけ力を込めているのかも横のメーターで分かるんだ。そろそろ着くからねー」  重量は見た目より軽いらしく、私は荷車に乗せられて運ばれていた。  人を人として扱わない、ここの方針らしい扱いを受けている。  惨めだ。 「ほら、ご対面~。『私のオリジナル』はあんな感じだよ、幸せそうでしょ?」 「う……そ……」 「あ……えへぇ……あぁ……♡♡」  私の娘は、同じようにフレームに嵌められて、私そっくりの機械人形の傍に「設置」されていた。  口を開いただらしのない顔で、動かせる部分だけをビクッ、ビクッ、と痙攣させている。 「へへ~ぇ……あ……?」  入って来た私を視界に捉えるくらいの知性は残っていたらしい。  一抹の望みをかけるという程の希望も持たず、ぼんやりと、ぽつりと──漏らすとか、零すとかが正しいだろうか──無意識に呼びかけることを止められなかった。 「お……かあ……さん……?」  私の声を聴いたハンディーガールは、虚ろな目に光が戻し、私を視線の中央に据えた。  だけど、それは下手をすればより残酷なことをしてしまったのかもしれない。 「お母さん!……あ、ああっ……いや……視ないで……!」  動かせる頭だけを振って、ハンディーガールは明確に拒絶の仕草を取った。  横のメーターの数字が高まっている。  裸体を、それを固定された現状を、濡れそぼった秘奥を。  自我を戻したが故に、大切な人に見せた自覚を持たせてしまった。  そんなことをしても、現状が何か変わるわけではなかったのに。 「お母さん、わたし……わたし、もう……」 「ううん、『私』はこっち。……再試行を開始しましょうか」 「や、やめなさい!」  大切な人の股間を、私に似たものが弄る光景は、吐き気さえ覚える。  けれど。 「んあっ!」 「あなたの娘も、これからは『私』になるの。『お母さん』♡」  私にも、できることはなくて。 「『お母さん』、気持ち良い?」 「こ……こんなのっ……!」 「強がらなくていいよ、前回のデータは全部残ってるから。ほら、こりこり♡こりこり♡」 「んあああっ……!」  力は籠ってないけど、私の乳首を抓り上げるその手つきは的確という他になかった。  感覚で加減する人間よりも、計算で力を調整できる機械のほうが、データがあれば思い通りの結果が得られるのだろう。  痛みは、一切なかった。 「『お母さん』のおっぱい大きいよねー。私もこんな風になれるかな?」 「んくっ!」  実現できるはずがないことを口にされるのは、人間に近付こうとしているようで気味が悪い。  その感覚を娘の姿に与えられる愛撫が、無理矢理塗り潰していく。 「力籠ってきたね。メーター上がって来てるよ。でも、快楽逃がせないね♡」 「う、う、んああ!!」 「ほら、データの産物だよ。乳首だけでイく幸せ、味わってね♡」 「んああぁぁっ!!!」  絶頂の最中でも容赦なく乳首を抓り上げられて、私は達したまま帰って来られない。 「こりこり♡こりこり♡こりこり♡こりこり♡こりこり♡こりこり♡こりこり♡こりこり♡」 「や、め、あぁぁぁぁ♡♡♡♡」  腿に力が込められて、触れられてもいない股から潮を噴く。  その様を娘に見られているのに、私は絶頂感を味わうことをやめられなかった。 「あ……あ……」 「あら、『私のオリジナル』もイっちゃったのね♡」  少し遠くからの「オリジナルも」という言葉に反応して、項垂れた首を向ければ、ハンディーガールも小さな乳首を弄り倒されていた。  私と寸分違わぬ外見の機械人形に。  先端部分を、人差し指の腹だけで捉えて、擦られて。  ハンディーガールは、私が絶頂するのと全く同じタイミングで達していたのだ。 「あー、そっちのオリジナルもイっちゃったんだね♡『お母さん』と同じで、乳首が弱かったんだね♡」 「おかあ……さん……たすけ……」 「んぅ……あぁ……」  娘の懇願に、私は何も返すことができない。  母親失格だ。 「んもう、だーかーらー『それ』は私よ?ちょっと叱っちゃうぞー」 「い、いや……ぶるぶるやめてぇ……」 「ぶるぶる」は恐らく私が受けた拷問と同じもの。  私のせいで効果が認められて、使われてしまったんだろう……。 「はぁ……はぁ……そこからは私が引き受けるから、もうその子は……」 「いや?『お母さん」にも元々するんだから、なんの代替にもならないよ?」 「その分も含めて私に……ん゛お゛あぁぁぁぁっ!」 「じゃあ、ぶるぶる二つ。前と後ろで頑張ってね♡」  潤滑液と共に、二本の張型が私を串刺しにした。  肛門を弄ったことなんて、あるわけない。  硬さとぬるぬるで、異物感がひどい。  そして慣らされることなんてしてもらえずに、すぐに起動された。  下腹部の底から二つの張形が同時に震えて、身体の奥底が揺さぶられる。  それは性器とか臓器とかそういうのだけじゃなくて、魂に震えが刻み込まれているようだった。 「お゛っ、あ゛ぁっ!!」  ぷしゅ。 「えっ、いきなりイッちゃうの」  珍しく、思考が機械人形と一致した。  ありえない。 「素質ありすぎでしょ、『お母さん』」 「お゛、あ゛っ!ああああああっ!!!!」  ぷしゅうううっ!!  潮が止まらない。  倒されてから拘束されるまでの記憶がないけど、多分腹の中身はもう抜き出されているんだと思う。  だから弄り倒されてもその……出たりはしなかった。  でも、それは余念なく存分にイけるってことでもあって。 「や゛え゛でえぇぇぇ!」 「うん?何か言った?『私』は『お母さん』に似て優しいから聞かなかったことにしてあげるけど」 「だずげでええぇぇ!!!!もうむりいいい!!!」 「ギブアップなんだ。へー」 「おぇがいじまずぅぅぅぅぅ!!」  だめだ、耐えられない。  私なんか壊れたって良いと思っていたけど、むしろ壊れればいくらでも受けられると思ったけど。  人は、思ったよりも簡単に狂うことができない。 「壊れる手前」が、とてつもなく長く感じられて。  だから、結局私は折れて懇願してしまった。 「はーい、じゃあストップ」 「はぁー……!はぁー……!はぁー……!はぁ……!」  それは叶って、一時的に止めてもらうことはできた。  向こうからしたら、起動から停止までどのくらいの間だったのだろうか。  全力で肺の中身を交換することしか、今はできない。 「まぁ、キャンセルって挙動はしてあげたけども」 「依頼の違約金って、あるわよね?」 「「じゃあ、今のと同じ事、二人に受けて貰いましょっか」」 ……? 「いたあっ!!?」  言葉の意味がわからずに声のほうに顔を向けると、ハンディーガールも二つの穴で二本の張型を咥え込んでいた。 ……私のと、同じサイズのものを。  私が、余計なことを言わなければ、もう少し軽く済んだのだろうか。  そもそも私があんなことをしなければ、ここまで酷い目には遭わされなかったのかもしれない。  もっと言えば、私自身も……いや、それはよそう。 「んああああぁぁ♡」 「これ、ヘン、おかあ、さ、んぁぁぁっ♡」  二人とも、恥も外聞もなく、よがり狂っている。 「あ゛っ♡あ゛っ♡」  張型が動く度に、私の喉から声が押し出されていく。 「お゛ぉぉぉぉぉっ♡お゛んうううううっ♡」  ハンディーガールは、私よりもっと酷いことになっている。  私より小さいのだから、当然だった。  無理矢理拡張されて、それでも尚快楽が勝っているのが不思議でさえあった。 「あ゛っ♡あ゛ぁ♡」  もう、視界はチカチカで何を見ているのかさえ曖昧だ。 「んいぃ♡いぃぃ♡♡」  この嬌声が私のものなのか、娘のものなのかも分からない。  ただ、その分別に意味はなくって。  どの道、私たちは絶頂し続けているという事実だけがそこにあった。 「「んあぁぁぁぁぁぁぁ♡♡♡♡♡」」 5. 「お母さん、任務達成率は上々だね」 「ええ、当たり前じゃない」  親子とも呼べる女性型が、ある家で語らっていた。  勿論、「オリジナル」ではない。  この機械人形たちは、彼女らの社会的地位にそのまま成り代わったのだ。  行方不明として処理されなければ、足もつかない。  達成した任務報酬は、そのまま研究資金にできる。  合理的といえばその通りだった。  彼女らは、自由だけではなく帰る場所さえも失ったのだ。 6.  二人の女が、向かい合うように「配置」されていた。  二人とも、上から降りた透明の管のようなものを咥え込まされている。  二人とも、乳首に電子コードの繋がったパイプを貼りつけられている。  二人とも、視界は自由になっている。 「…………。……っ!?むおおおお!!!!んおおお!!!!」 「…………」  時折、どちらか或いは両方が目の前のモノから記憶と意識を取り戻して、うめき声をあげながら暴れようとする。 「……ん?……ん!んうううう!!!!」  そうすると、その度に、ブザーと共に装置が作動して。 「んおおおおおおおおっ!??!?」 「んいいいいいいああああああ!!!ああああ!!!!うああああ!!!!」  彼女らを繋ぐように股に入れられたパイプから、電気刺激が送られて強制的に絶頂させられる。 「んお゛っ!お゛っ!お゛ぉっ!!」 「あ゛あ!!あ゛あ!!!」 「うああ……あああ……」  そしてまた、彼女たちは記憶と意識を失うことになる。  ずっと、ずっと、その繰り返し。  どのような責め方が効率よく記憶を消せるのか、どういう風に記憶を取り戻すのか。  それをテストする為だけに生かされているのだ。  自由を目指した者たちに与えられた、最低の不自由がそこにあった。  おしまい。