悪魔は回想する。 -もうこんな事をしても誰も助からないかもしれないじゃあないか。無駄な事はやめるのが賢明という物だろう?- -ハハハハ!だから言ったじゃないか!君一人こんな事をしても無駄なだけだと!- -君は救い難い愚か者だね。折角の白いおめかしが台無しだ。挙句掌まで返されたのにそんな事をする必要があるのかい?- -………君はアレか?所謂狂人という奴なのかい?普通、こういう時は恐怖で俯くのが筋という物だろう?- そんな言葉を幾度となく投げたのを記憶している。 把握と矛盾を司る悪魔は、人々を嘲笑い、また心折れた惨めな様を見る事が一番の娯楽だった。人々の絶望を見るのはなによりも笑えたし、それで玉突き事故が起きでもしたら大当たりだ。 だから、あの男に対してもそうした。 文明が高度なあの世界は、その裏返しのように様々な悪徳へと甘かった。 そんな世界で平和を守ると宣って、白いスーツを着て悪党と戦い誰かを助ける! 極上のメインディッシュがやっと届いた気分だった。 ああ、そんな時代錯誤な愚か者が、己の大言壮語と現実の前に心折れ膝をつく姿はどれほど甘美で笑える見せ物になるだろうか! -それでも誰かがやらねばならない事をやるだけだ。他に居ないなら、俺がその誰かだ。- 予測が甘かったと思い知るのには、ひと月とかからなかった。 -お前の発言は事実だ。この現状は俺の過ちだ。ならば俺のやるべき事は蹲る事ではない。- この男は、躊躇わなかった。 -俺が愚かである事で救われる命や止められる犯罪があるなら、俺は愚かでいい。- そこに如何なる障害があっても、自分がやるべきと信じた事をやる。それ以外は些事だと。 -前にも言った。俺が愚かである事で救われる誰かが居るならそれでいいと。狂っているだの、おかしいだのとレッテルを貼るなら好きにしろ。- だから、悪魔の投げた言葉の一つ一つなどまるで気にしてすらいない風に、その男は躊躇いなく。 -俺がやるべき事は、悪党を倒し、平和を守る事だ。いちいち付き纏うくらい暇なら手伝え。手数が要る。- 悪魔を真っ直ぐ見定めて、堂々とこんなセリフを吐きやがったのであった。 改めて悪魔はS-forceの共通装備たる端末を確認する。 果たして、自分達の拠点があった世界に一つ懐かしい名前のマーカーが浮かんでいた。 「随分と、懐かしい姿じゃあないかジャスティファイ、いやシグナス。」 悪魔は笑った。大いに笑った。不謹慎だろうが、あの男が司令官として引っ込むようになって少々退屈ではあったのだ。 だが、今こうやって久々にあの男の無茶苦茶が見れるのなら悪くはない。 把握と矛盾の悪魔は、そうして笑みを浮かべながら、帰還のための逆召喚陣を構築し始めたのだった。