いかな最強とて、病には勝てない。  呪術と科学が交差する202X年の霊和時代。  現代最強と謳われた陰陽師、土御門景行《つちみかどかげゆき》たる私は、己の死を目前にしていた。呪詛によるものでもなければ、荒ぶる神との戦いで負った傷でもない。  齢にして三十半ば、その生涯をして常勝無敗を誇った大陰陽師を死に至らしめたのは、何のことはない、ありふれた病気だった。 「師よ、どうか気をしっかりと!」 「死なないでください!この霊和の世には、まだあなたが必要です!」  畳の匂いが満ちた自室で、枕元に泣きつく弟子たちの声が、遠くに聞こえる。 「悲しむな。憂うな。生あるものは必ず滅する。これは森羅万象の理だ」  かろうじて動く唇で、私は最後の教えを説く。 「お前たちには、我が土御門の術の基本はしかと教えた。教え遺した秘術の数々は、すべて書に記してある。私が死んだとて、この国の安寧は揺るがぬよ」  そうだ、揺るがない。私がそう育てた。  私の知識と術のすべてを、私は余すことなく次代に託した。もはや、この世に未練はない。  ただ一つ、心残りがあるとすれば、それは――弟子たちから教わった――  いや、それはいい。今は、  私は最後の力を振り絞る。 「……筆と、墨を。そして白布を」  弟子たちが慌ただしく動く。もはや自力で起き上がることすら叶わない私を支え、彼らは言われたものを運んできた。  私は震える手で筆をとり、己の血を墨に混ぜ、最後の呪を白布に描きつけていく。 「師よ、それは……まさか!」  博識な弟子のひとりが、その術式の意味するところに気づき、息を呑んだ。  泰山府君祭。  死と輪廻を司る道教の神である泰山府君に願い奉り、寿命を延ばしたり死後の行方を祈ったりする儀式である。  そしてその最奥は――不死、あるいは転生。  もっとも、それを成功させたものはいないとされている。  この私とてかの開祖安倍晴明の転生では、と言われた事もあったが、その前世の記憶とやらは持っていない。 「どうせ死ぬ身だ。ならば最後に挑戦して見たくなったのだ。人間、守りに入れば終わりよ」  私は笑った。  成功すれば、私は土御門景行としての個我と記憶を保ったまま、再びこの世に生を受けることができる。いつになるかはわからぬが、再び術の道を歩む機会が与えられる。  だが失敗すれば?……おそらくは魂魄ごと消滅し、無に帰るだけだろう。それもまた一興。  術式は完成した。私は最後の力を振り絞り、神気を練り上げ、呪を唱える。 「――我、謹んで冥道の諸神に願い奉る」  視界が白く染まっていく。 「一に秦広王、二に初江王、三に宋帝王、四に五官王、五に閻魔王、六に変成王、七に泰山王、八に平等王、九に都市王、十に五道転輪王――」  弟子たちの悲鳴のような声が、水底に沈むように遠ざかっていく。意識が途切れる寸前、私の脳裏をよぎったのは、病床で弟子が気晴らしにと勧めてきた、あるゲームの記憶だった。 『銀河星乱クロニクル』。  そういえば、あのゲームは二周目の強くてニューゲームまでやることは出来なかったな……。  心残りといえば、それだけが心残りやもしれぬ。  転生した後には、もう『銀河星乱クロニクル』は残っていないかも……しれないから……な……。  それが、現代最強の陰陽師、土御門景行の最後の記憶だった。 ◆  次に意識が浮上した時、私の鼻腔をくすぐったのは、慣れ親しんだ香の匂いではなく、嗅いだことのない甘く人工的な芳香だった。  畳の硬さとは似ても似つかない、体が沈み込むような柔らかな感触。そして、瞼越しに感じる光は、障子を通した柔らかな自然光ではなく、やけに白々しく、規則的な光だった。  洋風だ。確実に私の住んでいた和風邸宅ではない。  ……ここは、どこだ。  私はゆっくりと目を開いた。  視界に飛び込んできたのは、豪奢な彫刻が施された天蓋だった。  絹のように滑らかな深紅のカーテンが、ベッドを囲っている。ゆっくりと体を起こすと、その動きに合わせて擦れる衣類は、着慣れた狩衣ではなく、光沢のある滑らかな生地でできていた。  自分の体を見下ろせば、そこには見覚えのない、しかし鍛えられているであろう若々しい肉体があった。  私の体は、長年の病によって骨と皮ばかりに痩せこけていたはずだ。  混乱の極みに達しながら、私はベッドから抜け出した。ふわりとした絨毯が素足を包む。  部屋は異様に広かった。磨き上げられた黒檀の調度品、壁にかけられた抽象的な絵画、そして窓の外には――信じがたい光景が広がっていた。  窓の外は、夜の闇に包まれていた。しかし、それは私の知る夜空ではなかった。漆黒の宇宙空間に、巨大な青い惑星が浮かび、その周りを銀色のリングが取り巻いている。  そして、空には星々だけでなく、ゆっくりと明滅しながら航行する、金属の塊――宇宙船がいくつも浮かんでいた。 「……何だ、これは」  呆然と呟いた声は、私の声ではなかった。声変わりしたばかりのような、少し傲慢な響きを持つ、若い男の声だった。  私は部屋の中を見回し、姿見を見つけ出すと、恐る恐るその前に立った。  鏡に映っていたのは、完全に見知らぬ青年だった。  歳は十代後半といったところか。燃えるような金色の髪、空を映したかのような碧眼。彫りの深い顔立ち。  誰だ、この男は。私は誰だ。  その瞬間、頭蓋の内側で何かが弾けた。無数の情報、記憶、感情が濁流となって私の中に流れ込んでくる。  この男の名は、いや、違う……俺はヴォード・スヴァリール。  土御門景行という前世の記憶が蘇り、混乱しているようだ。  俺、私は……この惑星ヴルアールを支配する宇宙伯爵、オルデイン・スヴァリールの嫡男。  銀河帝国貴族。  そして――。 「……『銀河星乱クロニクル』」  俺は、自分の口から出たその言葉に、愕然とした。  そうだ。この顔、この名前、この設定。すべてに心当たりがあった。病床の中、弟子が気分転換にと勧めてきたSFシミュレーションゲーム。  銀河帝国が支配する銀河系を舞台に、圧政に苦しむ主人公が反乱軍に身を投じ、仲間たちと共に帝国に立ち向かうという、ありふれた英雄譚だ。  俺はそのゲームの序盤も序盤、チュートリアルが終わった後に出てくる、最初のボスキャラクターに転生してしまったのだ。  主人公アレクセイ・スターシーカーが住む惑星ヴルアールの領主の息子。領民に圧政を敷き、己が腹を肥やし、逆らう者は容赦なく処刑するスヴァリール家。  その悪行が主人公の怒りを買い、彼の初めての「倒すべき悪」として立ちはだかり、そして無様に敗れ去る。  それが、このヴォード・スヴァリールという男の、ゲームにおける役割だった。  まさにかませである。 「……泰山府君祭は、成功したのか、失敗したのか」  俺はこめかみを押さえた。  記憶を保持したまま転生するという願いは、確かに叶えられた。しかし、なぜ異世界、それもゲームの世界なのだ。  しかも、よりにもよって、こんな破滅の未来が確定しているかませ犬の悪役に。 「……泰山府君よ。俺は何か悪い事したのでしょうか」  俺は嘆いた。 ◇  コンコン、と扉をノックする音が響き、俺の思考は中断された。 「あ、あの……ヴォード様、お目覚めでいらっしゃいますか。朝食の準備が整って、おります」  慌てた声が聞こえてきた。少女の声だ。  確か最近入った新人メイドのユールミだったか。  怯える姿が非常に癇に障っていたが、今は不思議と特に不快に感じない。 「……ああ、すぐにいく」  俺は彼女に答えた。  声が上ずるのを必死にこらえる。今は混乱している場合ではない。しかしまだ記憶の混濁は続いている。俺という人格と私という記憶が混ざり合い、なんだかよくわからないことになっている。  まずは情報を集め、現状を正確に把握する必要がある。  クローゼットを開けると、軍服のような豪奢な服がずらりと並んでいた。  適当な一着に袖を通す。鏡に映る自分の姿は、やはりどうにも違和感がある。ヴォードとして生きてきた十余年と土御門景行として生きて死んだ三十余年。記憶の長さ、人生経験でいえば圧倒的に景行のほうに分があるからだ。  だけど、それでも俺はヴォードである。そう生きていくしかないのだ。  開き直りともいうかもしれないけど、まあそんなもんだ。  部屋を出ると、長い廊下が続いていた。壁には歴代スヴァリール家当主の肖像画が飾られている。床は一点の曇りもなく磨き上げられ、俺の姿をぼんやりと映していた。ここはスヴァリール伯爵の居城。惑星ヴルアールの支配の象徴だ。  広大な食堂には、長いテーブルに一人分の食事が用意されていた。父であるオルデイン伯爵は、現在、帝国の首都惑星に出張中で夫婦そろって不在らしい。  ゲームでは出て来ていた気がするので、ゲーム開始時とは時代がやはりずれている。  運ばれてきた食事は、見たこともない食材ばかりだったが、味は驚くほど良かった。  前世ではずっと流動食だったので、これは本当にありがたい。  しかし、今の俺にそれを楽しむ余裕はない。頭の中は、これからどうすべきかという問いで埋め尽くされていた。このような状況で食事を楽しめるものか、あと醤油が欲しい。米も欲しい。俺の前世は日本人なのだ。 「これおかわり」 「は、はい!」  ああ、これも美味いな。この心配事で頭がいっぱいでなければもっと楽しめただろうにもったいないことだ。 「おかわり」 ◇ 「……ふう」  食事を堪能してから自室であらためて考える。  ゲームのシナリオ通りならば、数年後には主人公アレクセイ・スターシーカーの住む村で、徴税を巡るトラブルが起きるのだろう。  それが引き金となり、アレクセイは反乱軍に身を投じ、力をつけ、この城に攻め込んでくるのだ。そして、ヴォード・スヴァリールは彼に討たれる。  破滅の運命。確定した未来。 「……面白い」  思わず、低い声が漏れた。  笑っているのか、俺は。  先日までの俺なら、なんだそんな運命はふざけるなと激昂していただろう。だけど、前世の私、土御門景行の記憶を得た俺は、まあちょっと性格も変わってしまっているのだろう。冷静に考える思考を得ることが出来ていた。そう、俺はクールなのだ。  土御門景行の人生は、若い頃は苦難の連続だったけど、一人前となった後はつまらないものだった。  無双。  安倍晴明の再来とすら呼ばれ、数多の敵と戦い、神と呼ばれるタイプの連中すら打ち倒してきた。  結局、病に倒れることとなったが、それ以外ではまさに敵なしの人生といっても過言ではなかった。  まあ、だからこそ弟子たちに勧められたゲームは楽しかったとも言えるけど。  なにせ陰陽の術がどれだけ強かろうと関係ないのだ。俺より強い弟子もいたし、CPU相手の一人用ゲームも簡単じゃなかった。  いやまあそれは今はいい。  眼前に、避けられない破滅という運命が待っている。  ――それは、なんとも心躍るものじゃないか。  挑めるのだ。強大な「敵」に。  ――病気に疲れ果て心も枯れ果ててゲームするしか残っていないと思われたが、新しく生まれたこの若く活力みなぎる肉体のせいか、それとも……。  さて。ではこれから俺はどうするか、だ。  選択肢はいくつか考えられた。  一つは、この惑星から逃げ出すこと。スヴァリール家の財産をかき集め、宇宙船で誰も知らない銀河の果てへ逃亡する。最も確実な生存戦略かもしれない。  二つ目は、主人公アレクセイに媚びへつらうこと。彼に便宜を図り、破滅のフラグそのものをへし折る。  三つ目は、主人公を先回りして暗殺すること。  禍根を元から断つのだ。 「――つまらないな」  頭に浮かんだ選択肢を、俺は笑う。なんともつまらない。  逃げ出す? この運命という「敵」に挑める好機を前にして?  媚びへつらう? アレクセイは俺の「敵」になってくれる存在だ。  先に暗殺? 馬鹿げている。いずれ敵になる相手とは言え、彼はまだ何もしていない普通の平民だ。それをブチ殺す正統性がどこにあるっていうんだ。 「……もう少し、まとめるか」  俺は書斎へと向かった。  ここには、この世界の歴史や技術に関する書物が揃っているはずだ。前世の記憶が目覚める前は入ったことなかったけど。  さもあれまずは敵を知り、己を知る。戦いの基本だ。  書斎の端末を操作し、情報を検索する。  この世界には「エーテル」と呼ばれる、宇宙に満ちる万能のエネルギーが存在する。  一部の人間は、このエーテルを操り、奇跡のような現象を引き起こすことができる。それが「エーテル術」と呼ばれる、この世界の魔法だった。  そして、ヴォード・スヴァリールが「かませ」たる最大の理由。それは、彼がスヴァリール家という名門貴族の嫡男でありながら、このエーテル術の才能に全く恵まれなかったことにある。  貴族の条件としてエーテル術が使えること――そう言われる程度には、貴族にとってエーテルは必須なのだ。  その力がないことに俺は絶望した。  しかし生まれきっての単純な頭――もとい気質もあってか。代わりに身体を鍛え、剣の腕を磨くことにした。  だが、ゲーム後半で仲間になるような一流の剣士には遠く及ばない、ただの脳筋バカ。それが、ゲームにおける彼の公式設定だった。 「エーテル術が使えない、か。なるほど、道理で」  だからこそ、主人公がエーテル術の才能に目覚めた時、彼は為すすべもなく敗れ去るのだ。  力がなければ、運命は覆せない。この世界において、エーテル術こそが絶対的な力なのだ。  まずこの問題をどうにかしないといけない。 「気分転換に、領地の視察でもしてくるか」  出歩けば何か思いつくかもしれない。  俺はユールミに告げて、屋敷を出た。ユールミが護衛をつけてくださいと叫んでいるが、まあ無視した。  前世の記憶が一気に戻り、体感的には、ヴォードとして13年生きた後に土御門景行として三十余年生き、そして再びヴォードとして生まれた……そんな感覚だ、今となっては。  つまりさっきまで寝たきり病人だったのが一気に回復したようなもんだ。散歩ぐらいしたい。  俺は一台のフローティングバイクにまたがる。フローティングバイクといえば、ようするに空飛ぶバイクだ。俺の生きていた霊和よりも科学技術は進んでいるようだ、多少ちぐはぐではあるが。  運転できるだろうか……と思ったが、この肉体は運転を覚えているようだ。俺はアクセルをふかし、屋敷を出る。  町並みは……なんというか、俺の前世の現代日本とは似つかない、あえていうなら西洋ファンタジーに近い街並みをしていた。空には巨大な星々が見え、宇宙船が飛んでいるのを見ると、なんともちぐはぐな不思議な感じだった。  フローティングバイクを走らせていると、森の奥からけたたましい獣の咆哮と、人間の悲鳴が聞こえてきた。  フローティングバイクを急停止させ、俺は音のする方角へ目を凝らした。森の奥、木々が激しく揺れ、獣の咆哮が地響きのように響いてくる。人間の悲鳴――女の声と、幼い少女の泣き声だ。 「何だ……あれは」  俺はバイクを降り、茂みを掻き分けて駆けつけた。そこに広がっていたのは、想像を絶する光景だった。  巨大な魔物。体長は優に五メートルを超え、鋼のような鱗に覆われた体躯。六本の脚は地面を抉り、口からは毒々しい緑色の涎が滴っている。牙は剣のように鋭く、赤く輝く目は獲物を貪る獣のそれだ。  魔獣だ。  その魔獣の前に、怯える二人の人間がいた。  母親らしき女が、少女を抱きかかえて後ずさっている。女の腕には血が流れ、少女は恐怖で顔を真っ青に染め、母の胸にしがみついていた。 「ママ、怖いよ……!」 「大丈夫、ルルナ! 目を閉じてて……!」  魔獣が咆哮を上げ、前脚を振り上げる。女たちは逃げ場を失い、ただ震えるばかりだ。  俺の登場に気づいた魔獣が、ゆっくりとこちらを振り返る。赤い目が俺を捉え、牙を剥いた。  ――助けるか?  一瞬、頭をよぎったのはヴォードとしての記憶。貴族の俺が、領民などどうでもいい。今までの、そしてゲームのヴォードなら、きっと見捨てていただろう。  あるいは、いい腕試しだと突っかかっていっただろうか。  だが、今の俺には土御門景行の記憶がある。最強の陰陽師として数多の命を救ってきた。病に倒れるまで、守るべきものを守り続けた。  その記憶が、確かにここにある以上――見捨てる選択肢なんて、そんなもんはあるわけがない。 「グォアアアアアアアアアアッ!」  魔獣が吼える。その口腔に赤い炎が躍る。  火を吐くつもりだ!  俺はとっさに走り、親子の前に出る。だがどうする。ブラスターガン程度ではこの魔獣を倒せない。  ましてや、エーテル術を使えない俺では、この炎を防ぐことなどできやしない――! 「――」  その時、身体が勝手に動いた。  右手を前へと出す。そして、人差し指と中指を立て、残りの指は握る。  剣印、と呼ばれる手印だ。  その切っ先が、五芒の星を中空に描いた。  魔獣の口から炎が吐き出される。 「五行相剋――水剋火」  それは口を突いて出た、神咒だった。だけどこの世界に「五行相生相剋」なんていう概念はあるのか? いや、ない。ゲームでも聞いたことがない。  だが。  炎が、俺の目の前で止まる。  正しくは、指で描かれた五芒星によって生じた水の渦によって阻まれ――そして消えていく。  五行相剋、水剋火。  水は火を消すという、ありふれた事実。物理の法則。  その万物自然の理を応用した術。 「グゥ――!?」  魔獣が驚愕する気配が解る。  俺は黙って、次の術を構築した。 「火行、天玄。穿て、閃火境門咒炮――急々如律令」  火玉が、唸る。  俺の指先に生まれたそれは、ただ一直線に敵を穿つ。  そう、敵を。  敵、を――――  いやちょっと待て。  まぶしすぎない? 威力、高すぎない?  大気を焼く音。閃光。爆発、轟音。  ――気が付けば。  そこには、魔獣の姿は無かった。  大きくえぐられた大地と、そして――空には半分ほどえぐられ吹き飛んだ、月。 「や……やったか……?」  自分の声が震えている。指先がまだ微かに熱を持っている。これは……エーテル術ではない。間違いなく俺の陰陽術だ。  それにしては威力がちょっと強すぎるが。  別の世界だからか、それとも今の俺の肉体が若々しく生気に溢れているからか。  前世での弟子との会話が脳裏に蘇る。 『なーんか、このゲームのエーテル術ってこう……あれですよね、確かに派手だけど威力ショボいっていうか。師匠の術のほうが強いですよね』 『ゲームと現実は違うからな』 『いっそゲームで師匠の陰陽術が使えたら敵なしなんですけどねー。式神とか呼んだり、火界咒で焼き尽くしたりー』  そうだ。  この世界に陰陽術は無い。あれは呪術と科学が交差する霊和の現代日本だからこそのもののはずだ。  だが、それが――ここにある。  土御門景行の魂に刻まれて、このゲームの世界に。  ならばどうする。  ――決まってる。 「運命と戦うための力――強すぎてニューゲームかもしれないが、まあいい。この世界の主人公は俺じゃない」  俺はかませの悪役貴族だ。  故に――どうなるかはわからない、もはや。  ならば挑もうじゃないか。この新しく転生した命で、この世界に。  破滅の運命と戦うのだ。  ああ――心が躍る。