秋の気配が色濃く漂い始めた昼下がり。
本来であれば、心地よい秋風が木々の葉を揺らし、木漏れ日が遊歩道を優しく照らし出す、誰もが心穏やかに過ごせるはずの美しい空間であった。
しかし、その平和な風景は、突如として現れた異形の存在によって無残にも切り裂かれていた。

「出たな天使！　リュック！」

奇妙な叫び声を上げながら、宙を縦横無尽に飛び回る小さな影があった。
水色のスモックのような服に身を包み、頭には黄色の通園帽子、そして口には場違いなほど大きなおしゃぶりを咥えた奇妙な悪魔、使い魔りゅっくである。背中には不釣り合いなほど大きな緑色のリュックサックを背負っており、その外見は人間の幼児そのものであったが、放つ気配と異常なまでの敏捷性は、彼が人間界の存在ではないことを明確に物語っていた。

「やっ！　くっ！」

その素早い動きを追っていたのは、すでに愛天使としての戦闘形態、ファイターエンジェルへと変身を遂げていたエンジェルデイジーとエンジェルリリィの二人であった。
緑色の髪をなびかせ、黄緑と黄色を基調とした戦闘服に身を包んだデイジーは、持ち前の身軽さを活かしてりゅっくの軌道を先読みし、空中で見事にその小さな身体を両手で捕獲した。

「捕まえたわ！」

デイジーが着地と同時に声を上げると、すぐさまサポートに入っていたリリィも駆け寄る。長く美しい茶色の髪を揺らし、青と白のエレガントな装甲を纏ったリリィは、りゅっくに向けて自身の武器であるステッキを突きつけ、凜とした声で宣告した。

「もう逃がしませんことよ！」

二人の愛天使に完全に動きを封じられたかに見えたりゅっく。悪魔の使い魔を捕らえたことで、事態は収拾に向かうかと思われた。

一方その頃、少し離れた場所では、雨野たくろうとの偽りの結婚式という、彼女にとってあまりにも不本意で精神的苦痛を伴うイベントからどうにか抜け出してきた花咲ももこが、息を切らせて木立の中を走っていた。
その傍らには、彼女の良き相棒であり、かつては悪魔族であったものの今は愛天使たちと行動を共にしているじゃまピーが、小さな羽を羽ばたかせて懸命についてきている。

「ももこちゃま！」 じゃまピーが切羽詰まった声でももこを呼ぶ。

「そっか、じゃまピー、あたしがここにいることをあの子たちが二人に？」
ももこは走りながら、ゆりとひなぎくが自分の窮地を察して先に動いてくれていたことを理解した。自分が偽の結婚式に気を取られている間に、悪魔の魔の手はこのすぐそばまで迫っていたのだ。

「急いで！」 じゃまピーの悲痛な叫びが、事態の深刻さを物語っていた。

「うん！」
ももこは力強く頷くと、立ち止まり、深く息を吸い込んだ。迷っている暇はない。大切な親友たちが、今まさに悪魔と対峙しているのだ。彼女は胸元から、愛天使の証である『セントミロワール』を取り出した。

「ウェディング・ビューティフル・フラワー！」

ももこの高らかな宣言と共に、セントミロワールから眩いばかりの赤い光が放たれた。光は瞬く間にももこの全身を包み込み、彼女の身体を神聖なエネルギーへと変換していく。
空間がバラ色の光に染まり、無数の花びらが舞い散る中、光の帯がももこの素肌に絡みつき、純白のウェディングドレスへと織り上げられていく。ふんわりとしたパフスリーブ、胸元を飾る大きなリボンと花のコサージュ。神聖なる愛の波動を極限まで高めるための、花嫁の姿。
しかし、このドレス姿では激しい戦闘を行うことはできない。力を溜め込んだももこは、間髪入れずに次の呪文を紡ぎ出す。

「ウェディング・チェンジ・お色直し！　エンジェル・アムール・ピーチ！」

再びミロワールが輝きを放ち、純白のドレスが一瞬にして弾け飛ぶ。代わりに現れたのは、真紅のレオタードに身を包み、黄金の肩当てと胸元のハート型装飾が特徴的な、戦うための姿――ファイターエンジェル、ウェディングピーチであった。
鮮やかなピンク色の髪を風になびかせ、足元には真紅のハイヒール。愛を守る戦士としての覚悟を胸に、ピーチは仲間たちの元へと急いだ。

しかし、ピーチが変身を終え駆けつけようとしていたまさにその時、現場では最悪の事態が進行していた。

デイジーとリリィに捕縛され、完全に追い詰められたかに見えたりゅっく。だが、その丸い顔には恐怖の色は一切なく、むしろ口元のおしゃぶりの奥で、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべていた。

「リュック！」 突如、りゅっくは背負っていたリュックサックから何かを取り出した。それは、道路標識の「止まれ」を模した、赤い逆三角形のステッカーだった。

「ピタッ！　リュック！」

りゅっくが短い呪文を唱えると同時に、二枚の赤いステッカーがまるで意思を持っているかのように空中を飛び、デイジーとリリィの額にそれぞれ「ピタッ」と張り付いた。

「えっ！？」 「なにこれ……！？」

二人が異変に気付いた時には、既に遅かった。額に貼られた「とまれ」のシールから強力な呪縛の魔法が発動し、二人の身体の自由を完全に奪い去ったのだ。指先一つ、瞬き一つすることすら許されない、絶対的な金縛り状態。捕まえていたはずのりゅっくの身体から手を離すこともできず、ただ硬直するしかない。

「へへっ、どうもがいても動けないでしょう」 りゅっくは二人の腕からスルリと抜け出すと、空中に浮かび上がり、意地悪く嘲笑した。

「あんたたちの愛のウェーブを吸い尽くしてやるリュック！」

りゅっくが背中を向けると、彼が背負っていた緑色のリュックサックの表面が開き、そこにはテレビのモニターのような青黒い画面が現れた。
次の瞬間、その画面から恐るべき吸引力が生み出された。物理的な空気を吸い込むのではない。標的となったのは、愛天使たちの力の源であり、彼女たちの生命力そのものとも言える『愛のウェーブ』であった。

「あっ！」 「ああっ！」

デイジーとリリィの口から、同時に悲鳴が上がる。
目に見えないはずの愛のウェーブが、淡いピンク色の光の粒子となって二人の身体から無理やり引き剥がされ、りゅっくの背中のモニターへと吸い込まれていく。
それは、魂を直接削り取られるような、言語に絶する苦痛であった。額のシールによって身悶えすることすら封じられた二人は、直立したまま、ただ己の存在意義が失われていく感覚に耐え、悲痛な声を上げ続けることしかできなかった。

その絶望的な光景に、高く澄んだ鐘の音が鳴り響いた。

「何っ？」 りゅっくが驚いて振り返る。

天空から降り注ぐ一条の光の道を滑るようにして、真紅の装束に身を包んだウェディングピーチが舞い降りてきた。彼女の登場は、周囲の邪悪な空気を一瞬にして浄化するほどの力強い愛の波動に満ちていた。

「祝祭の響き、遠くに心地よい。秋風爽やかなこの佳き日に、友情という愛のウェーブを奪うなんて許せない！」

ピーチは空中で華麗にターンを決めると、ビシッと右手でりゅっくを指差した。その瞳には、親友たちを傷つけられたことへの深い怒りと、絶対に助け出すという揺るぎない決意が宿っていた。

「愛天使、ウェディングピーチはとってもご機嫌ナナメだわ！」

仲間を救うべく颯爽と現れたピーチ。しかし、りゅっくは全く動じる様子を見せなかった。むしろ、最大の標的が自ら姿を現したことに歓喜すら覚えているようだった。

「お出まし！　ピタッ！　リュック！」
りゅっくは再びリュックに手を突っ込むと、先程デイジーたちに使った赤い「とまれ」のステッカーを、今度はトランプの手裏剣のように何枚も連続してピーチに向けて投げつけた。

「何っ！？　それっ！」

鋭い風切り音を立てて飛来する無数のステッカー。ピーチは驚きながらも、持ち前の運動神経と愛天使としての身体能力を駆使して、それらを次々と回避していく。右へ、左へ、身を翻し、赤い札の弾幕を掻き潜る。

その様子を横目で見ながら、苦痛に耐え、己の愛のウェーブを奪われ続けているリリィが、必死の思いで声を絞り出した。

「ピーチ！　気をつけて！　それを貼られますと、身動きできなくなってしまいますわ！」

リリィの警告に、ピーチはハッとした。親友たちがなぜ反撃もせずに苦しんでいるのか、その理由がようやく理解できたのだ。あの赤いシールは、単なる目くらましではない。触れれば最後、自分もあの二人のように無防備な状態にされてしまう、恐るべき呪具なのだと。

（かわしているだけじゃダメだ……一気に決める！）

ピーチは防御から攻撃への転心を図った。このまま逃げ回っていても、いずれは体力を消耗し、シールの餌食になるのは明白だ。何より、今この瞬間もデイジーとリリィは愛のウェーブを奪われ続け、命の危険に晒されている。

「セント・クリスタル！」

ピーチは自らの最強の武器を召喚すべく、両手を高く天へと掲げた。
虚空から眩い光が集束し、彼女の手に握られる神聖なる杖、セント・クリスタルが顕現しようとする。勝利を信じる心が、光の輝きを一層強くした。
だが、それはあまりにも致命的な隙であった。

強力な技を放つための精神集中と、武器の召喚に伴う硬直時間。戦闘において最も無防備になるその一瞬を、悪辣なる悪魔の使い魔が見逃すはずがなかった。

「この時を待ってたわ！　リュック！」

ピーチが杖を掲げ、全身を伸ばしきったその刹那。
りゅっくの放った一枚の赤いステッカーが、見えない糸に引かれるかのように真っ直ぐに飛翔し、ピーチの美しい額の中央に、音もなく「ピタッ」と張り付いた。

「……っ！！」

ピーチの身体が、空中で文字通り凍りついた。
突き上げた両腕も、軽やかに踏み出そうとした足も、驚愕に見開かれた瞳さえも、一切の動きを停止させられた。魔法の呪縛が神経を瞬時に麻痺させ、身体の自由を完全に奪い去ったのだ。
そのまま重力に引かれ、ピーチは不自然な姿勢のまま地面へと落下した。受け身を取ることもできず、ただ硬直したまま着地した彼女の足元から、ドンッという重い音が響く。

「ウェディングピーチ、いいザマだわ！」

大の字のまま身動き一つ取れなくなったピーチを見下ろし、りゅっくは腹を抱えて勝ち誇った。愛天使を三人とも無力化するという、彼にとってこれ以上ない大戦果である。

「リュック・リュック！」 「ああっ！」 「あああっ！」 「いやあああっ！」

りゅっくは背中のモニターの出力を最大に引き上げた。
すでに限界が近かったデイジーとリリィに加え、今度はピーチの身体からも、強烈な愛のウェーブがピンク色の奔流となって引きずり出されていく。
先程までの威勢の良さは完全に消え失せ、ピーチの口からも苦悶の絶叫が漏れた。身動きが取れないまま、己の中にある最も暖かく、最も大切な力が暴力的に剥ぎ取られていく感覚。それは魂を削り取られるような、絶望的な痛みだった。

「どうすればいいんだ……！」

木陰に隠れて戦況を見守っていたじゃまピーは、全身を震わせてパニックに陥っていた。
もはや愛天使たちは全滅の危機にある。自分一人の力でどうにかなる相手ではない。このままでは、三人は愛のウェーブを全て奪われ、二度と立ち上がれなくなってしまう。

その絶対絶命の窮地に、再び奇跡の光が差し込んだ。

上空の空間が突如として歪み、そこから黄金に輝く光の階段が地上に向けて滑り降りてきたのだ。神聖なオーラを纏ったその光景に、じゃまピーの顔に希望の光が差した。

「リモーネ様！」

光の階段の頂点から、ゆっくりと歩みを進めてくる一つの影があった。
長い金髪を風に靡かせ、純白のコートに身を包んだ天使界の騎士、リモーネ。愛天使たちの指導者であり、彼女たちの絶対的な守護者が、ついに駆けつけたのだ。

「悪魔ども」 リモーネの声は静かであったが、その底には静かなる激怒が込められていた。

「卑劣な策でセント・サムシング・フォーを奪おうとしても無駄だ。渡しはしない！」

圧倒的な天使の力を前に、りゅっくは顔を引き攣らせた。 「ひえーっ！　邪魔するな！」
いくら愛天使を三人無力化したとはいえ、下級の使い魔であるりゅっくにとって、上位天使であるリモーネは到底敵う相手ではない。せっかくの獲物を奪われまいと、りゅっくは後ずさりする。

だが、悪魔族もまた、この好機を逃すつもりはなかった。

「リモーネは我が輩が倒す」

突如として空が赤黒く染まり、燃え盛る炎と共に、漆黒の外套を羽織った長身の男が姿を現した。悪魔族の幹部にして、りゅっくを操る者、炎の悪魔イグニスである。
イグニスは手にした巨大な剣を抜き放ち、鋭い眼光でリモーネを睨みつけた。

「お前は愛天使たちにとどめを！」 りゅっくにそう言い残すと、イグニスは一直線にリモーネへと向かって飛翔した。

「くっ！」 リモーネも腰の剣を抜き、迎え撃つ。
天空にて、天使の白き光と悪魔の赤き炎が激しく激突した。剣と剣が交わる金属音が周囲に轟き、凄まじい衝撃波が巻き起こる。リモーネの力は強大だが、イグニスもまた悪魔界屈指の戦士。実力は伯仲しており、リモーネはイグニスの猛攻を凌ぐだけで手一杯となり、地上で苦しむ愛天使たちを助けに向かう余裕を完全に奪われてしまった。

「リュック・リュック！　これで邪魔者はいないわ！」

イグニスがリモーネを足止めしてくれたことで、りゅっくは完全に安心し、再び邪悪な作業を再開した。
モニターの吸引力はさらに増し、ピーチ、リリィ、デイジーの三人から、残された僅かな愛のウェーブが容赦無く吸い取られていく。

「あああっ……！」 「いや……やめて……！」 「ううっ……！」

三人の悲鳴が、周囲の木霊となって響き渡る。だが、その声は徐々に弱々しく、かすれたものになっていった。
生命力の根源である愛のウェーブを失っていくことで、彼女たちの意識は急速に混濁し始めていた。視界が白く霞み、耳鳴りが大きくなる。手足の感覚はとうの昔に消失し、ただ胸の奥から何かが抉り取られるような虚無感だけが、全身を支配していた。

シールによって直立の姿勢を強制されていることが、さらに彼女たちの苦痛を増幅させていた。限界を超えた身体は本来なら膝から崩れ落ち、気を失うことで痛みを回避しようとする。しかし、呪縛の魔法はそれすら許さない。意識が途切れる最後の瞬間まで、立たされたまま、目を剥いたまま、極限の苦痛を味わい続けなければならないのだ。

（ももこちゃま！　ゆりちゃま！　ひなぎくちゃま！） じゃまピーは泣き叫びながら宙を飛び回るが、見えない力に弾かれ、彼女たちに近づくことすらできない。

「リモーネ様！　早く！」
じゃまピーの悲痛な叫び声が空へと向かうが、激しい剣戟の音にかき消されてしまう。リモーネもまた、イグニスの執拗な連撃の前に防戦一方となり、地上へ視線を向けることすら叶わずにいた。

ついに、その時が訪れた。

「……あ……」

ピーチの唇から、最後の小さな吐息が漏れたのを皮切りに、三人の身体を包んでいた神聖な光が、ふっと音を立てて消失した。
愛天使の力である変身を維持するためのエネルギーすら、りゅっくに完全に吸い尽くされてしまったのだ。

光が弾け、真紅の装甲や美しいドレスが粒子となって霧散していく。 後に残されたのは、いつもの見慣れた制服姿に戻ってしまった、三人の普通の少女たちの姿であった。

それと同時に、額に貼られていた「とまれ」のシールの効力も切れた。対象の魔力が完全に尽きたことで、魔法の呪縛が解けたのだ。
糸を切られた操り人形のように、ももこ、ゆり、ひなぎくの三人は、何の抵抗も見せずにその場にバタバタと倒れ込んだ。土の地面に投げ出された彼女たちは、ピクリとも動かない。その顔は青ざめ、閉ざされた瞼の下からは一筋の涙が零れ落ちていた。

そして、変身が解けた彼女たちの無防備な手から、天使界の至宝がこぼれ落ちた。 ゆりの手からは『セント・サムシング・ブルー』が。
ひなぎくの手からは『セント・サムシング・ボロー』が。
そしてももこの手からは『セント・サムシング・オールド』が。
三つの聖なるアイテムが、乾いた音を立てて地面に転がった。それは、悪魔族が血眼になって探し求めていた、世界を救う力を持つアイテムであった。

「リュックーッ！！　やった、やったわ！　大豊作リュック！」

完全に力尽き、意識を失った三人を尻目に、りゅっくは歓喜の声を上げて飛び跳ねた。彼は地面に転がった三つのサムシング・フォーを拾い集めると、大事そうに自身のリュックサックへと押し込んだ。愛のウェーブを限界まで吸い込み、さらに目的の品まで手に入れたのだ。完全なる勝利であった。

その様子を上空から確認したイグニスは、リモーネの剣を大きく弾き返すと、ニヤリと満足げな笑みを浮かべた。

「目的は果たした。今日はこの辺で退いてやろう」

「待て！　イグニス！」 リモーネが怒りに満ちた声で叫ぶが、イグニスは既に背を向けていた。

「よくやったぞ、りゅっく。帰るぞ」 「はいな！　リュック！」

イグニスがマントを翻すと、その場に巨大な炎の渦が巻き起こった。りゅっくがその炎の中に飛び込むと、二人の姿は燃え盛る炎と共に虚空へと溶け込み、跡形もなく消え去ってしまった。
後に残されたのは、静寂を取り戻した秋の遊歩道と、焦げたようなかすかな硫黄の匂いだけであった。

「ももこ！　ゆり！　ひなぎく！」

上空から猛スピードで舞い降りたリモーネが、地に伏した三人の元へ駆け寄る。 彼は地に膝をつき、すぐさまももこの肩を抱き起こした。

「しっかりしろ！　ももこ！」

悲痛な声で名前を呼ぶリモーネ。しかし、腕の中の少女は人形のように冷たく、微かな寝息すら立てていなかった。
傍らに倒れるゆりも、ひなぎくも同じだった。愛天使としての根源たる愛のウェーブを根こそぎ奪われた彼女たちは、深い、あまりにも深い昏睡状態に陥っていた。

じゃまピーが三人の間を飛び回りながら、大粒の涙をこぼして泣きじゃくっている。

「どうして……私がもう少し早く駆けつけていれば……！」

リモーネは強く唇を噛み締め、己の無力さを呪った。
天使界の至宝、サムシング・フォーを三つも奪われ、さらに愛天使たちまでもが瀕死の重傷を負ってしまった。悪魔族との長きにわたる戦いにおいて、これほどまでに絶望的な敗北を喫したことはかつてなかった。

秋風が、冷たく吹き抜けていく。 倒れ伏す三人の少女の上に、枯れ葉が力なく舞い落ちる。
完全に力尽きた彼女たちから、返事が返ってくることはなかった。ただ沈黙だけが、残酷な現実としてそこに横たわっていた。
