女は淀みなく、経典の一節を諳んじてみせた――無論、目の前の男はそれを聞いてなどいない。 視線はちらちらと彼女の身体、深く開けた胸の谷間と前掛けのように垂らされた細い布―― 桜色の乳輪の外周部を隠しきれずに薄っすら外に覗かせる、その先端の間抜けな飾りを見た。 額と乳首に触れる布には、女性器を象った下品な記号が描かれている。 鼠径部も外性器こそ見えてはいないが、臍や股の切れ込みはほとんどむき出しのままだ。 それらの珍妙さのせいで、彼女の実に真面目な態度は酷く滑稽なものに映ってしまう。 両手を信心深く合わせ、細く結んだ唇の合間から、すう――っ、と息を吐く。 そしてそのまま微笑みへと、表情は繋ぎ目なしに変化する。 ただ碧い瞳が、教えを広げられることへの幸福に満ち満ちて妖しげな光を纏っていた。 呼吸のたびに拡縮を繰り返す横隔膜のせいで、脂肪の乗った大きな乳房は、 ぷるん、ぷるんと一人でに揺れる。先端の飾りもまた、左右に暴れるのである。 金色の髪は、修道女らしい頭飾りの中に行儀よく収まってはいたものの、 腰まで届くその長さは、とても隠しきれるようなものではない――柔らかに、踊る。 明らかに両者の視線は、互いに向いていなかった――男が女の瞳を見たのは、 語り終えて微笑んだ、その一瞬ぐらいのものである。ほとんど常に彼の頭は、 宗教家というより娼婦に近い、彼女の格好のことばかり考えていたし、 それに包まれた雌臭い身体つき――子供の頭ほどある乳房、どっしりした無防備な腿と尻―― それらを一層卑猥に演出する美貌とに、鼻の下を伸ばしてばかりであった。 けれど女は男のその態度に不快感を示すどころか、彼の股間――服の上からでもわかるほど、 固く大きく張り詰めている、その膨らみに目を向けて――その顔を、見上げた。 手を伸ばし――男の手を握る。腕に持ち上げられた爆乳は、呆気なくその乳首を晒けだす。 男の視線はもう、こぼれたそちらに釘付けだ――女はくすくすと笑いながら、 勿体付けたように、あっさり露出した乳首を、反対側の手の指で摘んで、隠してみせる。 だが男の手はそれより先に、布の下で直に彼女の胸を握るように引かれているのであった。 反射的な指の強張りが、細い布を波打たせる――金色の飾りがゆらゆら揺れる。 柔らかな感触。上半分を軽く掴んでいるだけでもわかる、ずしりとくる重量感。 どこまでも指が沈んでいき――張り付くような、しっとりした肌質―― 初めは恐る恐るだった彼も、みるみるうちにその魔力に引き込まれてしまう。 男に胸を揉まれたまま、女はすっと顔を近付けて、彼の唇――初めての接吻を奪った。 唇だけを蠢かせて僅かな隙間を開かせると、破城槌めいて、赤い舌を遠慮なく差し込む。 無論彼は、そんな淫猥な口付けなどしたことはない。されるがままに、流されるままに、 舌と舌は踊り、唾液を絡めあって、二枚の舌がまるで一つの塊のように融けていく―― 鼻をぴすぴすと鳴らす吸気だけでは、到底彼の興奮を賄うだけの酸素は得られない。 自然、女から吹き込まれる吐息で、息継ぎをすることとなる。 顔は赤くなり――必死になって彼女の舌を舐り、与えられるものを受け入れる。 女は彼のその態度を、まるで赤子をあやすように全て肯定してやるのだった。 そして何かを思い出したように、女は急に彼の身体をぐい、とつき放す。 彼女から不意に切断された男は、怒るような泣くような、困惑に満ちた表情を取った。 だが女の方が何倍も上手である。彼の胸板に乳房を押し付けながら寄りかかり、 その筋肉質な尻に手を添えて、腿との付け根を撫で下ろし――同時に、 ちょうど開きかけた部屋の扉の方へ、彼の意識を向けさせるのである。 そこからは、彼女と同じ――淫猥な――服装の女が一人、別の男に連れられて出てきた。 尻たぶをがっしり掴まれ、鼠径部周りに黄ばんだ汁を点々と付けた状態で―― 女はその二人とすれ違うように、彼をあっという間に部屋の中に引きずり込んでしまう。 真っ暗闇に彼の目が慣れるより先に、ぷうんと、甘いような香りが立ちのぼる―― その正体を確かめるために目をつぶった彼の瞼の裏側で、桃色の明かりがぼんやり光った。 それを遮って、女の影が彼の肌にかかる。白い肌に桃色の光が、更なる艶めかしさを加える。 汗の粒が流れ落ちていく様さえ、彼の目にはくっきりと見えた。 肌に張り付いていた布をぺろりとめくって現れた、大ぶりでぷっくりした乳首の輪郭も。 女はさらに、手で股座の布を持ち上げて――しとどに濡れた陰唇を見せつける。 そこからはもう、何をするかは決まりきっていた。 もとより、寝台と、香炉と照明が乗った脇机しかないような狭い部屋だ。 絡まり合いながら寝転がれば、そのままなすべきことをなす距離となる。 粘膜は自然に接触しあい、生物としての最も根源的な欲求を果たすために機能し始める―― 男が夢中になって腰を振るのを、女は優しく導きながら自身も腰をうねらせて応え、 いかにも彼の行為によって、感じているかのように甘く蕩けた声をあげてみせる。 その真偽を如何するほどに、彼に余裕はない。耳、鼻、目、肌、あらゆる感覚器から流れる、 全ての信号が彼を興奮させ、思考を破壊し、一匹の獣へと貶めてしまう。 だが獣に貪られていてさえ、女は悦びに満ちた顔で――全てを差し出すのだった。 あっ、という間に限界を迎えた彼は、たやすく彼女の膣内に精を吐きつける。 まずい、とは思っていても止められない。すぐにまた、勝手に腰が動き始める。 初対面の女の胎内に射精することの危険性を、彼が考えぬわけがない。 男に精を放たれている当の女も、己の身体に起きるであろう変化を知らぬわけもない。 妊娠――その言葉が彼の脳裏に浮かぶたびに、女はぎゅうっと身体を押し付けて理性を壊す。 無責任な、無条件の種付けを肯定する言葉を囁き――何度も何度も、種を受け止める。 彼女の掲げる教義は、男女の交合をこそ最も神聖なる行いに位置づけるからである。 彼の顔に乳房を押し付けながら、良き子の生るように祈ってくれと女は言った。 男は剥き出しの臍を、彼女に言われた通りに渦を描くように撫で回し、繰り返し口づける。 女は男に孕まされ、子を産んでこそ価値があるものになれるのだと――そう語る彼女は、 酷く嬉しそうに、二人目をそこに宿せる幸福を得たことへの、心からな笑顔を見せる―― 男は自分が彼女の一番目でないことに、酷い嫉妬心を覚えた。 記念すべき第一子は、どの女信徒も教祖によって授けてもらう決まりなのだと、 女がさも当然に言ったことさえ、耳には入らなかった―― 男は自らの意思で、己の財産の三分の一を彼女に――否、その操り主に捧げた。 すくすくと育っていく胎。次第に盛り上がる下腹部、形の変わりだす臍。 その変化を見届けるためには――そして中から具合を確かめるためには、 他の男に彼女を取られないように、予約をし続ける必要があったからだ。 色の濃くなり続ける乳首も、彼の意識を強く束縛した――少なくとも胎の子の産まれるまでは、 彼一人が、そこからあふれ出すものを独り占めできるのである。 けれど彼が何度、ここを出て自分と暮らそう、結婚してくれ――そう願っても、 女は笑っていなし、自分の居場所は全宇宙にここだけである、というばかりだ。 何より、次の子と次の次の子と次の次の次の子は、光栄なことに、 また教祖様直々に種付けて頂き、出産の瞬間までじっくりと教えを注いでもらえる予定なのだ。 貴方などに割いてあげられる時間は、この子が産まれた瞬間で終わりだ――と、 やはり優しく微笑んだまま、冷たく突き放してくるのである。 男はすがった。彼女の臨月胎の、ぷっくり飛び出た臍を掴むようにして顔を擦り付け、 財産の残り全てを差し出すから、せめてもう一人産んでくれ――泣きながら願う。 彼はとっくに、姉と妹とを呑み込んだこの教団に潜入捜査を仕掛けたことを忘れていた。 そしてそれは、賞金首である教祖を仕留めに来ていた――彼女自身も同じことであった。