白銀の世界が広がる雪山。澄み切った青空の下、色とりどりのスキーウェアに身を包んだ人々が冬のレジャーを満喫していた。花咲ももこ、谷間ゆり、珠野ひなぎくの三人にとっても、このスキー旅行は日々の喧騒から離れ、純粋に学生らしい時間を楽しめるはずの貴重な休日だった。
しかし、彼女たちの平和な時間は、悪魔族の執拗な追跡によって無残にも打ち砕かれることとなる。

ゲレンデから少し離れた静寂の森の中、彼女たちの動向を監視していた悪魔族の幹部・ペトラーは、憎々しげに舌打ちをした。愛天使たちの放つ強力な「愛のウェーブ」は、悪魔界にとって目障り極まりない存在である。この雪山という閉鎖的な環境を利用し、彼女たちを一網打尽にするべく、ペトラーは配下の悪魔を呼び出した。
「出でよ、雪之丞変化魔（ゆきのじょうへんげま）！」
ペトラーの呼びかけに応じ、雪煙の中から姿を現したのは、真っ白な肌と不気味な細い目、そして頭頂部に毛のない独特の風貌をした悪魔、雪之丞だった。彼の能力は、自らの姿を自在に別の者に変えることができる「変化（へんげ）」の術である。

「ひひっ、お任せをペトラー様。あの小娘どもの絆など、私の変化の術で粉々に引き裂いてご覧に入れましょう」
雪之丞は不敵な笑みを浮かべると、標的であるももこたちの元へと音もなく滑るように移動していった。

ももこはゲレンデで、思いを寄せる風摩ようすけの姿を探していた。ふと見ると、木立のそばに彼が立っているのが見えた。ももこは顔をほころばせ、彼のもとへ駆け寄っていく。
「ようすけ！　こんなところにいたの？」
しかし、振り返ったようすけの表情は、いつものぶっきらぼうだがどこか優しいものとは全く違っていた。冷酷で、あざけるような冷たい視線がももこを射抜く。
「お前か、ももこ。お前みたいなガサツな女、本当に目障りなんだよ。俺の前に二度と顔を見せるな」
思いもよらない冷酷な言葉の刃に、ももこは息を呑んだ。胸の奥がギュッと締め付けられ、視界が涙で滲んでいく。
「え……ようすけ、どうして……？」
ショックのあまりその場にへたり込みそうになったももこだったが、その時、彼女の肩口に小さな影が飛び込んできた。愛天使たちのマスコット的魔物であるじゃ魔ピーだ。
「ピーッ！　ももこちゃま、騙されちゃダメです！　そいつはようすけじゃない！　悪魔の嫌な匂いがします！」
じゃ魔ピーの鋭い指摘に、ようすけの姿をしていた男の顔が歪んだ。
「ちっ、余計な真似を……！」
 次の瞬間、ようすけの姿はドロドロと溶け崩れ、不気味な白装束の悪魔・雪之丞の本来の姿が露わになった。
「ようすけじゃ、ない……悪魔！」
ももこは涙を拭い、怒りに満ちた声で叫んだ。乙女の純情を弄んだ悪魔の卑劣な罠。合流したゆりとひなぎくも、事態を瞬時に察知し、鋭い視線を雪之丞に向ける。
「正体がバレては仕方がない。今日はこの辺で退散させてもらうとしよう。ひひひっ！」
雪之丞はそう言い残すと、激しい雪煙を巻き起こし、猛スピードで雪山の奥深くへと逃げ出していった。

「逃がさないわよ！　みんな、行くわよ！」
ももこの号令とともに、三人は雪之丞の後を追って雪山へと足を踏み入れた。しかし、相手は雪を操る悪魔である。起伏の激しい広大な雪山で、人間の足で闇雲に捜索しても見つかるはずがなかった。
次第に深くなる雪と寒さに体力を奪われそうになった三人は、互いに頷き合った。 「このままじゃ拉致が明かないわ。変身して一気に探しましょう！」 「ええ！」
「ウェディング・ビューティフル・フラワー！」
三人の少女の身体を、眩い光が包み込む。純白のウェディングドレス姿へと転身したのち、さらに戦闘形態であるファイターエンジェルへと「お色直し」を行う。
「愛天使ウェディングピーチ！」
 「エンジェルリリィ！」 
「エンジェルデイジー！」
身体能力が飛躍的に向上した三人は、雪之丞を確実に追い詰めるため、手分けして別行動で捜索にあたることを決断した。これが、雪之丞の仕掛けた巧妙な罠への第一歩であるとは知る由もなかった。

三人が散り散りになったのを確認した雪之丞は、雪山の頂上付近から冷酷な笑みを浮かべて見下ろしていた。
「かかったでおじゃるな、愛天使ども。一人ずつ孤立させて、確実に仕留めてあげるわ」
雪之丞が両手を大きく広げ、呪文を唱え始めると、雪山の天候が急激に悪化し始めた。先程までの晴天が嘘のように、空は分厚い鉛色の雲に覆われ、猛烈な吹雪が巻き起こった。

ファイターエンジェルに変身し、超人的な視力と体力を得ている愛天使たちであっても、この不自然なまでに強力な吹雪の前には立ち止まるしかなかった。少し先を見るのがやっとというホワイトアウト現象の中、吹き付ける氷の粒が容赦なく彼女たちの肌を叩く。

「くっ、何だよこの吹雪……！　全然前が見えない！」
エンジェルデイジーは、腕で顔を庇いながら猛烈な風雪に耐えていた。雪之丞の姿はおろか、周囲の景色さえ全く判別できない。焦りと寒さが、彼女の心を少しずつ削っていく。
そんな時、猛吹雪の向こう側から、一つの人影がふらふらと歩いてくるのが見えた。
 「誰……？　リリィ！」
デイジーの視線の先にいたのは、青いプロテクターを身につけたエンジェルリリィだった。リリィもまた、吹雪に難儀しているように腕で顔を覆い、辛そうな足取りでデイジーに近付いてくる。
「デイジー……よかった、あなたを見つけられて」
 「リリィ！　大丈夫か？　悪魔は？」 
デイジーが駆け寄り尋ねると、リリィは力なく首を横に振った。
「ううん、ダメですわ。私もこの吹雪で視界を奪われてしまって、全然雪之丞を見つけられないの……。ねえデイジー、このまま一人で探すのは危険だわ。一緒に行動しましょう？」
「そうだな、こんな状況じゃはぐれたら危ないし。オレが先頭に立って道を作る。リリィはついて来て！」
 頼もしいデイジーの言葉に、リリィは嬉しそうに頷いた。
吹雪に立ち向かうように前を向き、デイジーが一歩を踏み出したその瞬間だった。

ドンッ！！

背後から、信じられないほどの強い力で激しく突き飛ばされた。 
「えっ……！？」
無防備な背中への突然の衝撃。デイジーの身体は宙を舞い、硬く凍りついた雪原に顔から激しく叩きつけられた。
「きゃあああっ！！」 
変身しているとはいえ、不意打ちのダメージは計り知れない。全身を貫く激痛に、デイジーはすぐには立ち上がれず、雪の上にうずくまった。
「ううっ……痛っ……。リ、リリィ？　急に何するんだよ……」
呻きながら振り返ったデイジーの目に映ったのは、冷たい目をしてこちらを見下ろすリリィの姿だった。しかし、その顔の造作が不気味に歪み、ドロドロと溶け出していく。
「ほほほっ……引っかかったでおじゃるな、デイジー」 
リリィの姿が完全に崩れ落ちると、そこには元の白装束の悪魔、雪之丞が立っていた。
 「お、お前！　偽物だったのか！？」
デイジーは痛みを堪えて睨みつけるが、立ち上がる力が入らない。リリィの顔を利用し、友を思いやる心に付け込んだ卑劣な騙し討ち。デイジーの胸の内に、雪之丞に対する激しい怒りの炎が燃え上がった。
「よくも……よくもオレを騙したな！　絶対に許さない！」
 「その怒りこそ、麻呂が求めていたものだ。さあ、頂くわよ！」
雪之丞は不気味な笑みを浮かべると、両手から怪しい波紋のような光線を放った。それこそが、愛のウェーブを反転させる悪魔の技「お誘いウェーブ」だった。

お誘いウェーブの光を浴びた瞬間、デイジーの体から溢れ出ていた黄金色の「愛のウェーブ」が、どす黒い淀んだ色へと変質し始めた。
「ああっ！？　な、何だこれ……力が、抜けて……っ！」
騙されたことへの怒り、許せないという憎悪。デイジーの負の感情がお誘いウェーブと共鳴し、彼女の持つ純粋な愛のエネルギーを、悪魔界の糧となる「憎しみのウェーブ」へと変換させていくのだ。
雪之丞は恍惚とした表情で、デイジーから立ち昇るどす黒いエネルギーを吸い上げていく。
「ああ、素晴らしい……！　愛天使の怒りが生み出す憎しみのウェーブは、格別の味わいだ！」
「や、やめ……ろ……！　私の、愛のウェーブが……っ！」
デイジーは必死に抵抗しようと地面を掻きむしるが、間接的に愛のウェーブを奪われ続けることで、生命力そのものが削り取られていくような激しい苦痛に襲われていた。全身の力が抜け、意識が遠のいていく。
「も、ももこ……ゆり……気を、つけて……」
途切れ途切れの声を最後に、デイジーの瞳から光が失われた。完全に力尽き、気を失った彼女の身体からファイターエンジェルの装甲が光の粒子となって消え去り、変身前の無防備なウェディングドレス姿へと戻ってしまった。
雪原に倒れ伏すデイジーを見下ろし、雪之丞は満足げに舌舐めずりをした。
 「まずは一人。さて、次は誰の愛のウェーブを吸い尽くしてやろうか……」
雪之丞は再び姿を消し、猛吹雪の中へと溶け込んでいった。

同じ頃、エンジェルリリィもまた、突然発生した異常な吹雪に阻まれ、雪山の中腹で立ち往生を余儀なくされていた。 
「なんて酷い吹雪……。これでは一歩も前に進めませんわ」
リリィは風上へ背を向けながら、寒さに身を縮こまらせた。周囲は真っ白な闇に包まれ、どこを見渡しても雪、雪、雪。仲間たちの気配はおろか、悪魔の気配すら感じ取ることができない。
（ピーチ……デイジー……みんなどこにいるの？　私、独りぼっちで……）
冷たい風が体温だけでなく、彼女の心からも余裕を奪っていく。悪天候の中での孤立は、リリィの心にじわじわと不安と恐怖を植え付けていた。
そんな心細さの頂点に達しようとしていた時、吹雪の向こうから人影が近付いてくるのが見えた。
 「誰……？」
リリィが警戒して身構えると、見覚えのある赤いプロテクターが見えた。
「ピーチ！」
現れたのは、親友のウェディングピーチだった。リリィの顔に、安堵の色がパーッと広がる。孤立無援の状況から仲間と合流できた喜びで、彼女の警戒心は一瞬にして霧散してしまった。
「リリィ！　無事だったのね！」 
「ええ、ピーチも無事でよかったわ……。雪之丞の姿は見えた？」
 リリィの問いかけに、偽ピーチは残念そうに首を振った。
「ううん、まだ見つけられないわ。この吹雪じゃ無理もないわね。ねえリリィ、まずはデイジーと合流しましょう。一人でいるより、三人一緒の方が確実よ」
「そうね、賛成ですわ。デイジーがどこにいるか、心当たりはある？」
 「あっちの谷の方角に向かったみたい。私が案内するから、ついて来て！」
偽ピーチが指差した方向へ、リリィは何の疑いもなく歩み寄った。そして、偽ピーチの前を通り過ぎようとしたその刹那。

ドゴォッ！！

「きゃあああっ！！」 
リリィの華奢な背中に、強烈な一撃が叩き込まれた。悲鳴を上げながら前方に吹き飛ばされ、硬い雪の斜面を無様に転がり落ちる。
「ううっ……ああっ……！」
激しい衝突の痛みに顔を歪め、リリィは雪の上に這いつくばった。気を失うほどのダメージではなかったものの、背骨が折れたかと思うほどの激痛で、指一本動かすことも困難だった。
「ピ、ピーチ……？　どうして、そんなことを……っ」 
涙を浮かべて振り向いたリリィが見たのは、彼女を見下ろし、口角を不気味に吊り上げているピーチの姿だった。
そして、リリィに絶望を見せつけるかのように、偽ピーチの姿はゆっくりと溶け出し、元の雪之丞の姿へと変わっていった。
「ひひひっ、甘いわよ愛天使。仲間の姿を見れば、ホイホイと尻尾を振って近付いてくるとは」
「あなた……雪之丞！　ももこの姿を利用して、私を……っ！」
リリィの瞳に、激しい怒りと敵意が宿る。最も信頼する友人の姿で騙し討ちされた屈辱。それは、誇り高き愛天使にとって決して許すことのできない行為だった。
「その顔よ。その敵意に満ちた顔が見たかったでおじゃる。お前の愛のウェーブも、極上の憎しみに変えてあげるわ！」
雪之丞が両手を突き出すと、再び紫がかった邪悪な「お誘いウェーブ」が放たれ、リリィの全身を包み込んだ。
「いやあっ！？　ち、力が……ウェーブが、濁っていく……！」
リリィの清らかな愛のウェーブが、彼女の内に芽生えた怒りと敵意を触媒にして、みるみるうちに憎しみのウェーブへと反転させられていく。
「ダメ……怒っちゃダメ……！　愛のウェーブを、保たなきゃ……っ」
リリィは必死に精神を集中させ、怒りの感情を抑え込もうとした。しかし、背中に受けた激痛と、友の姿を汚された精神的ショックは想像以上に大きく、悪魔の術に抵抗するための気力を急速に奪っていった。
「無駄な抵抗よ。お前の心はすでに怒りに支配されている。大人しく全てのウェーブを私に捧げるがいい！」
 「ああああっ……！　ももこ……ごめんなさい……っ」
憎しみのウェーブとしてエネルギーを根こそぎ吸い上げられたリリィは、ついに限界を迎えた。力なく雪に突っ伏すと同時に意識は闇に沈み、ファイターエンジェルの姿が解け、元の純白のウェディングドレス姿へと戻ってしまった。
静まり返った雪原に倒れる二人目の愛天使。雪之丞は満足感に浸りながら、醜い顔を歪めてほくそ笑んだ。
「ひひひっ、これで残るはあと一人。ウェディングピーチ、最後はお前でおじゃる」

その頃、ウェディングピーチは一人、猛吹雪の中で必死に雪之丞の行方を探していた。デイジーとリリィがすでに毒牙にかかり、倒れていることなど知る由もない。
「くっ、全然見えない！　デイジー！　リリィ！　どこにいるの！？」
いくら叫んでも、声は吹雪の轟音にかき消されてしまう。焦燥感が募る中、ピーチの背後から唐突に声が掛かった。
「ピーチ！」 
「えっ！？」
 振り返ると、そこには息を切らせたエンジェルリリィの姿があった。 
「リリィ！　無事だったのね！」
ピーチは一瞬表情を明るくしたが、すぐに表情を引き締めた。リリィは焦った様子でピーチの腕を掴もうとする。
「ピーチ、大変よ！　デイジーが雪之丞を見つけて、今交戦中なの！　早く応援に行かないと！」
「デイジーが！？　わかった、すぐに行くわ！」
急かす偽リリィの言葉に反応し、走り出そうとしたピーチだったが、ふと足を止めた。
（待って……。本当に、このリリィは本物？）
ピーチの脳裏に、ゲレンデでの光景がフラッシュバックした。ようすけの姿に化け、残酷な言葉を吐いた雪之丞の姿。悪魔は身近な人間の姿を巧みに真似る。もし、今目の前にいるリリィが偽物だとしたら……。
ピーチは鋭い視線を偽リリィに向け、一歩後ずさった。 
「待って。あなた……本当にリリィ？」
ピーチの疑念に満ちた声に、偽リリィは心底悲しそうな、そして呆れたような表情を作った。
「ピーチ、何を言っているの？　私が偽物に見えるっていうの？」
 「だって、雪之丞はようすけに化けていたわ。あなたに化けていないっていう保証はないじゃない！」
警戒を解かないピーチに対し、偽リリィはため息をつき、ひどく論理的な反論を展開した。
「冷静になって、ピーチ。もし私が雪之丞の化けた偽物だったとしたら……さっきあなたが背中を見せた隙に、後ろから攻撃しているはずじゃない？　わざわざ声をかけて、デイジーの危機を知らせるなんて手間をかける必要がないわ」
「あっ……」
偽リリィの言葉は、恐ろしいほどに筋が通っていた。確かに、悪魔ならば背後から無防備なところを狙うのが定石だ。わざわざ声をかけて誘導しようとするだろうか。
（そうよね……リリィの言う通りだ。私、ようすけの件で疑心暗鬼になりすぎてるんだわ……）
自身の過剰な警戒心を恥じたピーチは、小さく首を振り、申し訳なさそうに微笑んだ。
「ごめんなさい、リリィ。私、ちょっと神経質になってたみたい。あなたの言う通りよね」
 「わかってくれればいいのよ。さあ、急ぎましょう！　デイジーが危ないわ！」
「ええ！」
 完全に疑いを解き、納得したピーチは、偽リリィに背を向けて前へと駆け出そうとした。

――その背中の無防備さを、悪魔が逃すはずがなかった。

ドンッッ！！！

「がはっ……！？」
 肺から空気が強制的に押し出されるほどの、強烈な衝撃。ピーチは背中から凄まじい力で突き飛ばされ、雪原を派手に転げ回った。
「ああっ……！　うっ、うう……！」
受け身を取る余裕すら与えられない完璧な不意打ち。雪に顔を突っ込み、激しい痛みに全身が痙攣する。手をついて立ち上がろうとするが、ダメージが深すぎて足に力が入らない。
「な、何……？　どうして……っ」
 荒い息を吐きながら、雪に這いつくばったまま首だけを後ろへ向けるピーチ。
そこには、ゆっくりと、極めて楽しげな足取りで近付いてくるエンジェルリリィの姿があった。
その顔には、親友のリリィが決して見せることのない、残酷で歪んだ嘲笑が貼り付いている。
「ひひひっ……アハハハハ！　馬鹿な愛天使でおじゃる。疑いを解いた瞬間、背中を見せた瞬間こそが、一番無防備になるに決まっているでおじゃろう？」
「あ、あなた……やっぱり、偽物……雪之丞！」
ピーチは偽リリィが変化を解く前に、その正体を完全に確信した。己の甘さと、仲間の顔を利用して平然と騙し討ちを行う悪魔の卑劣さに、ピーチの心は激しい怒りで沸騰した。
その怒りの気配を感じ取った偽リリィ——雪之丞は、あえてリリィの姿のままで歩みを止め、両手をピーチへとかざした。
「ひひひ、その怒り、その絶望！　そのまま変化を解かずに吸い取ってやる方が、お前にとってはより屈辱よね？」
 雪之丞から放たれた紫色の「お誘いウェーブ」が、身動きの取れないピーチに容赦なく降り注ぐ。
「あああっ……！　力、が……愛のウェーブが……っ！」
騙し討ちされた怒り、自らの愚かさへの悔恨、そして何より、リリィの姿をした者にウェーブを奪われているという精神的な凌辱。ピーチの持つ強大な愛のウェーブが、お誘いウェーブの呪縛によってどす黒い憎しみのウェーブへと強制的に変質させられていく。
不意打ちによる深刻な肉体的ダメージと、魂のエネルギーを根こそぎ吸い上げられる激痛。二重の苦しみに、ピーチは雪の上でのたうち回った。
「ああっ……あぁぁぁっ……！」
じわじわと愛のウェーブを奪われ、悶え苦しむピーチの姿を、偽リリィは恍惚とした表情で見下ろしている。
「素晴らしい……！　これで三人分の愛のウェーブを、全て憎しみに変えて我が物とした！　悪魔族の勝利でおじゃる！」

やがて、ピーチの体から放たれていた愛のウェーブが極端に弱まり、ファイターエンジェルの装甲を維持できなくなった。光の粒子が飛び散り、ピーチは変身前のウェディングドレス姿へと引き戻される。
「はぁ……はぁ……っ」
雪の上に倒れ伏す純白のドレス姿。もはや立ち上がる力など一ミリも残されていない。しかし、ピーチは首をわずかに持ち上げ、偽リリィを——雪之丞を、強く睨みつけていた。
体は限界を超え、力は失われても、その瞳の奥に宿る「抵抗の意志」、悪魔には絶対に屈しないという強い光だけは、決して失われていなかった。
 「……っ！？」
完全に絶望し、心を折ったと思っていたピーチのその力強い眼差しに、偽リリィは一瞬だけ驚きの表情を浮かべた。愛のウェーブを根底から反転させられたにも関わらず、まだ心底の愛と正義の炎を消していないというのか。
「ええいっ、目障りな光め！　すべて吸い尽くしてあげるわ！」
少しの恐怖すら覚えた雪之丞は、焦ったように手をかざし、残された最後の一滴までお誘いウェーブで吸い上げようと力を強めた。
「くっ……負け、ない……私は、愛天使……ウェディング……ピーチ……っ」
ピーチは歯を食いしばり、最後の気力で睨み返し続けたが、やがてそれも限界に達した。視界が真っ暗に染まり、意識がプツリと途切れる。
ウェディングドレスの輝きが失われ、ピーチの姿はゲレンデにいた時のただのスキーウェア姿——花咲ももこへと完全に戻ってしまった。

ぴくりとも動かなくなったももこの姿を見下ろし、雪之丞はようやく変化の術を解き、本来の悪魔の姿へと戻った。
「ほっほっほっ、手こずらせるでおじゃる。だが、結果は麻呂の完全勝利よ」
雪之丞の手の中には、三人の愛天使から奪い取った、膨大な「憎しみのウェーブ」が黒黒とした球体となって脈打っている。これだけの手土産があれば、ペトラー様も、ひいてはレインデビラ様も大層お喜びになるだろう。
「さて、長居は無用だわ。愛天使どもは、この冷たい雪山で永遠に眠り続けるがいい！」
雪之丞は高笑いを上げながら、空間にぽっかりと開いた悪魔界へのゲートへと飛び込み、その姿を消した。

雪之丞が去った後、彼が操っていた異常な吹雪も次第に弱まり、雲の隙間からわずかに冬の陽光が差し込み始めた。
しかし、その静寂を取り戻した美しい白銀の世界に残されたのは、冷たい雪の上に倒れ伏し、意識を失って微動だにしない三人の少女たちの姿だけであった。愛のウェーブを奪われ、ただの無力な少女に戻ってしまった彼女たちを包み込むのは、無情な雪山の寒さだけだった……。
