無論彼らとて、それをそのまま鵜呑みにするような楽天家ではない。 壁には無数の落書きに包まれるようにして、近頃名を挙げたどこぞの実業家だとか―― あるいは新聞を賑わせたような犯罪者、世紀の発見をした科学者、売り出し中の女優、等々。 そんな若い女たちの顔が、額縁から今にも殺さんばかりの表情で男たちを見ているのである。 一枚の写真から、その人間の一生を捏造した動画を作るぐらい容易い時代だ―― 剥き出しの女性器に、これまた乱雑に取り出された男性器をねじ込まれれば、 あたかも本物のそれらしく、喚き散らし怒り狂い慈悲を乞う真似だってしてみせる。 雄の嗜虐心と――つまらぬ意趣返しのための、限りなく無為な時間のために。 壁から突き出した尻は、そうではない誰か――借金だとか何だとかで絡め取られて、 若い身体を収奪される身分に、文句の一つも言えないような連中である。 彼女らに人格は必要ない。見えもしない背中の上の誰かの代わりに、 ほどよく温かな肉穴を提供する、それ以上の意味はないのだ。 男たちの罵倒の言葉が打ちっぱなしの壁に阻まれて聞こえないのだけは、救いであろうか。 ただそれは同時に――唐突に尻を平手で打たれても予期一つできぬということだ。 反射的に出た悲鳴は、額縁の中の生意気な女の合成音声に変換される。 内部の機器から漏れ聞こえるその声は、まるで己の声ではないかのように嘘臭い。 彼らはわかっているのだ。その行為がただの虚しい代償行為であることを。 それでも、壁から生えた若い女の尻に性器をねじ込んでやり、奥をほじくり回し、 高揚した気分のままに尻たぶに赤い花の一つでも咲かせてやりさえすれば、 彼ら自身言葉にできない――鬱屈した感情を吐き出すぐらいはできる。 偉そうに勲章を見せつけやがって。誰に許可を取って人様の前に出てやがる。 お前のいるところぐらい、その気になれば俺はすぐに行けるんだ。女のくせに、女のくせに。 そして射精感と共に――一気に現実に引き戻されるような気がするのであった。 代理尻は得てして、あまり具合もよくない――皺の一つでも見つけてしまったなら、 それまでの興奮は急激に冷め、単なる性処理の道具に成り果てる。 写真の中の肌の色と、覗いている肌の色の違いも、偽物らしさを強調こそすれ、 生意気な糞女にわからせてやったという達成感からは、遠くかけ離れていってしまう。 その意味で、この男の使っている穴は比較的に彼の気分を満足させるものであった。 なにせ、肌の色はおろか、陰毛の色までも、“本物”の髪の色と同じなのだ。 ご丁寧に、衣装と同じ色の靴下まで履かせてあった――設置担当は酔っていたのか? 宇宙最強だか銀河最高だかの女賞金稼ぎ様、それがこうして自分に尻を向けている―― 同じ賞金稼ぎ稼業をする彼にとって、それはある種の憧れであった。 ただ彼女が女であるという一点で――その感情はどうしても嫉妬の色彩を帯びた。 雄と雌、筋肉量も体格も負けていないはずの自分は――こうして安い穴に腰を振っている。 どう考えても、この女は何かしらのずるをしているに違いなかった――そうであってほしい。 彼と同じ思いを抱いている利用者は、他にもいくらでもいるのだった。 壁の落書きには、“本物”への罵倒の言葉が軽く二十三の言葉でばらばらに書かれ、 いつかの彼女の活躍を称した何かの切り抜きを、顔だけ雑にどこぞの女優に貼ったものが、 これまた下劣な文句とともに、ぺたぺたと貼られて――飛び散った精液に触れて乾いている。 そして当然、股間からはだらだらと、出されたばかりの精がこぼれているのであった。 ぶ厚い尻肉に、塗りたくるように掛けるもの――余さず最奥に、ぶちまけてくるもの。 どう扱ったって、傷さえ残さなければ自由である。どうせ文句の一つも言われないのだ。 仮に孕ませたとて、それもまた彼らの責任に帰するところはない。 壁の中での一切は、彼らにはわからない。偽物の女のことなど、どうでもいい。 掃除夫は清掃用具で雑に女たちの肌を磨き――薄皮ごと汚れや垢を掻き落とす。 そこに冷たい水を無造作にぶちまけるのである。合成音声が虚しく悲鳴を上げる。 膣肉を指でほじくり、使い込まれて黒く――無残に変えられていく形を見ながら、 また別の掃除用具で、中をごしごしと強く擦って精液をかき出してやるのだった。 設置されて久しい女たちは、彼の手つきから、水を掛けられるまでの時間を逆算し、 情けない声を上げないようぐっと堪える――だが、膣内を擦られるのはどうにも慣れない。 それぞれにぴくぴくと間抜けに脚を震わせながら、長い一日の終わったことに安堵するのだ。 時には尻の穴に、指か煙草の吸い差しでも突っ込まれることもある―― すると利用者への警告が画面に表示されるその裏で、彼の要望通り、 尊厳を汚された“本物”は、あたかも本人のそう言うがごとくに抗議をする。 あらかじめ用意された文面とはいえ――人非人と、彼らを罵ってもみせるのである。 それは逆説的に、男たちの自尊心を満たすのだ。いくら怒ってみせたところで。 そのまま胎内にぶちまけてやって――引き抜くときの満たされた気持ちたるや。 彼女らには、人間らしい時間は与えられない。給仕も、排泄も、上半身と下半身で別、 食い扶持は壁の向こうで尻が稼いでくれるのを待たねばならぬのは、ひどくもどかしい。 自然、長く設置され続ける――利用者の絶えない女と、すぐ“撤去”される女が出る。 男はあの時、至福の時間を与えてくれた青い服の女が――まだ設置されていることを喜んだ。 やはり変わらず、それは彼を睨み返す。気丈な言葉を向けてくる。 けれど結局、それは単なる尻の切り身でしかなかった。雄に対する何らの対策も持たぬまま、 やがて悲鳴と嗚咽とに塗り潰されていく、か弱い存在に過ぎなかった。 まして、彼女の胎は膨らんで――誰のものともしれぬ子を宿してもいたのだ。 ずっしりと重たく垂れた下腹部には、壁と同じく卑猥な言葉が無数に書き連ねられていた。 ぱちんと気前よく、男は尻たぶを叩く。いい音がして、もう一発二発、三発と。 赤々とした手の跡が残ったままの尻肉を掴んで、興奮に流されるように性器をねじり込む。 使い込まれた女性器は、思ったほどには緩くなかったのが嬉しい誤算であった。 同じく何人もにいたぶられたであろう尻の穴も、縦には割れずに済んでいる。 ただ力だけは入り切らぬと見えて――抽挿のたびに、間抜けに、ぴすぴすと空気が漏れた。 なんとか族のものを受け継いだとか言う橙色の鎧、その中に包まれていた青い服の女。 凛とした顔つきで、長い金髪を一纏めにして、雌臭い身体をぎゅうぎゅうに抑え込んで。 あのとき、解消できなかった劣情を――こうして“偽物”相手に発散できているのだ。 男は次第に、それが“本物”であるかのように錯覚し始めた――彼女の名前を繰り返す。 壁の向こう側の、くぐもってよく聞き取れない声が自分の通り名であるか――もしくは、 低俗な罵りの言葉であることは、彼女にはすぐ理解のできることであった。 そういう時には大抵、尻を叩かれたり何かをねじ込まれたりといった追加の暴力が後に来る。 そして――拒絶もできないまま、胎内に精を吐かれるのだ。当然、避妊など望むべくもない。 機械の中は薄暗い。どう動けば脱出できるかの検討もつかないまま、 下腹部には嫌な張りが出て――重みを実感し始めた頃には、もう手遅れだと思った。 それでも男たちは、不細工な顔をしながら壁の向こうで笑っているのである。 誰も、この穴だけが唯一、“偽物”ではないことなど知るわけもない―― また別の男が来たらしかった。その男はどうやら妊婦の胎に執着心を抱くたちらしく、 膨れた胎の――飛び出た臍を、乳首でも舐めしゃぶるように舌で弄ぶのだった。 壁の向こうで女は、顔も知れない相手にそんなことをする男のおぞましさに吐き気を覚えた―― そしてそれに抗うことさえできない自分が、ひどく惨めに思えてならなかった。 賞金稼ぎとしての日々は既に遠く。ここにあるのは、単なる肉の穴である。 雄たちの欲望に己の身を差し出して、その日の食を得るだけの――無意味な、穴。