ガチャリとベッドルームのドアが開く音がして、俺はうっすらと目を覚ました。 AM 06:04 時計を薄目で見ると、そう表示されている。 どうせ俺は謹慎中の身。こんな早く起きたところでやることなんてない。 「まーどーっくすー」 どこからか、俺を呼ぶ声がした。 寝かせてくれ…まだ二日酔いが残ってるんだ。 「おーきーろー!」 ユサユサと体が揺さぶられる。 …誰がやってんだ?俺は一人暮らしだぞ? 「誰だ!!」 俺は飛び起きながらベッドの隙間に隠してあるデザートイーグルを手に取り、その相手と対峙した。 「誰って…アタシだよアタシ、ウルヴァモン。」 …そうだった。 昨日、俺は玄関前で倒れていた喋るフェレットを助けた。 暇だし行き場に困ってそうだったんで、俺はヤツを住まわしてやることにした。 動物は嫌いじゃない。嫌いじゃないが…相手が喋るとなると、調子が狂うな。 「んー…フェレット…じゃねえや、フェル、こんな時間に起こすな。」 「人間って長く寝るのね。」 「そう、人間は9時間は余裕で寝る。わかったら二度寝するからリビングでケーブルテレビでも見てろ。」 「テレビならデジタルワールドでも見れる。もっとこう…リアルワールドらしいのってないの?」 ワガママなヤツめ… 「………お前、英語は読めるか?」 「当たり前でしょ。アタシを動物と勘違いしてる?」 「リビングの本棚にGuns & Ammoがある。それでも読んどけ。」 「わかった〜」 フェルはそれで満足したのか、ベッドルームを出て行った。 俺はデザートイーグルをベッドの隙間にしまいなおす。 そう、俺の家にはどの部屋にも銃を隠してある。 ベッドルームにはデザートイーグルが、シャワールームには不本意だがグロック17を、トイレのタンクの中にはM4コマンドー、リビングには普段使いのライフルに加え、本棚の隠し棚にM26 MASSや観賞用のリボルバーを……しまった、フェルに隠し棚を触らない様に言うのを忘れた。 まぁ鍵もある、多分大丈夫だろう。 そのうち思考はゆっくりと溶けていき、俺は再び眠りについていた。 ───────── AM 08:58 次に時計を見た時の表示はそうなっていた。 「流石に、そろそろ起きるか…」 俺はぼんやりと起き上がり、フェルの様子を見に行ってみることにした。 「起きたのマドックス!この銃!試し撃ちできないの!?」 彼女は妙にテンションが高く、ガチャガチャと手に持ったリボルバーをいじっていた。 …リボルバー? 「オイ…そのリボルバー…!?」 「これ?本棚の下に入ってたやつよ?」 それは、俺の家に代々伝わるもの。 「そいつを返せ!そいつは『レ・マット・リボルバー』つってな、俺の爺さんの曾爺さんが南北戦争で使ってた銃なんだよ!」 レ・マット・リボルバー。 南北戦争中にアメリカ連合国陸軍が採用していた銃だ。 俺はひったくる様にしてそれを取り返した。 「あ……ごめん。マドックス。面白そうな銃だったから気になって…大事なのだったのね…」 「……気持ちはわかる。」 レ・マット・リボルバーの最大の特徴は弾倉だ。 リボルバーの中央が16ゲージ散弾用の弾倉になっていて、2種の弾丸の撃ち分けができる変わった機構をしている。 「俺もガキの頃…爺さんがまだこれを持ってた時、勝手に撃とうとしてブン殴られたことがある。」 あんときゃ痛かったな。 「にしても、どうしてコイツが気になった?ショットガンだってライフルだってあるだろう?」 「リボルバーが一番クールでエレガントに感じたのよ。アタシの両腕ぐらいにね。」 そう言いながら、フェルのやつは俺に手のひらを見せる。 銃口がついてやがる…まさかこの腕、撃てるのか? 「冗談でもやめろ…銃口をやたらと人に向けんじゃねえ。銃口を向けるのは引き金を引く時だけだ。…でもお前がどれだけ撃てるのかは気になるな。ちょっとついてこい。」 ───────── 俺の家には射撃場がある。 …とは言っても、裏庭を防弾壁で囲ってターゲットを設置しただけの簡単なものだ。標的も50ヤードまでしかない。 だが、それだけあれば十分。俺はスナイパーじゃない。 「よし…じゃあまずは一番手前、15ヤードからだ。撃ってみろ、フェル。」 「任せなさい。この距離なら簡単よ!」 そう言いながら、彼女は両手の平をターゲットに向ける。 「ラピッドバースト!」 その掛け声と共に発射された光る弾丸は、見事に標的を捉えた。 普段ならば、当たった銃弾が跳ね返る”カーン”といった小気味のいい音が鳴るはずが、ジュワジュワと何かが溶ける様な、焼ける様な音のみが静かに聞こえる。 「嘘だろ…防弾鋼板だぞ!?」 ウルヴァモンが撃つのは、実体弾ではないらしい。 丸く溶け落ちたターゲットが、そのことを如実に語る。 「どう?これがアタシの、デジモンの力よ。」 「面白いじゃねえか!次は50、一番奥を狙ってみろ!」 「わかったわ!」 彼女は再び両手の平を前に向け、手前の地面から掬い上げる様にして光弾を連射していく。 「ダメだダメだ!フェル!一旦やめ!」 それを俺は大声を上げて中断させた。 「なによマドックス!何か問題?」 当然、彼女は不満気だ。 「いいか、的を直接撃て。あんな撃ち方したらすぐ弾がなくなる。それに余計な被害が出る。いいな?一発で狙え。」 「……わかった。」 彼女は片手だけを向けてしばらく狙うと、俺の言いつけ通り一発だけ射撃した。 しかし、それがターゲットに当たることはなく、あらぬ方向へ飛んでいった。 「あ…あれ?」 続いて何発か撃つも、やはりそれも当たらない。 「…お前、狙うの下手だろ?」 「なっ…そんなことない!いつもはさっきみたいに撃って当ててるのよ!それにアタシのラピッドバーストはエネルギー弾!弾切れの心配なんてない!」 「あの撃ち方じゃ射線が丸わかりだろ。感覚教えてやる。腕貸せ。」 俺はウルヴァモンの腕を脇に抱え、照準を合わせる。 「いいか、標的に目の焦点を合わせるな。フロントサイトに焦点を……お前にはないな。…親指をサイト代わりにしろ。」 「…わかった」 「次に、撃つ時はトリガーを引く指に余計な力を入れずに…お前トリガーもないな。まぁあれだ、力を抜いて撃て。」 「わかった!ラピッドバースト!!」 一瞬彼女の腕が火傷しそうなぐらいに熱くなり、光弾が発射された。 それは見事にターゲットに命中し、またしても丸く防弾鋼板をぶち抜く。 「ほらな、当たったろ?」 「確かに、照準に関してはマドックスの方が上みたい。でも、アタシにはまだまだ手があるわ。火炎放射とミサイルとかね。」 「やめろ、ここでそんなモンぶっ放されたら家がなくなる。」 ───────── フェルの射撃を見ていたら、なんだがこっちも興が乗ってきた。 俺は愛用のM16を構え、彼女が撃ったターゲットの溶け落ちなかった部分、要するに柱を狙って撃つ。 当然的は小さいが、この程度当てるのは難しくない。カーチェイスしながら犯人の頭をブチ抜くよりもよっぽど楽だ。 「すごいじゃないのマドックス!」 「当たり前だ。これで何人も悪人を始末してきたからな。」 「私だって!」 そうして彼女がまたしても何発か撃つと、やっぱり的には当たらなかったが、さっきよりもマシなところに着弾した。 「あー…」 それを気にしたのか、フェルは軽くため息をついている。 「まぁ気にすんな、スジは悪くない。お前ならもっと上手くなれるさ。」 「……ねぇマドックス」 「なんだ?」 「アタシ、お腹が空いたわ。」 特に気にはしていなかったらしい。励ましの言葉が無駄になったな… ───────── 昨日のように冷凍食品でもいいが、せっかくだ。俺は近場の店にデリバリーを依頼した。 「まだ〜?」 「まだだ。大人しく待っとけ。」 そんな会話をしながら数十分。 「これも美味しそうな匂いがするわ〜!なんてやつ?」 彼女はデリバリーの袋から箱を取り出し、すんすんと鼻を鳴らして中身を窺っている。 「パンダのロゴ見りゃわかるだろ、チャイニーズだ。ベースはチャオメンとホワイトライスがあるが…お前はどっちがいい?」 「どっちもは?」 「…じゃあ半分ずつな。」 俺は適当にテーブルにベースの紙皿を置き、メインの箱を開ける。 「オレンジチキンとハニーウォールナッツシュリンプにモンゴリアンポーク、定番だな。」 「美味しそう〜!!」 そう言いながら手掴みで食らいつこうとするフェルを、俺は彼女の頭を鷲掴みにして制止した。 「何するのよ!」 「手掴みはやめろ!今時アメリカ人だって箸は使うぞ!」 「…そうだったわね。人間は確か…そういうのを使うんだったわ。」 まぁ、いきなり箸は難しいだろう。彼女にはスプーンとフォークを渡しておく。 「これが…オレンジチキンってやつよね。」 彼女はおぼつかない手つきでフォークでそれを突き刺し、口に運ぶ。 「んん〜〜!ふわっとオレンジの香りがして、甘酸っぱさの中にちょっと辛さがある…!!ご飯が進む〜!」 彼女は勢いよくライスを掻っ込んでいる。飯を食うだけでやかましいやつだ… 俺もオレンジチキンを二つほどまとめて口に放り込む。 その味が普段食う時よりも旨く感じたのは、多分気のせいだろう。 ───────── 「そういえば、どうやってリボルバーを見つけた?鍵があったろ」 「鍵?かかってなかったわよ?」 「……かけ忘れてたか…」