第五話・間に合った王子様 Chapter1・フロゾモンの決心 「何だ貴様らは!救助の邪魔をする気か!!」 犬童三幸と霜桐雪奈がフロスベルグモンと交戦を始め数分後、灰かぶりの城へと続く一本道はアイスデビモンやパンジャモンのような寒冷地帯に住むデジモン、アウルモンやモッキンバーモンなど、飛行するデジモンの群れに塞がれている。 フロゾモンが威嚇のグラシエイトミサイルを放つも、群れは動かない。 「待伏はここだったか」とミミックモンが金の目を細めると、ソフィーは唾を呑み込み、桜色のデジヴァイスを取り出した。 「こんな所で時間を取られたくないし、アレを使っちゃいま……あっ」 その直後に篤人が迷わず、ジャンクモンは一瞬考え、歩み出た。 「アツト。流石にソフィーちゃんとフロゾモンの力は借りとけ」 ジャンクモンの提言に篤人は、まだ拭えない怒りの目を彼と合わせないまま、首を横に振った。 「待ちなさいアツト。あの数相手に本気で……」 「ごめん、ソフィーさん」 篤人は制止するソフィーにも顔を向けず、デジヴァイスを取り出し、敵の群れを睥睨した。 「ちょっと、八つ当たりさせて」 冷静に努めきれない声音で、篤人はジャンクモンをデストロモンまで進化させ、雪面を抉るような咆哮と共に、敵の群れに向け砲撃を始めた。 吹雪と曇り空の中、紫の巨竜から放たれる三連装砲の驟雨を浴びた敵は、麓の集落まで届くような爆発と轟音を伴い体を四散させ、0と1と化し召されるように空へと昇る。 「完全体も混ざっているのだぞ!?あいつ、こうも容易く……!」 「それだけ強い望みから果たした進化……奇跡を望むための力、か」 フロゾモンは僅かに後退り、ミミックモンはこの雪山ごと断ち割るように横薙ぎで放たれたジャガーノートブラスト、止められない力の奔流の中で何も残せず消えて行く敵を、複雑な目で見据える。 「……C'est terrifiant」 その凄惨な光景を、どこを見ているかも分からない目で引き起こした篤人を、ソフィーも硬い表情のまま目を逸らさず見続けた。 ──── 「すまねェみんな。こいつも少しは落ち着いたみてェだ」 進化から戻り息を乱すジャンクモンの刺す視線に、篤人は無言で目を合わせると、ジャンクモンは小声でくぐもり、黙った。 気持ちは、晴れなかった。敵を倒せば一先ずは消えると思った怒りは、風見のデジヴァイスを握る鳥谷部の我が物顔の笑みが脳裏に映る度、すぐにまた激情が満ち溢れていく。 世界を救うために築いてきた道程の成果が、世界を奪うための力として使われる。言葉を並べ立てるだけで沸き続ける怒りの中、篤人は自分のデジヴァイスと紋章に目をやった。 自分が死んでいたら、これも使われた。今は三幸の持つ勇気の紋章とデジヴァイスもだ。もし、ここで自分か三幸が倒れることが、あれば。 「何を考えた、アツト」 ジャンクモンの咎める声で、篤人は周囲がはっきりと見えた事に気付くと、ジャンクモンへと顔を向けた。 「いいか?奴らにムカついてんのは俺様も同じだ」 はっきりと顔が見えたパートナーの言葉に、篤人は少し楽になったような気で、彼の目をしっかりと見据え、頷いた。 「一旦怒りは引っ込めとけ。本番はこの先だからな」 唸って感情を堪えるジャンクモンに、篤人は未だに湧き続ける激情を放り出そうと、大きく息を吸って、一気に吐いた。 「……ワタシの切り札を使わなかったの、もしかしたら良かったかもしれないわね。 でもアツト貴方、大分力を使ったんじゃない?」 逡巡しながらのソフィーの問いに、篤人は迷いなく背嚢を降ろした。 「ジャンクモン。幼年期まで戻って、リュックに入って少しでも休んで」 「お前、荷物どうする気だよ」 「捨てる。少しでも君を休ま……」 背嚢のチャックに手を触れた瞬間、篤人の腹の虫が鳴った。 「やはりお主も、消耗しとるな」 「ち、違……」 髪を引かれたように、理性が引き戻された。篤人は羞恥で崩れた表情のまま、否定のためミミックモンと目を合わせたが、彼はどこか安心した目をしていた。 篤人はすぐ目を背け、再びチャックに手をかけようとする。その直後、ソフィーが篤人の手を強く掴みんだ。 篤人は手を止め、ヒヤリとした気持ちを残しながら顔を向ける。にこやかに、そして褐色の肌と碧眼に憤りの赤い火が見える満面の笑顔で、ソフィーは掴む手を決して緩めず、強い声音で話し始めた、 「メゾン・カンブルランの娘の前でお腹鳴らして、格好つけれるなんて思わないで頂戴?」 メゾン・カンブルラン。その名詞に篤人は記憶を辿ろうとして、取りやめた。 「……聞き違いだよソフィーさん。ほら、風、強くなってきたからさ」 掴まれた手を払わず、背中に外気とは違う冷たさを感じながら、篤人はソフィーから目を逸らさず話すと、彼女はため息をついた。 「貴方、かなり力を使ったのよ?それで急いで、どうするワケ?」 「ソフィーの言う通りだ。我らが力を使わなかったのは幸いかもしれぬが、城でも戦いになる。 この中で一番力があるのは、お主なのだぞ篤人」 苦渋も感じる二人の声音から、篤人は今もまだ、鳥谷部と戦っている三幸や雪奈、灰かぶりの城にいる被害者達、そして雪奈から託されたディーアークの持ち主のことが頭に浮かんだ。 続けて、ジャンクモンを見た。彼も自分の愚かな八つ当たりで、消耗させてしまった。だからこそ、自分の空腹に構わず休ませようと、背嚢で背負うつもりであった。 (……待て、ソフィーさん達がどうなんだ……?) 彼女たちのことを、考えて無かった。それを思った篤人の空いた腹はすぐに決まり、篤人は無理矢理和らげた表情と声で、彼女達を見た。 「ソフィーさん、ミミックモン。君達は「よいか、片桐」 言い切る前、そしてジャンクモンが咎めようとする前に、沈黙していたフロゾモンが歩み出て、篤人の肩を掴んだ。 「フロゾモン?貴方、何を……」 「吾輩は貴様のことは僅かしか知らんし、全て知るつもりもない。だが急ぎすぎだ馬鹿者め」 蒸気を吹き上げ凄むフロゾモンに、ジャンクモンとミミックモンが構える。篤人は彼らを手で制し、目を逸らさず無言で返した。 「正直、今すぐ貴様をぶん殴って休ませたいが、特別に我慢してやる」 フロゾモンは血の通っていないはずの目を血走らせ、更に肩を強く掴む。篤人は痛みから顔を顰め、その手を払い除けようもしたが、なぜか話を聞くべきだと思い、手を動かせなかった。 「だから聞く。貴様、何故そんな無理をしてあんな連中と戦おうとする」 「仲間の仇討ちだよ。その上で、今回は城に囚われている人を救うため」 篤人は考える必要すらない問いに、躊躇無く返す。フロゾモンは一瞬目を動かし、手の力を緩めて、また強くした。 「奇跡的に生き残ったというのに何故だ!何故、貴様はまだ戦おうとする!!」 「あのまま生き長らえるのは、戦って死ぬより嫌だったからだよ」 またしても悩む理由もない問いに即座に答えると、フロゾモンは手を離し、沈黙した。 「言ったかな。犬童さんが持ってる紋章とデジヴァイスは、仲間が消える前に託してくれた物だって」 「……ミユキから聞いたわ。彼女、すごく大事なものを託されたって言ってたもの」 掴んでいた手が離れた肩を何度か動かし、篤人はソフィーの答えに表情を緩め、続けた。 「だから僕にとって、あのデジヴァイスと紋章は仲間の形見。 それを仇が我が物顔で、救おうとした世界の侵略のために使ってる。頭にくるのは当然だよ」 「俺様だってマジギレしかけたんだ……だったらこいつがもっとキレても無理はねぇ」 ジャンクモンが篤人の言葉に、同じように怒りを見せた。再び湧き上がった怒りを、篤人は軽く息を吸って抑え、フロゾモンに振り向いた。 「フロゾモンの言う通り、僕らは奇跡的に生き残った。でもそれっぽっちの奇跡なんてクソ喰らえだ」 奇跡の紋章を取り出し話す篤人に、フロゾモンは再び、沈黙した。 「ここからバロッコを救うのが僕の望む奇跡だ。 そのためなら何でもす……いや、し始めたから」 篤人は三幸の顔を思い浮かべ、募る罪悪感から歯を軋ませ、首を横に振り無理矢理振り払ってから、ジャンクモンに声をかけた。 ジャンクモンは渋い表情で空き缶の大砲から錆びたメダルを撃ち出し、受け取った篤人はそれをソフィーに見せた。 「ソフィーさん、もう休むか行くかは、コイントスで決めよう」 「アナタねぇ……ま、今回だけは良い事にするわ。 決めるのはワタシでトスは「待て貴様ら」 不服ながら渋々とメダルを受け取ろうとしたソフィーにフロゾモンが割って入ると、頭部のハッチに空け、ガラスの靴を取り出した。 「C'est pas vrai!それサンドリモンの城への招待状!!」 「フロゾモン、お主……」 「先程言ったな。吾輩はサンドリモンの許に居たと」 ミミックモンの視線に、フロゾモンは目を背けようとしながら低く言った。 「フロゾモン。持ってるなら何で出さなかった? それの確保が最優先だったんだぞ」 「定員1名の帰還用だ!あの人数を送れるか!」 少し荒い語気のジャンクモンの問いに、フロゾモンはやはり目をそらし、荒げた声で答えた。 「なら何で、今になって出したのさ」 「……遭難者救出のためだ!吾輩はフロゾモンだぞ!今更聞くことか!!」 やはり目は合わせないフロゾモンに、篤人は何も言わなかった。それからフロゾモンは咳払いと共にガラスの靴を指差し、また声を荒げた。 「ともかく吾輩も覚悟は決まった!だが人数の問題はどうする気だ!?」 「それならミミックモンが解決出来るわ。 前科無しでも囚人の気持ちが味わえるケド」 ソフィーが笑ったまま即答し、ミミックモンが唸って目を細めた。篤人はそこで、アリーナで彼女が黒い煙から少しずつ現れたことを思い出し……ミミックモンから、目を逸らした。 「僕は捕まった経験あるから平気」 「こっちを見て言え篤人!そこまで窮屈ではないぞ!!」 露骨に目を逸らした篤人に、ミミックモンは鉄球を雪面に叩きつけ抗議を始める。自分が口にした言葉とミミックモンの行動に、湧き上がっていたものが、勢いを弱め少しずつ抜けていき、不自然にでも和らいだ表情が作れるような感覚が蘇った。 「問題は解決したなら……なァ、アツト」 ジャンクモンの訴えのある視線に、篤人はすぐに招待状を掴みたい気持ちを堪え、言いづらそうに、また目線を誰にも向けず、話を始めた。 「えっと……フロゾモン、ここから灰かぶりの城までどれくらい?」 「歩くなら10分くらいだぞ」 「なら、さ、少しだけ休んでからで、いいかな。 さっきので、ジャンクモンが…いや、僕もなんだけど……疲れちゃって……」 まだ逸る気持ちと申し訳で口籠りながら話す篤人にソフィーはデジヴァイスを操作し、キューバサンドを二つ取り出すと、ジャンクモンと篤人に笑顔で差し出した。 「カフェオレは全員生還してからのお楽しみよ」 「……僕の分は、砂糖多めで」 ソフィーはウインクをして「甘党なのね」と篤人の額を指で軽く押し、再びデジヴァイスの操作を始めた。 Chapter2・奇跡的なタイミング 薄暗い城の広間、紫の影がガイオウモンへと迫り、二振りのくすんだ金色の剣【伊由太加の剣】を横一文字に振るう。 ガイオウモンも二振りの刀【菊燐】で弾き、紫の影の正体、カラテンモンは小さく飛翔し、二振り目を振り下ろす。兜目掛けての一撃をガイオウモンはもう一振りで防ぎ、カラテンモンを弾き飛ばした。 舌打ちの後、空中で立て直したカラテンモンの動きに生源寺は目を凝らす。スピードと剣速は負けているが、ガイオウモンは大きく動かず対応している。 剣の勝負は問題無い。他はどうか。そう考え、百蓮は神田颯乃に視線を移した。 「剣では攻めきれないか……」 肩で息をし、恐らく本来の所持品ではない王子様候補に与えた不良品のD3を、彼女は忌々しげに握りしめる。 それでさえ無ければ、百蓮もまたそう思い、視線をカラテンモンに戻した。 「……ハヤノ!こうなりゃこじ開ける!」 「……それしか、ないか!」 疲労が見えるカラテンモンの言葉に、颯乃は僅かに逡巡し、不良品に力を送り込む。 「動いてきますよ」とガイオウモンに告げた百蓮は、更に速く駆けたカラテンモンの影を目で追い、打つ手の吟味を始めた。 くすんだ金色の剣を、叫びながら二刀同時に振り下ろす。ガイオウモンも叫び返し腰を据え、剣を受けるとそのまま鍔迫り合いへと持ち込んだ。 「……やっぱり、止めてくれたな!」 その直後、カラテンモンが黒翼を羽ばたかせ、風が渦巻き始める。 あれなら対応出来る。百蓮は安堵して息を吐くと、バイタルブレスに力を送った。 「吹き飛べ!衝撃「悟ってこれか!生温い!!」 ガイオウモンは送られた力に任せ、翼を羽ばたかせるカラテンモンを床に叩きつけると、その勢いのまま頭部を踏み潰しにかかった。 カラテンモンは咄嗟に頭を動かし躱す。踏み抜かれた灰の床から土煙とガラス片が舞い上がる中、ガイオウモンが刀を振り下ろし、カラテンモンは床を背にそれを防ぐも、金の剣が弾き飛んだ。 二撃目をカラテンモンは両手で堪え、吹き飛んだ剣を一瞬見た。金の剣が黒紫の気を纏いひとりでに震え始めたのを見て、百蓮は声を張り上げた。   「ガイオウモン!弾き飛ばした剣が来ますよ!」 「っ……ハヤノ!」 カラテンモンは苦い顔で、咄嗟に剣を颯乃の元へと飛ばした。パートナーと同じ苦い顔で、彼女は剣に手を伸ばそうとした。 「神田さん。それを拾ったら貴方から殺します」 百蓮は淡々とした声で、剣を拾おうとする颯乃を睨む。その言葉に合わせ、ガイオウモンはカラテンモンを壁際まで蹴り飛ばし、【菊燐】を合体させた大弓を彼女に向けた。 「神田殿。貴殿も剣の遣い手ならば、どうなるか言うまでもなかろう」 ガイオウモンが言い切ると、大弓に人魂のように青白く妖しげな輝きを集め、矢の形を作り上げた。 矢を向けられた颯乃は、歯を軋ませながら剣ではなくデジヴァイスを握ると、ガイオウモンは大弓を立ち上がろうとするカラテンモンに向け直し、放つ。 薄暗い城内を青白い一閃が照らし、矢はカラテンモンの腹部に突き刺さる。絶叫の後、カラテンモンは自身を縫い付けた矢を引き抜こうと、痛みからの声を漏らしながら懸命に手を動かし始めた。 「カラテンモン!まだ終わって……うっ……」 颯乃が不良品を握ったまま、膝から崩れかけたのを堪える。百蓮は「不良品でさえ無ければ」と呟くと、演習とこの戦いを振り返り、彼女の【価値】を鑑み、ガイオウモンに視線を送った。 「不良品でこれだけ戦えるテイマーをこの状況で逃したら、社長に何を言われるか分かりませんから」 ガイオウモンが再び、大弓に青白い光を集める。やめろという叫びに遅れて、金属音が鳴る。剣を拾い上げ走る颯乃に構わず、ガイオウモンはカラテンモンの頭部を目掛け、大弓を引き絞った。 「この一矢で首ごと吹き飛ばしてくれる!燐火……むっ!?」 矢を放つ瞬間、射線上に現れた薄青の穴からカボチャの馬車が現れ……そこからミミックモンが現れた。 「招待状?転送は切っているはず……」 百蓮は突如現れたミミックモンに不審な目を向けると、ミミックモンは無言でデッドショットの形状をマミーモンの【オベリスク】へと変化させ、百蓮へと向けた。 「……何奴!!」 百蓮は、無言の殺意に息を呑む。ガイオウモンが大弓を刀へ戻し射線に割り込むと、乱れ撃たれる銃弾を防ぎながら、ミミックモンへと斬りかかる。 ミミックモンはそれを、檻の中から出した赤い腕と赤熱した剣で受けた。 「マミーモンと……フロゾモンですかね」 時折居る、完全体をロードした個体。とにかく普通の個体では無いと百蓮が気を引き締めると、腹部の矢を抜き終えたカラテンモンが駆け、体を沈めてガイオウモンを逆袈裟で斬り上げにかかった。 「ちぃっ!最早か!!」 ガイオウモンは舌打ちと共に斬り上げを既の所で防ぐと、両者を弾き飛ばし、どちらにも構えたままミミックモンを睨みつけた。 「この狼藉者が!灰かぶりの城に何用だ!!」 「狼藉者は貴様らであろう。ひと屋の手先が」 憤るミミックモンが檻を開くと、噴き上がる黒い煙が、複数の人間やデジモンの形を作り始める。やがて煙の一つが、百連が何度も戦った少年の形になり始めると、舌打ちが出た。 相変わらず、不愉快なくらい運の良い子。無意識のうちに呟いた百蓮は、煙から輪郭を帯び、やがて本当に人間となったオーバル型の眼鏡をつけた少年を、忌々しげに睨みつけた。 「……久しぶりじゃないですか、片桐」 「あんたもいたのかよ、生源寺」 ──── 「城の人達も、黙ってたわけじゃねェみたいだな、アツト」 バロッコに誘拐されて以来何度も戦ってきた、痛々しい傷がついた顔の女……生源寺百蓮と進化しているパートナーのムシャモンであろう竜人の鎧武者が一番に視界へ入り、篤人はやはり強敵が居たと表情を硬くした。 ガラス細工や赤い絨毯で彩られてるにも関わらず、城内は外の寒さからか、どこか薄暗く冷たい。それでも不要となった防寒着を脱ぎ捨て、篤人はいつもの詰め襟姿へと戻った。 「狭かったでしょアツト。フロゾモンを間に挟まなければ美少女と密着した二人旅だったのにね?」 「それだとまずいから、片桐が吾輩を間に挟んだのだろうが!おかげで相当狭かったぞ!!」 緊張感を解すためのソフィーのからかいに、篤人は僅かに耳に熱を感じながら、再び周りを見渡すと、カラテンモンと剣を握った黒髪の少女を見つけ、それから詰め襟のポケットに入れたディーアークが、強く反応している事に気が付いた。 「……君達は、味方でいいのか?」 希望が混ざった声音で剣を握る少女の問いに、篤人は雪奈から聞いたディーアークの持ち主の名をすぐに思い出し、急いで彼女に近寄った。 「神田颯乃さん、だよね。これ」 「私の名前を何故……ってそれは私の!」 篤人が答える代わりにディーアークを差し出すと、颯乃は驚嘆の声を漏らし奪い取る勢いで受け取り、それまで使っていたであろう桜色のD3を放り投げた。 「……たくさん聞きたいことはあるが、まずありがとう……君達は?」 「僕は片桐篤人、彼女はソフィー・カンブルラン……とにかく霜桐さんと一緒に、君も含めてここにいる人達を助けに来た」 霜桐の名に颯乃は大きく目を開くと、落ち着こうとするために大きく息を吐いた。 「ディーアークが戻ったならこいつにも……」 「Euh……いや、それより」 颯乃が握っていた剣を受け取ったカラテンモンが勇んでガイオウモンに斬りかかるのを、思いついた様子のソフィーが止めた。 「どうして止める?」とジャンクモンが尋ねるより先に、ソフィーが防寒着を脱ぎ普段から着る薄紫のチェニックと白いロングスカートの姿に戻った。 「聞いてハヤノ、カラテンモン。 セツナはワタシ達の仲間と一緒に……トリヤベとかいう……多分、すごく強いテイマーと戦ってる」 「あの小綺麗なオバサン、迎撃で外に出たのか……なら急いでこいつを」 「だからこれ、ちょっと大きいけど」 ソフィーは微笑み、颯乃に自身が着ていた防寒具とデジヴァイスから取り出した回復ディスクを差し出した。 篤人はソフィーの行動に一瞬驚き、その後パートナーを見渡し、彼女の考えを多分、理解した。 「この城を出たらずっとまっすぐ。そのままセツナ達の所まで行ってあげて」 颯乃は表情に喜びの色を見せ、防寒着に袖を通そうとしたが急に手を止め、喜びから現実の打破を優先したような苦い顔で、扉の一つを指さした。 「……他に囚われたテイマー達が、サンドリモンを解放するために地下室に向かってる。 流石にみんなを放ってはいけない」 「地下には吾輩が行く!この城の主を助けに来たのも目的だからな!」 フロゾモンがすぐ、指さした方向へと向かいキャタピラを駆動させた。 「黙って行かせるとでも……」 生源寺の視線がフロゾモンに向かうと、ガイオウモンが再び大弓を引き絞り、フロゾモンに狙いを定める。青白い矢が放たれようとした瞬間、ミミックモンのデッドショットから伸びた包帯が腕に巻き付くと、ほんの一瞬手元が狂った矢は、フロゾモンではなく近くに置かれたガラス像を射抜いた。 「小癪な!」と叫んだガイオウモンが矢をミミックモンに放つと、篤人は即座にジャンクモンをデストロモンへと進化させ、両腕の砲撃で放たれた青白い矢、燐火撃を相殺した。 「この威力……確かに、ライジンモン殿も打ち負かされよう」 「お前が究極体だとしても、弓が大砲に勝てるもんかよ!」 デストロモンの煽りにガイオウモンは眉一つ動かさず、大弓を二振りの刀へと戻し構え直した。 「神田さん。ここは任せて……というより、僕達の仲間と霜桐さんを、助けて欲しい!!」 「理屈の話でもあんだハヤノちゃん!俺様もミミックモンも、早く辿り着く自信がねェ!」 篤人とデストロモンの言葉に、颯乃は城の出入り口に目をやった。 「カラテンモン、いけるか?」 「行くさ。ソフィーちゃんみたいな美少女に頼まれたら、痛みも疲れもとっくに消えたよ」 防寒着に袖を通した颯乃が、パートナーの軽口に呆れたように眉を動かし、回復ディスクを与える。 カラテンモンは即座に出入り口を固めるユキダルモン達の許まで駆けると瞬く間に切り伏せ、颯乃も迷わず駆け出した。 「二人とも……ありがとう!! 君達の仲間も絶対に助けてくる!!」 「お願いね、王子様」 振り向いた颯乃にソフィーが笑って手を振り見送ると、篤人は生源寺とガイオウモンを見据えた。 「……止めなくて良いのかよ、生源寺」 「追いつけない相手に構うヒマはありません。こうなったなら、あなた達を仕留めるのが最優先です」 淡々とした言葉に篤人は睨みで返すと、生源寺は肩を竦めて大きなため息をつく。それから言葉とは裏腹な裏に暗い熱が宿る目で、篤人を睨み返した。 「奇跡的に拾った命をドブに捨てるバカな子のせいで、予定が狂いましたよ。 あのまま、帰る手段探しにでも、切り替えれば、良かったと、いうのに」 「最初は俺様もそうさせたかったがな、このバカは聞きやしねェ。ま、そんなアツトだから奇跡が起きる俺様は思ってるがな」 どこか増していく熱を堪える様子で睨んだまま歯切れ悪く話す生源寺に、デストロモンは当然のように答えると、篤人はパートナーに笑いかけ、再び生源寺を見据えた。 「あの先、死んだみたいな生き方するより、死ぬことになっても戦った方が、僕にはずっと良い」 「っ!ならここで死になさい!!」 敵に向ける苛立ちとは別の何かを含ませた表情で生源寺は吐き捨て、バイタルブレスに力を送り込まれたガイオウモンが床を蹴り、駆けた。 Chapter3・破滅の歌声 「……百蓮ちゃんから連絡が来てたわ。 片桐君達が招待状を使って城に来て、颯乃ちゃんとカラテンモンがここに向かってるみたい」 「なんと……こうなると【棺桶】で仕留められなかったのは痛手ですな」 「あれには自信あったんだけどねぇ……あの子が間に合ったら、流石に難しいわね」 巻き起こした吹雪の中、フロスベルグモンは霜桐雪奈達が作り上げた氷壁から意識を切らず、戦い最中に送られた連絡に鳥谷部と共に目を通す。 想定外が、連続した。それでも打てる手を打ち、霜桐雪奈と犬童三幸を追い詰めた。だがここで最後の詰めを誤れば、神田颯乃とも戦うことになる。 フリージングレイは、そう何発も使えない。あの壁に打ち込んだ所で、すぐに手を打たれるのは目に見えている。 「どうしようかしら」と右手を気にした様子で、考えようとぼそぼそ呟く鳥谷部に、フロスベルグモンはもしやと考え、無言で彼女の手袋を抓んだ。 「母上、手袋を外してくだされ」 「っ…イヤよ。寒いじゃない」 「外してくだされ」 一瞬、言いにくそうにした鳥谷部に対し間髪入れずフロスベルグモンが咎めると、鳥谷部は渋々と右手袋を外す。 彼女の指は、第二関節まで無数の切傷により薄っすらと血で滲み、青白く変色もしていた。 「またですか母上、何も言わずに、魔術の消費を肩代わりするのはやめていただきたいと……」 「……あかぎれに比べたら大したことないわよ。 第一、あなただけ体を張ってるのに」 「大有りです!終わったらすぐ、本部の診療所へ行くように!!」 即席で作り上げた氷の義足を上げながらのフロスベルグモンの叱責に、鳥谷部は渋々と同意して再び手袋をつけた。 選ばれし子供、風見愛為理のデジヴァイスから読み取り会得にした魔術の中に、消費する力のほんの一部をテイマーが肩代わり出来る物があった。 その代償は非常にシンプルで、テイマーが傷つくこと。風見もまた、度々パートナーの消費する力を、肩代わりしていたようで、鳥谷部もそれを身に着け【またしても】行使していた。 (幾らか消耗が減っているのかもしれぬが……) 果たして、自分のテイマー……母は、ここまで身を削る人であったか。フロスベルグモンは疑問を感じ、すぐに振り払った。 「死に物狂いの反撃は怖いし……ヴォルテクスドラモンは……論外よね」 「はい。結局殆ど制御できなかったせいで、火山を変えてしまいましたからな」 フロスベルグモンは城の主であったサンドリモンとの争いを苦い顔で思い出すと、鳥谷部は思いついた様子で、防寒着のポケットから飴を取り出し、フロスベルグモンに差し出した。 「ならルインリバーヴ。 今のうちにのど飴、舐めときなさい。貴方の好きオレンジバナナミルク味だから」 やはり思う所があるのか、氷壁を見ずに話す鳥谷部の言葉に、フロスベルグモンは飴を啄み、しばらく口内で甘みを味わい飲み込むと、咳払いをした。 「……やはり歌う前は、この飴に限るな」 ──── 「フロゾモンには頭が上がらないね。再生ディスクが本当に必要になっちゃった」 「……後でしっかり、あいつに礼を言うよ」 ホワイトアウトを凌ぐため咄嗟に作り上げた氷壁の中、粗いヤスリで脳と眼球の裏を擦られるような痛みを堪え、雪奈は再生ディスクを使い、クリスペイルドラモンとヘルガルモンの昇華し失った片腕を再構築する。 自分と三幸も未だに頭痛に苛まされ、動くのも少し苦労する。とにかく体勢を整え、策を練る。痛む頭では、それ以上のことは決められなかった。 「……この状況は私のせいです雪奈さん。迂闊な考えでした」 「それを言うならわたしもだよ。 あの【鳥籠】には自信があったんだ。だから、あんな破られ方するなんて……」 頭を抑え唇を噛む三幸に、雪奈も痛む頭で思い返す。素早く動き、すぐ姿も眩ませるフロスベルグモンを捕える【鳥籠】は、乾坤一擲の策だった。 それを片足こそ奪えど【棺桶】に変えられ、覆された。自分も三幸も死が直前に見えた苦しみを味わい、パートナー達は片手を失った。 白い煙を、あの薄灰色のドライアイスを思い返す度に蘇る息苦しさと背筋に沸いた嫌な湿りを堪え、雪奈は壁の外を考えた。 ホワイトアウト。数メートル先も見えず起伏も分からない、白い闇の世界。 自分達は見えない上に、まともに動けない。打てる手はなんだ。吹雪で失われる熱と未だ痛む頭から生まれる憔悴の中で、雪奈は必死に思考を続けた。 「一か八かで討って出ても……何も見えない中、あのドライアイス光線を打たれたら……」 「今度こそ終わる。それだけは絶対にやめろ」 三幸とヘルガルモンの呻くような言葉に、雪奈は一瞬で背筋が凍てついた。あれだけは絶対に受けてはいけない。かすることすら許されない。受けたら最後、二酸化炭素と化して、消える。 最悪の想像が過った雪奈の目の前に、フロスベルグモンの推し量るような金の目と、鳥谷部の細目が思い浮かぶ。 奴らはどこにいて、何をしようとしている。 今のところ、仕掛けてくる様子は無い。単にヘルガルモンが吹き飛ばした片足の治療中か、それとも、温かいスープでも飲んで、この中で苦しむ自分達を嘲笑っているのか。 「……あいつら!ホントにムカつく!!」 そう考えついた瞬間、雪奈は一気に湧き出した苛立ちから、思いっきり叫んだ。 「せ、雪奈……?」 「……ごめん。フロスベルグモンの目を思い出したら、無性にムカついちゃってさ」 突然の叫びにクリスペイルドラモン達は僅かに後ずさったが、すっきりとした声音の雪奈を見て、安堵を始めた。 「……私も気持ちは同じですわよ、雪奈さん。 見つけたら八つ裂きにして、鍋で煮込んで城の皆様に振る舞ってやりたいくらいですもの」 「お前は怒りすぎだ、ミユキ」 青筋を立て拳を握る三幸の言葉に雪奈は顔を引き攣らせて頷くと、すぐに表情を落とした。 「でも、どうすれば良いか全然思いつかない。 ここまで吹雪が強いと、カロスディメンションを強化しても無理だったし」 「……見えなくても、居る場所が何かで分かればいいんですが」 威勢を目の前の現実で失い、視線を落とす三幸の言葉に、雪奈は一瞬眉を動かした。 「居る場所か……探知機か?」 「どう探るんだ?データ量や熱か?」 「……多分、そうなると思うよ。クリスペイルドラモン、ヘルガルモン」 雪奈は杖を支えに、ゆっくりと立ち上がる。少し蹌踉めきながら、思考の中に薄ぼんやりとした物が出来始め、それを少しずつ、形にしていく。 「とにかく場所が分かれば、手は打てるかも。 流石にここからは、片桐くんやソフィーちゃんが来てくれるまで凌ぐ方向になるけどね」 「……篤人さんなら、雪奈さんのお友達も助けて絶対に来てくれますとも」 三幸の言葉に、雪奈は堪えた気持ちを解すため真っ白な息を吐くと、膝を叩いてすぐにまたイメージを組み立て始めた。 「だったら私達は、異変が起きたらその、対応……を……?」 「……何だ、この声?」 雪奈の頭の中で徐々に探知機が形作られる中、吹雪の音で遮られない耳通りの良い高い声が、どこからか聞こえ始めた。 「……いい歌ですわね、去年のクリスマスコンサートを思い出しましたわ」 「……ダークエリアじゃ聞けねぇな、こういうの」 三幸とヘルガルモンが、流れてくる美声に表情を緩め聴き入り始めた。雪奈も猛吹雪で遮られることなく透き通る美声が耳から脳へと届いた瞬間、ドーパミンだけがじわりと漏れ始め、いつしかイメージが止まってしまった。 「お、おい雪奈……確かにいい声だけど、聞き入る暇は……」 「あっ、ごめん。でも、これすごく良いっ……こ……っ!?」 クリスペイルドラモンの制止を受け、雪奈は止まったイメージを動かそうとした瞬間、両足の骨に亀裂が走ったような痛みで、杖を握ったまま雪面に膝をついた。 「っ!!なにこ……れ……?」 突然の痛みは、声を聞いてからじわりと流れ始めたドーパミンで、心地よい痛みと変化し、雪奈は自分の表情が不自然に緩み始めたのを感じた。 「全員耳を塞……っぁ……!」 警告する間も無く、クリスペイルドラモンも膝をつき、穏やかな顔で座り込んだ。その音で雪奈は一瞬引き戻され、再び杖を支えに立ち上がろうとした。 「雪奈、さん……聞いたら……」 三幸とヘルガルモンは壁に体をもたれ、不自然に微笑みながら耳を塞ごうと懸命に腕を震わせる。 歌が進むにつれ身体が痛み、溢れ続けるドーパミンと美しい声が、痛みも吹雪の音も旋律へと変え、まるで楽曲のように作り上げられていく 耳を塞げ、歌を聴くな。一欠片の理性から絞り出されたかすれ声が雪奈を突き動かし、また立ち上がろうとして、心地よさに、膝をつく。 骨が、臓器が、体中に亀裂が走り断ち割られ、やがて塵になって崩れ行くようだった。だがその激痛さえ、歌は決壊したダムのように溢れ続ける心地よさに変え、まだ聞いていたいと力を失わせていく。 吹雪の音、体内から響く痛みの音、再び力なく膝から崩れ落ち、杖が倒れた音。全てが完璧に混ざった死の清歌。それでも雪奈は抗おうと満面の笑みで膝をついたまま杖を掴もうと手を伸ばし、やがて止まった。 「っはは、颯乃ちゃんにも聞かせてあげたかったな、これ」 雪奈はそのまま、ゆっくりと目を瞑った。 そして微かに聞こえた低い劈きと共に、歌が終わった。 Chapter4・間に合った王子様 「あれ?今の何?」 何も分からないまま引き戻され目を開いた雪奈は、聞こえていた歌を探ろうと、耳を澄ませる。 聞こえるのは、吹雪の音。痛みも流れ続けたドーパミンも消え、困惑しながらも雪奈は杖を拾いすぐに周りを見渡した。 「みんな、平気?」 「平気だが、何だったんだあの声……もう少し流れてたらデジコアが破壊されたかもしれねぇ」 クリスペイルドラモンが頭を押さえ苦しげに言うと、雪奈はまた死が直前まで近づいていたことへ身体を震わせ……またしても、思い浮かんだ巨鳥の目に、二度目の怒りが煮えたぎり始めた。 「あれ?吹雪……弱まってません?」 外を見た三幸の言葉に、雪奈は恐る恐る壁の外を見る。白い闇の先が、視認出来る。これならばと思い杖を支えに立ち上がると、吹雪の中に薄青の影が浮かび上がった。 「あれ!?なんでフロスベルグモンがいるの!?」 「というより、誰かと戦ってるぞ!」 壁の少し先に、フロスベルグモンと低く駆ける紫の残影がぶつかり合う様子が見えた。 「ソフィーさんか篤人さんでは、ないですわね」 駆けた紫の影が、フロスベルグモンと打ち合う。その一瞬で雪奈はカラテンモンの姿を確認し、胸の奥底から、吹雪の冷たさやフロスベルグモンの目を忘れる程の熱がこみ上げ、杖を握りしめた。 「雪奈、あのカラテンモン……」 クリスペイルドラモンの言葉に、雪奈は一度大きく息を吸い、こみ上げた熱が脳まで届かないよう押し留めると、表情を引き締めた。 「ごめん。クリスペイルドラモン……先行して欲しいんだけど、良いかな?」 ──── カラテンモンの剣を、フロスベルグモンは凍った翼で防ぐ。あの翼は剣と思え。そう伝えるとカラテンモンも苦慮している様子もなく戦っている。 まずは対応出来ている。颯乃はそう感じ、フロスベルグモンの動きを目で追うことに集中した。 「……よもや、これほどまでに早い到着とはな!」 「全力で飛んできたからな!俺のスピードを甘く見やがって!!」 フロスベルグモンは忌々しげにカラテンモンの剣を弾くと、一気に距離を取ろうと飛翔した。すぐさまカラテンモンも羽ばたき、低く飛んで後を追う。 「……速さならあの子も、自信があるのよ?」 鳥谷部が、冷や汗を流しながらも細目で笑う。言葉通り、カラテンモンは薄青色の影から、徐々に離れていく。 「っ……!くそっ!これ以上引き離されてたまるかよ!!」 カラテンモンが引き離された末の動きを【悟り】声を僅かに震わせた。何か手は。颯乃は渡された薄紫の防寒着を着てなお、刺すような冷たさの中で考え始めた矢先、フロスベルグモンの横から、スラスターを噴かせたクリスペイルドラモンが現れた。 「クリスペイルドラモン!?まさか!」 「……倒れてなかったか!」 フロスベルグモンは顔を歪ませ、咄嗟に高度を上げた。颯乃は胸に熱いものを感じたまま、クリスペイルドラモンに視線を送る。 クリスペイルドラモンが目を合わせ、口元を緩また。そのまま爪を振り被ると薄青に輝き、爪は氷のフックロープへと変化し、フロスベルグモンの氷の片足に絡みついた。 フロスベルグモンは焦ることなくフックロープを風の刃で切断するも、颯乃は次の動きがあると直感し、カラテンモンに降りるよう指示を出し、息を整えさせた。 「まだ終わっちゃいねぇぞ鳥公!ハウリングバースト!!」 続けて現れたヘルガルモンが、フロスベルグモン目掛け巨大は爆風炎を放った。曇り空を一瞬で埋める炎の中に、高度を上げて避けると命中する火球が紛れ込んでいるのが見えた。颯乃は瞠目しつつ、カラテンモンに告げた。 「カラテンモン!奴なら火球に気づく!」 「だろうな!だったら俺が!!」 カラテンモンが大きく息を吸い、飛んだ。予想通り、飛行するフロスベルグモンは紛れ込んだ火球に気づき、高度を落として回避する。 その直後、飛翔し振り下ろされたカラテンモンの剣を防ぎきれず、フロスベルグモンは呻き、雪面に叩きつけられた。 それからすぐ、雪を踏みしめる音と共に、デジタルワールドに来てから殆どを共に過ごした相手が、流石に驚いた表情で現れた。 「颯乃ちゃん!?何で!? でも、無事で良かった!!」 「すまない!雪奈と一緒に来たテイマー達に助けられてな!城から大急ぎで飛んできたんだ!!」 「……そっか、間に合ったんだ!」 喉まで熱いものが登ってきたのを堪え、颯乃はすぐ、赤い防寒着を身に着けた右頬に傷のある少女を見た。 「君が、片桐達の仲間か。私は神田颯乃。 君達のおかげで助かった、ありがとう」 「犬童三幸です……篤人さん、もう着いてたなんて」 颯乃は三幸に「後で礼をさせて欲しい」と告げると、立ち上がったフロスベルグモンと、遅れてやってきた鳥谷部を睨みつけた。 「……これは私の判断ミスね、フロスベルグモン」 「論ずるのは後です母上……ここからは、死力を尽くすのみ!!」 フロスベルグモンの激励を受け、表情を引き締めた鳥谷部は空色のデジヴァイスを強く握り締める。 フロスベルグモンの身体がぼんやりとした灰色の光に覆われると、叫びと共に再び吹雪を強め始めた、 「雪奈、たくさん言いたいことがあると思うし、私にもある。だが」 「わかってる。大丈夫」 三幸が真っ向から、雪奈が少し潤んだ目で、再びフロスベルグモンを睨みつけ、杖を握りしめた。 「話は!こいつを倒してから!!」 Chapter5・囚われた知識、ワイズモン 薄っすらと白い冷気が漂う灰被りの城の地下、斃れたデジモンであろう一部をキャタピラで踏み潰し、フロゾモンは大扉の前に立ち塞がるブルーメラモンへロケット砲と共に突き進む。 迎え撃つブルーメラモンが拳を突き出し氷色の炎を放つと、凍てつく炎に呑まれたロケット砲は推力を失い落ち、砕ける。フロゾモンも凍り始めたキャタピラを無理矢理動かしたまま、ブルーメラモンへ向けてグラシエイトミサイルを放つ。 雪山を歩む中、十二分に取り込んだ雪の塊が再び放たれた氷色の炎と触れ、瞬く間に巨大な氷柱へと変化する。そしてすぐ、再び飛んだロケット砲が、氷柱とフロゾモンのキャタピラの氷を破壊した。 「乱暴な奴め!まぁ今回は許す!!」 フロゾモンはロケット砲を放ったウルヴァモンとそのテイマーである小麦肌の少女、ラリッサの方を振り向かずに突き進み、右の巨腕を振り上げブルーメラモンを殴りつけた。 巨腕の重みと威力に、ブルーメラモンは体勢を僅かに崩した。その機を逃さずフロゾモンが振り上げた左腕の赤熱する剣が青い炎の魔人を両断し、魔人は0と1と化し地下室の天井へと消えた。 「馬鹿者め、吾輩の救助の邪魔をするからだ」 フロゾモンはそう呟き、ラリッサ達に振り返った。 「全員無事だな!?」 「う、うん。ありがとう」 「よし!今から城の主を……なっ!」 ラリッサ達と更に後ろを固めるテイマー達の様子を確認したフロゾモンは木製の大扉を開くと、氷の中に囚われたサンドリモンの姿に、声を漏らした。 「これは……なんという……」 フロゾモンは道中で現れた鳥谷部とそのパートナーの姿を連想し、気にする事では無いと思い直し首を横に振ると、かつてのことを思い返した。 いつも通り、バロッコ各地に招待状をバラまいていたある日「しばらく戻るな」とサンドリモンから一方的な通告を受け、それからしばらくして連絡すら取れなくなった。 その間に自分は、戸惑いと憤りを抱えたままフロゾモンへと進化を果たした。そして数日前に、かつてサンドリモンの許にいたテイマーから異変が起きたと聞き……戻ることに決めた。 まずは【遭難者】を出さぬため、そして、力と志を持つものと共に【要救助者】を救うため。 自分の目的は、果たされる寸前。フロゾモンは目の奥に熱を感じながら、息を吐いて己を鎮めた。 「……出力が足りぬ!すまぬが、貴様らの力も分けてくれぬか!!」 「……ラリッサの、私のテイマーの力を分けるのは癪だけど、今回だけ許す」 ひと屋に城に囚われ、無理矢理組まされただけのテイマーとパートナーの関係と思えぬウルヴァモンの言葉に、フロゾモンは小さく笑いデフロストソードの出力を高め、呟いた。 「姫様、しばしお待ちを」 ──── ミミックモンが乱射するオベリスクの銃弾は最低限の動きと鎧で凌がれ、デストロモンの砲撃は大きく動き、避けられない光弾は刀で切り裂きながら、ガイオウモンはデストロモンへと距離を詰めていく。 雪山に聳え立つ城の中、鉄と光の雨嵐を乗り越え巨竜と檻の怪物を討つべく駆ける鎧武者。古臭い物語の一幕のような光景を前に、ソフィーは敵である鎧武者の動きを注視し、思い返す。 サンドリモンを……恩人を救うため、篤人達に助けを求めた。当然、戦いは覚悟していた。だがその相手が自分を誘拐した組織で、あまつさえデジタルワールドの侵攻を企ているとは思わなかった。 鳥谷部の言葉には驚きのあまり、言葉が出なくなった。自分のための……このままはイヤと思っただけの行動が想像よりも大きいものを巻き込んでいた。 それでも、やめるつもりはない。隣に立つ篤人の意思には絶対に負けるが、自分だって、あいつらに腹が立って仕方ない。だから、張っ倒してやる。 そう断じ、ソフィーは冷たく震える城の空気を大きく吸って吐き、ガイオウモンとそのテイマーである傷だらけの顔の女を睨んだ。 「ミミックモン!今度は電撃!!」 「ロード。プラズマクラック!」 ミミックモンがオベリスクから電撃を放つ。駆ける最中に稲光を見たガイオウモンは、電撃を前足を大きく引いて躱し、二振りの刀の柄を合わせ大弓へと変え、ウィルオウィスプのように青白く燃える矢を射た。 ミミックモンは矢を落とすため鉄球を振り回し、投げつける。だがガイオウモンの矢は鉄球を砕き、その勢いのままミミックモンを射抜き、彼は0と1を金属片のように飛び散らせ、呻きを漏らし倒れた。 「ガイオウモン、ミミックモンは後で!」 生源寺の声に応え、ガイオウモンは倒れたミミックモンを一瞥し大弓を刀へ戻すと、デストロモンに向かって再び駆け始めた。 「ぐっ……すまぬ、ソフィー」 「悪いけど無理して。 究極体の相手は、流石にアツトだけじゃ……」 ミミックモンは苦痛で呻きながらも起き、デッドショットを構え直す。ソフィーは向いた銃口の先を……デストロモンへと接近するガイオウモンを注視した。 「っ……パワーなら勝ってるはずだデストロモン! 何とか弾き飛ばして!」 篤人が接近されたデストロモンへ、苦しげに指示する。デストロモンもやむを得ずという様子で、左の大爪をガイオウモンへと振るう。 城壁ごと抉り取るような風圧と轟音を響かせ迫る大爪を、ガイオウモンは逆袈裟に斬り上げた。 ぶつかり、火花が散った瞬間、デストロモンの大爪はバターのように切り裂かれ、0と1となり消えた。 「っ……こんな簡単に!」 「爪だけでは済まさぬ!燐火斬!!」 歯噛みする篤人を嗤うようにガイオウモンが叫ぶと、逆袈裟に振るった刀の軌跡から青白い炎が放たれ、デストロモンの左腕を糸鋸のように引き裂いた。 デストロモンの絶叫と共に、落ちた左腕も0と1となり消える。 城へと転送される直前、デジモンの群れを無慈悲に、そして一方的に討ち果たした巨竜の腕は、その半分程の背丈しかない鎧武者の一撃により容易く失われ、ソフィーは言葉が出せず、目を見開いた。 「ぐおっ、ぁ……腕くらいで怯むか!!」 デストロモンは絶叫を無理矢理呑み込み、ガラス片を撒き散らしながらガイオウモン目掛けて尾を振るうと、鎧武者は迫る尾に向け、刀を振り上げた。 「ミミックモン、止められるわね?」 「一瞬はな……ロード。スネークバンデージ!」 ソフィーは声を絞り出し、額から滲み出る汗を無理矢理作った笑みでごまかしながらミミックモンに指示を出すと、デッドショットから放たれた包帯がガイオウモンに腕に巻きつき、動きを止めた。 「……小賢しい真似を!!」  包帯は、一瞬で千切られた。しかし、尾の切断は間に合わないと踏んだガイオウモンは守りを固め、巨竜の尾を一振りを受けて低く呻き、勢いよく壁に叩きつけられた。 「助かったよソフィーさん、ミミックモン」 ソフィーは篤人へ微笑み、手を振って返す。ミミックモンは即座にデストロモンの失われた左腕を黒い霧で覆うと、斬り落とされた左腕を同じ大きさの剣へと変化させた。 「ナイトモンの大剣か!すまねェミミックモン!」 「我が振り回したとて、何の役にも立たぬしな」 篤人が口元を緩めパートナーの腕にロードされた剣を見るも「アテにしすぎるなよ」というミミックモンの苦々しい声音に、彼は想像はしていると言いたげな渋面で頷いた。 「斬られたら終わり、ね……フロゾモンが戻るまで耐えろって話にはならないわよね」 ソフィーは逡巡し、地下室へと扉に目をやってからデジヴァイスを取り出し、篤人達に苦笑を見せた。 「アツト、デストロモン。ワタシ進化させるのに人より少し時間がかかるの……時間、作れる?」 「……勿論!」 篤人とデストロモンは期待した表情で頷くと、ミミックモンの前に出て、壁に叩きつけたガイオウモンを睨みつけた。 「ソフィー、無理は」 「無理じゃなくて当然」 ミミックモンの言葉は聞かず、ソフィーはデジヴァイスへと力を送る。すると皮膚に穴を開けられ、そこから水が流し込まれていくように体が重くなるのを、ソフィーは口元を硬くして堪える。 「それ、ひと屋が最初期に作ったデジヴァイス……何故その不良品を?」 生源寺が訝しみ、少し前に颯乃が投げ捨てた物と同じデジヴァイスに目を向けると、思い出したように瞼を動かし「今はいいか」と呟いた。 「ちっ。馬鹿力め……完全体相手にこれとは……」 「ガイオウモン。癪だろうけど……デストロモンには力勝負は押し負けるわよ。 でも斬れるなら、何とでもなるわね?」 「癪でござるが……無論!」 舌打ちをしたガイオウモンを、生源寺も同じ気持ちからか目を細めて嗜める。ガイオウモンはその言葉に気を取り直すように小さく唸り、再度駆けた。 「アツト。ミミックモンを」 「言われなくてもだよ!ね、デストロモン!」 身体が、徐々に重くなる。拍動は強まり額から不快な汗が滲む。ソフィーはそれらを堪え篤人へ懇願すると、彼とデストロモンは笑い返して応えた。 再び駆け始めたガイオウモンに、再びミミックモンとデストロモンは砲撃と稲妻を振りまくも、左腕が斬り落とされた影響が如実に現れ、先程よりも容易く、鎧武者が接近する。 「くそっ!手数が足りねェ!!」 デストロモンは先んじて弾き飛ばそうと尾を振るい、ミミックモンも包帯での拘束を試みた。だがガイオウモンは好機と捉え、迫る尾を真っ向斬りで斬り落とし、返す刀で包帯も容易く切裂く。 そして再び放たれた燐火斬が、デストロモンの背部の砲塔へ迫り、デストロモンは苦痛を抑え込んで叫び、大剣の左腕を力任せに振り下ろす。 巨竜の剣が膂力と質量を以て燐火斬を掻き消し、鎧武者を粉微塵にせんと獣の唸り声のような轟音を鳴らす。ガイオウモンは倍以上の巨体から振り下ろされた一撃を無理に受けず、跳んで躱した。 「Merci!もういける!!」 大剣が空を斬り潰しながら城の床へと叩きつけられた瞬間、ソフィーが篤人にウインクを投げ、デジヴァイスを強く握り締めた。 「Sors de la cage……ミミックモン、進化!」 ミミックモンの檻が鍵もなくひとりでに開くと、中に蠢くものと檻は仄暗い光に包まれ、ソフィーの背丈と同じ大きさの本へと変貌する。 風もない中で本がひとりでに捲られ、最後のページへと差し掛かったと同時、ソフィーにも、篤人や生源寺にも読めない文字が、赤く輝き始める。 呪文のように埋め尽くす文字が全て輝くと、本から薄紫の光が天井まで伸び、赤茶色のローブと白いフードを纏った魔術師が召喚され、両手を握り球体状に集めた0と1を水晶玉へと変える。 そして、檻から解き放たれた魔術師は、低い声で名乗りを上げた。 「ワイズモン」 「完全体!これなら……あっ!?」 篤人が進化に目を輝かせ振り向いたのが見えた瞬間、ソフィーは膝から崩れ、床に手をついた。 「箱……いや、檻入り娘だから体力無いの。 ちょっと疲れただけ」 気道が細まり、息が荒れる。水を注がれ終えて重いままの体から、別の水分が不快な滲み出している。それでもソフィーは必死で口元を緩め、フラフラと自力で立ち上がろうとするも、篤人はソフィーの制する手を構わず、掴み取った。 「……貴方、話聞いてくれないのね」 「聞かないよ。そんな状態の人の話なんて」 ソフィーは不満げに頬を膨らませ、手を握り返して立ち上がる。そして篤人が庇うように前へ立つと、ソフィーは膨らませた頬を緩め、灰の床を両足で踏みしめた。 「我らのデジヴァイスは……生源寺が不良品と言ったが、その通りだ。 出力も低く消耗も大きい。この姿でいられる時間も長くはない」 「向こうも短期決戦がお望みだ。お互い、時間はかけられねェか」 進化してなお、好転すると言い切れない歯がゆさが混ざった低い声で話すワイズモンに、デストロモンは気にした様子もなく返し、構えた。 「というワケよ。焦らず急いで、勝って頂戴。 ワタシもワイズモンも、いつひっくり返ってもおかしくないんだから」 一向に軽くなることがない体に耐えかねたソフィーは、思わず篤人の腕を掴んだ。 「勿論勝つよ、しっかり掴まってて」 振り返りも咎めもせず、もう片手でデジヴァイスを握り締める篤人の声を聞いた後、ソフィーはさらに強い力で彼の腕とデジヴァイスを握った。 Chapter6・3対1 「速……どこに……あっ!」 三幸の視界に隅に灰色の光を一瞬映ると、それを纏ったフロスベルグモンがカラテンモンに風の刃を撒き散らしながら、蹴りかかる。 だが動きを【悟った】カラテンモンは【衝撃羽】で風の刃を打ち消し、氷の義足での蹴りを剣で防ぐ。 防がれたフロスベルグモンも予想はしていたというような顔のまま反動で大きく飛び、カラテンモンはすぐに追跡を始めた。 「あの鳥公!ずっとちょこまかしやがって!!」 「あいつら最初からそう決めて戦ってるんだ! 正面からはやり合わないってな!!」 憤りに任せて放ったヘルガルモンの火球も、クリスペイルドラモンが雪面から隆起させた氷柱も、飛翔するフロスベルグモンは速度を落とさずに左右に動き悠々と回避し、追跡するカラテンモンを徐々に引き離していく。 「膠着ね……こうなったら、やるしか……」 少し遠くで鳥谷部が細い目を険しくさせ、仕方なさげな声音で、片手を握りしめた。 「カラテンモンのおかげで、どこから何を仕掛けてくるかは分かるが……」 「捕まえるってなると……ですわね」 颯乃と三幸が顔を顰め、遠ざかる灰色の光を目で追う。神田颯乃、今はソフィーから借り受けた薄紫の防寒着を着た艶のある黒髪の少女とカラテンモンが来てから、状況ははっきりと好転した。 敵の手を【悟り】で読め、追いすがれるスピードがある。それだけで、フロスベルグモンに決め手を打たせる余裕を消した。 「後は、どう決めに行けるか、なんだけど……」 決め手が、お互いに打てない。杖を雪面に着けたまま渋面を浮かべ雪奈の呟きに三幸もまた、膠着した現状に小さく唸って目を細めた。 「何にせよまずは追いつかないとな。雪奈、カラテンモンに魔術を「備えろ!!やべぇのが来るぞ!」 何かを【悟った】カラテンモンが追撃を取りやめ、叫んだ。雪奈が守りを固めるため杖を輝かせる間に、三幸は鳥谷部の握るデジヴァイスが青天の色に激しく輝くのが見え、身構えた。 「フロスベルグモン!一瞬だけ!!」 「……一瞬ならば!」 雪山の淀んだ灰色の空とは真逆の、青天から差すような光がフロスベルグモンの体を包み込むと、巨鳥は鳥の翼を持った空色の巨大な龍へ変貌した。 「ウソ!?ヴォルテクスドラモン!? もう一段階あるの!?」 「落ち着け雪奈!いま【悟った】が一瞬だけ……があぁっ!?」 フロスベルグモンから変貌した空色の龍が、羽ばたきと咆哮で積もる氷雪と岩山を巻き上げ、打ち砕きながら暴風を巻き起こす。 「なんだこ……ぐああぁ!?」 「ヘル…がっ!!」 巻き起こされた暴風は雪奈が作った氷壁も、三幸を守るため前へ立ち塞がるヘルガルモンも容易く弾き飛ばし、三幸も自分の身長を超える鈍器で体全体に殴られたような衝撃で、悲鳴を上げる間もなく雪面へと叩きつけられた。 「……いった……皆さん!?ヘルガルモン!?」 「心配するなミユキ……クサレ鳥公、あんなもんまで隠してやがって」 体の正面全てに感じる鈍い痛みと腫れ上がるような熱を堪え、三幸はヘルガルモンと共に起き上がる。すぐ近くで雪奈が杖を支えに体を起こし、颯乃に手を差し出しゆっくりと引き上げた。 「感心したくねぇが、元のデジヴァイスの持ち主もあいつらも、良い魔術師だよ。 一瞬とはいえ、ヴォルテクスドラモンになれるとはな……」 クリスペイルドラモンが忌々しそうに吐き捨てたが、それでも全員の無事に三幸は一先ず安堵したが、当然のようにフロスベルグモンと鳥谷部は、視界から消えた。 続きはすぐに、想像出来た。三幸は背筋に冷たいものが走り、雪奈も表情を歪ませた。 「落ち着いてくれ雪奈。今は私達が探れる」 颯乃の言葉を受け、雪奈は歪んだ表情のまま落ち着くため息を吐く。すぐにカラテンモンが雪面に剣を突き刺し、フロスベルグモン達を探り始めた。 「……大分遠くにいるな。まだ動いてねぇ」 「雪奈、すぐに追えば……うっ……!」 カラテンモンが【悟り】によってフロスベルグモンの居場所を突き止め動こうとした瞬間、三幸が想像した通り巻き起こった礫混じりの猛吹雪に、颯乃は思わず目元を抑える。 敵の策は、一貫している。距離を取り、吹雪で視界も動きも奪い、仕留める。その仕留める策はあのドライアイス光線か、それともあの歌か。 何にせよ、鳥谷部は決めにかかった。そして自分達は追い込まれた。歯噛みして何が出来るか考え始める三幸の肩を、雪奈が叩いた。 「大丈夫だよ。全員で力を合わせれば、突破出来るから」 笑いかける雪奈に、三幸は少し間を置いて頷いた。 「……カラテンモン、フロスベルグモンの場所はずっと分かる?」 「何する気だ?雪奈」 カラテンモンの頷きとクリスペイルドラモンの疑問に、雪奈は口元を緩め杖を薄青に輝かせると、巨大なスノーモービルを作り上げた。 「小細工無しだよ。全員の力で、突っ込む。」 Chapter7・ラスト・ジャガーノートブラスト 「パンドーラ・ダイアログ。プラズマクラック!」 ワイズモンが時空石を輝かせると、複数の青白い稲妻が降り注ぎ、その稲光に篤人は目を抑えるのを堪え、ガイオウモンの動きを注視する。 稲妻と移動先に合わせるデストロモンの砲撃により、雷嵐の真っ只中となった城の広間をガイオウモンは刀と己の足で凌ぎ、生源寺も稲光と巻き上がり続ける煙の中、表情を強張らせ始めた。 「日本には雷除けのお守りもあるんでしょ? 今から買いに行けば当たらないと思うけど?」 ソフィーの笑みと煽りに、生源寺も睨みで返す。 それからすぐ、ガイオウモンの目前に稲妻が落ちた。足を止めた先に光弾が迫り、ガイオウモンはやむを得ず跳躍して回避すると、時空石から複数のスネークバンテージが伸び、着地したガイオウモンの四肢を絡め取った。 「ぐっ!小ざかしい真似を……」 「落ち武者の霊にでもなるといいわ! ワイズモン!デストロモン!」 篤人の背後でソフィーが勝機を得たとばかりに叫ぶと、稲妻と光弾がガイオウモン目掛けて放たれる。いけるか?篤人はそう考えながら、拘束を脱しようと動くガイオウモンを見据えた。 「っ……ガイオウモン!まとめて吹き飛ばせ!!」 奥底に何かを堪えた生源寺の叫びに、雷雨の余波で巻き起こる衝撃と煙の中、ガイオウモンもやむ無しとばかりに顔を顰め、拘束に抗いながら刃を合わせると、青白いエネルギーが収束し始めた。 「……ガイアリアクター!!」 何をする気だ。篤人が言葉として発する間もなく起こった刀を起点に青白い爆発が連鎖し、大波のように稲妻と光弾を呑み干した。 「一手でか……ぐっ!」 ワイズモンが、金の目を歪める。ガイオウモンの四肢を拘束していた包帯はまたたく間に消え、ワイズモンも爆発の衝撃で壁へと叩きつけられた。 「っ……ワイズモン!」 篤人はふらつきからか自分の背を掴み、パートナーの名を呼び爆風を堪えるソフィーを気にしながら、自分も踏ん張り、爆風の矢面に立つデストロモン越しに、生源寺とガイオウモンを睨んだ。 「まだその目を向けれるんですか、あなた」 生源寺が篤人の睨みに、何かの苛立ちを含んだ声音で返す。それからすぐ、ガイオウモンは壁に叩きつけたワイズモンへと、一直線に駆け出した。 「てめェ!行かせるかよ!!」 ワイズモンを守るべく、デストロモンは剣の左腕を這うように薙ぎ払うと、ガイオウモンは待っていたとばかりに逆袈裟に斬り上げた。 大剣を受けたガイオウモンは、力負けして壁まで弾かれた。だがデストロモンの左腕は切り裂かれ、借り物の剣は黒く霧散して消え失せた。 「これで拙者の刀を防ぐ手は消えたな」 デストロモンは壁に叩きつけられてなお、鼻で笑うガイオウモンを忌々しそうに睨んだ。 「……まずいな」 篤人は再び腕を失ったデストロモンの姿を見て、首筋に冷たい渇きを感じた。接近を許せばデストロモンは斬られる。脳裏には腰部から両断され、崩れ落ちていく姿すら鮮明に見えた。 バロッコに来て始めて生源寺と戦った時、タンクモンの銃口も砲塔も切り裂かれた瞬間、本当の意味で死が見えた時を思い出し、唇を噛んで堪えた。 接近を許してはいけない。だが、防ぐ頼りの剣もなく、波状攻撃も先程のガイアリアクターで防がれるだろう。 何が、出来る。篤人は打開の一手よりも先に死が見えている現状の否定のため、ただひたすら考えを巡らせた。 「アツト、火力に自信……あるわよね?」 乱れた息のまま後ろから問い掛けるソフィーに引き戻され、篤人は迷わず頷く。彼女は重い足取りで篤人の隣に立ち、ガイオウモンを指差した。 「全出力叩き込んでやって。ガイアリアクターを引き出すのと動きを止めるのはワタシ達でやるから」 「……作戦が、あるんだね」 「さっき使わなかった一回きりの切り札を使う。 後は貴方が起こしたい奇跡に全賭けよ」 ソフィーは人差し指を顎に添え「責任重大だからね?」と片目を瞑って、篤人に告げた。 「…そっか。じゃあ絶対に勝たなきゃね」 篤人は唾を呑み込み、強張った笑いで返す。壁に叩きつけられたワイズモンもゆっくりと動き、作り上げた時空石を握りしめ、篤人へと振り向いた。 「再び時間をくれ。勿論、気休めは出来る」 そう言うと、デストロモンの失われた左腕に再び黒い煙に覆われ、マミーモンのオベリスクが取り付けられた。 「助かるぜ」とデストロモンが礼を言うと、ガイオウモンに向けて砲弾とオベリスクによる銃撃を始め、ワイズモンは時空石を鈍く輝かせ始めた。 「策があるならば、ワイズモンから仕留めますか」 動きを察した生源寺の指示に応え、銃弾と砲撃を掻い潜りながらガイオウモンが刀を合わせた大弓で矢を放ち、ロードされたオベリスクを霧散させた。 「俺様のこたァ気にするなワイズモン! 切り札出すのに集中してくれ!!」 ワイズモンはデストロモンの後ろで呻きを堪えながら、少しずつ時空石へと力を送り、その光は鈍く暗い色から明るいものへと変わり始める。 「頼みの綱の大砲も叩き斬ってガラクタにしてくれる!!」 弓を剣へと戻し接近するガイオウモンは、足掻くように放たれるデストロモンの砲撃を捌き、掻い潜る。既に振り払う尾も剣もないデストロモンは容易く接近を許し、刀で片足を貫かれた。 「っ……ワイズモン!早く……っ!」 「これでも急いでいる!頼む、どうにか……」 デストロモンは絶叫と共に膝から崩れるも、苦し紛れに右の爪を振り払い、ガイオウモンはそれを屈んで躱し刀を引き抜くと、脚を切り裂こうと大きく振り上げた。 「っ……デストロモン!ロングレンジキャノンに全出力!」 篤人は躊躇いから声を震わせ、力を送る。デストロモンが叫ぶと背中の砲塔に少しずつエネルギーの充填され、収束する緑色のエネルギーが大きくなるにつれ、砲塔が軋む音が城の中を反響し始めた。 「っ!この出力を至近距離で……冗談じゃない!!」 微かに目に恐怖を滲ませた生源寺が放たれるであろう大出力に怯み、後退る。ガイオウモンも大事を取ったか、息を呑んで跳躍すると、デストロモンの背中の砲塔を切り裂いた。 両断された砲塔が地に落ち、行き場を失ったエネルギーが消えていく。そのまま空中で身を翻したガイオウモンは刀を弓に変え、デストロモンの後ろに身を隠すワイズモンへと青白い矢を放った。 「……くそっ!手荒いが許せ!!」 デストロモンは、ワイズモンを健在の右手で弾き飛ばす。放たれた矢は、デストロモンの腕に貫いた。 苦悶を堪えたままガイオウモンの着地地点に右手の砲を向けると、空中でまた放たれた矢が三連装砲を貫き、巨竜は【殆どの】武装を失った。 「これで貴様のパートナーは独活の大木」 着地したガイオウモンが篤人に弓を向け、淡々と言い放つ。篤人は息を呑むことすらせず、顎を引いて鎧武者を無言で睨みつけた。 「この期に及んで、まだその目……精々矢が外れる奇跡でも祈ってなさい!」 生源寺が、その睨みに苛立ったように語気を荒げ、ガイオウモンも不快げに眉を動かし、矢を放った。 ソフィーが、篤人の名を叫んだ。薄暗い城の広間を青白い一閃が切裂きながら、やがて篤人の体へと届き、貫こうとした。 「……パンドーラ・ダイアログ!」 その直前、ワイズモンの叫びと共に時空石は砕け、突如として現れたかぼちゃの馬車の一つに矢が突き刺さると、赤く爆ぜた。 「……随分な数ですね」 かぼちゃの馬車は続け様に現れ、いつしか広間を埋め尽くした。生源寺は眉を動かし一帯を見渡すと、思い当たるフシに行き当たり、舌打ちをした。 「なにこれ!?ワイズモン、何したの!?」 「時空石には、我が受けた攻撃やミミックモンの時に取り込んだデータが保存されている。 だがこれを再生するためには、この通りだ」 圧巻の光景に焦りすら見せた篤人に、ワイズモンは時空石の破片を拾って見せると、篤人はこれが一回きりの理由と知り、破片を無言で見た。 「これが切り札。ワタシ達が散々しごかれた時に喰らってきた、サンドリモンの攻撃よ」 疲労からか、荒い息遣いと紅潮が見えた顔で嫌そうに笑うソフィーに、篤人は気圧されたようなところを感じ、息を吐いた。 「再生したのは【ノーブルファミリアーツ】 ……Reduisez-les en miettes!」 ソフィーがガイオウモンと生源寺を睨み指差すと、御者のネズミが鞭を振るった音を皮切りに、馬車はガイオウモンと生源寺へと突進を始めた。 「……アツト!今のうちに力をくれ!!」 膝をついたままガイオウモンを見据えるデストロモンの言葉に、篤人は無言で頷き、デジヴァイスを握りしめた。 「この数は……ガイオウモン!ガイアリアクターで吹きとばせ!!」 無数に押し寄せる車輪と馬蹄の音が響く中、生源寺は壁際まで後ずさり、ガイアリアクターの指示を出す。ガイオウモンは近づく馬車を斬り伏せながら生源寺の前へ辿り着き「備えを!」と叫ぶと、生源寺は壁を背に張り付け両腕で顔を覆った。 「……ガイア!リアクター!!」 床に突き刺した刀から青白い爆発が広がり、馬車爆弾は連鎖的に爆ぜていく。馬蹄と車輪の音は青白と赤の爆発音に次々とかき消され、生源寺は安堵で表情を戻すと、一転してソフィーを睨み、彼女もまた睨み返した。 「あなたもまだ、そういう顔が出来るんですね」 生源寺の睨みの中に戦意とは別の物が見えたソフィーは、眉だけを動かし無言で応えた。 「まぁ、いいです。あなたも片桐共々ここで「百蓮殿!来ますぞ!!」 ガイオウモンの叫びと未だ続く爆発音を上書きする低い響きと輝きに、生源寺は目を見開くと、片膝をついたデストロモンが、胸部にエネルギーを収束させていた。 「……仕留められれば最高だったが」 「でも狙い通りには行ったわ。アツト、デストロモン、後はお願い」 ソフィーがそう言って笑うと、ワイズモンと共に床に両膝を着いた。音に反応して一瞬だけ彼女達の姿を確認した篤人は、すぐにデジヴァイスを更に強く握り、生源寺とガイオウモンを見据えた。 「っ……ガイアリアクターはまだ使えますか!?」 脚を震えさせたまま動けず、刀を構えたまま首を横に振るガイオウモンに、生源寺は苦し紛れに残った力をバイタルブレスを通して送り込んだ。 「力勝負なら行けるね!デストロモン!!」 「おうともよ!ジャガーノート!ブラスト!!」 篤人の号令と共に、デストロモンが唯一残った武装にして最高火力である巨大な光線を放ち、ガイオウモンはそれを刀で切り裂こうと渾身の力で振るうも、軌跡の炎は瞬く間にかき消された。 「これが、ライジンモン殿も打ち倒した力……なんたる……」 続けて振るった刀がジャガーノートブラストを幾らか切り裂くも、先の言葉を続ける暇もなく、ガイオウモンは止められない力の奔流に呑み込まれた。   光が掻き消えると、ガイオウモンはコテモンまで退化し、息を荒げ竹刀と膝を床につけ動かず、面の奥に何かを宿した目を見せ、やがて倒れた。 「……負け、ですか」 生源寺は生存したパートナーに安堵を見せると駆け寄り、バイタルブレスを操作して錆びついた色の【鍵】を取り出した。 「あら。家に帰るの? でも貴方が行くのは家じゃ…なく牢……やっ……」 立ち上がろうとしたソフィーの握っていたデジヴァイスが、砕け散った。一瞬のことで思わず目線をソフィーに移した篤人に、彼女は申し訳無さそうに視線を送ると、そのまま床に倒れ込む。 「……すまぬ、篤人」 ワイズモンもバコモンまで退化し、その場に倒れ込む。篤人は続けてデストロモンを見ると、ジャンクモンまで退化し、動けずにいた。 篤人は生源寺の顔を見てから歯を食いしばると、ジャンクモンを抱え、ソフィーの前に立ち塞がることを選んだ。 「あなたは結局、こうなると人を守ることを優先するんですね」 生源寺の関心が無いような声音に篤人は「うるさい」とだけ言い、睨みで応えた。 「退かせてくれるなら、礼に教えてあげますか」 「……なにをだよ、生源寺」 「彼女のパートナー、元ひと屋ですよ。 私が入る前に、抜けたと聞いてます」 篤人が声を漏らし目を見開いたのに構わず、生源寺は取り出した鍵を床に当て、徐ろに回した。 「後は勝手に聞きなさい。 それと片桐……二度とその顔を見ないこと、私は祈ってますから」 足元に現れた黒紫の穴にゆっくりと沈みながら、生源寺はまた、何かの苛立ちを含んだ目を向けたまま、消えていった。 「……くそっ。最後の最後で」 篤人は歯噛みし、倒れたバコモンに視線を送る。彼が、ひと屋の一員だった。ならば何故、歯向かうような行動を取ったのだろうか。 考えるのは、後か。篤人はそう思い直し、一先ずジャンクモン達を休ませる事に決め、重い足を動かそうとした。 「彼女達は私達で対応します」 その直後に女の声が聞こえ、やがて白いドレスを纏い、砕かれた片腕と大槍のようなガラスの脚を持つデジモンが甲高くも優雅な脚音を響かせ、現れた。 「……あなたが、サンドリモン?」 篤人の問いに城の主、サンドリモンが「如何にも」と頷き、彼女は気を失ったソフィーの頭を微笑みながら優しく撫でた。 「ソフィー・カンブルラン……まぁ、よく来てくれた、よくやったと言ったあげますか」 サンドリモンは使い魔を召喚し二人に運ばせると、篤人にも仮面で覆われた顔を向け、口元を優しく緩めた。 「さて、選ばれし子供……片桐篤人。礼を言いましょう。おかげで、私も助かりました」 「礼よりも仲間を助けに行く力が欲しい。もしくは助けて欲しい」 「迷いがないですね。私は嫌いではありませんよ」 間髪置かない篤人の返しに、サンドリモンは感心したように頷いた。 「馬車を2つ、用意しましょう。 恐らく私が不覚を取った鳥谷部とやら相手でしょうが……リベンジには良い機会です」 篤人は淡々と話すサンドリモンに礼を言いジャンクモンを彼女の使い魔に引き渡すと、踵を返し城の入り口へと向かった。 「全く、彼といいソフィーといいガー……フロゾモンといい、皆して無茶をする」 歩き始めたサンドリモンは息を吐くと、どこか温かみもある声でそう呟いた。 Chapter8・雪山最後の攻防戦 十分に、距離が取れた。鳥谷部はその安堵から息を吐き、フロスベルグモンが強めていく吹雪で既に薄くしか見えない視界の先を、細目を凝らして見据え続ける。 「後はあの子達がどう動くか……」 「少なくとも、向かってはくるでしょう」 一瞬の進化ですら、賭けであった。それでも制御し、視界と動きを奪い仕留める戦いが始まってからの理想の形へと、再び持ち込んだ。 お互いに、余力はない。少なくとも、あの【鳥籠】のような真似だけはないだろう……そう考えつつも、鳥谷部は苦いものを感じ、吹雪を見続ける。 「ま、仮に逃げたのなら城に戻って片桐君達から叩いて……ん?」 見据え続ける視界の先に、薄っすらと赤いものが見え、鳥谷部は口元を真一文字に結び直す。 「何かしらあれ……?」 「……来ましたぞ母上。それも、力技で」 吹雪を強めるを止めたフロスベルグモンの言葉を聞き、雪を踏みしめ二歩三歩と進むと、赤いものは、ヘルガルモンだったことに気付いた。 「来たわね。それにしては早いけど……どうやって……あっ」 それまでの動きより遥かに早く、四足で構えたままのヘルガルモンに違和感を感じ、更に目を凝らす。 力技。そうフロスベルグモンが言ったことがすぐ分かり、細目のまま口元を緩めた。 「確かに、これは力技ね」 魔狼を先頭とした氷のスノーモービルが、轟音と羽ばたきを掻き鳴らしながら現れ、鳥谷部はデジヴァイスを握りしめた。 ──── 「やっぱり居た!このまま進むぞ!!」 逆風と雪が、三幸の右頬の傷を引き剥がすように痛ませる。手を離した瞬間すぐ宙へと放り出されるような圧と瞑りたい目を堪え、最後列のカラテンモンの声に振り向かずに意識を集中する。 全員で移動するための形だけの氷のスノーモービルに、突然エンジンなどはない。魔術で強化したカラテンモンの羽ばたきとクリスペイルドラモンのスラスターを頼りに、切れるような音を鳴らし滑り進んでいく。 スキーやスノーボードではないだけ、ずっといい。三幸はそれだけ考え、再び取っ手と目の前に意識を戻した。 「追いついたぞ鳥公!今度こそ逃さねぇ!!」 最先端で四足の爪を食い込ませたヘルガルモンが火球を放つと、迎え撃つフロスベルグモンは風の刃でそれを打ち消した。 「なら次は……あっ!?」 三幸が叫ぼうとした瞬間、フロスベルグモンの嘴に灰色の光が集まり、それを見た三幸の背中の熱は瞬く間に消え去った。 「来るぞ!フリージングレイだ!!」 「アレか、かすることすら許されないのは」 ヘルガルモンが恐れの滲む叫びに、颯乃が薄っすらと声を震わせると、すぐに首を横に振り、カラテンモンに告げた。 「カラテンモン!予定通り下に向かって衝撃羽! ……降りるぞ!! 颯乃の指示の後、雪奈は杖を薄緑に輝かせた。それからすぐ、急激に雪面から離れたスノーモービルから、三幸は息を呑んで、飛び降りた。 一瞬だけ、車に括り付けられ後ろに引っ張られたような感覚があった。それからすぐ、三幸の身体は浮遊感を覚えながら、ゆっくりと雪面へ降りて行く。 やがてアイゼンが硬い音を立て、三幸は地に足がついたことに気付くと、すぐに飛んでいく氷のスノーモービルとフロスベルグモンを視界に入れた。   「私達は先に動く!あの光線は頼んだ雪奈!!」 「あれは貫通しないなら……こうすれば!」 同じく雪面に着地した颯乃の声を聞き、カラテンモンが動く。すぐに雪奈も杖を薄青に光らせ、スノーモービルの面積を変え氷壁とすると、フロスベルグモンが放った灰色の光を防いだ。 「っ……貫通力は課題ね」 鳥谷部は苦々しく呟き、ドライアイスと化し飛んでいく氷壁から目を切り、フロスベルグモンに接近するカラテンモンへと視線を移した。 「カラテンモンが近づけた!オレも行くぞ!」 「頼みましたわよヘルガルモン!」 安堵から鼻を鳴らしたヘルガルモンを三幸が激励すると、魔狼は一瞬振り向き、走る。 それから三幸はすぐ雪奈へと振り向くと、彼女は体を杖で支えたまま、雪面を向き息を荒くしていた。 「雪奈さん!?ひょっとして相当無理……」 「しないと負ける!だからここで決めて!!」 冷や汗と疲労で青くなり始めた顔を必死で上げる雪奈に、三幸は何も言わず、頷いた。 「……わたし達は動きを止めるよ!クリスペイルドラモン!!」 「……カロス!ディメンション!!」 雪奈の光らせた杖に応え、クリスペイルドラモンが吹雪を巻き起こすと、三幸も最初に打ち合わせた通りの【理想の形】でフロスベルグモンを仕留めるべく、移動を始めた。 ──── カラテンモンの剣の一振りをフロスベルグモンが翼で抑え、蹴りで返す。カラテンモンは二振り目の刀でそれを受け止め後退したのを見て、鳥谷部は策を察し、周囲を見渡した。 ヘルガルモンは近づいてきてるが、まだ距離はある。クリスペイルドラモンはまだ動いていない。 何故、動いていない?鳥谷部は疑問を感じた瞬間、風向きが自分たちの方へと変わり始めた。 「っ……これクリスペイルドラモンの……」 目元を覆いながら再び周囲を見渡すと、フロスベルグモンの周りに分厚い氷の壁が形成され始め、鳥谷部はむしろ拍子抜けの策に、息を吐くこともなく淡々とフロスベルグモンへ告げた。 「フロスベルグモン。念のため、閉じ込められないうちに抜け出すわよ」 「はっ……あの【鳥籠】は肝を冷やしたが、最早粗雑な囲いしか作れぬようだな!」 フロスベルグモンも焦ることなく、氷壁の形成が遅れている方へと駆け始めた。 「……え?なんで遅いところが……あっ!」 鳥谷部がそれこそ策と悟った瞬間、作られた【出口】へ回り込んでいたカラテンモンが、飛び立とうとするフロスベルグモンへ斬り掛かった。 「此奴、最初から……!」 「囲師必闕ってやつだ!もう逃がさねぇ!!」 「良い連携だが……それだけで某を止めたつもりか!生温い!!」 カラテンモンが振り降ろした二振りの剣を、フロスベルグモンは凍った翼で受け止め、そこから冷気を這わせ始めて剣を、そしてカラテンモンの腕を凍結させた。 「そんな手も残して……カラテンモン!」 「あなたのお友達の真似よ神田さん。 ドライアイスじゃないから、安心して頂戴」 歯噛みする颯乃と凍った腕で抵抗するカラテンモンに、鳥谷部は細い目を向けデジヴァイスに力を送ると、フロスベルグモンの足へ風を纏わせ、槍のような形状を作った。 「まずは貴様からだカラテンモン!デジコアに風穴を「やれ!動きは止めた!!」 カラテンモンの叫びに鳥谷部はハッとして振り向くと、氷壁が少しずつフロスベルグモンを押しつぶそうと迫りくる。 「今更その程度の策が通じるか!!」 フロスベルグモンも焦ること無く、風の刃で氷壁を切断し、続けてやってきたクリスペイルドラモンの爪の一振りを翼で弾こうとするも、クリスペイルドラモンの爪が薄青に光ると一瞬で溶け、フロスベルグモンの翼と凍結し、繋がった。 「これ……最初の形……!」 「抑え込むのが俺達の役目だ! トドメは頼むぞヘルガルモン!!」 鳥谷部は表情を歪ませると、抑え込まれたフロスベルグモンの前にたどり着いたヘルガルモンが、爪を大きく振りかぶっていた。 「フロスベルグモン!すぐに翼を切っ……」 「もうおせぇよ!インフェルノクロー!!」 ヘルガルモンが渾身の力で貫手を放つと、フロスベルグモンの体は炎の爪に貫かれた。 Chapter9・それは愛情から始まり 悲鳴を雪山に鈍く響かせ、フロスベルグモンはそれでも堪え、ヘルガルモンの爪から抜け出そうと抵抗する。  逃がすな。捕まえねば終わりだ。三幸はそう思い、すぐに【自分の思考】から、叫んだ。 「ヘルガルモン!アリーナでやったあれ!!」 「ああ!デジコアごと吹き飛ばしてやる!!」 ヘルガルモンは三幸の声に振り向かずに応え、身に纏う魔炎を突き刺した爪へ送り込み、骨の体を露わにしていく。クリスペイルドラモンとカラテンモンは既に離れ、それでも万が一に備え、身構える。 「フロスベルグモン!いや、もしかしたら!!」 鳥谷部が悲痛な声で、それでも何かを思いついたように力を送る。三幸も大きく息を吸うと、自分の残ったものを一気に送り込む。 ヘルガルモンも応え、送り込んだ炎を一気に爆ぜさせる。フロスベルグモンの体は内側から炎の柱により四方八方に突き破られ、重く響く叫びと爆発音と共に、巨鳥は体をだらりと枝垂れさせた。 「母、上……デジコアは、無事……」 フロスベルグモンは更なる爆発の勢いで吹き飛び雪面に叩きつけられると、ペンモンへと退化した。 「くそっ、まさか倒しそこ……ね……」 その様子を見届けたヘルガルモンも力尽き、ガジモンへと退化し、倒れ込んだ。 「仕留め損ねた……?」 「防御が間に合ったのよ……ギリギリでね。 私も一応、魔術使えるから」 鳥谷部が倒れたペンモンに近づき、ゆっくりと抱き上げる。手袋の赤い染みと雪面に垂れ続ける血を、三幸はガジモンを抱えて凝視した。 「何をしたかは知りませんが、あなたも随分と無茶をするんですね」 「私にとってこの子は子供だもの……親なら、このくらいするわよ」 「その親から子供を奪うような組織に居て!よくそんな言葉をほざく!!」 三幸の怒りで歪んだ顔に俯きもせず、鳥谷部は無言のままデジヴァイスを操作し鍵を取り出すと、震えた声で話を始めた。 「私の娘は……辱められた上に、殺された。 冬の川に投げ捨てられて、この雪山よりも冷たくて暗い場所で、娘は死んだわ」 三幸は表情を戻し、最初に鳥谷部と戦った時の言葉を、思い返した。 「だから、何をしてでもあいつらを地獄に落としてやると誓って……ひと屋と契約したのよ。 仇討ちは終わったわ。人体実験がしたいデジモンに格安で買わせてね。苦しみの末に惨たらしく死んでくれたようで、本当に良かったわ」 鳥谷部はぶり返した恨みから、嘲笑で口元を歪める。三幸が無言のまま言葉を選ぶ間に、雪奈が歩み出た。 「本当は分かったらダメだと思うんですが……あなたの気持ちも行動も、多分、分かります。 でも!あなたが今やってることは!!」 「言って無かったわね。雪奈ちゃん。 私の仇討ちが終わったら、今度は社長さんの仇討ちの手伝いをするのが契約なのよ。 あの人の、デジタルワールドへの復讐のね」 鳥谷部は雪奈からは顔を背け、雪面に鍵を突き刺して回すと、彼女の周りの雪面はいつしか黒紫の渦となり、鳥谷部とペンモンはゆっくりと沈み始めた。 「おい!逃げるつも……うっ……」 追いかけようとしたカラテンモンとクリスペイルドラモンが、限界が来たのか膝をつき、成長期まで退化する。それを見た鳥谷部は「命拾いね」と呟き、やはり雪奈の顔だけは見ないまま、言葉に続けた。 「覚えておいて。例え【愛情】や【勇気】が始まりでも、そこから生まれた憎悪のために動いた瞬間、どんな人でも、道を踏み外す。 例え【奇跡】や【優しさ】が始まりだとしてもよ」 我が事だけではなく、三幸達に何かを告げるような声音で、鳥谷部とペンモンは静かに消えていった。 「雪奈の言う通り……分かってはいけないが、あの人の気持ちも行動も、分かる。だが……」 「ええ、やった時点でとっくに道を踏み外した、許すべきではない人です」 僅かに目を動かし逡巡はした様子の颯乃の言葉に三幸は同調すると、雪奈もすぐに頷いた。 吹雪が、はっきりと弱まる。自分達が、勝った。やっと現れた実感に三幸は全身の力が抜け、雪面から引っ張られたように座り込むと、雪奈と颯乃も同じように動いた。 「今聞いて悪いが、あの人……いや、灰被りの城に居た連中は、何者だったんだ?」 颯乃の質問に、三幸はそのまま自分の知っている限りのひと屋の話をすると、彼女は顔を徐々に青ざめさせて「私、相当危なかったのか……」と呟いた。 その呟きが聞こえたか、雪奈が杖を支えに何とか立ち上がり、颯乃に近づいた。 「だから、これ片桐くんや三幸ちゃんに聞いた時……ホントにどうしようって思ったのわたし」 「……すまない。本当にありがとう。私も抜け出すつもりはあったんだが……」 雪奈から差し出された手を受け取りゆっくりと立ち上がった颯乃を、とうとう感情の堰が切れた雪奈がわんわんと泣きながら抱き締めた。 「良かったぁ!無事で!!でもわたし達、本当に死ぬかと思った!!ありがとう!!来てくれて!!」 ただひたすら、湧いた感情のままに言葉を発し続ける雪奈に、颯乃は何も言わず、目をはっきりと潤ませたまま抱き返す。ゴブリモンとブルコモンは何も言わず、安堵した表情を見せた。 「……本当に良かったですわね」 三幸も大量の安堵から自分の目に少し潤みを覚え、ふと親友の八木原ハルカの顔を思い出そうとした。しかしその瞬間、何かが接近する音に反応すると、雪奈も颯乃も身構える。 敵なら、力は残っているだろうか。緊張と不安で押し潰されていく感覚の中で見えたのは、二つのかぼちゃの馬車であった。 来たのは、城の方。そう考えて期待した三幸の前に、手前の馬車からガラスの仮面とドレスを纏ったデジモンが現れた。 「えっと……あなたが……サンドリモン、ですか?」 「ええ。あなたが選ばれし子供、の」 サンドリモンは三幸を見て、少し何かを言い淀むとすぐに咳払いをした。言葉の続きに疑問を感じた三幸は首を傾げるも、奥の馬車から降りてきた篤人の姿を見ると、その疑問は吹き飛び、本能で動き笑みを向けた。 「こっちも勝ったよ……みんな、無事だね」 「何とか……あの、ソフィーさん達は?」 「フロゾモンとジャンクモンもだけど、相当無理させちゃったから先に休んでるよ。 ……みんな、無理をしたと思うけど」 篤人の見慣れた硬い笑みとソフィー達の無事に三幸はまた、力が抜けたように雪面に座り込みそうになるのを、堪えた。 「えっと……神田さんにも霜桐さんにも、お礼をたくさん言わなきゃいけないよ。 とにかくまずは、ありがとう」 「それを言うのは私もだ。君達には感謝しかない」 颯乃が口元を緩めて礼を言うと、雪奈が「わたしもだよ」と続けて笑いかけた。 「礼は私も言わねばなりませんが……一先ず城へご案内しましょう。 温かいスープは、すぐにお出しします」 温かいスープ、その言葉だけで三幸は体の芯の冷えを感じ体を震わせると、サンドリモンに促されるまま、篤人と共に馬車へと乗り込んだ。 Epilogue・戦いの終わり、勇気の残り火 匙で掬った南瓜のポタージュの甘味と熱が、篤人の冷えた身体を春の日差しのように温め、頬を緩ませていく。 疲労と寒さで冷えた身体のまま馬車に揺られ灰被りの城へと戻り、暖色のガラス細工で飾られた客室に案内された。その直後差し出されたポタージュは、器を傾け一気に飲み干したくなるものであった。 「ぷはァ……うめェな、アツト」 少し前に目を覚まし、隣に座ったジャンクモンがスープを満足げに飲み干す。 途中まで城にいた自分とジャンクモンでさえこうなのだ。絶え間なく続く吹雪の中で死闘を繰り広げていた三幸や雪奈達の心地は、自分の比ではないだろう。 そう思いジャンクモンに笑みを返してから、篤人は周囲を見渡した。 「んっ……生き返るっ……」 「美味い。デジコアから全身が温まってくる……こういうの、悪くねぇな」 向かいに座る三幸とガジモンが、目元も頬も緩めきり、その甘みと熱を心地よさそうに掬っていた。 「美味いな……無くなった力が、どんどん戻ってくる気分だ」 「ずっと吹雪の中にいたからねー……いま外に戻ったらわたし、耐えられないと思う」 離れた席の颯乃と雪奈達も、寒さを思い出してか苦笑も浮かべて頬を緩める。 啜る音と暖かさが客室が満たされ、篤人も自然と笑みが戻ってきた。それがしばらく続くと廊下から硬い足音が聞こえ、サンドリモンが現れた。 「お気に召してくれたようですね。 作った使い魔も、喜ぶでしょう」 「はい!それはもう、おかわりをいただきたくなるくらいに!!」 「どんだけ気に入ったんだよミユキ。 いや、オレも気に入ったけど」 満面の笑みの三幸の賛辞と呆れた様子のガジモンにサンドリモンは口元を緩ませると、使い魔に何かを手で指示し、篤人達へ顔を向け直した。 「まず、この場を借りて礼を言いましょう。 皆様のおかげで、本当に助かりました」 「いいんです。わたしは颯乃ちゃんを助けにきたのが一番の目的でしたから」 「僕達も依頼を受けただけです。礼なら、助けを求めてアリーナまで来たソフィーさんに」 篤人と雪奈の話を聞き、サンドリモンは口元は緩めたまま、ため息をついた。 「やっぱりあの子、話も聞かずに大人しくしなかったのね……」 「ええ、事情は分かったとはいえ……一方的に言われて大人しくしてやるもんですか」 重たげな声と足音と共に、ソフィーがバコモンと共に客室へと足を踏み入れた。 「ソフィーちゃん!大丈夫なの!?」 「平気よ。ちょっと疲れただけ。 セツナもハヤノも、本当にありがとう」 心配する雪奈にソフィーは小さく手を振って答え、篤人の隣の椅子へと座る。そしてサンドリモンは、口を真一文字に結んだ。 「良く、やってくれました。 ですが、ノーブルファミリアーツ一回でその有様……鍛え足りないようですね?」 「これ以上のスパルタはお断りよ。ワタシ、これからアツト達と一緒に行くって決めたし」 少し怯んだ様子を見せながらのソフィーの突然の言葉に、篤人と三幸は咄嗟に彼女の目を見た。 「えっ……来てくれるのは嬉しいけど、そんな迷いなさすぎじゃ……」 「アリーナの時には言えなかったが……最初から、そのつもりであったのだ」 戸惑った篤人に、バコモンがややバツが悪そうに答えた。 「まぁワタシ達、正面からの勝負には自信はないわよ?でもね?」 ソフィーが微笑み、篤人の肩に両手を置いた。突然のことで驚き、皮膚に熱を感じた篤人は反対の肩を跳ねさせ、彼女から目を背けた。 「それでもワタシ、結構頼りになるでしょ?アツト」 「えっ!?あっ……うん!」 篤人は思わず跳ね上がった声を発し、ソフィーの顔を見ないようにそのまま俯いた。 「あのー……ソフィーさん……来てくれるのは、嬉しいんですが……距離近……」 「ってことだから、よろしくねミユキも」 「わっ!!あ、いや……こちらこそよろしく……なんですが……」 不満げに声を低くしていた三幸にソフィーが近づくと、今度は彼女の後ろから手を回す。 三幸は沸騰し始めた湯に冷水が入ったかのように落ち着くと、離れるソフィーを真顔で見送った。 「じゃ、どうするかは明日話したい……けど……」 ソフィーが椅子に戻ると、頬を掻きながら周りから目を逸らした。篤人がどうしたかと聞く前に、バコモンが咳払いをした。 「……問題が、出てしまってな」 「問題?俺様達で解決出来っか?」 ジャンクモンの問いに、バコモンはサンドリモンの使い魔から差し出されたスープに口をつけ、重苦しくため息をついた。 「デジヴァイスが壊れた上に、我が取り込んでいたデジモンの情報が全部消えた」 「あの時に時空石が壊れたから……」 篤人は思い出し、三幸達にも説明すると、彼女達は考え始めた様子を見せ始めた。 「デジヴァイスの中に入れてた保存食やお金も全部消えたわ。 1bitどころか1スゥも無い、一文無しよ」 言葉とは裏腹に後悔のない笑みで話すソフィーに、篤人がかける言葉を選び始めた矢先、颯乃が「そういえば」と呟いた。 「私がひと屋に持たされたあの粗悪品の予備が部屋にあったな……それでいいなら譲るが……」 颯乃の言葉にソフィーは「ホント!?」と目を輝かせた。それから少しして、考えていた様子のブルコモンとゴブリモンがバコモンに声をかけた。 「力ならおれとゴブリモンのを取り込むか? コピーすれば済む話だしな」 「完全体二つなら当面困らないだろ?今までと戦い方、変わるだろうがな」 バコモンは目を伏せ「すまぬ」と呟き、ソフィーも「Mercy」と笑って告げる。篤人はやり取りを見続ける最中に生源寺の言葉を、バコモンは元々ひと屋に居たという話を思い返し息を呑むと、ジャンクモンが椅子から降り篤人の足を軽く叩いた。 「生源寺の言う事がウソでもホントでも、バコモンに今聞くのはやめとけ」 ジャンクモンの言葉に篤人は頷くと、話の終わりを見計らったサンドリモンが、ゆっくりとソフィーに近づいた。 「持たせた路銀は今回の報酬ということになさい。返す必要はありません」 「助かるわ。14歳で借金生活なんて嫌だもの」 「あとは……貴方、食べたいものはあるかしら」 続いたサンドリモンの優しげな声と意外な言葉に、ソフィーは目を丸くし、沈黙した。 「ソフィー。彼女なりの礼だ。受け取っておけ」 「……オムレツ。デジタケたくさんのやつ」 「よろしい。夕食を楽しみになさい」 バコモンの言葉を聞き、戸惑い気味に好物を告げたソフィーに、サンドリモンは優しい声音のまま踵を返そうとした直後、廊下から複数人の駆け足の音が鳴り始めた。 「ハヤノ!無事で良かった!!」 「ラリッサ!それにみんなも無事か!」 小麦肌の少女が勢いよく颯乃に駆け寄る。それからすぐ、人種も年齢も違う男女とそのパートナーであろうデジモン達が颯乃の周りに集まり、篤人はその光景に少し、気圧された。 「は、颯乃ちゃん……その人達……王子様候補?」 「そう、なんだが……この通り、色んな国の人が居てな……言葉は通じるし、みんないい人だぞ」 雪奈も気圧されたのか引け気味に尋ね、ラリッサが離れた後に颯乃も、やや硬い笑みで答えた。 「ワタシがここにいた頃と同じ感じね。 ワタシはまぁ、そういうの少しは慣れてたけど」 「フランス、色んなルーツの人がいますしね……私も色んな所から来た子と寮生活してましたけど」 ソフィーと三幸が思い出したように会話を続けるうちに、硬い足音と共にガードロモンが現れた。 「貴様らも無事であったか……いや、良く生きていてくれたと言うべきか」 「ん?お前フロゾモンか?」 「うむ。力の使いすぎで退化してしまったがな」 ジャンクモンの問いに退化していたフロゾモンが頷くと、篤人はようやく、本当の意味で全員を確認し、安堵から笑みをこぼした。 「ひと屋のせいでここに送られた者達も、喜ばしいことに残ると答えました。 ならば当然、再び来るやもしれぬ狼藉者を相手にするため、鍛えねばなりませぬ」 「勿論、吾輩も残りますぞ姫様。時が経てばフロゾモンに戻れるでしょうしな」 続いたフロゾモンにサンドリモンは「当然」と短く告げると、颯乃は表情を硬くした王子様候補達に視線を送った。 「私と雪奈はしばらく残るとはいえ、本当に良いのか?」 「外に出て戦う勇気まで、持てないだけだよ」 代表したラリッサが不安げなまま答えると、ウルヴァモンが続いた。 「招待状拾ったら無理矢理組まされた始まりだけどさ、いざ付き合ったら悪くないしいいかなって。 何より、あいつらムカつくからやり返す」 「始まりがどんな形でも、か。 いいと思うぞ、オレは」 始まり。ウルヴァモンとガジモンが発したその言葉に、篤人は胸を紙で切られたような微かな痛みで、瞼を動かした。 「サンドリモンさん。馬車で言いましたけど……わたし達、多分1週間もしない内に元のデジタルワールドに戻りますよ?本当に城に居ても良いんですか?」 「いる間は働いて貰えるのであれば。 無論、暖炉のそばで寝ろと言いません」 「勿論!戦うことも含めて、出来ることは精一杯やります!」 おずおずと尋ねた雪奈が、サンドリモンの返答に改めて安堵も交えた顔で、引き締めた表情を見せると、サンドリモンは何かを呟き、篤人のほうを振り向いた。 「さて、片桐篤人……選ばれし子供……貴方がたの旅路では出会うことは無かったとはいえ、ダークエリアでのことは、私自身も無念でなりません」 「……その言葉だけで、有難いです」 サンドリモンの俯きながらの言葉に、篤人も目を伏せて答えた。 「バロッコを治めるデジモンの一人として、灰被りの城は当然協力します。 とはいえ、現状は疲れが癒えるまで泊めてやれるくらいですが」 「いや、助かる。いる間は出来ることはさせてもらうぜ」 ジャンクモンが答えにサンドリモンが頷くと、続けて彼女は三幸へと振り向いた。 「犬童三幸、ガジモン……その紋章と、デジヴァイスを、持って、戦ってくれたことに、心の底から感謝しています」 「……篤人さん達やファングモンがいなければ、私は今も生きているか分からない状況でした。 救って貰った上に、戦う力をくれた篤人さんには、感謝しかありません」 間の多いサンドリモンの言葉を気にして、三幸は目を眇めつつ答えた。篤人は、三幸の言葉の一つ一つに、胸に小さな針を突き立てられたような痛みを感じ、彼女達から目を逸らした。 「何にせよ、まずゆっくり休んでくれ。 寒く辛い道を歩んだのだ。体調を崩さぬようにな」 ガードロモンの言葉の後、サンドリモンは使い魔に全員を使える部屋まで案内するように告げた。 ──── 「なぁ、少しいいか?」 客室から一度解散し、廊下を通り割り振られた部屋へと各自が入っていく。自分の部屋のドアノブに手をかけた篤人は、向かいの部屋に入る前のブルコモンと雪奈に呼び止められ、振り向いた。 「まず改めてだけど……本当にありがとう」 「よせやいセツナちゃん。それを言ったらアツトや俺様も助けられたんだぜ、なァ?」 「そうだよ。何で返せばいいのか分からないくらい、僕も感謝してる」 篤人もジャンクモンに続き、目を潤ませ話す雪奈に硬い笑みで答えると、雪奈の右隣の部屋から桜色の、ソフィーが使っていたものと同じデジヴァイスを持ち部屋から出た颯乃達も、篤人に近づいた。 「私も雪奈と同じ気持ちだ。それ以上の言葉が思い浮かばないくらい、感謝してる」 穏やかに礼を述べた颯乃に、篤人は同じ言葉を返そうとした。だが颯乃は目を伏せ「ちょっといいか」と重さのある声音で告げた。 「話は聞いてるぜ、篤人。お前の目的……仇討ち、なんだよな」 苦い顔のゴブリモンの言葉に、篤人は表情を硬くして頷くと、雪奈が「やめろって話じゃないよ」と少し慌てたように告げ、息を吐いた。 「わたし達が戦った鳥谷部さん。ひと屋に入ったの、娘さんが殺されたからって」 雪奈の話に、篤人は動揺から表情が歪んだのをごまかすように、わざと眼鏡を外して拭き始めた。 「っ……そんな始まり、僕に関係……」 声が、震えたのを自覚した。そこに間髪入れずに颯乃が「そう。関係ない」と抑え込むように話す。 篤人はそれを肯定の言葉と捉え、身動ぎが取れなくなった。それから僅かに沈黙を挟み、雪奈が硬くなった表情で続けた。 「始まりが心の底から辛くて悲しいのも、許せないから復讐に走るのも、想像出来る」 雪奈が、息を吸って更に続けた。 「でも、そのために選んだ道はひと屋に入って、社長の復讐の手伝い。 ……あの人はもう、戦って止めるしかないよ」 篤人は雪奈の声に割り切れないものが混じったように感じ、目を逸らさずに無言で聞き続けた。 「わたし達が居たデジタルワールドで会ったテイマーにも、復讐目的の人は居たさ。 片桐、私も雪奈もやめろとは言わない」 「でもそのために、鳥谷部さんみたいにはならないで欲しい……って、思ってる」 「大丈夫、分かってるから」 篤人はすぐ、アヌビモンの言葉を思い出した。それから彼女達の言葉を、口内に貼り付いた粉薬を大量の水で流し込むように飲み込み、頷いた。 (分かってるよ。そう、分かって……でも……) それでも篤人の喉奥には苦悶が粘りついて離れず、ただ、同じ言葉を思い続けること以外出来なかった。 「ひと屋の社長も、始まりは何かはあったのかもしれねェな」  ジャンクモンがそう呟くと、篤人の俯きかけた頭が上がり、淡々と、直感的に口を開いた。 「だとしても。って話だと思うよジャンクモン」 篤人はまた感情を飲み込み、視線を向ける場所を見つけるために周りを見渡すと、自分の左隣の部屋のドアが、僅かに空いているのに気付いた。 閉め損ねかと篤人が考えた後、隙間に靴が挟み込まれていたのが見え、同じく気付いた雪奈が、苦笑を浮かべた。 「普通に、話に混じればいいのに……どうした……?」 颯乃よ困惑が混ざった言葉に、僅かに空いたドアから、まるで悪戯がバレてバツを悪そうにした三幸とガジモンがおずおずと部屋から出て、篤人から目をそらしながら、歩み出た。 「普通にバレるって言ったろ、ミユキ。というか、普通に混ざれよ……」 ガジモンの呆れた様子の言葉に、三幸が恥ずかしそうに短く呻く。篤人も困惑と彼女の様子に、何を言えば良いのかが思い浮かばず、沈黙した。 「片桐くん。とりあえず、さ」 雪奈はまた困ったような顔で、篤人と三幸に笑いかけた。 「三幸ちゃんの話、聞いてあげて?」   ──── 三幸と共に正門から外に出ると、未だ(続く乾いた冷たさが皮膚を削ぐように染みていく。篤人はすぐ、防寒着のも着けず外に出たことを後悔するも、今更戻るのも情けないように思い、震えて堪えた。 「ここ、元々火山でしたのよね……デジモンって、こんなことも、出来るのですね」 「でも君達が勝ってくれたからさ、後は時間が解決するってフロゾモンは言ってたよ」 篤人の言葉に、三幸は安堵を見せた後、少し迷って顔を俯けた。 「ごめんなさい篤人さん。紋章もデジヴァイスも、取り返せなくて」 「みんな無事で、城も取り返せた。 これ以上のことなんて無いよ」 篤人は俯いた三幸に迷いもなく答えると、三幸はまだ俯きそうな顔を上げて沈黙を挟み、勇気の紋章を握り締めた。 「本当に、死ぬかと思いました。というより、今になって、そう思って……怖くなりました」 「怖がるのは恥でも何でもないよ。それでも戦うのが勇気だよ。火置さんも、そう……」 三幸が、篤人の言葉の途中で手首を強く掴んだ。篤人は突然のことで困惑し、耳に熱を感じたまま彼女から顔を反らし、沈黙した。 三幸も手首を掴んだまま「ごめんなさい、急に」とだけ言うとまた沈黙し、それから何か押し戻すように少し力を緩めると、再び話始めた。 「篤人さん。この紋章の持ち主……ヒオキさんも、私と同じ気持ちになったのでしょうか」 篤人は彼女の言葉で紋章を見ると、湧き上がった罪悪感で胸が裂かれるように痛み、自然に返せず呻いてから口を開いた。 「っ……そうだね。火置さんも、怖くても、勇気を持って、戦っていた」 無理矢理絞り出した言葉と共に振り返ると、三幸は表情を一瞬、何か暗い方向で動かした。 「篤人さん、ヒオキさんって、どんな人でした?」 また、胸が引き裂かれて痛む。篤人はそれでも息を吸って、無理矢理笑みを作った。 「普段は、気が強い方じゃなかった。 でも、動かなきゃいけない時は、足を震わせても一番最初に動ける人だった。僕はさ……」 そういう彼女が好きだった。自然と続きかけた言葉を、咳き込んだフリでごまかした。 篤人は押し込めたことに安堵した直後、三幸は手首ではなく、手を握り締めた。 「篤人さん。私は、その人みたいに」 「うん。戦った。でも……えっと……」 君は、前の持ち主と違っていい。その言葉が蓋をされたように出なかった篤人は、託させた勇気の重さを顔に出さないよう必死に堪え、三幸の手を握り返した。 (僕は、自分のために、彼女にこんな思いを……) 寒さはいつしか、吹き上がった後悔で、気にならなくなった。 ──── ただ置かれただけの机の上で、ファヨンは持参したリンゴを専用のカッターで上から押し、切り抜かれた芯を取り外す。 百蓮は無地の敷物が敷かれたひと屋の診療所のベッドの上で、差し出されたリンゴを隣のベッドで休むコテモンと共に取り、そのまま咀嚼した。 「……鳥谷部さんと百蓮オンニで負けるなんてね」 「収穫は半端に解析した招待状の仕組みと事前に持ち出した灰被りの城の財産くらいです。 ……手痛い、失敗でした」 「大丈夫。サジャンニムは失敗には寛容だし」 生源寺はファヨンの慰めに喉の詰まりを感じ、息でそれを押し込んだ。 「聞いたわよ。居たのね、ワイズモン……いや、今はミミックモンか」 ギリードゥモンが苦々しい声音で話したのに、ファヨンもまた、表情を硬くした。 「あいつ。バロッコに居たのね……あの不良品デジヴァイスを持ち逃げしたと思ったら……」 「お二人と同じく古株でしたか。しかし、何故……」 「何だっていいわあんなヤツ。見つけたらデジコアに弾丸を叩き込んでやる」 コテモンの疑問に対し、ギリードゥモンは苛立った様子で話を打ち切った。耳だけで様子を伺っていた百蓮は空気を変えるため「東のほうは?」とファヨンに問いかけた。 「状況は好転したよ。といっても、相変わらずアンフィモンには苦労してるけど」 「拙者共は消耗で済んだ故、しばし休めば戻れましょうが……助太刀は不要でござるか?」 「決めるのは私達じゃなくてマリナスだけど……多分、いらないと思うわよ」 コテモンの言葉にギリードゥモンが答えると、ファヨンは鞄を持って椅子から立ち上がった。 「そしたらアタシ、鳥谷部さんの所にも行くね。 パルリナア」 最後まで心配の目を向け退室したファヨンとギリードゥモンを見送ると、百蓮は最後のリンゴを手に取り、片桐達の睨みを……歯向かう人間の目を思い出し、胸中で撹拌され続ける感情に苛立ちを感じたまま、大口を開けてリンゴに齧りついた。 ──── 「すいません社長さん……完全に負けました」 「あなたと百蓮でダメなら、岩瀬やマリナスさんがやっても同じです。お気になさらず」 両手指に包帯が巻かれた鳥谷部はベッドから身体を起こし、見舞いに来た愛甲に俯いたまま詫びる。 愛甲の気にした様子も無く机に見舞い用のマスカットを置くと、椅子に座り鳥谷部をじっと、黒目と金の義眼で見据え始めた。 「とにかく回復を優先してください。 何をするにしても、それからです」 安堵の心情が入った声音にも関わらず、鳥谷部は彼女の金の義眼から今にも黒い手が現れ、自分の首を絞めに伸びるような怒りの錯覚を感じ、敷かれた布団で身体を覆いたくなる寒さを堪えたまま、愛甲から目を逸らさず、見返した。 「……片桐も犬童も、私が自分の目で見てきます」 「社長殿直々に……」 ベッドで寝たままのペンモンの声に、愛甲は気にした風もなく頷いた。 「百蓮の回復次第、出発します。彼女達にはここに残る者達と、防衛についてもらいます」 「私達と、サンドリモンの城は?」 「それも回復してからの話にしましょう。 今度は制圧も、簡単に行くと思えません」 愛甲が話の途中で眉を動かし、そのまま続けた。 「何にせよ、百蓮も鳥谷部さんも失わずに済んで本当によかった。 あなた達はひと屋に……いや、私の復讐に、絶対に欠いてはいけないと思ってますから」 「っ……そう言われると、安心します」 鳥谷部はその言葉を途中まで水のように飲み込み、途中から水が粘ついた物に変わったかのように、必死になって飲み込んだ。 立ち上がり「お大事に」と告げた愛甲の声と黒目には、偽らざる安堵があった。それでも鳥谷部は、退出する愛甲の背中と揺れる長髪越しに、あの義眼が自分達を見据えたままのように感じてならなかった。 「ねぇペンモン。結局私は、最初から間違えていたのよね」 完全に、愛甲の姿は消えた。義眼の視線も感じない。重苦しさから解放された鳥谷部は未だ残る寒さに耐えかね布団を被り横になると、隣のベッドのペンモンに顔を向けた。 「それを言うなら某もです。ですが、間違った先で、あなたと会えました」 俯きながらのペンモンの言葉に、鳥谷部は救いを僅かに口元を緩めた。 「故郷のために、力と金を求めてここにきた……今にして思えば某は、あまりに愚かでした」 何度目かのペンモンの後悔を聞いた鳥谷部は、自分の復讐の道筋の後悔と、愛甲の無念を晴らしたいという入り混じった気持ちを奥底に押し込み、ペンモンから顔を背けた。 「私達は、頭でも感情でも分かったまま、間違えた道を進むしかないのよね」 「今更、他の道を、どう、選べと」 途切れ途切れのパートナーの……子の言葉に、鳥谷部はそれ以上の言葉を続けられなかった。 (六華に似た子に……雪奈ちゃんにさえ会わなければ……私は今頃、どう考えて……) 鳥谷部は思い返し、迷いか悔いかも分からない心残りに、縄で引き摺られるような心地となった。 そしてそれを、断ち切ろうとばかりに、目を瞑った。