エリザさん…脱稿明けに徘徊してた。 くれあさん…パティスリーチュチュの定休日に散歩してたらエリザさんを見つけた。 オープンカフェのテーブルに、私たちは向かい合って座っていた。 「つまり、帆羽くれあは、その子供の手から風船の紐が離れてしまいそうだ、と思った時には、もう走り出していたわけね?」 「まあ、そういうことになるわね。」 涼しげな蒼い髪の女は、髪と同じ色のクリームソーダをひとくち啜ってから、事もなげに応えた。 突然。 ハンドバッグを横にいた私に投げ渡して、私があたふたしている間に、それはもう綺麗なフォームで全力疾走して、華麗にジャンプ。空に飛んで行こうとした風船の紐の端を掴んで、10点満点の着地。女の子が風船をなくしたことに気づく前に、取り戻してしまった。『大事なものは離しちゃだめよ。』なんて、格好いいこと。 「風船が飛んでいくの未来が分かったのか、って?うーん…風船を左右の手で持ち替えながらスキップしてたし、ちょうちょやお花に頻繁に手を伸ばしてたから、危ないなとは思ったよ。」 それだけで?もし風船が飛んでいかなかったら、突然走り出した変な女の子になっちゃうんじゃない?と、聞いてみた。 「そしたら私はもう、突然走り出したくなった女の子になっちゃう。風船を取り戻すために跳んだことは、忘れちゃう!まぁ、嘘にしちゃうわけ。」 私は虚をつかれた、自分の意思を、そんなに簡単に嘘にできるなんて思っても見なかった。 「エリザさんだって、突然走りだしたくなる事って、あるでしょう?それで走らなかった事も、走った事もあるでしょ。 その時私は、自分のきらめきにしたがって、走りだしていたわけ。困ってる人がいて助けたいとか、ジャンプして届くのに間に合わないとかの理由は、あとから付いてくるんじゃないかな。」 そういうものかな。そういうこともあるけど。私は笑って、ホットコーヒーに角砂糖を追加した。自分を鑑みると、よく見て考えて、それから踏み出すことが多いような気がする。 「だから多分、こうしてエリザさんとお喋りしてるのも、きっと何年も経ってから、本当の理由が分かるのよ。作家さんって、そういうのを書くお仕事なんでしょう?」 帆羽くれあちゃんを見ていると、時々連想するものがある。 暗い空に、突然に閃光が走る。それから数秒経って、轟音が鳴り響き、人々はそれが何であったかを認識する。 帆羽くれあは……稲妻(éclair)のような女だ。 (終)