ケース① 異形の雄を人間の美醜を基準にして目麗しいと感じるか否か? 答えは十分に有り得る話で珍しいことではない。 自然の時点で求愛に異性の気を引く必要から派手さや綺麗さの姿を持つ異形もいれば、 家畜化される過程で人間が好む要素を種族の特徴として継承していった異形もいる。 そして美しさに性欲が絡めば一線を越えることなどは容易く、これも珍しくはない。 ある男の場合は蚕の雄がその相手だった。 付け加えるとすれば、最初から雄として接していたわけでもなく「事故」。 男が在籍する研究室では、医療目的での蚕の品種改良が行われていた。 そのうちの「はずれ」を職員が「性処理穴」として使うことを職場は黙認しており、 そのことを新人が先輩からそれとなく、あるいは直接的に教えられることなど常である。 ここで言う蚕とは半人半蟲の異形を指す。 人に似た顔と胴をしてはいるが、幼虫時代ではその胴には三対六本の胸脚が生え、 体の続きは四対八本の腹脚を備えた長大な芋虫の腹から尻までの形をしている。 おまけに幼虫時代だからなのか、人の部分は人間の子供にそっくりだった。 まともな感性をしていれば、幼い容姿ゆえか気味が悪いからと蚕に手を出すはずもない。 だから男は最初、酒の勢いから話の種の一度ぐらいの軽い気持ちでズボンを下した。 不思議そうに見上げた顔をしゃがみ式便器のように跨ぎ、 子供の──蚕の幼虫の鼻面に、酒精で縮んだ陰茎をぶらぶらと垂らす。 ──ほら、勃ちはしない。 そう独り笑い、後はおぼつかない手つきで下着と一緒にズボンを穿いて、終わり。 そのはずが、幼虫は目の前に出されものを口にしたのだ。 半年ぶりとなる亀頭と口腔粘膜の接触。 加えて技術もなにもない拙いフェラチオは、男が女日照りとなった原因を思い出させた。 半ば強制する形で頼んでおきながら、迂闊にも稚拙さを責め彼女を怒らせ破局した。 射精までいけそうでいけなかったあの時の刺激が、下半身をまさぐっていく。 違いは、芋虫──幼子ゆえの体温の高さからくる口内の温かさだ。 元彼女との比にならぬほどの「肉の中に挿入っている」感触が男の脳を揺さ振り、 そこに拙いながらも忌避や自信の無さの消極的とは反対の盛んなおしゃぶりが加わる。 反射性によって分泌された唾液を零すことなく唇はぴっちりと肉傘を覆い尽くし、 唾液は潤滑液の役割を果たして蚕の閉じた口の前後運動を助け敏感な部位を摩擦した。 幼虫の戯れか、あるいは先人が親蚕で愉しんだ記憶が子に受け継がれたのか、 半人半蟲の家畜は初めてながらも指示を待たずに男の望む行為を成し遂げたのだ。 止めねば──と蚕の幼虫の頭に手をやると、相手は餌のお預けだとでも思ったか、 急に吸いつきが強め、突然の緩急が絶頂への最後の一押しになる。 激しく脈打った陰茎の中で鈴口から肉管が一気に広がる感覚。 半年ぶりにながらも、かつてない白濁の奔流が体外へ二度、三度と続けて吐き出される。 何度もひくつき尿道が空ではないと訴える股間が事の終わりを許さぬ間、 酒の酔いで火照る体で、生殖器と脳だけがやけに熱を帯びているように感じ、 男は己の境遇にひどく混乱していた。 そんな中、不意に籠った熱が逃げ、体の一部が正気にならぬ程度に少し冷めていく。 人外に捕らえられていたものが解放されたのだと気付き、男は股座を見た。 顔がある。ずっとそこにあった幼虫は男と目が合うと、にこりと微笑んで口を開いた。 得意げな表情で見せた口の中には、唾液に混ざった雄の臭いを残し…何もない。 人の制止を無視したおしゃぶりの頑張りが実ったと、 おかげでたっぷり出たものを残らず飲み込んでもうないよと言いたげな、 勝ち誇ってみせているのだろうかという大口を開けた良い笑顔。 男にとって生涯最多量の射精が白濁溜まりになっているでもなく、 奥へと消えた事実の痕跡を見せつけられ、混乱は答えとなる出口を見つけてしまった。 この桃色の粘膜と肉穴は、男が欲望を吐き出す先でいいのだと。 腑に落ちるの言葉通り、男の欲望は蚕の幼虫が嚥下し「そこ」に収まってしまったのだ。 一度知ってしまえば後は欲望の坂を転がり落ちていくだけだった。 周囲への後ろめたさがあるのか、 最初の1頭だけを自分のものにすると男は隠れて蚕との行為を続けた。 やるからには気持ち良くありたいと「使う側」の勝手な都合ではあったが、、 出来得る限り良かった時は、言葉が通じているかわからぬものの褒めることにした。 これで相手が繰り返す点を学習し上達すれば儲けものという打算だが、 効果があったかどうかはわからぬまま、繰り返せば射精までの時間は短くなった。 また褒めるうちに男自身も悪くない気分で、蚕への嫌悪が薄れていく。 そうなると増々欲求も高まっていき、更なる一線を越えることになる。 流石にこれは…という線は残っているのか、 仰向けに寝かせた半人半蟲の胴にタオルケットを掛けての行為だった。 そうすれば人の顔や「今なら許容できる」部分を見ながら、致すことができるからだ。 蚕に覆いかぶさると男は相手の尻に亀頭を宛がった。 幼虫は外性器を持たない。 つまり雌雄の判別はそこではできず、同時に体内への入り口になる穴は肛門だけだが、 男はもう構わなかった。張り詰めた欲望を押し込み…異形と相手に体と体で繋がった。 可愛く見つめ返す蚕の顔を見下ろしながら腰を振り続ける。 幼顔から徐々笑顔が消えていった。 排泄門を逆流する異物感に始まる未知の感覚に対する狼狽が、 やがて未熟な体が食欲や睡眠欲以外の三大欲求で刺激される困惑にとって変わったのだ。 男も最初のうちはこれを見て無理をしたかと踏みとどまろうとした。 だが、半人半蟲の幼虫の顔に出たのが不快ではなく、 幼い体では処理しきれない快楽の混乱と雌の官能を感じ取り、むしろ動きを激しくする。 子供がしてはいけない表情を生み出すのが、自分との行為だと興奮と共に得る実感。 人でない相手なのだから、遠慮はいらないのだという免罪符。 何よりもこの「穴」は気持ち良い。腰の一振りごとに欲望は肥大化していった。 タオルケットの両側を抑えて動きを封じてより深く、ヒトオスは生殖器を捻じ込んだ。 蚕の子供の腸内は、人間の女の膣内よりも温かく、 繋がれば繋がる程に自分でない者の体温を鮮明に感じさせ、 感動的なまでに肉同士の結合という体験が本能の充足であると男に教えてくれた。 生命としては無駄撃ちにも関わらず、異種族の腸内に放った射精がオス欲を満たす程に。 口内に出し喉を潜らせ胃袋に落とすよりも勝る、 まるでハラワタの中を人間の遺伝子で染めて作り替える錯覚の征服感だった。 性欲を発散する過程で、人外の幼子に性の快楽を与えられることを知った。 自分の手で相手を開発し色に溺れさすことも、また興奮になり得ると、 男は蚕との関係をより深めた。 人でない生き物の性感帯がどこかはわからないが、 それならば人の形をしている部分を刺激してやればいいのだ。 そこはまったく平坦というわけではなく、脂肪の柔らかさで僅かに膨らんでいた。 胸だ。乳房と呼ぶには不足だが、 未熟なりになだらかな形を作っていることは男の掌でも感じ取ることができ、 ゆっくりと撫でてやれば時間を掛ければ掛けただけ互いに楽しむことができた。 特に先端の小さな肉粒は、指の腹で転がしてやると狭い面積で敏感に刺激を甘受し、 幼子の胸でありながらも桃色の勃起を一目瞭然に示し、 コリコリとした触覚だけでなく視覚で男を興奮させる。 異形の胴脚が極力目につかぬよう蚕の人胴に顔を近づけての胸愛撫が、 結果として幼子の薄く盛られた胸の脂肪と小ぶりな乳首を注視する姿勢を作っていた。 人に飼われた世間知らずの体に性の手ほどきした実感と成果が背を押し、 眼前にある『育てた』肉を男がむしゃぶりつくには十分な状況だった。 授乳される側の方がまだ似合う小柄の微乳に開いた口が吸着し、 薄皮で包んだ一口サイズの肉饅頭を皿から直接貪る如き浅ましさで、 鼻息荒く頬と顎が動いて喉が鳴る。 幼い半人半蟲の揺れるほどにはない膨らみが、吸引で変形し舌に舐られ、 口内で皮膚の表面をぷるぷると震わせれば、 頭頂で硬くなった桃色の肉芯は男の白い歯で甘噛みで潰された。 痛みに至らぬこの強い刺激は、外性器のない幼虫にとって絶頂に通ずる経路であり、 一層の快感を得たければ相手が触れられる幅を拡げるのが自明である。 人間と蚕の交わりに新たに加わった行為は、 幼顔とその首から下にある未熟さに到底釣り合わない、肥大化した乳頭を形成した。 文字通り小柄な胸に浮いた存在は、下品ともいえる形をしていたが、 人間の男との情交に酔いしれる蚕の幼虫には似合いの、1人と1頭には気に入った形だ。 だから男は戸惑うことになる。 ある日作業から戻った時、部屋にいたのは白い着物姿の「ナニカ」。 美しい顔立ちに可愛さを残す…着物だけでなく肌まで白い様相。 一見人だが、状況をからすれば、触覚を持つそれが成虫となった蚕だとは想像はつく。 しかし、着物の裾から覗くのは、 半人半蟲の蚕の成虫が持つむっちり太り長大な腹と尖った尻の異形の半身ではなく、 人のものと同じ2本の足で研究所でも珍しい成体の姿だった。 男の存在を見つけ、 蚕らしき着物の子は人の形をした両手を広げながら立ち上がろうとし…すてんと転んだ。 部屋の中で動き回った気配が羽化したてというのもあるだろうが、 蟲とは違い過ぎる足に慣れていないのだ。 ──むしろいっそこのまま不慣れでいても…。 異形との行為を重ねたが、偶然にも人の形に近づいてくれたのならば、いいではないか。 欲求は満たしやすく、他人の奇異の目に対しても人間そっくりだからと言い訳が立つ。 ここにきてなお、男の往生際は悪かった。 最早それがすぐに吹き飛ぶ寸前の、哀れな襤褸の如き尊厳だと知らずとも。 男は蚕の傍まで近づき屈むと相手を抱きしめた。 この抱擁の真似なのか、背中に細い腕の感触が生まれた。 これまでの情交にはなかったものだが、 芋虫時代に時折、胸脚を動かしていたのはこうして抱き締め返そうとしていたのかも…。 そんな想像をしてしまえば増々蚕への情が湧く。 興奮に急かされながら着物の胸元をはだければ、 慎ましい膨らみの上で、見覚えのある桃の肉芯がツンと男に向かって硬くなっている。 行為を待待ちかねるているのは己だけではないという、雌雄の本能的な反応を確かめ、 いよいよ本命だと手は蚕の股間をまさぐった。 掌に返ってきたのは、体温が生々しい肉の隆起に触れたという感触。 嫌悪が男の背筋を伝った。 それは異形の体という未知からくる恐怖ではなく、馴染みがあり過ぎるゆえだ。 体を触られ嬉しそうな蚕の笑顔から目を背けるように視線を落とし、 手の先にあるものを見て確かめると予感通りのものが人半蟲の正体を教える。 あったのはこれもまた人間のものとそっくりの形をした男性器だ。 今更ながらに知る。何度も性欲をぶつけてきた相手が雄の蚕なのだという事実。 男がもう少し勤勉で注意を払うことができたのなら、 蛹になる前の老齢幼虫時代に出る特徴で、雌雄の区別をつけることができただろう。 その時点で既に手遅れ…ではあるが、羽化した蚕を前にすることは避けられた。 人に近い形だからこそ判別のしやすい雄性をまざまざと見せつけられながら、 蚕の異形という雌雄のうち雄が小柄という形質はそのままで、 華奢な体は雄という言葉の厳つさとは程遠い。 目で見るだけでなく、両腕と胸は細く柔らかで愛らしい姿を抱き締めたばかりで、 対峙する異種同性を愛らしいと本能が認めてしまうことはなかったのだから。 ──いいや、まだだ。 あどけなく微笑む異形の前で男は立ち上がった。 ──まだ、終わってはいない。 自分に言い聞かせ、誰に言い訳するのか、心中でそう呟きながらズボンを下した。 立ち去るのではなく、あの日できなかった笑い話を実現するために。 露出した陰茎を額に置かれ…蚕は心得たと喜んで開けた口に勃起したものを含んだ。 口に1度、尻に2度。 最初は相手の外性器を見ないような体位を選んでいたものの、 射精する度に熱々とした欲が強まっていくのを感じ、男は遂に騎乗位に姿勢を変えた。 羽化を経て繁殖のための形になったはずの異形が、 同種の雌を選ぶでもなく異種族の雄を選んだ…いや、自分が選ばせたのだという実感。 蛹の中で変態し、雌相手には不要な人間の男に開発されきった乳首をそのまま残し、 芋虫から人の形になった肛門は大きさも作りも違うというのに、 まるであつらえたかのように難なく男の欲望を飲み込んだ。 成虫になって初めての性交は幼虫時よりも淫猥に。 蛹の中、本能とどろどろに溶けて再成型された肛門と直腸は新品の搾精肉穴になり、 逆流の挿入に甲斐甲斐しく絡みつくヒトオス生殖器専用の役目を今果たし、 桃色の媚粘膜が艶めかしく蠢いて何度も精を吐き出させた。 肉欲をぶつけて精を放てば、蚕の外性器は腰振りや射精に併せてぴたぴたと内腿を叩く。 その音の心地良さは絶頂の余韻に一滴の甘露を落とし、 じんわりと新たな情欲の味わいを男の中に広げ始め、 雄を抱いているという異常ではなく征服欲を満たす興奮に変化させていったのだ。 だから、こうして男は自分の上で雄蚕に尻を振らせる。 芋虫時代では在り得なかった、男が「使う」騎乗位ではなく、蚕に「させる」騎乗位。 犬が喜び尾を振るように、無邪気に上下する蚕の股間、男の腹の上で、 ぴたぴたとそれが跳ねるのを眺めていれば、4度目の射精の時は近く思えるのだ。