「お帰りなさいませ屑魔王様。夏の休暇はいかがでしたか?」 (ようやく帰ったか。魔族といえどまだ小童。遊びに耽っていたか) トラレテーラの裏切り者、ガチクズ宰相は本格的なマヒアド領侵攻を目前に、屑魔王ゴミカスに休暇を勧めていた。寒気の弱まる夏こそ、サームイテツク地方を攻めるに適した時期である。その前に英気を養ってはどうか、と進言した。彼を気遣うふりをして、トラレテーラやスクラップヤードの各所に根回しをするためだ。 「あんなに暑いのは初めてで大変だった…。でもまあ…この辺りに無いヤキソバやスイカとやらも美味かったし……悪くなかったな」 「なるほど、大変満喫されたようで何よりです」 (事が済んだら貴様には消えてもらうからな。今のうちに楽しむといい) 柔和な作り笑いを浮かべながら、ガチクズはよく日焼けしたゴミカスから手荷物やお土産の入った紙袋を受け取り片付けていく。 「それと…海を初めて見たとヒトジティも喜んでいた。……これから本格的な戦いを強いるからな……少しだけ情けをかけてやった」 ゴミカスは、喜びや自責の入り交じった複雑な表情でカバンから水鉄砲や浮き輪を取り出し、丁寧に壁に吊るしていく。乾かすためだ。 「ええ、彼女は貴重な最強の手駒ですから。多少の"飴"を与えることは正解です。支配者として卓越した手腕ですよ魔王様」 (自分からヒトジティを海に連れ出したいと言い出した時は何事かと思ったが…罪悪感を和らげたいのだろう。親密過ぎるのは気がかりだが…目的に支障がなければまあいい) 「ああ、だから奴の母親のアッケニーと父親のイッポーンも連れてな、みんなで海に行ったんだ。皆、久しぶりに家族と会えてとても喜んでいた」 「は?何言ってんだこいつ?」 (は?何言ってんだこいつ?) ガチクズは手にしていたお祭りでよくある玩具のピロピロを手から取り落とした。 「こいつ!?どうした急に!?」 「……いえ、失礼……気が動転してしまいました」 (今なんと言った?人質を外に連れ出して娘と会わせた?何言ってんだ?バカか?) ガチクズは平静を装って床に落としたピロピロを拾い上げる。 「………それで、アッケニーとイッポーンはどちらに?」 ガチクズは計画の大半が崩壊しかねない……いや既に崩壊したに等しい事態に大混乱しながらも何とか取り繕う。まだ…まだ何とかなる…だろうか? 「今は2人とも閉じ込めていた塔の部屋に戻っているぞ。別れを惜しんでいたが……人質を取られてるから仕方ない、と大人しく従った」 「こいつらみんなバカなのか?」 「……家族を人質にされただけで言いなりになるなんてな、本当にバカだ」 幼くして大切な家族を失っているゴミカスは、遠い目で両親の大切な記憶を思い返しながら皮肉を呟く。 「いやお前も​──」 「お前も?」 「結構なお手前ですね魔王様」 (この件について深く考えるのはやめよう。魔族と人間では思考回路が違う、きっとそうだ) 「ですが…今度から彼らを外に出す時は私に一言お声を掛けていただけると幸いです」 ガチクズは小さくため息をつくと、玩具のピロピロを適当に玩具箱に放り込み、冷蔵庫からビールと枝豆を取り出して一息つくことにした。