プロローグ  「——暑い」  気温三十八度・湿度七五パーセント。腕時計型マルチ魔道具が悲惨な現実を示す。  うだるような熱気の中ノーラ=グライムは滝のように流れ落ちる汗を服で拭っていた。  「もう慣れたけどダンジョンとは不思議なもんだ。入るたびに気候が変わるからどんな装備持ってけばいいか未だに見当もつかん」  どうやら少年は持ってくる装備が合わなかったらしい。高温多湿な環境の中、まるで氷点下を想定しているのではないというほどの寒冷地装備でダンジョン歩いている。  「あの耄碌ジジイに騙されたよクソが、何がダンジョン気候予想だ!これで三連続ハズレじゃねえか!占い師やめちまえ!」  暑さで冷静さを失った頭から行き場のない怒りが湧水のようにとめどなく湧き上がる。    「よし脱ごう絶対脱ごう今脱ごうすぐ脱ごう全部脱ごういや全部はマズイ」  魔物に出会う危険性はあるが、その前に熱中症で死にそうな具合である。彼は対刃の恩恵がついた外套・コート・手袋・保温下着(上)等の寒冷地仕様装備の殆どを脱ぎ捨てた。  「これ全部脱いで捨てられるほど裕福だったらなぁ……」  荷物の空きの殆どが脱いだ服で埋まるという想定外の事態がノーラの頭を悩ませる。  現在彼は腰にベルトで剣を下げ、それ以外には下着以外何も着用していない。俗に言うパンイチである。ソロ探索者でなければとてもできなかったであろう、あられもない姿。ここがダンジョンでもなければ真っ先に憲兵に突き出されて一晩を留置所で過ごすことは明白である。  「こんなん着てられっかよ!こんな暑いならクソぼったくりの教会から冷氷の護符でも買っときゃよかったわ!」  無論、彼にそのような高級品を買うほどの持ち合わせはなく、ただの独り言である。  「このまま帰るにも今月分の家賃を払わなきゃいけない以上何かしら持ち帰るか討伐しないとなぁ……ハァ……なんか稀少素材になる魔物か魔法薬の材料になりそうな薬草でも落ちてないかなっと」  下層ダンジョンは攻略され尽くされ、めぼしい埋蔵品や宝物は残っていない。だからこそノーラのようなソロの探索者が命の危険をそれほど気にせずに探索できる。無論、入るには許可証が必要であるから一般人は入ることはできない。    「キャーーーー!!」  「え!?なにごと!?」  突如響きわたる女の金切り声。一瞬困惑しつつ、ノーラは冷静さを取り戻し、荷物から素早く戦闘に必要な道具を取り出しその他の荷物を置き去りにして走り出す。  要救助者を助けるのもまた冒険者の仕事であり責務である。    声の元に辿り着くと