ライトは奇襲一閃、漆號の首を落とす。 「アンタは獣人以上に再生能力が凄いみたいだから首を落とさせてもらったよ。これでそのむかつくしゃべりもできないでしょ」 すると首を落とされたはずの漆號のボディ側が地面に落ちた生首を拾い、体とくっつけようとしている。 「いってーなこのガキが…。どうせ隠すことでもねぇから教えてやるよ。俺の能力は再生能力だけじゃねぇ、こんぐらいじゃ死なねぇんだよ。分かりやすく言ってやると俺は不死身ってやつだ」 漆號は自前の大剣を構えるとライトに斬撃を加える。ライトは両手の刃でいなし弾くが重い一撃一撃に苦戦している。 「ついでに俺のストロングポイントは不死身だけじゃねぇんだよ。フィジカルもパワー型だからアイゼンのおっさん程じゃないが真っ正面からぶつかっても強ぇんだぜ!」 ライトは漆號の重い大剣の連撃を堪えた表情で弾き返している…。 スヮリゲーターはメトリを庇いながら、やってくる敵側の合成獣人どもとやり合っている。 多勢に無勢の状況だがメトリが腕のマシンガンで援護をしてくれているので致命的な状況には陥っていない。 俺は服をきた棒人間こと人造勇者仇號と対峙する。 奴は数歩俺に近づくとまるで重力が無くなったのかと錯覚するような軽いステップで俺に詰め寄る。 どうやら奴は肆號と同じスピード型のようで手に持った杖のような武器で突いてくるが、飄々とした動きからは想像できない素早い突きに俺は避けるので精一杯であった。 しかしいつまで避けていても状況に変わりはない。 奴の突きを払い無防備になったところを投げ技で仕留めるか…とプランを立て、ディフェンスの構えを取ると脳内にいる聖女から何かが伝えられる。 『アレに触れてはいけません…』 その指示に従い俺は仇號の突きを避ける。するとその一撃は俺を逃がさないように囲っていた獣人の一体に誤爆した。 軽い突きだから大したことはなかろうと高を括っていると予想外の出来事が起きた。 獣人の体がエビ反りになり、ありえない角度まで曲がると獣人はそのまま絶命した。 目の前の光景を見て血の気が引く俺を見て、漆號は煽るように叫んだ。 「どうだ!何が起きたか理解したか?! どうせ知ったところで対抗策が見つかるわけねぇから教えてやるよ。仇號の持っている聖剣は突かれた対象を何でも折るという概念武装だ! しかも不可逆の存在で折れた物は決して元には戻らねぇ! どうだ!怖ぇか!ビビったか!」 そんなもん怖ぇしビビるよ! 対処法の見つからない敵を相手にどう立ち回ろうか必死に考える。 そうこうしている間にライトの方で動きがあった。 ライトの周囲を囲んでいた3体の獣人がライトに飛び掛かり取り押さえようとする。ライトは力を振り絞り振り切ろうとするが、左側を押さえていた獣人の首元の黒い首輪が目に入った。 「あなたを…自由にさせてあげます…」 ライトは左手でその獣人の首輪を掴み引きちぎる。すると予想外のことが起こった…。    *   *   *   *   * ガァァァァァ! ライトは右手で左手をかばいうずくまる。痛みの衝撃で暴れたせいで、ライトを押さえていた2体の獣人は振り払えたようだ。 「バカかお前。アイツの首輪取ってやろうとしたんか。この黒い首輪には仕掛けがしてあって、本部にあるパスキー以外で外そうとすると中に仕込んである爆弾が破裂する仕組みなんだよ。これで解ったろ、アイツらを助けてやることなんてできねぇんだ!」 痛みで蹲るライトの傍らには爆発で首とボディが分かたれた獣人の遺体が転がっている。それを見てライトは堪えるような声を出す。 「くっ!!!!!」 それは爆発で指が吹き飛んだ痛みに対してなのか、無計画な見通しで獣人の命を奪ったことに対してなのか、それとも人造勇者たちの悪辣な仕掛けへの怒りなのか…。 ライトは左手の指が吹き飛ぶ負傷、俺は敵に打つ手がなく、メトリたちは何とか耐えている状況。 今の状態から算出すると取る策は一つだけだ! 「ここは逃げるぞ!」 ライトに向かって俺は叫んだ。 俺の声に呼応してライトが背中に翼を生やす。それを見て漆號が逃がすまいと大剣を斬りつけてくる。 「逃がすかー!」 そう叫んだ漆號に向けて、ライトは軽く深呼吸をすると強烈なブレスを放った。 ガァッァァァ! 溜めが浅かったため全身を吹き飛ばすまでには行かなかったが、それでも胸元から上は跡形もなく消え去った。 「みんな来てください!」 数メートルばかり浮き上がったライトがそう言うと、俺は左腕そしてメトリを抱えたスヮリゲーターは右腕を掴む。 そのまま一気に飛び去る…かと思いきや、低空飛行のまま地表近くをゆるゆると移動していく。 「おい!早く飛べ! 敵に追いつかれるぞ!」 合成獣人や仇號がもたついている俺たちに向かって来る。いかんどうするか…そう思った瞬間であった。 「仕方がない私が降りるとするか」 メトリがそう言い放ちスヮリゲーターの抱えていた腕を解く。地面に落下していくメトリ。 俺たちは彼女の自己犠牲に対して名前を叫ぶぐらいしかなかった…はずだった。 メトリは着地する寸前に背中と脚からガスを噴出し飛行する。 少女サイズとはいえ重い鉄の塊が消えて飛行への支障が減ったライトと共に、そのままこの場を去って行ったのだった…。 「お前飛べるなら何で言わないんだよ!」 さすがにこの生死を決する場面での突発的な情報に皆は怒りを表さずにはいられなかった。 「自律での飛行が必要であれば事前に言ってもらいたかった。それに推進剤も無駄遣いはしたくなかったのでな」 こうして俺たちは奴らの囲みから一時的にではあるが逃げることができた…。 「結局逃げ切られちまったか…。だがあの方角からすると行先は旧市街地だな。隠れる場所は腐るほどあるから探すのも一苦労だな」 体を再生するかいなやのタイミングでミレーン一行に逃げ切られ、何が何だかわからないまま戦闘の終了した漆號が彼らの行った方向を見ながらぼやいている。 旧市街地には所謂官公庁で使われていた建築物が状態の良いまま残っており、地下道と合わせると捜索に掛けるコストは先ほどの比ではないのだ。 すると漆號が何かに気づいたように不敵な笑みを浮かべる。 「アイツの気配を感じたと思っていたら、敵どもを追いかけて行っちまいやがった。どうやらあの中の誰かは知らないが極上のエサがいるようだぜ。じゃあ俺たちはアイツに後を追わせてゆっくり向かうとするか…」 「頼んだぜ拾参號!」    *   *   *   *   * トンズラから一区切りつき、廃墟の中で皆息も絶え絶えになっている。俺はとりあえず指の吹き飛んだライトの元へ向かった。 「ライト手を見せてみろ…」 左手は親指以外の指が無くなっており手の平も半分ぐらい無くなっている。 これはホーリーリジェネで手を復元させねばならないかと考えていると、ライトは右手を上げて俺を制した。 「大丈夫ですから…こんな傷ぐらい…」 ライトは左手の手首を右手で掴むとぬんっ!と気合を入れる。すると欠損した箇所から失った手や指が生えてくるではないか。 「だから大丈夫って言ったでしょ…。でもこれやると体力が…」 ライトは今までの疲労の蓄積もあり疲れ果てたのか気絶するように眠っている。 見た目は人の姿とはいえ本体は伝説クラスの竜であるがーすけの体だからこそできた荒業であろう。 とりあえず追手の目を逃れたが奴らはじきにここにもやって来るであろう。 追跡者が来る前に次の一手を決めたいとメトリに相談しようと思っていると、彼女は目を瞑り機械音を立てながら何やら演算をしていた。 「うん。どうやら偶然ではあるようだがここは目的地と非常に近い場所にある。皆、休憩は済んだな。一気に目的地にまで向かうぞ」 俺は居眠りしているスヮリゲーターを起こし、眠っているライトを担いでこの場を発った。 メトリの歩みがクラシカルなデザインの建物の前で止まる。 ここは以前官公庁で使われていた建物らしいのだが当然ながら今は人の気配など全くない。 ドアを蹴破り中に入る。そして地下のフロアに行くとメトリは何もない壁面を探る。 「あったぞ」 壁面に隠してあったスイッチのようなものを押すと床板が開き地下に入る階段が見える。 幾層にもなっている地階を進むと明かりのついている小部屋を見つける。 ここがメトリのいう目的地、いったい何が隠されているというのだろうか…。 ドアを開き中に入る、すると左上の死角から銃器のような物を突きつけられる感覚があった。 「おいお前ら何者だ?敵や不審者ならこのまま焼き殺す…」 ガスマスクを付けた男が俺たちに火炎放射器を向けていた。 「我々はモーゲン博士の使者だ。これをここに持って行くように彼から命令された。さっさとこいつを受け取れ」 メトリは例の剣の残骸をガスマスク男に差し出した。 「何だお前らも代理人なのかよ?!」 ガスマスク男は火炎放射器を下ろすとぶつくさ言いながら俺たちを中に案内した。    *   *   *   *   * ガスマスク男はマスクを脱ぎ、俺たちを椅子に座るように促した。 「俺の名はフリッツ。ここの主であったグート博士の友人だ。奴からは仲間のモーゲン博士が来るまでここを守ってくれって話だったんだが、まさかお互いくたばっちまうとはな…」 とりあえず現状を把握するためお互いに持っている情報を開示し合う。ガスマスク男の名はフリッツ博士。 魔法生物工学の権威でこの施設の主であったグート博士とはバイオテクノロジー分野の繋がりで親交があったらしい。 グート博士もまたヒジンドー機関に携わる者であり例の開発陣一斉処分の際に、もしもの場合は後を頼むとフリッツ博士に依頼をしていたようだ。 ちなみにグート博士本人は結局機関からは逃げ切れず、追手の獣人たちの手によって亡くなっていた。 「グート博士は何をしようとしていたんだ?」 先行きの見えなくなった状況を何とか探ろうとした俺の質問にフリッツ博士が答える。 「まぁとりあえず敵ではなさそうだから教えても構わないか…。奴さんなコイツを作っていたんだよ」 フリッツ博士が開けたカーテンの先には、培養液に満たされたカプセルの中に男が一人眠っていた。 見た目は金髪の引き締まった体格ではあるが特筆すべき特徴のない普通の中年男。いったいグート博士とモーゲン博士は壊れた剣と彼を使って何をしようとしていたのか…。 「この人がグート博士なのか?」 「いや、全然知らねぇ人間だ。どっかで見たことあるような気がするが思い出せねぇんだよな…。博士の残したデータによると、こいつはその誰かのクローン人間らしい。名は人造勇者終號。博士によるとコイツとその剣の欠片が奴らへの抑止力になるんだとさ」 「本来はコイツにクローン元の記憶をインストールさせて使うつもりだったんだが、その前に本人が死んじまったんでガワだけ残ったのがコイツだ。持ちスキルは『反転』。どんな能力かは試してみなきゃ分からん。じゃあ引き取り手が来たってことで俺は帰らせてもらうぜ」 「ちょっと待て!コイツと剣はいったいどうするんだ?」 宙ぶらりんになった事態の行方を探ろうと俺はフリッツ博士に聞いた。 「知らねぇよ!俺だってもう関わり合いたくねぇんだよ。じゃあここの施設から何から全部お前さんたちにくれてやるから好きにしな」 フリッツ博士はそう言い残すと小部屋から去って行った。メトリも何か言いたそうにしている。 「これにて今回の依頼は全て完了した。この施設及びこの人造勇者の所有権もお前らに移ったので、私はこれで失礼する」 メトリが例の剣の残骸を俺に渡す。立ち去ろうとするメトリを引き留めようと声をかける。 「これは私にはもう関わり合いのない件である。面倒だと思うのならお前たちも放棄すればいいだけの話だ」 メトリも足早に小部屋から去った。 「ちぇっ!やっぱあいつロボットなんだな。人の心がないわ…」 メトリに向かってライトが愚痴をこぼす。 「聞こえたぞ」 ライトに向けて数発銃撃を加える。ライトは物陰に隠れて避けたが、その一発がカプセルに当たり培養液が漏れ始めた。 「やばっ!ミレーンさんどうします?」 突発的な事故にライトは焦る。 「とりあえずこの男を開放させるか…」 培養カプセルのスイッチを操作し、男をカプセルから引き出して床に寝かせる。 彼が目覚めるまでの間、小部屋の中にあったシーツのようなもので水気をぬぐい服を着せてやる。 突発的な事故のせいで開放してしまったが、コイツは本当に動くのだろうか…。 そんなことを考えていると入口の方から何やら気配を感じた。 (続く)