入口付近からコトリと物音がしたので見に行く。 きっとメトリかフリッツ博士が戻ってきてくれたんだろうと思ったがそこには何もなかった、いや正確には黒い影が床に広がっていた…。 俺は防御のため構えを取ると影の中から何かが浮かんでくる。 それは軍服を着たスケルトン、どうやら敵のようだ。 俺はいつものように両手両足に魔力を込めて強化する。 スケルトンは腰に下げていた刀を抜いて俺に斬りかかる。 俺はその斬撃を払うような方向で躱すが払った腕に裂傷が走る。どうやらこの刀も聖剣のようだ…。 雑であった漆號の剣とは違い、このスケルトンの太刀筋は間違いなく達人のものだ。 まともに受けることが不可能なため俺は避けることしかできない。 どうしようか思案をしているとライトが騒がしさを聞いてやって来る。 俺に仕掛けた斬撃の隙間をついてライトがスケルトンを両断するが、瞬く間に敵は元の人型に戻る。これはまさにこの手のアンデッドの特性だ。 2対1という状況ではあるが、スケルトンはライトには目もくれず俺にばかり向かってくる。 もっともライトが斬りつけてもすぐに再生してしまうため、放っておいても意味がないからであろうか…。 どうにも打つ手がない膠着状態にお互い入っていたが、状況としてはダメージを物ともしない敵の方が圧倒的に有利であろう。 一体コイツには何が効くんだ…、防御の構えを取りながら頭の中で策を講じていると背後から物音が聞こえる。 視線をそちらに向けると、そこには今まで意識のなかった金髪の中年男こと人造勇者終號が立っていた。 彼の姿を見るとスケルトンは今まで見せなかった動揺を露わにするような動きを示すと、終號に向けて斬りかかった。 この意表を突いたスケルトンの動きに、俺たちはしてやられたと振り返る。すると事態は意外な結果となった…。 「反転…」 終號が手をかざしながらそうこぼすと、スケルトンは持っていた刀で自らの首を断った。 もっともすぐに再生されるから意味はないのだが、このわずかな瞬間に俺はスケルトンから刀を奪い取る。 刀が奪い取られると敵はまるで糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちバラバラになる。 実にあっけない終わり方であった…、いや罠はここからだったのだ。 刀を持った俺に何やら強烈な暗示がかかる、斬れ!殺せ!目の前にいるのは全て敵だ!この刀身に血を吸わせろと…。 どうやらこいつは聖剣どころか悪しき意思を持った魔剣・妖刀の類である。俺は意識を乗っ取られる前に魔力を集中させる。 「聖魔法『ホーリーピュリファイ』」 こいつは瘴気・悪霊・怨念などを払う所謂浄化魔法というやつである。 ホーリーピュリファイが効いたのか俺は暗示から上手く解けることができたようだ。 幸い俺が聖属性の魔力持ちだったから良かったものの、ライトやスヮリゲーターが掴まされていたらどうなったかと思うと身震いしてきた。 浄化された刀は意思を失ったせいか砂のように崩れ落ちて行った…。    *   *   *   *   * 戦いが終わり俺たちは目を覚ました終號に問いかける。 お前は敵なのか味方なのか、そして人造勇者たちについてどの程度知っているのかを…。 結果から言ってしまえば彼は何も知らなかった。 記憶に刷り込まれているのは自分の名前と能力の使い方、そして人造勇者たちを倒すのが使命ということであると。 質問の間、俺とライトは交代でデータや資料に目を通したが、残っているのは全て技術的なことばかりで背景に関してはフリッツ博士の言ってた以上のことはなかった。 とにもかくにも人造勇者という立場は気になるが、同じ敵と戦うことを使命づけられた存在である。 俺は彼に事情を話し共闘を持ちかけた。 「私で良かったら協力をさせてくれ」 メトリを失ったのは痛かったが、それ以上の強力な戦力を俺たちは手に入れたのだった。 「敵が入り込んだってことは、ここもその内連中がやってくるかもしれませんね…」 ライトが警戒を呼びかける。 せっかくの根城になりそうな場所だ、足がつく前に奴らを追い払うか…。 俺たちは迎撃するために地上へと向かって行く。 俺は終號に変装用として、以前俺用にレストロイカ帝から賜った気ぶり仮面を渡す。 フリッツ博士の話だと終號のクローン元は人造勇者の関係者であるようだから、素顔は隠しておいた方が何かに使えると考えたからである。 地上では漆號と仇號が合成獣人たちを使って家探しをしている。 俺たちは地下への入口を閉じると、この建物から離れた反対側まで移動をする。 漆號と仇號の傍らにいた合成獣人が俺たちが現れたことに気づいて反応する。 「ようやく出てきて来やがったな…。オメーら一体何者なんだ?!」 漆號の問いに俺はアクションを交えて答える。 ここが見せ場というやつだ、目いっぱいカッコつけさせてもらうぜ! 「全ての忌器を破壊する男! レンハートマッホーリーナイッ!」 「その相棒!気ぶり仮面ドラゴン!」 「えっえーっと…新メンバー!気ぶり仮面ファイナル!」 「スヮリだにぃ☆」 心なしかどこからか例のBGMが聞こえてくるようだ。 ライトに終號、こういうのは照れたら負けだぞ。スヮリみたいに堂々としろ…。 「お前らひょっとしてアホなのか…? まぁいい、ぶっ殺しちまえば全部同じだ!総員かかれ!」 そういう発言は明らかに悪の組織の負けフラグだぞ…。 合成獣人の群れを突っ切り俺とライトは漆號と仇號の元へと向かう。 スヮリには終號のガードを頼んだ。奴の力はギリギリまで隠しておきたいからだ。 先刻の戦いと同様に俺は仇號、ライトは漆號と対戦する。 ライトにはちょっとした指示を頼んである。とにかく俺と仇號の戦いに漆號を近寄らせるなと。 ライトは漆號の重い斬撃を嫌がり、両腕の刃からの真空波を放ちながら俺たちと距離を取る。 俺は一旦仇號と対峙すると、スヮリたちと戦っている合成獣人の群れへと奴を引き込む。 仇號は例の聖剣を使って素早い突きを何度も放ってくるが、俺はそれを必死に避けさらに周囲にいる合成獣人を盾に使う。 次々と減っていく手勢に仇號からは焦りの色が見える。もっとも表情は全く見えないのであるが。 「もう許しまセン…。あなただけはバキバキにへし折ってあげマス!」 仇號は最大速度で俺に向かって突きを入れてくる。タイミングはここだ! 「今だやれ!ファイナル!」 いつの間にか俺の後ろに立っていた終號とポジションを入れ替える。彼は右手をかざして叫んだ。 「反転!」 眼前に衝撃波のような幕が広がり仇號を撃ちぬいて行く…。すると仇號の胴体がぽっきりと折れたのであった。 「あれ?!」 何が起きたのか彼女にはまったく理解できないであろう。 俺も先ほどのスケルトンとの戦いを見ていなければ、このような作戦は考えもつかなかった。 終號の持つ「反転」という能力は所謂カウンター魔法に近いものであろう。 自らに加えようとした攻撃をそのまま返すのであれば、仇號の聖剣のように強大な力でならば反発も絶大である。 もっとも物理攻撃には効いたが魔法や特殊能力といった類に通じるかは危険な賭けではあったが…。 ボディがへし折れた衝撃で仇號は持っていた聖剣を地面に落とす。ここが攻め時だ! 俺は両手両足に回していた魔力を全て右腕に集める。 仇號のピンチを見た漆號がこちらに向かおうとするが、ライトが今までとは逆に近接で仕掛けてこちらへと近寄らせない。 俺は飛び上がり右腕の手刀を降り下ろす。 「レンハート流剣術奥義!『DIE SET DOWN』!」 仇號は真っ二つになり息絶えた。 漆號や合成獣人のように再生する恐れもあったが、漆號の悲壮な顔つきを見るとどうもそうではないようだ。 相棒も手勢も失った漆號が撤退する。 仮に追撃をかけたとしてもアイツを殺しきれるとは思えないから、そのまま放っておく。 仇號の遺体に近づき聖剣を拾う。さっきの妖刀とは違い持ち主が死んでもまだ残っていた。 強力な武器ではあるがこちらにも危害が来るかもしれない諸刃の剣である。 必要な時が来るまでは封印しておこうと誓った。 そして仇號の遺体のへし折れた箇所から金属のパーツのようなものが見える。 取り出してみると何やら模様の刻まれた刃の残った剣の欠片のようであった。 恐らくメトリの言っていたモーゲン博士の開発したチップなのであろう。 何かの情報が得られるかもしれないと、俺はそれを懐に仕舞った。 そうこうしているとライトが俺に来るように叫んでいる。向かうと終號が腕を抱えて蹲っている。 どうやら右腕の骨が折れているようだった。 「どうやらこれが能力の代償らしい。強力な力を反転させるとその反動が私にも来るようだ…」 俺はホーリーヒールで終號の腕を回復させる。 この力、万能の能力というわけでもないのか…。 この先の彼の力の使いどころを俺たちは考えていかなければならないと思った。 (続く)