君、壮士飛爪について聞いたことはおありか?  人の手を模し五指自在に可動するこの絡繰暗器は、宙を舞い死角より人々の急所を穿つ。  この凶手の真価は刃に非ず、毒に非ず。ただ人の手を模したその精巧さに有り。  闇夜にて迫りくる飛爪は、まさに亡者の手そのもの。  想像してほしい。草木に垂れた夜露が芳しい静かな夜──突如数多の手が音も無く飛びかかる地獄絵図を!  その一撃は刃よりも毒よりも深く、相手の心臓に恐怖という傷を刻むだろう。  奪魄門にて生まれしこの恐るべき暗器は、巡り巡ってあろうことか悪名高き混世魔王──葉雲裳の手に渡った。  その後の活躍は語るべくもない。恐れ知らずの唐門すら怯えさせたこの暗器は殺人毛筆と並ぶ江湖の恐怖の象徴と化した。  武林の伝説・趙活、その伴侶である混世魔王・葉雲裳。  二人の武勇は畏怖と共に江湖中に広まった。  そして今、この魔手は…… 「おい! なんで寝床にこれがあるんだ!」  寝床で眠っていた醜郎──趙活の四肢をがしりと掴んでいた。 ──────  それは彼が寝床に入り、星々の薄明かりを夜灯にうつらうつらと眠りに落ちようとした時であった。  突如四つの壮士飛爪が飛来! 油断しきった趙活の両手首、両足首を掴み、そのまま四方に引き伸ばし……彼は布団の上で磔にされた。  趙活はじたばたと虫のように足掻くも──内功を練ってもなお──四肢を掴む壮士飛爪は外れる素振りを見せない。 「ぐっ、クソッ、外れない……梁と柱に括り付けてやがる」  引っ張った手応えから柱に括り付けて固定してるのだと理解。  無理に引き剥がして柱を折ってしまえば瓦礫の下敷きだ。宿の倒壊を恐れた趙活は抵抗を諦め、次なる一手を打つ。 「雲裳、君だろう! 早くこれを解いてくれ!」  容疑者への説得である。  犯人は未だ姿を見せない、しかしこのような悪戯を仕掛ける人物の心当たりは少ない。ましてや彼は今は江湖を旅する身、その行方を知り寝込みを襲える者といえば唯一人……共に旅する彼女、葉雲裳しかありえないはずである。  混世魔王──葉雲裳は今日も暴虐の限りを尽くした。  貴重な路銀だと再三主張したにも関わらず高級甘味を要求しては懐を涼しくさせ、街ゆく人々と一悶着起こしては共に逃げ回り、挙句「今の身体ならもう船酔いなんて起こさないってことよ」と川下りをねだった後、やはり気分を悪くして早々に宿へ運ばれることとなった。  息も絶え絶えな彼女を別室に押し込み、今晩は自分も静かに眠れそうだと思った矢先のこの出来事である。  どうやらあの時倒れたのは本当だが、その後自分が寝るまで狸寝入りをかましていたのだ。 「こんなことをするのは江湖どこを探しても君しかいない! 話なら聞くから、姿を見せろ!」  趙活は虚空に向かって呼びかけると…… 「ふふん、縛られてるお兄ちゃんってまるでイノシシみたいね……本〜当にきもちわる〜いっ♪」  暗闇からぬるりと少女が姿を現した。  悪名高き混世魔王──葉雲裳本人である。 「今日はもう疲れて寝たのかと思ったぞ」 「そう思ってたのならお兄ちゃんはまだまだ勉強が足らないってことよ。いくら医術を修めてもわたしの心は掴めないわ」  縛られて動けない趙活を見下ろし、雲裳は目を爛々と妖しく光らせる。  宝石のように煌く瞳は闇夜でもその輝きを損なわず、趙活は猫の瞳を思い出した。  気まぐれで気分屋のくせに計算高く、人を出し抜くことにかけて彼女の右に出る者はいない。  彼女が何をするのか、趙活は戦々恐々とするも、雲裳は満足気に見つめるばかりで黙ったままだ。  しばらく縛られた趙活をしげしげと眺めた後、雲裳は口を開いた。 「……ねえお兄ちゃん。お兄ちゃんはわたしに謝るべきことがあると思わない?」  その一言に、趙活はしばらく思考を要し……しかし解読することはできなかった。 「びっくりした。俺が君に謝るべきだと言われてるのかと思った」 「そう言ってるのよ」 「わけがわからない、俺の財布を奪い一日中足腰を酷使させたのは君だ、非があるのはどう考えても君だろう」  怒る趙活に、雲裳はどこ吹く風。 「あら? 自らの非は棚に上げて他人の非を責めるつもり? 胸に手を当てて自分の行いを省みなさい」  それどころか含みのある返しをする。  ますます趙活は首を傾げた。 「胸に手を当てたいからこれを解いてくれないか?」 「ダメよ、縛られたまま胸に手を当てなさい」 「んな無茶な」  異議を唱えつつ、趙活は今日の出来事を振り返る。 「ええと……今日は……」  高級甘味を強請られた … 銀両-1000  トラブルの対処の末街中を逃げ回った … 心相-20 名声-1 軽功+1  船酔いした彼女を担いで宿に連れ帰った … 銀両-500 心相-20…… ……彼女をおぶった背中から、二つの柔らかい感触を感じた 心相+100 品性- 道徳- 「ほら、やっぱり! 鼻の下が伸びてるってことよ、この変態!」 「待て待て待て! 不可抗力っていうか、ほとんど君に非がある!」 「言い訳は聞かないわ! わたしを背負う手つきがいやらしかったの、しっかり気付いてたからね!」 「そこまでいやらしくはない!」  彼の名誉の為に弁明すると、彼女を背負う趙活の動きは病人を労る優しさに満ちていた。  しかし彼女がしなだれかかり、その柔らかな身体を押し付けてしまう事に反応することは止められなかった。  ましてや背負うのは最愛の想い人。高鳴る鼓動を誤魔化す為に押し黙った彼をどうして責められようか。 「だからこれはお兄ちゃんへのお仕置きってことよ」  もちろん雲裳としてもこのような下心を向けられることは満更ではないが、ただ彼を役得にさせるだけなのも癪だ。  彼女はお仕置きという名目で、趙活に憂さ晴らしを企んだのだ。  ようやく彼女の目論見が分かり、趙活は縛られたまま、はぁとため息をついた。 「ああそうだな確かに俺が悪いし至らなかったよ反省するだから早くこれを解いてくれ」 「全然心がこもってない! 裳は誠意の無い謝罪は受け入れないわ」 「頼むよ。今日も疲れたんだ、これじゃ眠れない。何が欲しいんだ? 遊びも買い物も明日付き合うからさ」 「……ふーん、このままじゃ眠れないってことね」  まずい、何か言質を取られた気がする。  趙活は彼女の反応から危険を察したが、逃れる術は無い。 「お兄ちゃん。壮士飛爪は外せそう?」 「無理だ。身体を捻っても力を込めてもビクともしない」 「どれだけ力を込めても?」 「どれだけ力を込めても」 「そ、じゃあ……」  言うが否や、雲裳はいじわるな笑顔を浮かべ── 「こうしても?」  趙活の腹に跨り、ぽすん、と控えめな音と共に彼女の体重がのしかかった。  あたたかい体温と共に伝わる柔らかな重みは趙活に苦しさなど感じさせないまま──彼の動きはさらに封じられた。  もはや彼は身を捩らせることもできない。 「おい……」 「なに? 感想を述べるなら『羽根のよう』を必ず含めてね」 「俺に羽根が生えても君ほどは軽くはならないよ……何するつもりだ?」 「……んふふ、それはね」  彼の腹に馬乗りになった雲裳はその指先を胸板に這わせ、さわさわとくすぐった。 「こうするってことよ!」 「く、ふふ、はははははは!」 「それそれー」 「は、ははは! や、やめてくれ、ははははは!」  趙活はくすぐったさに耐え切れず、その不細工な顔面をさらに醜く歪めた。  雲裳はその顔面土砂崩れの醜貌を愛おしく気持ち悪がりながらも、弄ぶ手を止めない。 「は、はは……ひぃっ、い、息が、くるし、やめ……」 「我慢なさいー? うりうり」  雲裳の指は彼の身体中を滑り、ぞくぞくと粟立つ震えを起こしてゆく。  脇も腹も足も首も耳も、身体のどこひとつ防げないまま、彼女のくすぐりに悶え苦しんでゆく。  止まないくすぐりの雨に、趙活に息ができる余裕が生まれようとした頃だった。 「からの……ぎゅー!」  突如、雲裳は服の上からいきなり彼の乳首をつまんだ。 「っあぅ!」  痛みとも、痒さとも違う、疼くような感触が彼の身体を走った。 「ぎゅっ、ぎゅっ、きゅーっ」 「ひっ、う、あっ!」  親指と人差し指で軽くつまみ、くりくりと指を前後させる。  その都度、痺れるような疼きが彼の身体を襲った。 「ま、ま、待ってくれ! おかしい、俺の身体に何かが起きてる!」 「かりかりー」 「んあっ!!」  少女の細く白い指が、彼の乳首を服越しにかりかりと引っかいて笑った。 「やっぱりわたしの見立て通り。お兄ちゃんの乳首は気持ち良くなるように作り替えられちゃったってことよ」  幾度、活俠は壮士飛爪に乳首をつねられたことだろうか。  痛みを伴う強い刺激は、彼の乳頭の神経を何度も叩き、脳に神経の存在を意識させた。  すると何が起こるか。  其処に神経が通っているのだと認識した身体はより強く神経を意識し……やがてその箇所は鋭敏な感覚器となるのだ。  そして最後、雲裳の一撃を以て、彼の乳首は性感帯として完成した──。 「そんな馬鹿な!」 「信じられない? なら何度でも証明してあげるわ」 「ひぅっ、あっ、ああっ!」  乳首を責められるたび、女々しい嬌声が止まらない。  これが少女や美少年であればさぞ官能的であったが、生憎喘いでいるのは趙活であるため喜ぶ者は天下を探しても2人くらいしかいないだろう。  雲裳の責めは執拗に続けられ、趙活は未知の性感に身悶えするばかりだった。 「お兄ちゃんはわたしの慈悲に感謝しなさい。男の乳首なんてあっても役に立たない者を、わたし専用の玩具にしてあげたんだから」 「そんなの望んでいな……うああっ」  やがて未知の快楽に踊らされ続けた趙活の身に、当然の変化が起こる。  血流が下腹部に流れ、子種を吐き出そうと、彼の股間に集中し……ムクムクと、股間が膨らみ始めていたのだ。 (まずい! このままでは彼女にバレる)  しかして拘束されている彼に隠す手段は存在しない。 (頼む! 避けてくれ! 勃起がバレたらまた何を言われるか分からない)  必死に祈るも空しく、もぞりと動いた雲裳の尻が近づき、ぶつかってしまった。  ……ふに。 「……あは♡」  その硬い感触を、彼女は見逃さなかった。  新たな玩具を見つけたと、彼女は目を邪悪に細めた。 「これはなに? お兄ちゃん。わたしはお兄ちゃんの乳首を戯れに弄んだだけ、子作りなんてちっともする気なんて無かったのよ? なのにお兄ちゃんったら、こんな痛々しいくらい滾らせたモノをわたしに押し付けて……本当に我慢の効かないケダモノなのね」 「うぅ……」  氣-20 「お兄ちゃんなんかおあずけのできない犬と同じってことよ。獣面獣心、生きながらにして畜生道に堕ちてるんだわ」 「うぅ……」  氣-20  彼女の口功に、趙活は黙ってうなだれる。  言い返す気概よりも、彼女にみっともない姿を見せたと恥いる気持ちが勝ったためだ。  まるで叱られた犬のように小さくなる趙活を見て雲裳はくすりと笑った。   「そんなにわたしとしたいの? こんなにガチガチにしてまで、わたしを襲いたくてたまらないってことかしら?」  仕掛けたのは彼女からなのに、まるで彼が夜這いを仕掛けたかのように問いかける。 「……う」  普段の彼であれば理路整然と立ち向かっただろう。タチの悪い冗談だと切り捨てただろう。  しかしもう、彼の理性は崩壊寸前で、目の前の誘惑に飛びつくほか考えられなかった。 「……頼む」 「なに? 聞こえない」 「頼むっ!」 「何を?」 「このままでいいっ、縛られたままでいいから、君と……褥を共にしたい!」  趙活の哀願に、雲裳はニタリとした笑顔で返した。  必死な彼の様子が、自分の掌の上で転がされる彼が可愛くてたまらない。 「じゃあこれからもわたしの言うことをちゃんと聞く?」 「ああ、聞く……っぅあ」  雲裳は彼の衣服を解き、下腹部と太ももを擦り合わせ、器用に趙活の陰茎を刺激する。 「もう我慢の限界?」 「……あっ、うっ、限界だ……」  太ももをすりすりと擦り合わせ、さらに彼を追い立てる。 「わたしとしたくてしたくてたまらない?」 「うぅ……煽らないでくれ、もうしたくて耐えられない」  擦るたびに、彼はビクビクと身体を震わせ、声が漏れる。 「それじゃあ……ね」  すりすりしゅりしゅりと脚に怒張を擦り付け、彼の欲望を煽りに煽って…… 「して、あげな〜い!」 「……雲裳ッ!!」  残酷な宣告を下し、趙活は悲鳴を上げた。  懇願と恨みの混じった彼の目は血走り、彼女を睨め付ける。  が、雲裳はその一切を意に介さずせせら笑った。 「なあに、そんな怖い顔して? 裳は非力なれど気高いの。憐憫や同情から身体を捧げたりなんてしないわ」 「君は……っ、ふーっ……! なんて……、むごい……生殺しだ……!」 「あはは! 残念だけどわたしはまだまだ身籠る気は無いの」 「だったら……どいてくれ……これ以上は……」 「ダメよ、こんな獣欲を抱えたお兄ちゃんと寝食を共にしたらいつ襲われるか分からないわ」  もぞもぞと蠢く彼を文字通り尻に敷き、からかい煽る。  趙活はもはや理性で身体が制御しきれず、哀れにも腰を動かし雲裳に擦り付けようとするのを止められなくなっていたが、彼女は器用に避け彼に必要以上の刺激を与えなかった。  しかしその焦らしはすぐに終わる。  がばっと、馬乗りの体勢から覆い被さり、雲裳は趙活の耳元に唇を寄せ、 「だから……お兄ちゃん、今日は思いっきり、すっからかんになってね♡」  囁くとともに、雲裳はかぷりと首筋を甘く噛んだ。  同時に、激しく趙活のモノをしごき…… 「あ、あああああ!! 出るっっっ!」  どくどくと噴き出した精液は、ねばついた染みとなって彼の股間を汚した。  のけぞり絶頂する彼の表情を、雲裳はニマニマと見つめた。 「あは、お兄ちゃんの発情してる顔はきもちわるいけど……出す時の顔はもっときもちわる〜い♡」  手にかかった白濁を彼の衣服の端でペッと拭い、もう一度彼の陰茎に手をかけた。 「ま、待ってくれ、今はまだ……」 「すっからかんにするって言ったでしょ? 一滴残らず吐き出しなさい」 「や、やめ……うああっ!!」  その後も趙活の懇願は聞き入れられず、あらゆる手管で吐精を促された。 「出せ♡ お兄ちゃん♡ 出して♡」  耳をねぶられ、生温かい吐息を吐きかけられ、時に甘噛みで刺激しては性欲を掘り起こされる。 「雲裳をめちゃくちゃにしたいなんて思えないように、お兄ちゃんはここでぜーんぶ出し切るってことよ♡」  乳首を責められ、身体中に口づけを施され、陰茎が痛いほど準備を始め……しかしその銃口は彼女の手によって虚空に向けられ、無駄撃ちに終わる。 「ケダモノ♡ ケダモノ♡ こんなのをわたしに注ぎたいなんて、恥を知りなさい♡」  終わることのない彼女からの愛しく悪辣な責めは、趙活の精神をどんどんと追いやるのであった。 …………… 内功-1 ……… 内功-1 … 内功-1 「あはは、お兄ちゃんの精液の匂いが部屋中充満して鼻が曲がりそう♡ 起きたらちゃんとお掃除してね」  ひとしきり彼を弄んだ雲裳は満足気に見やった。  何度も彼女の手と口と脚によって射精へ導かれた趙活は、もはや壮士飛爪の拘束がなくとも動けないほどに気力を搾り取られてしまっている。 「それじゃあお兄ちゃん、おやすみ。んっ」  意識も朧げな趙活の半開きの唇。  雲裳は置き土産にそこへキスを落として去った。 「………」  武林の伝説として名を馳せた大俠・趙活。  身体中に散らばるのは活俠の白濁した汁と、雲裳に付けられた歯形と、唇で吸われた内出血痕(キスマーク)。  野犬に貪られた惨殺死体のような姿を見て、誰がその人であることを信じられようか。  唐門最後の外弟子・趙活。  今はただ年下の少女に弄ばれ搾精された、哀れな搾りカスとして宿屋に倒れ伏すのであった──。  内功-5 ──────  朝早く、趙活の部屋から漂う精の残滓に雲裳は顔をしかめた。どうやら彼はまだ気絶しているらしい、そのまま彼を放置して宿を飛び出した。  ちなみに括り付けた壮士飛爪はそのままである。縛られた人間を解放せず、あろうことか掃除も押し付けて彼女は飛び出した。  目的は朝市。昨晩抜き取った趙活の財布で豪遊しつつ親友への手土産を見繕うつもりだ。どうせ色紙は趙活が買うのだから、自分はそれ以外を。  寡黙な親友が土産物に顔を綻ばせるのを期待しては、雲裳は心に温かいものが芽生えるのを感じた。  昨晩、愛する男をあれほどいじめ抜いた彼女でも、親友を純粋に思いやることはできるのだ。ただ趙活に限り、混沌となって吐き出されるだけ。  これは趙活の責任である。彼が無償の愛を彼女に捧げ、彼女のすべてを受け入れてしまったことが原因だ。彼女の愛は深いが、悪意も同等に底が無い。  しかし今はただの可憐な少女、葉雲裳。  市場に並ぶ品々を物色しながら、雲裳は黙鈴と趙活の二人のことばかり考えていた。 (黙鈴になら趙お兄ちゃんの上半身までなら分けてもいい思ったけど撤回するわ。お兄ちゃんの胸までちょうだい。開発者として責任を取るってことよ)  親友である黙鈴に内心で勝手に取り付けた約束を破ることに、雲裳は心から詫びる。  詳細は割愛するが、黙鈴が趙活に対し淡い想いを抱いていた事に気づきながらも雲裳は隙を見て彼を掠め取った。その罪悪感から、黙鈴にだけは少しだけなら彼を分けてもよいと思っている。  なお、この約束も取り決めも分け前も、全ては雲裳の内心の中でのみ行われている。そのため当の黙鈴への合意は何ひとつ得ていない。  しかし彼女が趙活の下半身のみならず胸まで独占するのであれば、いよいよ黙鈴の分け前は趙活の首だけとなる。 (ちょうどいいかもね。黙鈴は蹴鞠が得意だし、お兄ちゃんの首で唐門蹴鞠大会でも開きましょ)  彼の生首が目を見開き、唐門弟子たちに蹴られ宙を舞い絶叫する様子が脳裏に浮かんだ。 「……ぷっ」  その不細工な絵面に、雲裳は思わず吹き出し、くだらないと吐き捨て、土産物の物色へと戻っていった。  ……しかし彼女はそう遠くないうちにこの約束すら反故にする不誠実な人間となる。  彼女の独占欲は最早彼女自身にも制御が効かない。  その強欲さはいよいよ底無しとなり、趙活の髪の毛一本すら黙鈴に渡したくないほどに至るのに時間はかからなかった。  葉雲裳 好感度+   ──────  葉雲裳が宿を出てしばらく後。  身を捩り、どうにか拘束から抜け出せた趙活は桶を借り、一人虚しく服を洗っていた。  彼は今唐門から離れ各地を旅する身なれど、修練は欠かさず続けている。全身を流れる唐門の薬効は服にこびりついた体液にも例外なく流れており、不用意に川に流せば毒となる。  それゆえに桶で洗い、残り水を適切に処理した後、川で再度洗い直す必要があった。  水を張った桶でしゃこしゃこと服を洗うたび、趙活の胸の内に悔しさが募る。  昨晩、趙活は自身のオスとしての機能を雲裳に弄ばれた。子を成すための宝剣も宝玉も彼女の嗜虐心を満たす玩具にされてしまったのだ。  これがどれほど男としての尊厳を踏みにじったことだろう。  趙活は顔を伏せ、目尻が微かに濡れるのを手で覆い隠した。 「……ふっ、く、ぐっ……」  続いて沸いたのは怒りだった。  彼女は自らの行いがどれほど男を傷つけたのか分かっていないのだ。代償はその身をもって支払わせるべきだ。  散々無抵抗の人間をケダモノと嘲ったのだ。本当にケダモノと化したらどうなるのか思い知らせてやろう。 「ああそうだ。俺は彼女を甘やかしすぎたんだ。葉兄のように尻を叩く人間はもう俺しかいない。いや、もっと苛烈な罰が必要だ」  力自慢を自負できるような膂力は無いが、趙活の力は決して弱くはない。捕まえれば彼女は力及ばず組み伏せられることだろう。  彼女の手を押さえ、覆い被さり、その白い脚を剥いて揉みほぐしてやる。  次に上半身だ、鎖骨を舐め、胸元を晒し、自分が乳首に受けた辱めをそっくりそのまま彼女にも返してやる。  年の割に肉付きのよい乳はさぞ感触が良いことだろう。  そして見上げて彼女の顔を得意気に見つめてや── ──お兄ちゃん♡ 「うぅ……」  性情-  しかしその目論見は霧消した。  囁かれた屈辱的な言葉の数々は耳梁に染みつき、彼の怒りの激しさをそのまま興奮へと変換させてしまう。  彼女の喘ぎ声が悪辣な演技であると見抜いても、その甘い囁きは彼の復讐心を萎れさせてしまうのだ。 「雲裳……うぅ……俺は、君を……っ」  昨夜の情事を反芻すると、あれだけ搾り取られたはずの彼の股間はまた微かに硬くなり始めた。  頭では怒るべきだと理解しているのに、身体は昨晩の調教を悦んでしまっている。  憎みきれない彼女の魔性に、俺はとんでもない人を射止めてしまったのだと、彼は改めて戦慄した。 「……待っていろ、いずれ君を…………うぅ」  彼女の湿った甘い吐息は肉体を浸透し、一挙一挙が心を震わせ、余威は数日にわたり鳴り止まず、毒のように彼を苛み昂らせた。  これぞ伴侶たる趙活のみに見せる、混世魔王最悪の暗器である。