4月。季節は春を迎えたものの、日が暮れれば未だほんのりと肌寒い日が続く。 そんな中、前カゴに犬を乗せて走る原動機付自転車が一台。 齢にしておよそ二十歳。芋臭いジャージに身を包み、愛用のマシンを駆るその女性の名は丸地いずな… 愛犬のワンコモンを連れ、日課である散歩の真っ最中だ。 いつもの散歩ルートをあらかた巡回し、帰路に付くべく原チャが川沿いに差し掛かったその時、川原にて見知った顔を見つけた。 彼女の名は千明 翼冴。いずなと同じくイモゲンチャーの称号を持つ、高校一年生の少女である。 パートナーデジモンであるヴォーボモンを伴い、何やら体をほぐす様に上体を大きく捻っている様だが、夕食後の軽い運動でもしているのだろうか? 自然に速度を緩めつつ様子を伺っていたいずなに向こうも気付いたのか、ストレッチを中断してこちらに手を振った。 ヴォーボモンも知り合いに会えてとても嬉しそうだ。原チャから降り愛車を手で押し始めたたいずなに向かって一目散に飛んで来る。 「いずなちゃん、ワンコモン、こんばんはなの」 「ワンワン!」 「はーさん、こんばんは〜。二人仲良く筋トレ?」 などと他愛もない会話を始めた矢先の事だった。 「突然だけどいずなさん、貴方はゆうパックで配送されたテイマーの都市伝説を知っているかしら?」 本当に突然だ。遅れてやって来た翼冴が意味不明な事を言い出した。 まさかとは思うが自分もゆうパックで送られたいとでも言うのではなかろうか… 翼冴ならば十分にあり得る話だ。いや、むしろ絶対に言う。最強のテイマーを志すならばその程度の事出来て当然とか言い出すのが、いずなの知る千明 翼冴という人間だ。 「実は私も近々ゆうパックで送って貰おうと考えているの。最強たるもの、やった人が居るという前例があるのなら私にも同じ事が出来て然るべき…それが例え都市伝説の類であっても。でしょ?」 案の定であった。ですよねーという感想以外、いずなの頭には思い浮かんで来ない。 それでも尚、間髪入れず翼冴の話は続く。 「配送して貰う為にクリアしなければならない課題は二つ、サイズと重量よ!とりあえず全身の関節を外して体を折り畳めば箱の中には入れるからその為に体を解していたところなの」 いずなは話半分で軽く聞き流しながらも相槌を打ちつつ、もう一つの課題である重さはどうするつもりなのかという疑問を投げかけた。 「よくぞ聞いてくれたわ!いずなさんはカロリーゼロ理論というのを一度くらい耳にした事、あるわよね?今回はそれに着目したの!」 「うん?………んん……??」 確かにカロリーゼロ理論は知っている。だが何故その理論が突然出てくるのか、いずなにはまるで理解できない。 ワンコモンと一緒にはしゃいでいたヴォーボモンも『そうだよね、そうなるよね…』と言いたげな表情でこちらへ振り返る。 「その理論の中にカロリーは新幹線の速さについて来る事ができないから走行中の新幹線で食べる食事はカロリーゼロという考え方があるの。 この理屈に則るなら私が物凄く速く動けば私の体重は私について来る事ができないから私の体重は0という事になるわ。つまり私が自分の身体をコンパクトに折り畳んだ状態で超高速移動をすれば、理論上私を送って貰う事が可能になるってわけよ!!」 「………う、うん……へぇー、凄いなーー…………」 自身満々に破茶滅茶な事を言って迫る翼冴の圧に、いずなはただただ唖然とするだけであった。 口をぽかんと開けたまま固まってしまったいずなの背後に壮大な宇宙空間が広がる。 「ワンワン!」 「いずなちゃん、いずなちゃん!大丈夫なの?」 「いずなさん?お〜〜い」 その後、どうなったのかいずなはあまりよく覚えていないが一先ずはお開きとなった様だ。 気が付くと彼女は自室に居り、我に返った主を見たワンコモンがとても嬉しそうに尻尾をゆらゆらと揺らしていた。 ───────── 翌日__丸地宅に荷物が届いた。 送り主は花咲 氷歌。いずなや翼冴と同様イモゲンチャーの名を冠するテイマーであり、同時に地下アイドルもやっている中学一年生の少女だ。 一体何が入っているのだろうか…いずながガムテープを剥がして箱を開けようとしたその時、突然箱がガタガタと揺れ始めた。 驚いたいずなが飛び退いた次の瞬間、箱から勢いよく飛び出してきたのは……翼冴とヴォーボモンであった。 「いずなさん、出来たわ!!!」