バルロスの商業施設跡を一人の少女が何かを探すように歩く。かつてファストフードやスイーツの店舗であった跡地を眺めていると、少女の腹の虫が鳴り出したようだ。 いくら眺めたところで展示物に描かれた食べ物が現れるわけではない、空腹を両の手で覆いながらとぼとぼと歩いて行くと進行方向に唸り声のような奇声が聞こえてくる。 その声の主はカマキリ型の合成獣人であった。少女は踵を返して今来た道を走り逃げる、だがそこにはゴリラ型の合成獣人が立ちはだかっていた。 身の丈も大きな獣人が二体。小柄な少女ではなすすべもなく取り押さえられる。その場面に一人の少年が歩みながら近づいてくる。 「運が悪かったねー君。今は警戒レベルMAXにしてあるから人っ子一人見逃すわけにはいかないんだよね」 声の主は人造勇者陸號ことザット上等兵。現在バルロスに入り込んだ侵入者を捕らえるべく、多数の合成獣人を従えてパトロールしていたのであった。 「首尾は上々のようだな…」 物陰からかすかに耳に入るようなつぶやきが聞こえる。声の主は認識阻害をかけ視覚では捉えられなくさせたコージン=ミレーン。 合成獣人に捕らえられた少女は変身したライトであった。 ライトは陸號と獣人たちに囲まれながら大講堂へと呼ばれる施設へと向かって行く。そしてその後ろをミレーンは認識阻害を使いながら追って行く。 ミレーンは持っていたス魔ホで「目標は大講堂」とだけメッセを送る。何かあった時にはスヮリゲーターやシュウに地下道を使って援護してもらえば良いのだ。 移動中陸號はライトに対して何やら興味深げに観察をし始め、そして臭いを嗅ぎだす。 「君、何だか美味しそうな臭いがするね…」 ライトは動揺する。女性に対して良い匂いがするねと言うのは定番の口説き文句ではあるが、今回言われているのは『美味しそうな臭い』。 食材としての意味なのかそれとも性的なアレのことなのか、ライトは動転してこう返すのが精一杯だった。 「すみません…。お風呂全然入ってないから…」 「あっ、そういう意味じゃないよ。僕みんなからよくデリカシーがないって言われるから、気にしないで」 陸號は半笑いをしながらフォローするが、その閉じられた瞼の奥の瞳は笑っていなかった。    *   *   *   *   * 大講堂と呼ばれる施設の中に陸號たちが入って行く。ここまでの道中、陸號はライトに何かと世間話を投げかけていた。 情報を聞き出そうとしているのかそれとも単なる暇つぶしなのか、ライトは慎重に言葉を選びながら返していた。 だがそれもこれで終わることにライトは安堵の息をついた。 屋内に入り廊下を陸號の案内で進んで行く、するとライトの目の前に見知った顔が現れた。人造勇者漆號である。 「よぉ珍しいじゃねぇか。お前が可愛い子ちゃん連れて楽しそうにデートなんてよ」 「そんなんじゃないですよぉ。侵入者みたいだったんでここに連れて来たんです」 「お堅いこと言うなって。俺としてはさぁ、お前が人並みにそういうことに興味あった事自体がうれしいんだよ。何だったら俺からアイゼンのおっさんや大尉に見逃してくれるよう頼んでやってもいいんだぜ」 「だから違いますってぇ…。いやまぁ…下心的なものはないわけじゃないんですが、彼女の血はどんな味するのかなぁって…」 漆號は若干引き気味の表情を浮かべる。 「なんだ…そっちの方かよ…。じゃあな嬢ちゃん、ここでゆっくり休んどいてくれ。周りにやかましいおっさんどもがいるけど気にすんな」 ライトは案内された部屋に入る。そこには20人近い軍服を着た男たちが座っていた。 一斉にライトに視線を向けると数秒後には各自の会話へと戻って行った。 「流民の少女だと? これは入隊の儀式ではないのか?」 「我々への扱いも扱いだ! これが本当に仲間に対する態度なのか?」 「あの人造勇者とか呼ばれる連中以外に、人間の兵士はろくにいないではないか?」 皆が思い思いの疑問や不安をまくし立てている。 するとライトが入って来た入口の対面にあるドアが開く。入って来たのは人造勇者弐號だ。 「諸君、お待たせして申し訳ない。これから入隊の儀式を行う。一人づつ順番にここから入って来てくれ」 弐號が一番手前にいる兵士を指名して連れて行く。そして10分ほど経つと次の兵士を連れて行く。このような流れが幾度となく続いた。だが戻って来る兵士は一人もいない。 残る兵士は3名ほど。ライトの隣にいた兵士が耳打ちをする。 「どうやら様子がおかしい…。一緒に逃げよう」 兵士はライトの手を引いて入口のドアを開く。するとそこには陸號が立っていた。 「だめですよ、まだ儀式の途中なんですから。逃げたら敵前逃亡ってことで処しますからね。これもギリセフ流ですね」 右手の刃を突き立てながら陸號は部屋に戻るように即す。すると対面にあるドアが開き弐號が入って来る。 「どうした?上等兵」 「この人たちが散々待ちぼうけ食ったせいで帰ろうとしたんで、部屋に戻るように言っただけですよ。面倒だからまとめてやっちゃいません?」 「そうだな。抑え手も数は揃ったから一度にやっても大丈夫か。お前ら全員付いて来い」 部屋に残った全員は陸號に追い立てられながら弐號に付いて行く。    *   *   *   *   * 進んで行った先にはこの建物の中心である大講堂があった。 周囲を数千単位の人間が収容できるぐらいの席に囲まれ、中央にある舞台には巨大なモニュメントが鎮座していた。 そして周囲には30体程の獣人が点在する。その中には見知った軍服を纏った獣人もあった。 また人造勇者の顔も見える。この場にいるのは弐號、肆號、陸號、漆號であった。 「お前達、この円陣の中に入って待機しろ。許可があるまで出るのを禁ずる」 弐號がそう命じると全員が円陣の中に入って行く。 講堂内に小柄な一人の女性が入って行く。彼女は脚立を使いモニュメントの上部にある台座に乗ると、懐に閉まっていた福音書を開いて中の文面を読み始めた。 するとモニュメントの中から何かが起動する音が聞こえ、円陣内に光が立ち込める。何やら危険な予感がしたのかライトを連れて逃げようとした兵士が「逃げろ」と言い放ち、ライトを円陣から付き飛ばした。 円陣から湧き上がった光に兵士たちが包まれ、その光が消えると彼らの姿は獣人へと変わっていた。すると周囲にいた獣人たちが彼らを押さえつけ、人造勇者が彼らの首に黒い首輪と取り付けていた。 「おめでとさん。これでお前らも俺たちの仲間入りってわけだ」 漆號が獣人を見下ろしながら言う。 一同は円陣から逃れたライトを一斉に見る。 「機密を知られちまったから口封じするしかないが、この流れだと逃げ場がないのはわかるだろ。ザットのお気に入りだから痛い目見せたくないから、さっさとあん中に戻るんだな」 漆號がライトに逃げても無駄だと脅しをかける。 そう言い放った瞬間、漆號の頭部が首から両断され飛んで行く。 そして刺客が認識阻害のスキルを解いて姿を現す。そこにいたのはレンハートマンホーリーナイトことコージン=ミレーンであった。 ライトが両腕から刃を生やすと、彼と因縁のある肆號と漆號が反応する。 「「お前か!」」 するとその間に割って入ろうとする者がいる。人造勇者陸號であった。 「ごめんなさい。彼女は僕が予約していたんです。邪魔をするようだったらアナタたちでも殺りますよ…」 「ちっ!お前がそこまで言うなら譲ってやるよ。俺としてもこの覆面野郎の方には因縁あるからな」 漆號はミレーンに向けて大剣をかざした。 弐號が周囲にいる合成獣人たちに侵入者の撃退を指示する。押し寄せる獣人たちに漆號や肆號は邪魔をするなとキレる。 獣人たちは数の暴力でミレーンたちを抑え込もうとする。 ライトの右腕を抑え込もうとしていたのはバッタ型の獣人、最後までライトを逃がそうとしていた兵士の成れの果ての姿であった。 「ごめんなさい。人として安らかに眠ってください…」 ライトはバッタ型獣人の首を刃で跳ねた。 多勢に無勢の状況の中、ミレーンたちに救いの手が来る。 「にょっわ~☆」 舞台床の搬入口を突き破って二人の男女が現れる。スヮリゲーターとシュウであった。 「待たせたにぃ~☆」 「大丈夫か? ホーリーナイトにドラゴン?!」 「えぇい!こいつ等もまとめて一掃しろ」 弐號の命令に獣人たちがバラける。自分への包囲が薄くなったのを見るや否や、ミレーンは忌器を破壊すべく天使像へと向かって行った。 だが天使像を目前にして弐號が立ちはだかる。 自然と状況はミレーンvs弐號、ライトvs陸號、スヮリゲーターvs肆號、シュウvs漆號という流れになっていった…。 ライトは両腕の刃で陸號と斬り合う。陸號はスピードタイプゆえ、目に見えない高速の駆け引きがライトの精神を消耗させる。 こいつに斬られたら何かヤバい…、本能がそう訴えているからだ。 スヮリは肆號の鉈型聖剣の斬りつけを外皮の硬度でしのぎながら躱す。 切れ味鋭い聖剣だけに切り傷は付いているのだが、修復速度と併せるとほぼほぼ無傷と言っていいだろう。 スヮリの固い外皮を両断するには肆號自身のパワーが足りないのである。 シュウは漆號の大剣の連撃を反転で躱す。反転をする度に漆號は大剣で自傷をするのであるが、すぐさま傷は回復する。 自分の右腕に刻まれる細かな切り傷を見ながら、シュウはどう仕留めたら良いかと考えるのであった。 (続く)