「マドックス……景色が変わり映えしないわね…」 「しょうがねえだろ…もうとっくに市街地は抜けちまったんだ。ここから先は岩と砂しかねえ。」 俺とフェルはある場所を目指し、荒野を突っ切る高速道路をピックアップトラックでかっ飛ばしていた。 どうしてこんな羽目になったのか。その理由は数時間前に遡る。 ───────── この日の朝、俺の元に署長から連絡があった。何でも謹慎明けと引き換えに、どこかの組織に俺は出向することになるらしい。 なんの組織なのか濁されたのは気になるが…どうやら俺はついに厄介払いの対象になったようだ。 そして、その組織のトップがわざわざ俺の家まで面接に来るらしい。 「アルトゥール・夜城沼と申します。本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます、ミスターマドックス。」 それがこの白いスーツに金髪の男、アルトゥールだ。 男はそう言って、自身が率いている組織がどのようなものなのかを説明し始めた。 UNDO。 国連が結成した、とある存在への対策機関。 その存在の名は『デジモン』。そう、フェル…ウルヴァモンの種族だ。 野良のデジモンはもちろん、悪人がデジモンを使って起こした悪事、そんなものに対処するのがUNDOの仕事らしい。 俺はこの話を聞いた時点で、なぜこの組織に出向することになったのか、その理由を何となく察した。 「さて…あなたの経歴は概ね拝見させていただいています。ウルヴァモンがパートナーであること、警官としての数々の問題行動なども含めて、です。」 ”問題行動”とやらは署長が資料を提供したんだろうが…フェルのことまで知ってるってのは不気味な話だ。 「その上で…一つ質問です。あなたの思う正義とは何ですか?」 男は俺に目を合わせながら、そう投げかける。 俺の正義… 「悪人をこの手で撃つ事だ。悪人の銃から人々を守れるのは善人が使う銃しかない。」 それはずっと昔、俺が生き残った時からずっと持ち続けている考えだった。 「………なるほど。…では、まずこちらにサインを。」 俺の言葉を値踏みするように頷くと、アルトゥールは携えていたアタッシュケースのロックを外し、何枚かの書類をこちらに差し出した。 「契約書とそれから…機密保持契約書と権利放棄書です。」 任務中に負った怪我などに対する訴訟の権利を放棄する代わりに、治療などは全てUNDO側の負担によって行う…これはまあいい。 任務の過程で得たデジモンなどに関する情報全ては、特別な許可がない場合の口外を禁ずる。従わなかった場合、記憶操作の対象となる…ね。まるでメンインブラックだな。 だが…どうせやるしかないんだ。 俺はそれらに一通り目を通し、署名する。 「こちらをどうぞ。」 サイン済みの書類を受け取ると、今度はアタッシュケースの中からまた別の書類と黒い箱をこちらに差し出される。 「これは…?」 まず箱の方から開けてみると、中には液晶の付いたリストバンドが入っていた。 「それはデジヴァイスV。デジモンと共鳴し、進化の力をもたらすデバイスの一つ。今回の任務にあたり、UNDOからあなたに支給するものです。」 「任務?」 俺はそのデジヴァイスとやらを腕に装着してから、促されるままに書類に目を通す。 May 15, 2026 電磁空間異常記録 34°56'34.8" -115°07'16.5" 一枚目の書類にはそんなタイトルと共に、航空写真だろう画像が印刷されている。 「どこだ、ここ?」 「その座標に電磁空間異常…要するにデジタルワールドとのゲートが開いた可能性があると言う記録です。CIAから提供された情報ですね。」 他の書類には、そのゲートとやらが開いてから現在までに起きた行方不明事件についてがまとめられている。 「当該座標付近では、ゲート発生から現在までの2ヶ月ほどの期間で行方不明者が6人出ています。」 「これがそこから出たデジモンの仕業だと?」 「状況や痕跡などから、このデジモンの仕業であると言う可能性が非常に高いとされています。」 彼が示す資料には、『クレイジーワームモン』と言う名が記されていた。 岩盤にすら穴を堀り、地中を移動し獲物を襲う、食欲旺盛で知能が低めのデジモン。 「当該座標に赴き、このデジモンを処分すること。それがあなたの任務です。」 「こんな化け物と戦えって?」 「だからデジヴァイスVをお渡ししたのですよ。クレイジーワームモンは成熟期。ウルヴァモンと連携すれば十分に討伐可能です。」 「なるほどな…で、何でそんなやつが2ヶ月も放置された?それで実際犠牲も出てるんだろ?」 そう聞いてみると、彼は若干伏し目がちになってため息をついてから返答した。 「先ほど2ヶ月ほどの期間で…と申しましたが、最初の行方不明者が発生したのは10日前なのです。」 「…どういうことだ?」 「これはUNDOでの予測になってしまうのですが…クレイジーワームモンは最初、自分が出たのと同じゲートからこちらにやってきたデジモン達を捕食していたのでしょう。しかし、2ヶ月も経てばあらかた食べ尽くしてしまう。」 「だから今度は人間を食った、ってわけか?そうだったとしても、このイモムシの化け物みたいなやつがよくもこんなに隠れてたな。」 「ニューヨークやワシントンDCのような人口密集地ならばともかく、当該座標付近のような周囲に人家の少ない地域ではどうしても調査や対応が後手に回りがちです。なにせ、UNDOはあまり人手の多い組織ではないので。」 道理で、俺みたいなやつもリクルートされるわけか… 「ご質問は以上でよろしいですね。私は1時間後にペンタゴンで会談の予定があるので、そろそろ失礼させていただきます。」 「ペンタゴン?おいおい…ここはアリゾナだぞ。東海岸まで2日はかかる。」 「問題ありません。」 そう言うとアルトゥールは外に出て、空に赤いなにかの端末を掲げた。 「オメガモンモノクローム、ジェネレート。」 端末がそのフレーズに反応し、光を発する。 空中にまるで3Dプリントされるかの如く、マントを羽織った白と黒の騎士が現れた。 「では、あなたが無事任務を遂行できることを期待しています。」 奴がそう言いながらそのデジモンの片腕に乗ると、音もなくそいつは空に浮かび上がり、一瞬で東に飛んでいきやがった。 なるほど、あれなら1時間でペンタゴンまで行けそうだ。 ───────── 「アタシ、オメガモンを生で見たの初めてだわ。なんか…すごい。あの人間もだけど。」 いつの間にか俺のスマートフォンからリアライズしていたウルヴァモンがそう呟いた。 「全くだ。」 「んで、マドックス、これってどこ?」 彼女が先ほど渡された資料の座標を指差す。 『モハーヴェ』 俺がその座標を地図アプリに入力すると表示されたのが、その文字列だった。 モハーヴェ、カリフォルニア、ユタ、ネバダ、アリゾナにまたがる砂漠。デスバレーなんかが有名な場所だ。 いくらアリゾナとは言っても、ここからじゃまるまる7時間はかかる。 「だいぶ…遠いな」 「なら早く行きましょ?こっちの世界に来てから遠くまで行くのって初めてだから…なんだか血が騒ぐわ!」 ───────── そうして、俺は愛車のピックアップトラックの荷台にライフルと弾薬を積み、助手席にフェルを乗せてひたすら車をぶっ飛ばすことになった。 最初こそ市街地の景色に興味深そうに目を輝かせていた彼女だったが、フェニックスの街を抜ければその先はもう荒野。たまに休憩所やガソリンスタンドがある程度だ。 「暇ぁ〜〜…………もう景気良く弾丸をぶっ放したい気分になってきたわ…」 「こっちだってぶっ続けの運転で疲れてんだよ!タマ撃つのはあの……イカれワームなんたらと戦うまで我慢しろ!」 それから大体…3時間ほど。 俺たちはようやく例の座標近くに辿り着いていた。 ナビの指示通り高速を降り、一般道を少し走ると…道は無くなった。 要するに、砂漠を突っ切って向かうしかないらしい。 「よし、乗り心地が悪くなるが…我慢しろよフェル!」 「えっ?」 俺は道無きモハーヴェ砂漠へと、フェルと2人で突っ込んでいった。 「うゎぉおぉぉあぁ!?マドックス!?どうなってるのよ!??これ!車壊れないの!!?」 「安心しろ!この車は日本車だからな!」 砂漠は基本的に乗り心地が悪い。風で砂がガタガタに波打っているから車の揺れは激しいし、干上がった川がデカい段差になってこれまたデカい振動になる。 そうしてしばらく走ると路面は柔らかい砂地に入り、今度は船にでも乗っているかのようなフワッとした大きな縦揺れが俺たちを襲う。 その上砂地だから、いくらオフロードを走れる車と言ってもハンドルが効きにくい。そのため、俺は仕方なくかなりスピードを落として走っていた。 「おえー…流石に気持ち悪くなりそうよ…」 「へぇ…デジモンも吐くのか。」 「当たり前でしょ…ちょっと止まってくれない…車酔いしたみたい…」 「仕方ねぇな…すぐドア開けんじゃねえぞ、埃が入ってくる。」 車の停めると慣性で砂塵が車を包み込み、少しの間周囲の見えない時間が訪れる。 「……!」 ふと、ウルヴァモンが二、三度鼻を鳴らした。 「マドックス!今すぐバックして!!」 「…?どうしてだ?」 「いいから早く!!!」 グロッキーになっていたのはどこへやら、何かに気付き慌てた様子の彼女に従い、俺は車を後退させた。 ────Graaargh!!!! すると、ついさっきまで車が止まっていた砂塵の中に、何か醜いイモムシの様な奴が鳴き声を上げているのが見える。 間違いない。奴がイカれワームモンだ。奴の鋭い歯には何か文字の書かれた布が引っかかっている。 …まさか服か?奴め、やっぱり人間を喰ってやがる! 「やっぱりね!久々にアタシ以外のデジモンの匂いがしたと思ったの!!」 フェルは興奮気味に叫ぶ。 件の座標までまだ何十フィートかあるとは言え、本来なら砂地になった時点で警戒を強めておくべきだった。 岩盤を削れる力があっても、砂地のほうが地中を移動するのは楽に決まっている。 「窓開けて!撃つわ!!」 「やってやれ!」 「ラピッドバースト!!」 窓から腕を出したフェルがイカれワームに向かって何発が撃ち込む。…が、一発掠っただけで残りは奴の周囲に砂煙を撒き散らしただけだ。 「ちゃんと狙えフェレット!」 「バックしてるせいでこんなに揺れてるから外したのよ!むしろ掠ったんだから褒めて欲しいぐらいよ!あとフェレットじゃない!」 実際、かなり激しく揺れている。まぁ仕方ないか。 イカれイモムシはその弾丸によってこちらに気付いたのか、長い体をウネウネと縮め始める。 「何をする気だ…?」 次の瞬間、やつは体を一気に伸ばし、ミサイルのようにこちらに一直線に飛び込んできた。 「うぅぅぉあぁぁっ!?」 「クソッ!ぶつかってきやがったぁぁ!!?」 スピンする車の中、撹拌されそうになる俺たち。 「こうなったら直接戦ってやるぞイカれ野郎!行くぞフェル!!」 「わ、わかった!」 4か5回転ほどしてようやく止まった車のドアを蹴っ飛ばすようにしながら開け、俺は荷台から銃と弾薬を取って構える。 そして、砂塵の中からこちらを見つめるイカれ野郎に照準を合わせ、両手に構えたM16のトリガーを引く。 マッハ3で放たれた銃弾が一直線に標的に向かい、奴の体表を抉り、そして……弾かれた。 「あの野郎硬えな!」 奴は痛くも痒くもないと言った様子で、攻撃姿勢を取ることすらもない。 この銃の弾薬は5.56mm…つまり対人用だ。狩猟用ならもっとデカい弾を使う。グリズリーでもこのぐらいなら防げる訳で…あの化け物に効かないのもまぁ頷ける話だ。 「人間用の武器じゃダメ!相手はデジモンなのよ!スキャッターロケット!!」 俺を押しのけるようにして立ったフェルの前腕部が展開し、小型のミサイルが敵に向かって飛んでいく。 誘導機能があるのか、小型ミサイルは体をうねらせ避けようとしたイカれワームに吸い寄せられるようにして命中し、派手に爆発を起こした。 ────Screeech!!!! 流石にあの爆発は効いたらしい。奴は身を捩って苦しげな鳴き声をあげる。 「よくやったぞフェル!」 「これぐらいなんてことないわ!接近してトドメよ!」 彼女は砂の斜面を滑って加速しながら接近し、奴の面前へ飛び上がる。 「バージャースラ──────っ!?」 引っ掻きでイカれイモムシの顔を真っ二つにしようとした次の瞬間、彼女がこちらに吹き飛ばされてくる。 「どうした!?」 「アイツの吐き出した何かに吹っ飛ばされたみたい…足が…うごか…ないっ!」 彼女に駆け寄って見てみると、両足に何か樹脂のようなものが付着し固まっている。 さしずめ…セメントボムってとこか。 「まずいわ…これじゃ戦えない…!」 「………考えがある。俺に体を預けろ。」 俺はフェルの体を小脇に抱える。ちょうどライフルのように。 …なんかこいつの体、前より重くなってる気がするな。食わせすぎたか? 「ちょっとどこ触って…っ!…まさかアタシを抱えて戦う気!?」 「大当たりだ!まっすぐ腕を伸ばして構えろ!合図したら撃て!お前が俺の銃になるんだ!」 そう叫びながら敵の方へ向き直る…が、そこに奴の姿はない。 「潜った…!?逃げないと喰われるわよ!」 俺は彼女に促されて走り出す。 「どこに逃げゃいいんだよ!!」 「そんなのアタシだって知らない!!!」 ここは砂地、奴のフィールドだ。岩場でもあればいいが、そもそも奴は岩盤にも穴を明けるような奴、逃げ場はない。 走っているうち、足元からゴゴゴゴ…と言う唸るような音と振動が伝わってくる。 「この揺れ…」 「来るわ!」 次の瞬間、足元からイカれワームモンが飛び出し、俺の体は空中に投げ出された。 「やられて…たまるかァァァァ!!」 空中で体をねじり、俺に向けて口をあけ迫ってくる奴の口になんとか銃口を向ける。 「撃てェェェ!!!」 「ラピッドバースト!!!」 光弾はその口の中に命中。いくらか効いたようで、奴は苦しむような素振りを見せている。 俺は反動でまた投げ出されたが、下が砂地であることもあって、着地でそれほどダメージは負わなかった。 「口の中が弱点か…だったら良い手がある!フェル!お前火炎放射もいけるんだったな!?」 「できるけど…」 「次に合図したらやれ!いいな!」 走ってイカれワームモンに接近すると、奴もこちらに気づいて口を開け、何かを吐きかけようとしている。 「良いモン食わしてやるよッ!」 俺は腰のベルトに収めていた替えマガジンをまとめて奴の口の中に放り込んだ。 「今だ!!!」 「トムボーイブレイズッ!!!」 クレイジーワームモンの口内のマガジンがその炎で熱せられ、銃弾内の火薬が次々に暴発し始める。 ────Aaarrgh!? 「いくら外が硬くても、中身で爆発したら流石に効くってわけねっ!」 「トドメだ、撃ちまくれ!!」 「わかってる!ラピッドバースト!スキャッターロケット!」 射撃とミサイルの爆発で巻き上がった砂煙が晴れると、そこには倒れ伏したクレイジーワームモンの姿があった。 「よっし!どうだイカれ野郎!人間をナメるんじゃねえ!」 「待ちなさいよマドックス。これはアタシのおかげ〜!」 「何生意気なこと言ってんだよ。俺が照準つけてるから当たったんだろうが。」 そうワーワーと言い合っていると、奴の死体の方から、何かバチバチと空気が張り詰めるような感覚を覚えた。 「…まずいわ。まだアイツ死んでない!」 「なんだと!?」 イカれ野郎の腹の辺りがモコモコと盛り上がるように動き、そこからまるで脱皮するかのように骨ばった見た目のハサミを持ったデジモンが現れる。 「あれは…スコピオモン…!?」 「サソリのデジモンか?」 「そうよ…完全体にクレイジーワームモンが進化したんだわ…!」 ────Hsssss! サソリ野郎はこちらを見据え、威嚇の声を上げながらカチカチとハサミを鳴らす。 「なんにせよ、ここで奴を倒さないとこっちの命はなさそうだな。」 「やれる…かな…。アタシ、成熟期だし…」 「じゃあ完全体になれば良い!お前もデジモンなんだろ!」 「無茶言わないでよ!まだ言ってなかったけどアタシ成熟期にもなったばっかりで──────」 そうまたしても言い合っている時、俺の腕のデジヴァイスが光った。 「これは…?」 「進化の光だわ…!とても柔らかいのに…とても激しい…!」 「なんだよ、いけるじゃねえか、フェル!」 「ええ…やるわ!ウルヴァモン、進化!!」 デジヴァイスの光がフェルに収束していき、その体を黒い装甲が覆い始める。 背部にリボルバーが装備され、両腕の銃口もさらに強化されたように見える。 「ブラックラピッドモン!!」 その黒く輝く姿は、陽が落ち始めた砂漠の闇に溶け込むような効果を発揮していた。 「全速で決めるわ!」 彼女はスコピオモンに一気に接近し、思い切りぶん殴る。 ────Skreeee! 「ゴールデントライアングル!」 奴は毒霧を吐いて目潰しを狙ったらしいが、フェルが全身から放った光がそれをかき消す。 「さぁ喰らいなさい!ラピッドファイア!」 背中のリボルバーと両手からミサイルが乱射され、サソリ野郎を蜂の巣にしていく。 「これでトドメ!!」 手からミサイルを発射しながら相手を殴りつける、文字通り爆発的な一撃。 そいつで頭を消し飛ばされれば、流石の完全体でもひとたまりもない。 スコピオモンの尻尾がだらりと力なく垂れ下がり、端の方からノイズのようになって徐々に消滅していく。 「なるほど…デジモンってのはこうやって死ぬのか…」 「はあっ…く…ふぅ…疲れた〜!」 いつの間にかウルヴァモンの姿に戻っていたフェルがそう叫ぶ。 「よくやったぞ!これで任務完了ってわけだ。」 「アタシ達、これからずっとこんな戦いさせられるわけ?美味しいものいっぱい食べられないと割に合わないわね〜…」 「俺も同感だ。警察より給料が高くなきゃやってられん。」 その時、腕のデジヴァイスが振動した。 「ん、なんだ?」 視線をそこに移すと、受話器のマークが画面に表示されている。 「通話ってことか…?」 どうやらこのアイコンをタップしろということのようだ。 『任務の遂行、お疲れ様です。』 聞き覚えはないが…若干幼い声だ。 「アンタは?」 『UNDOの後方支援を担当している者です。』 「ちょうどよかった。任務に遂行にかかった費用はもちろんそっち持ちだろうな?」 『ええ、そうですが…どの程度被害が?少なくとも身体的被害が大きくないのはモニターにしているバイタルデータから判別できますが…』 「車が多分大破した。それと弾丸が…多分15ダースぐらいだな。」 『そう…ですか。請求書か領収書を回していただければ…』 ───────── その後俺たちは車まで戻り、来た道を戻ってひとまず砂漠の外を目指した。 イカれイモムシ野郎にぶっ飛ばされても平気で走るのだから、日本車ってのは侮れない。 「ねーマドックス、街まで戻れたらすぐ何か食べられるところに行きましょ?あれだけ戦って進化もして…アタシもうお腹ぺこぺこ。」 「そうだな…あれだけやり合うと腹も減るか。」 やがて道が舗装されたものに戻り、ちらほらと建物が現れ始める。 「…ねぇ、次に店があったらなんでもいいから入らない?」 「店…店か…」 運転しながら俺は横目で助手席に座っている彼女を見る。 かろうじて人型ではあるが…着ぐるみを来た子供といえば…誤魔化せないだろうな…。 いっそペットと言い張って…いやペットに人間と同じ飯は普通食わせねえか。 「あ、マドックスあそこ!あれってダイナーよね?」 そんな風にフェルのことをどう説明するかを考えているうち、前方にdinerという色褪せたネオンサインが掲げられた店が見えた。 あまり繁盛しているようには見えず、時間もあって他の客はいなさそうだ。少なくとも居合わせた客にコイツのことを説明する手間は省けたな。 ───────── 「いらっしゃい、好きな席に座りな。」 店に入るなり、ぶっきらぼうな態度の老婆がこちらを見ることなく案内する。 俺たちが適当な色褪せたビニールのソファに座ると、程なくして老婆が注文を取りにやってきた。 「…うちはペットお断りだよ。」 老婆はフェルを見るなりそう言い放つ。 「あーコイツは───「誰がペットよ!!」 どうにか誤魔化そうと俺が口を開いた矢先、彼女が不満げに叫ぶ。 「……アンタ喋れるのかい。」 「当たり前でしょ!アタシをなんだと思ってるの!?」 「なんだっていいよ。…ま、喋れるなら少なくともペットじゃないね。注文は?」 …驚くほどすんなりと話が通ってしまった。まぁ好都合だ。 さて、何を頼むか… 「メニューを睨んだって腹は膨れないよ。とっとと決めな。」 押しの強いバアさんだな… 「…オススメはあるのか?」 あまり期待せずに聞いてみると、老婆は呆れたように鼻を鳴らす。 「そうさね…あんたら二人、見たところ砂漠でだいぶ暴れたみたいだね。」 「な…なんでわかるんだ!?」 フェルは驚いていたが、体の至る所に傷ができている上に靴も多少砂埃で汚れているとくればこれぐらいはわかるだろう。何せ車もあのザマだ。 「別に詮索はしないよ、うちはそういうルールでやってるからね。ただ、あんたらみたいなタイプには…チキンフライドステーキかグリーンチリチーズバーガーを勧めるね。どっちもギトギトだけど、良い燃料になるよ。」 「じゃ、それ一つづつで頼む。」 「あいよ。」 老婆はそう言って、すぐに裏に消えた。 「マドックス、チキンフライドステーキ…って鶏肉で合ってる?」 「そいつはビーフだな。」 「…ニンゲンのことがわからなくなってきたわ。」 ───────── 程なくして、老婆が出来上がった料理を持ってくる。 「ケチャップでもタバスコでも好きにかけて食べな。」 俺の前にバーガーが置かれ、フェルの前にステーキが置かれた。 「お前、ナイフとフォーク使えるか?難しいなら交換しても…」 「アタシを舐めないでもらえるかしらマドックス?デジモンは学習し進化する生き物なのよ。」 そう言って皿に添えられたナイフとフォークを手に取ると、慣れた手つきで切り分け口に運んでいる。 「んん〜っ…ホワイトグレイビーのクリーミーさとハードなコショウの刺激が体に沁みるわ〜…」 「死にかけたあとは、こういうジャンクなモンが美味いんだよな。」 そう言って俺もバーガーにかぶりつく。 安物のとろけたチーズの塩気が肉汁と合わさりチリの辛みがそれを引き立てる、チープだが美味いバーガーだ。 俺がまだ新人警官だった頃、初めて銃撃戦を切り抜けた後に食ったバーガーもこんな味だった。 その時と同じ。これは命の味だ。 俺たちは今、猛烈に命を感じている。