オフィスの蛍光灯が午後の倦怠感を誘う。キーボードを叩く指が重い。昼休みを挟んだ直後だからというのもあるが、それ以上にこの身体が欲しているのは別の栄養だった。 「川堀さん、資料お願い」 同僚の声で我に返る。上司からのメールに目を通しながら、無意識に唇を噛んだ。乾燥した感触。 デスクの引き出しには、緊急用の代替血液錠剤が隠してある。だけどあれは不味い。味もだが、効き目も不十分なのだ。 現代に生きる吸血鬼の肩身は狭い。夜な夜な血を求めて彷徨うわけにもいかず、こうして昼間は平凡なOLを演じている。 くそったれの日本赤十字社が定めた基準により、1人の人間から賄える血液はヤクルト1本分もない。それを超えて吸えば即刻追われる身だ。 現代に適応した吸血鬼たちの生き方は様々だ。夜職に就いた友人は不特定多数の客から合法的に少量ずつ搾取できると自慢していた。医療関係に潜り込んだ者は廃棄される輸血パックを密かに頂戴しているらしい。血液の代替物として牛乳豆乳トマトジュースを飲む同族も多い。 どれも効率が悪いが。 私の場合、幸運にも理想的な供給源に恵まれた。 夕方、会社を出ると一直線にマンションへ向かう。恋人が待つ部屋へ。最近、帰りが遅くなると露骨に拗ねるので注意が必要だ。 「ただいま」 玄関を開けると同時に彼女の腕に抱きつく。柔らかな感触と温もり。何よりも彼女の匂い。  「お疲れさま。ご飯にする?お風呂にする?それとも……」 私は靴を脱ぎ捨てるや否や、彼女の胸に顔を埋めた。 「おいおい……まだシャワー浴びてないのに」 構わず彼女のTシャツをめくり上げる。ブラジャー越しに伝わる匂いが堪らない。 「もう……せめてソファで」 そう言いながらも抵抗する力は弱い。素直に従うミヤコに導かれ、リビングのソファに沈み込んだ。 「最近……量が増えたような気がするんだけど」 ミヤコが恥ずかしそうに呟いた。私は何も言わず、そっと彼女を抱き寄せた。 「大丈夫。私にとって最高の栄養源だから」 唇が近づく。最初の接触は柔らかく甘い。互いの体温が交わり、吐息が混じる。次第に深くなり、舌が絡み合う。唾液の中にほんのりと甘みを感じる。既に彼女の身体は準備ができている証拠だ。 「……いいよ」 小さく頷く彼女を仰向けにし、首筋から鎖骨へと唇を這わせる。以前はここに噛み付くだけで満足だった。人間の血を吸うという本来の吸血行為。   だが今は違う。彼女の胸元へ到達し、慎重にブラジャーを外した。露出した膨らみは以前よりもさらに豊かになったように見える。乳腺が発達したのだろうか。そしてその先端は既に期待で固くなっていた。 「……ん」 舌先が触れるだけで彼女の身体が小さく震える。私も同じだ。この行為そのものが官能的だというのに、それを超越する存在意義がある。 口に含み、軽く吸い上げる。最初はほとんど何も出ない。焦らずじっくりと味わいながら、刺激を与えていく。 「あ……っ」 微かな喘ぎと共に、初めての雫が舌を濡らした。甘い。乳糖の優しい甘みだ。しかしそれだけでなく、彼女特有の風味が混じっている。 吸血鬼である私の嗅覚は通常の人間の数百倍。そのため普段の生活では香水の臭いでさえ耐え難いことがある。だが彼女のそれは違う。生命そのものの匂い。生命を育むための液体。それを体内に取り入れる背徳感が堪らない。 「もっと……」 我慢できず強く吸う。すると堰を切ったように母乳が溢れ出した。温かい液体が口内を満たし、喉を潤していく。今まで味わったどんな血液よりも優しく、私の体に染み渡る。空腹感がみるみるうちに満たされていく感覚。 「っ……ちょっと……激しすぎる……」 抗議の声も耳に入らない。一心不乱に貪り続けた。彼女の身体を抱きしめ、もう片方の乳房にも手を伸ばす。既に乳首は固く尖り、乳輪はわずかに隆起している。 「あっ……そこは……」 片方を口に含み、もう片方を指で刺激する。バランスを保ちながら交互に吸うのが最適だと最近学んだ。一方的に集中すると彼女が疲弊してしまうからだ。 「んっ……はぁ……」 呼吸が乱れる音。それさえも私を興奮させる。吸血鬼の習性なのか、彼女の感情の揺れ動きを感じ取れる。幸福感、愛情、そして僅かな羞恥心。十分に満足したところで唇を離すと、ミヤコはぐったりとソファに沈み込んでいた。 「ごめん……やりすぎた?」 汗ばんだ額に触れると、彼女は微笑んだ。 「大丈夫……でも今日はいつもより長かったね」 「だって……美味しいから」 正直に答えると彼女は照れたように顔を背けた。その仕草が堪らなく愛おしい。その表情を見ると、もう一度欲しくなった。だが今日はここまでにしておこう。明日も仕事がある。何より彼女の体に負担をかけたくない。 「お風呂、沸かそうか」 「うん……一緒に入る?」 当たり前のように提案する彼女に苦笑しながら、私は彼女の手を引いた。